6.帝王切開術後の鎮痛法:患者評価と5種類の手技(オピオイド使用)別コストの比較
7.硬膜外フェンタニールは帝王切開術後の硬膜外モルヒネの効果を減弱させるか?
8.帝王切開後の硬膜外スフェンタニール投与が母の呼吸状態にあたえる影響
9.帝王切開術後の硬膜外PCA:フェンタニールかスフェンタニールか?
10.硬膜外PCAと静注PCA:帝王切開術後の鎮痛にはどちらがよいか?
日本語タイトル:分娩,出産中に生じる心電図のST低下 menu
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
ST segment depression during labor and delivery. Mathew, J. P. ;
Fleisher, L. A. ; Rinehouse, J. A. ; Sevarino, F. B. ; Sinatra, R. S.
; Nelson, A. H. ; Prokop, E. K. ; Rosenbaum, S. H. Anesthesiology
77(4): 635-41 1992
施設:Department of Anesthesiology, Yale University School of
Medicine, Connecticut.
[目的]分娩中のECG変化の頻度と持続時間を,連続モニタ−で調べる.
[背景]帝王切開術中に,心電図のST変化が起きる.胸痛や呼吸困難が伴うときは心筋虚血が起こっていることを推測させる.ECG変化を取り扱った以前の研究では,ECGのサンプリングは間欠的であった.また,心拍数,リズム,伝導もECG変化と定義すると,妊婦以外の健康な女性にも心電図異常が高率に(47%)起こることになる.
ECGの変化は必ずしも虚血を意味しない−PVCと60秒以下のST変化が心筋虚血を表しているとして取り上げられている.以前の研究では,ECG変化の時間経過,持続時間,意味付けが誤っていた.
[研究の場]手術室と分娩室
[対象]予定帝切患者111人と経腟分娩の妊婦22人(ASAのPS1ないし2)
[測定機器]ECGモニター,心エコー検査(胸壁アプローチ),ドップラー検査
[方法]帝切患者:modifiedV3とV5の双極誘導で麻酔導入から術後早期までモニター.麻酔は,腰部硬膜外麻酔では20万倍エピネフリンと0.1mEq/mlの重炭酸ナトリウムを添加した2%のリドカインを注入し,T3-5レベルの麻酔域をえた.脊椎麻酔では,0.75%の高比重ブピバカインを使用した.
経腟分娩患者:頚部拡大から分娩3期まで.
[解析]
1)心電図は,1つの誘導でJ点から60msの点が0.1mV以上の水平型あるいは下行型ST低下,または0.2mV以上のST上昇が少なくとも1分以上続くのを有意な変化とする.
2)心エコーは,心筋壁の動き,EFA(ejection fraction area)を観察.
3)帝切中のECG変化と静脈塞栓(VAE)の関係を調べるために,ドップラー検査を行った.
4)SpO2は95%以下か,前値より3%以上低下を有意とした.
[結果]
1)帝切患者:STの上昇はなかった.ST低下は,帝切妊婦の25%(111人中28人)に起こった.硬膜外麻酔(29%),脊椎麻酔(17%),全身麻酔(18%)間での差はなかった.ST低下は,ほとんど娩出後30分までに起こった.低血圧が誘引となったのは,のべ数36回のうち4回であった.術後心電図に異常はなかった.
2)経腟分娩:分娩中にST変化はなかった.
3)心エコーをモニターした患者23人のうち5人(22%)に7回のST低下がみられた.心筋壁の動きに異常はなかった.帝切のどの時期にもEFAの差はなかった.
4)VAE関連の変化は,ドップラーをモニターした患者(25人中6人)の24%で検出された.ST変化が生じた患者にはVAEは検出されなかった.胸痛を訴えた患者は6人中1人であった.呼吸困難を訴えた患者はいなかった.
5)出産前の評価で僧帽弁逸脱を指摘されていたのは8%(133人中11人)で,有意な心電図変化は18%(11人中2人)に起こった.
[結論]
ST低下は帝王切開ではよくみられる.麻酔法で変わらない.しかし,経腟分娩では起こらない.帝王切開中の心電図上の変化は,心機能の低下をひきおこすような心筋虚血ではないことが,この研究の心エコーの結果から示唆されたが,STの変化は分娩に伴う,珍しくないアーチファクトである.
