尾本良三病院長、許俊鋭教授のご高配によって2003年より1年間、St’Lukes-Roosevelt
Hospital Center, College of Physicians and Surgeons, Columbia Universityにて、Research
Fellowとして心臓麻酔および心エコーの臨床研究に携わる機会を得ました。幸いにも留学中にNBE(National Board of Echocaradiography)のPTEeXAM(Examination
of Special Competence in Perioperative Transesophageal Echocardiography)に合格することができましたので、その経験をご紹介します。
なお、St’Lukes-Roosevelt Hospital Center麻酔科主任教授のDaniel ThysはNBE 理事の1人であり、心臓麻酔部長のZak
HillelはPTEeXAM出題者の1人です。2人とも2004年9月の国際心臓麻酔会議で訪日したので、ご記憶の方も多いと思います。また、JB-POT創設に多大な貢献をされた女子医大の野村実教授は、かつてこの病院のResearch
Fellowでした。
<試験概要>
マークシートによる五者択一方式
80分で約50問のビデオ問題の後、180分で約150問の筆記問題
当然のことながら、すべて英語です
<傾向と対策>
PTEeXAMは心エコーの専門医試験であり、麻酔科医であることを前提にした試験ではありません。循環器内科医で心エコーを専門とする医師と対等に議論できる水準の知識や経験が要求されると言ってよいでしょう。よって、対策としても麻酔科医が書いたテキストの読破だけではなく、循環器内科の心エコーの成書を熟読する必要があると思われます。
基礎分野では、音響原理や流体力学といった非医学分野の知識も要求されます。特に基礎の部分は、麻酔科医の書いたTEEのテキストでは省略されていることが多く、日常臨床ではほとんど使わない知識であるため、かなりのTEEエキスパートも基礎を甘くみて不合格となる場合があるそうです。
基礎について私はNBE のホームページで紹介されている出題項目を机の前に貼り出して、Feigenbaumの「Echocardiography」という教科書の基礎の章を中心に勉強しました(Perrinoのテキストだけでは基礎を学ぶには十分ではないとはDr.Hillelの弁)。
また、工学分野では同じ英単語が医学分野とは全く違う意味で用いられることがあり、英語そのものにも苦労しました。(たとえば、「acute
incidence」が超音波原理のテキストでは「鋭角の入射角」という意味だったりする)。私は古典的ですが、単語帳を作ってトイレなどに貼っておりました。
臨床に関しては、とにかく量が多く(多くの日本人にとっては)時間が足りないのではないでしょうか。試験は当然のことながらアメリカ人医師と同レベルの英語速読を前提としており、1問あたり1分ちょっとで回答する必要があります。また、範囲がすごーく広い。テキストのすべてのページから選択肢が作られているんじゃないかと思えるぐらいです。よって、ヤマを張ることは不可能(というか意味がない)。あきらめて、教科書やCD-ROMの隅から隅まで勉強するしかありません。TTEとTEEの比較のような問題も出題されるので、TTEについてもある程度は勉強しておく必要があります。
なかには「myxomaの最も発生頻度の少ないchamberはどれか」といった循環器内科の教科書にすら載っていないような質問もあるのですが、そういう問題は「どうせみんなできずに削除になるだろう」と自分に言い聞かせ、動揺せずに次ぎの質問に進まなければなりません。(Dr.Hillelは「LVかな?」との弁)
「PISA」、「PHTによるMVA」、「連続の式」といった血行動態の計算問題はきちんと勉強すれば確実に得点できる分野です(私は吉川先生の「臨床心エコー図学」を愛用していた)。「TVI」や「ベルヌーイの式」など、ぱっとみると微積分が並んだとっても難解な方程式のように見えるのですが、実際の試験で回答を導くのに必要なのは中学校レベルの数学で十分です。
Dr.Hillelによると、出題者の多くは開心術が数千例/年レベルの大病院のスタッフで、実際にほぼ毎日TEEプローべを握っている医師がほとんどだそうです。大学病院ならばassistant
professor〜clinical professorクラス、小児専門病院や民間の心臓専門病院のスタッフも参加しているそうです。そのせいか、ビデオ問題で臨床的に首をかしげるような出題は(私が気付いた範囲では)ありませんでした。
<合格水準>
2004年の合格率は68%で, 61%の正答率が合格水準でした。日本に住所のある合格者は9名で、日本在住PTEeXAM合格者は合計14名となりました。
新規合格者を含むのPTEeXAM合格者の名前は試験の8-12週後にNBEのホームページで改定され、その1週間後には個人宛の通知書で、個人の分野別の得点率や受験者全体の得点分布を知ることができます。
<私が参考にした本とCD-ROM>
Feigenbaum ”Echocardiography”
麻酔科のMillerに相当する心エコーの教科書。掲載されている写真は古臭いけれども(よって試験勉強をはじめるまであまり手にしたことはなかった)、原理や基礎についての記述はしっかりしていると思いました。