[抄者註]以前の研究とはPalmerらのAnesth Analg 70(1): 36-43
1990のこと.
抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:局所麻酔下の帝王切開術中の心電図変化
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Electrocardiographic changes during cesarean section under regional
anesthesia.
McLintic, A. J. ; Pringle, S. D. ; Lilley, S. ; Houston, A. B. ;
Thorburn, J.
Anesth Analg 74(1): 51-6 1992
施設:Department of Anesthesia, Western Infirmary, Glasgow,
Scotland
[目的]局所麻酔下の帝王切開術中に,心電図の“虚血性変化”を記録し,心筋虚血が心エコーでとらえられるか確める.
[背景]急性の心筋虚血を示唆する心電図変化が局所麻酔の帝王切開術中に出現する.Palmerらは,37%以上にそのような変化が出現し,要因としては分娩中の心筋の酸素の需要と供給のアンバランスが示唆されると報告している.
[研究の場]病院(術後観察室)
[対象]脊椎麻酔または硬膜外麻酔で予定帝王切開術を受ける健康な妊婦25名
[測定項目]心電図(心拍数,ST変化),心エコー(心臓病専門医による)
[方法]術前夜と当日朝にラニチジン150mgを経口投与.
麻酔開始前に,心電図装着(Oxford Medilog 4000 111
2チャンネルシステム)−V1とV5誘導.
1リットルの乳酸加リンゲル液を前投与.
硬膜外麻酔(0.5%ブピバカイン).
脊椎麻酔(8%ブドウ糖中に0.5%ブピバカイン2.5ml).
は坐位または側臥位で行い,最低両側T-6まできかせた.
心拍数と血圧は1分間隔で記録(2000IDatascope),持続的にSpO2モニター.低血圧に対しては(収縮期血圧90mmHg以下)輸液と6mgのエフェドリンで対処.
心仕事の比較するために,麻酔前,皮膚切開時,出産時,分娩5分後でRPP(rate
pressure product)を計算.
SpO2が98%を下回るときには酸素を投与.鎮痛薬が必要なときには分娩後に5-10mgのモルヒネを静注した.
なんらかの症状,麻酔や産科的なイベントがおこればその時間と共に記録.
心エコー(Vingmed 700
CFM)は,傍胸骨アプローチで詳細な短軸の記録を行った.この方法は3つの冠動脈の還流する領域を持続的に評価できる方法である.心エコーの記録は分娩が始まってからすぐに開始し,ST部分が正常化し患者の症状がなくなり循環動態が落ち着くまで続けた.
[解析]
1)心電図:
1. 麻酔開始前に正常伝導,ST部分の確認
2. J点のあと0.08秒の点で少なくとも0.1mV低下したものをST低下とする
3. 少なくとも1分以上続く変化
をSTの有意な変化とした
2)心エコー:
詳細な各種の壁や内腔などの計測値,心室壁の運動
3)データの解析:
student't test,χ二乗検定,Mann-Whitney U test
[結果]
心電図:
1)25人中16人に有意なST変化がおこり,変化はV5誘導のみでみられた.
6例で0.2mVの低下,1例で0.3mVの低下.3例では上昇型の低下,7例では水平型,6例で下行型ST低下.
2)全例で,洞性の頻脈(特に娩出時)と急激なSTの偏位は,よく同時に起こった.ST変化は,娩出直後の1分が最大であった.ST低下の持続はまちまち(1-30分)で,平均7.5分.
3)平均の心拍数はST低下がある方がない方より有意に速い(127.9 vs.
117.7 bps).
4)平均の収縮期血圧は両群に有意差なし.
5)RPPは,娩出時に最大でST変化があった方が大きかったが,有意差なし.
6)全例,児の娩出後オキシトシンを投与したが,胸痛を訴えたものはいなかった.
7)娩出時に喉の不快感(ST変化有1人,なし1人),腹膜縫合時に上腹部不快感(ST変化なし1人)を訴えたものがいたが鎮痛剤の投与で対処.
心エコー:
1)13人の患者で行った.その内8人の患者でST低下が見られた.
2)エコーを施行した全ての患者で,術前,術中とも心筋壁の動きは正常であった.
3)6人の患者では軽度の(僧帽弁の逸脱がみられた(3人はST変化があった患者).
4)7人で心のう水の貯留が見られた(4人はST変化があった患者).
[結論]局所麻酔下の帝王切開術中におこるST低下はよく起こるが,それは,心筋虚血を反映しない.その原因となるものは同定できなかったが,ST低下と心拍数の間には何らかの関係があることが示唆された.
[抄者註]心エコーをうまく使って,心電図のSTの変化が必ずしも心筋虚血を反映しないことを証明している.
抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:局所麻酔下の帝王切開術中の心電図変化発生率
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Incidence of electrocardiographic changes during cesarean delivery
under regional anesthesia
Palmer, C. M. ; Norris, M. C. ; Giudici, M. C. ; Leighton, B. L. ;
DeSimone, C. A.
Anesth Analg 70(1): 36-43 1990
施設:Department of Anesthesiology, Thomas Jefferson University
Hospital, Philadelphia, Pennsylvania
[目的]
帝王切開術中におきる心電図のST変化と心筋虚血のマーカーとなるような症状の発生率を調べる.
[背景]
局所麻酔で帝王切開術を受ける妊婦は,胸痛や息切れを訴えることがよくある.これらの症状の病因は不明であるが,これまでは,腹膜の牽引とか子宮の修復のときに子宮を外に出すのが原因とか外科医のによる牽引によるという説明がなされている.
[研究の場]
病院(術後観察室)
[対象]
93人のASA分類PS1-2の予定手術で帝王切開術を受ける患者
[測定項目]
心電図(Spacelabs model 511)−患者が訴えた症状の記録
[方法]
麻酔は,硬膜外麻酔か脊椎麻酔.
麻酔導入前に2Lの晶質液の投与.
脊椎麻酔:25-または26Gの脊麻針で下部腰椎間から坐位または右側臥位で,12-15mgの0.75%高比重ブピバカインを注入(無痛域が最低T-4まで得られるように).
硬膜外麻酔:下部腰椎間から硬膜外腔に20Gカテーテルを挿入し,40万倍のエピネフリン入2%キシロカインまたは0.5%ブピバカインまたは3%の2-クロロプロカインを注入(無痛域が最低T-4まで得られるように).
術前の12誘導心電図の記録は行わなかった.
・心電図は7誘導(I, II,
III,aVR,aVL,aVF,V5)を麻酔導入後,皮膚切開,子宮切開,分娩時,分娩後4分,分娩後8分,閉腹時に記録.
[解析]
心電図記録の解析は,何も知らされていない心臓専門医が以下のプロトコールで解析.
1)ST-Tの1mm低下または上昇,心拍数とリズムの変化(洞性頻脈または洞性徐脈以外の),伝導の変化を有意の変化とした.
2)麻酔導入直後の記録をベースラインとした.
3)心電図変化と術中の症状を相関関係をみた(χ二乗検定).
統計解析:χ二乗検定,2元配置の分散分析,t-test
[結果]
1)心電図変化は47.3%(93人中44人)に起こった.44人中35人は心筋虚血に特徴的あるいはそれを示唆する変化と思われた.1mm以上のST-Tの低下(J点から60ms後の点で水平型あるいは下行型)は26人に,上昇は4人に,頻回または多形性のPVCは3人に観察された.44人中ののこりの9人は有意な心電図変化ではなかった.
2)I,aVL,V5誘導で多くの心電図変化が観察された.
3)麻酔法の違いには心電図変化が起こる率は影響しなかった.
4)症状と心電図変化は統計学的に有意な相関があった.93人中21人が症状を訴えた.胸部症状(胸痛,胸部圧迫感,呼吸困難)は21人中15人,嘔気・嘔吐は21人中5人,21人中1人が嚥下困難を訴えた.21人中18人が心電図変化を伴っており,18人中14人が有意な変化であった.心電図変化のなかった患者は,症状を訴えなかった.
5)心拍数,拡張期血圧,収縮期血圧,RPP(rate pressure
product)と心電図変化の間には有意な相関があった.
[結論]
帝王切開術中に生じる心電図変化と症状(胸痛や呼吸困難などの)の間には有意な相関があり,心筋虚血がおそらくその原因と推察される.