Otto "Textbook of
Clinical Echocardiography"
臨床を中心とした心エコーの教科書。私は辞書的に活用していました。
吉川純一 「臨床心エコー図学」
現在、日本語で最も詳しい臨床を中心とした心エコーの教科書。各種の計算式を理解する際に、最初にこの本で日本語で理解し、次にOttoなどで英語の知識に転換するようにして活用しました。
Perrino “A Practical Approach to Transesophageal Echocardiography”
コンパクトでよくまとまっており、最後の1ヶ月は常時かばんに入りっぱなしでした。章末に練習問題がついているのも試験対策には有用だと思います。受験予定者はぜひ入手したい本です。Annual
Comprehensive Review &TEE update(後述)の講義もこの本の内容と重複するものが多かったです。
渡橋和政「経食道心エコー法マニュアル」
日常の臨床では大変有用であり、日々お世話になってますお。しかし、Omniplaneにおける記述が少ない、SCAの分類にあまり準拠していない、などなど試験対策としてこの本のみで乗り切ることは難しいと思います。
Morse “TEE An Interactive Board Review on CD-ROM”
出題範囲内の動画がバランスよく網羅されています。制限時間内で回答しなければならないexam modeで、ぜひ練習しておきましょう。
<その他>
Annual Comprehensive Review &TEE update: Clinical Decision Making
in the Cardiac Surgery Patient
SCAが主催するTEEの講習会、ここ数年は毎年2月にSan Diegoのシェラトンホテルで6日間にわたって行われています。最初の3日間が基礎編(解剖実習を含む)で,後半の3日間が応用編であり、どちらか一方選ぶならば基礎編をお勧めします。
参加費がトータル15万円で、その他シェラトンに止まるならば1泊約200ドルであり、当然のことながら渡航費も必要であるが、受験予定者ならばその価値は十分ある講習会だと思います。
<JB-POT受験記>
2004年9月に開催された第一回JB-POT(日本周術期経食道心エコー認定試験)受験しました。形式はPTEeXAMとほぼ同じで、マークシートによる五者択一方式による90分で55問のビデオ問題と、90分で70問の文章問題でした。言語は日本語と英語から選択(私は日本語受験でした)。
問題の難易度としては、ビデオはPTEeXAMと同等、文章はPTEeXAMより少し高いかなあと感じました。問題数がJB-POTのほうが少ない分、基礎問題のウエイトが大きくなったせいかなあと思います。しかし、JB-POTは出題アウトラインに忠実な難問が多かったと思います。
試験対策としてはPTEeXAM対策で十分だと思います。ただし、英語の教科書のみで勉強すると「中部食道上行大動脈短軸像」「キアリ網」と書かれた問題をみても、とっさに理解しづらいかも知れません。
<Anesthesiologyのレター>
Handa-Tsutsui F, Matsumoto T, Seino Y, Hillel Z, Thys DM
Learning aid for geometric relations of cardiac valves.
Anesthesiology. 2004 Oct;101(4):1050-1.
<TEE単語帳>
アメリカ留学中に私が作成した、TEEに関する単語帳があります。個人的に一部の受験者に配布したところ好評でしたので、先生のHpで広く皆さんに利用していただければと思います。Q-tip,
wall hugging, knobologyといった通常の医学辞書では掲載されていない(しかしTEEのカンファレンスではよく登場する)単語も網羅しております。
トイレの壁などに貼る、電子辞書などにインストールしてボキャブラリー増強、英語のレクチャー前の語彙チェック、などに使用していただければ幸いです。
詳細はE-mail(PXN01110@nifty.com)まで 2004.9.19(一部追記 2004.12.15)
以下は、msanuki.comによるリンクです
[受験記リンク
] PTEeXAM
米国NBE、PTEeXAM受験の勧め 田川
学 先生(慶応大学麻酔科)
PTEeXAMの傾向と対策(1) (2) (An Anesthesiologist's Day)
[受験記リンク ] JB-POT
第1回JB-POT 松本尚浩
先生(九州厚生年金病院麻酔科)
経食道心エコーの試験を受験して 柴田康之
先生(愛知医大麻酔科)
第1回JB-POT惨敗記(1) (2) (3) 讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)
第2回JB-POT受験記 匿名(順天堂大学麻酔科)
第2回JB-POT受験記(1) (2) (3) 番外編 讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)
第3回JB-POT受験記(1) (2) (3) 讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)
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