[抄者註]
この(研究)論文には不備があると自分で述べている.この不備が他の追試を生み出した(Anesth
Analg 74(1): 51-6 1992 や Br J Anaesth 69(4): 352-5 1992).
抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:帝王切開術中の心電図変化:関与する因子は?
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Electrocardiographic changes during cesarean section: a cause for
concern?
Zakowski, M. I. ; Ramanathan, S. ; Baratta, J. B. ; Cziner, D. ;
Goldstein, M. J. ; Kronzon, I. ; Turndorf, H.
Anesth Analg 76(1): 162-7 1993
施設:Department of Anesthesiology, New York University Medical
Center, NY 10016
[目的]帝王切開術中におこる心電図のST変化が,不可逆性の心筋壊死,特徴的な症状,術中のイベント,血行動態の変化に関与しているかどうかを検討する.
[背景]局所麻酔で帝王切開を受ける患者では,最大60%に心筋虚血の関与する心電図上のST変化がおこるとされている.
これらの患者は,しばしば胸痛や胸部圧迫感,呼吸困難,嘔気を訴える.帝切中には空気塞栓にも注意する必要がある.
[研究の場]病院(術後観察室)
[対象]予定帝王切開を受ける170人の健康な女性
[測定項目]
1)ホルター心電図(STの変化).
2)症状(嘔気/嘔吐,胸痛,呼吸速迫)と術中イベント(循環動態の変化,静脈の空気塞栓,循環作動薬の使用,娩出,子宮の外への).
3)心エコー(中隔と左室後壁の動き,左房のサイズ,左室壁のサイズと左室腔のサイズ,駆出率).
4)CPK-MB(CPKの心臓と脳の分画).
[方法]麻酔導入前に乳酸加リンゲル1500mlの輸液.
麻酔は,硬膜外麻酔か脊椎麻酔を選択−坐位でL3-4またはL2-3から穿刺.
脊椎麻酔群(SA)n=50:25G針で12mgのブピバカイン(8.25%ブドウ糖中)を投与しT2-4の範囲の無痛域を得た.引き続いて術後疼痛に対して0.25mgのモルヒネを投与.
硬膜外麻酔群(LEA)n=120:T2-4の無痛域が得られるように,20万倍エピネフリン入の2%リドカインを硬膜外投与.術中に不快感を訴えれば児娩出後に100μgのフェンタニールを静注.術後痛に対しては腹壁を閉じるときに硬膜外カテーテルから5mgのモルヒネを投与.
胸壁アプローチの心エコーをLEAの30人で施行した.
標準12誘導心電図(術前1時間前と術後24時間後の2回).
ホルター心電図(II誘導,V5誘導)…手術2時間前から術後3時間まで.
[解析]心電図からSTの変化と心エコーの異常,それらと症状との関連
[結果]
1)120人が硬膜外麻酔(LEA),50人が脊椎麻酔(SA)で帝切
2)LEA2人,SA21人の患者がフェンタニールを必要とした
3)酸素飽和度は96%以上
4)CPK-MBのデータは全例正常範囲内
・心電図,症状,バイタルサイン:
ST低下はSAより有意にLEAで多く起こった.
ST上昇はLEAのみにおこった.
ST部分の変化が生じた34%で,症状の出現,空気塞栓,血管作動薬の使用,術中イベントが同時におこった.
頻脈が最もST変化に関連して起こった.つづいて高血圧,徐脈,嘔気,胸痛の順であった.
麻酔導入後から75分までは有意にSAがLEAに比べて徐脈であった.
・心エコー:
エコーを施行した患者30人中7人にST変化がみられた.ST変化がみられた患者では心筋壁の動きに異常はみられなかった.
ST変化や症状のなかった患者の3人に中隔の動きの異常がみられた.
左房径と左室腔の大きさには変化がなかった.
EFはどの時点でも変化がなかった.
[結論]局所麻酔で行われた帝王切開術中の25%の妊婦にST変化を認めたが,心筋虚血や梗塞の実証は得られなかった.
呼吸,静脈の空気塞栓はST変化と関連していなかった.ST変化は頻脈になったときに最もよくおこった.SAの方が徐脈でLEAに比べてST変化の頻度が少なかった.帝切中におきるST低下は,心筋虚血によるものではなく,臨床的なイベントのいかんにかかわらず起きるものであろう.
[抄者註]データの蓄積にはParadox,統計解析にはStatisticaを用いたと書かれている.
抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:予定帝王切開術患者の周術期の心電図の持続STモニター
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Perioperative continuous monitoring of ST-segment changes in patients
undergoing elective caesarean section.
Trotter, T. N. ; Langton, J. A. ; Barker, P. ; Rowbotham, D. J.
Br J Anaesth 69(4): 352-5 1992
施設:Department of Anaesthesia, Leicester Royal Infirmary
[目的]局所麻酔あるいは全身麻酔で予定帝王切開を受ける患者のSTの変化の発生率を調査する
[背景]局所麻酔で行われる帝王切開術では,高率に心電図変化をおこすと報告されている.同報告では,胸痛とか呼吸困難のような自覚症状と心電図の変化には有意に相関があるとしているが,術前心電図検査を行っておらず,術中の心電図記録も間欠的で,コントロールすべき全身麻酔で手術を受けた群も設定されていない.
[研究の場]病院
[対象]予定帝切を受けるASAクラスIの患者29人
[測定項目]STの変化と患者の自覚症状の訴え
[方法]術前夜と当日朝にラニチジン150mgを経口投与.
児娩出まで手術台上では15度の左側臥位.
麻酔管理)硬膜外麻酔:1Lの乳酸加リンゲル液を補液.L2-3またはL3-4から硬膜外カテーテルを挿入.20万倍エピネフリン入の2%リグノカイン10mlずつ2回.
脊椎麻酔:1Lの乳酸加リンゲル液と500mlのヘマセルを補液.26Gまたは27Gの針でL3-4から穿刺,0.5%高比重ブピバカイン2.5ml.
上記の2つの麻酔法で行ったときには最低T-6まで無痛域が得られるようにした.
全身麻酔:術前に輸液を行わず.3分間の酸素化の後,サイオペンタール5mg/kgとサクシシルコリン1.5mg/kgを用いて挿管し,笑気:酸素(1:1)と1%エンフルレンで維持した.換気は,ノルモカプニアを保った.
娩出後,全例に10単位のオキシトシンが投与された.
心電図モニター)V2,V5,aVFをモニター.
[解析]分散分析とχ二乗検定.
心電図変化は1mm以上の低下,2mm以上の上昇が最低1分以上続いた場合を有意な変化とした.
[結果]
1)心拍数,平均血圧は3つのグループ間で有意差はなかった.
2)この検討では,3回のST変化が,観察された.全身麻酔の患者の1人は手術2時間前に,1分間のST低下.硬膜外麻酔の患者の1人は術前輸液が始まる5分前に6分間のST低下.脊椎麻酔の患者の一人は手術2時間後に1分間のST低下を起こした.しかし,これらの患者は自覚症状を伴わなかった.
3)硬膜外麻酔を受けた患者の一人は胸痛,脊椎麻酔の患者の一人は胸部圧迫感を訴えたがSTの変化と関連していなかった.
4)術中にはST変化は出現しなかった.
5)ST上昇は出現しなかった.
[結論]局所麻酔でも全身麻酔でも,周術期の心筋虚血を示唆するようなSTの変化はみられなかった.
[抄者註]これも,Palmerらの報告の不備を追試するものである.しかし,同年に報告されているものに比較すると,ST変化が術中には全く起こっていない.施設によって,術中のST変化の割合が異なるのは患者側の因子だけでなく手術や投薬の施設による(医療サイドの)差異なども検討してみる余地があるのではないだろうか.
抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:帝王切開術後の鎮痛法:患者評価と5種類の手技(オピオイド使用)別コストの比較
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Analgesia after cesarean delivery: Patient evaluations and costs of
five opioid techniques.
Cohen S E ; Subak L L ; Brose W G ; Halpern J
REG ANESTH 16(3): 141-149 1991
施設:Dep. Anesthesia, Stanford University School Medicine, Stanford,
Calif. 94305
[目的]オピオイドを用いた硬膜外(2種類),クモ膜下,PCA(静注),筋注の日常的に用いられている5つの投与法のうち帝王切開術後の鎮痛にはどれが効果的でコストが安いかを検討する.
[背景]上記の5つのテクニックは術後鎮痛に,日常的に用いられている.
[研究の場]大学病院
[対象]帝王切開を行った女性692人
[測定項目]
1)患者への質問
(1)痛みの強さ(2)追加鎮痛薬の対応の遅れ(3)疼痛軽減の発現(4)鎮静の程度(5)副作用の発現と程度(6)鎮痛の満足度
2)鎮痛にかかる費用
[方法]
1)硬膜外モルヒネ(n=128)4-5mg
2)硬膜外モルヒネ+フェンタニール(n=245)4-5mg+fentanyl50-100μg
3)クモ膜下モルヒネ(n=48)−0.2-0.5mg
4)筋注メペリジン(n=165)−50-75mg患者の要求に応じて3-4時間毎
5)PCAモルヒネ(n=98)−10-15mg/回(ロックアウト10分)
コストの評価:
鎮痛薬の値段や副作用の処置に要した費用,手技量等すべて(麻酔記録や看護記録より算出)
[結果]
1)術直後16時間は筋注とPCAは痛みが強い
2)副作用はクモ膜下に最も多く発生,PCAが最も少ない
3)全身麻酔後の筋注を除いて,坐位,歩行,飲水が可能になるのは同じ
4)満足度は疼痛軽減と平行していた
[結論]PCAによるのが最もコストはやすくあがったが,全体の入院費用からみればたいしたことはない(1%以下)
[抄者註]結論にも書かれているが,全体の入院費用からみればたいしたことはないが,患者の満足感とコストとの両面を考えているのは,非常に好感が持てる.究極の患者主体の医療である.
抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:硬膜外フェンタニールは帝王切開術後の硬膜外モルヒネの効果を減弱させるか?
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Does epidural fentanyl decrease the efficacy of epidural morphine
after cesarean delivery?
Vincent R D Jr ; Chestnut D H ; Choi W W ; Ostman P L G ; Bates J
N
ANESTH ANALG 74(5): 658-663 1992
施設:Dep. Anesthesia, Univ. Iowa Coll. Med., Iowa City, Iowa
52242
[目的]硬膜外にモルヒネを投与する前に投与されたフェンタニールはモルヒネによる術後鎮痛の効果を減弱させずに術中の鎮痛効果を増強させるかどうかを検討する
[背景]先の研究では硬膜外フェンタニールは,帝王切開術中の鎮痛作用を増強するといわれている.しかし,それは術後の硬膜外モルヒネの効果を減弱するとの報告もある.
[研究の場]病院
[対象]60人の硬膜外麻酔で帝王切開術を受ける患者
[測定項目]患者評価:
1)娩出時,娩出10,20,30,40分後の痛みの強さ(0:なし 1:軽度
2:中等度 3:重度).
2)術中の吐き気の程度(娩出前と後)=0:なし1:吐き気 2:嘔吐.
3)術後:痛み(100mmのVAS),吐き気,掻痒感,鎮静度の4つを1,2,4,8時間で測定.
4)母親の呼吸数:術後30分おきに16時間,その後は1時間おきに8時間観察
[方法]乳酸加リンゲル1000mlの投与.腰部硬膜外カテーテルから5μg/mlのエピネフリン加2%リドカインを注入し,ピンプリックで,T-4レベルまでの無痛域を得た.児娩出後,臍帯クランプ後100μg/10mlのフェンタニール(Fentanyl)または10ml生食(NS-control)をダブルブラインドを用いて硬膜外カテーテルから注入.子宮修復後,3.5mgのモルヒネを硬膜外から注入.
[結果]
1)患者の背景因子に差はない.
2)術中:痛みの強さでは,モルヒネ投与後は,FentanylとNS-controlの間に有意差はなかった.娩出後から手術終了までの間の吐き気に関しては,FentanylがNS-controlにたいして有意に減少.
3)術後:痛み,吐き気,掻痒感,鎮静度とも1,2,4,8時間で有意差はなかった.
4)呼吸に関しても12回/分以下にはならなかった.
[結論]帝王切開術中に硬膜外に投与した100μgのフェンタニールは術中の鎮痛に影響を及ぼさないけれども,5μg/kgのエピネフリン加2%リドカインで硬膜外麻酔を受けている患者の術中の吐き気を減少させる.さらに,硬膜外フェンタニールは後で投与された硬膜外モルヒネの術後の鎮痛効果に影響を及ぼさない.
[抄者註]なんと,硬膜外フェンタニールが帝王切開術中の悪心嘔吐に効く.この理由はわからないと述べられているが,他にもAckermanら(Anesthesiology
1988;69:A679)が50μgの硬膜外フェンタニールの投与で同じ現象を観察している.
抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:帝王切開後の硬膜外スフェンタニール投与が母の呼吸状態にあたえる影響
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Respiratory effects of epidural sufentanil after cesarean
section.
Cohen, S. E. ; Labaille, T. ; Benhamou, D. ; Levron, J. C.
Anesth Analg 74(5): 677-82 1992
施設:Departement d'Anesthesie, Universite Paris-Sud, France
[目的]帝王切開術後に30μgまたは50μgのスフェンタニールを硬膜外投与したときのCO2に対する呼吸応答を調べる
[背景]術後の鎮痛にはオピオイドの硬膜外投与が広くおこなわれている.モルヒネのような水溶性オピオイドはCSFを介して頭側に広がるために遅発性の呼吸抑制の危険をもっている.スフェンタニールは高脂溶性のオピオイドでμオピオイドレセプターに対する親和性が大きい.CSFからの洗い出しも速やかで頭側への広がる可能性も少ない.帝王切開術後の硬膜外スフェンタニールに対する鎮痛効果の検討はなされているが,呼吸への影響を観察したものは少ない.
[研究の場]病院(術後観察室)
[対象]硬膜外麻酔で帝王切開術を予定された健康な妊婦14人
[測定項目]CO2に対する呼吸応答はスフェンタニール投与後15,45,120分後に評価
Volumeはニューモタコグラフで測定.
呼気終末CO2(PETCO2)はカプノグラフ.
酸素飽和度(SpO2)はNellcorのパルスオキシメーター.
HR,血圧,
痛みの評価(10cmのVAS)前,5,10,15,20,30,45,120分
記録は追加の鎮痛剤を要求するまで
呼吸以外の副作用:掻痒感,吐き気(0:なし 1:軽度 2:中等度
3:重度),
嘔吐(あり,なし),
鎮静度(10cmのVASS:visual analog sedation scale:0
完全覚醒,10:睡眠)
スフェンタニールの血中濃度(前,5,10,15,20,30,45,120分)
[方法]前投薬は30mlの0.3%クエン酸ナトリウムのみ.硬膜外穿刺は,L2-3またはL3-4から行い,麻酔中はカテーテルから0.5%ブピバカインのみを投与しておこなった.術中は他の鎮静剤やオピオイドは投与せず.手術終了時に麻酔域がT4以下であった患者には,0.25%プピバカイン10mlの追加投与を行った.呼吸に関する測定は安静状態で行い,ブピバカインを最後に投与した後25分をコントロールの観察を行った.
30μg(n=7)と50μg(n=7)のスフェンタニールを硬膜外に投与した群を設けた.
上記の測定項目に対して,スフェンタニール投与後2時間までの間の観察を行った.
[解析]一元配置または二元配置の分散分析を用いた後,ScheffeまたはDunnet
test(コントロールとスフェンタニール投与後の比較)
Student's
t-test,Mann-Whitney(連続または非連続データの2群間の比較)
Fisher's extract test(副作用)
[結果]
1)観察期間を通して両群とも痛みのない状態であった.観察期間中の皮膚分節のレベルはT8-T4であった.
2)両群とも安静時の換気に変化が生じない場合でも,CO2に対する換気応答は抑制された.
30μg投与後のCO2反応曲線のスロープは45分,120分で有意に減少した.
50μg投与後のCO2反応曲線のスロープは15分,45分で有意に減少した.
スロープがコントロールに対して最大に減少したのは投与後45分で,30μg(-27.4±9.9%)より50μg(-42.3±7.4%)の方が強かった.
3)追加投与が必要になるまでの時間は520±89分(30μg)と537±90分(50μg)で有意差なし.
HR,血圧は安定.
4)掻痒感,吐気,嘔吐は両群とも同程度
5)VASSは50μgのほうが有意に高い
6)鎮静度は血漿スフェンタニールレベルに相関しない
[結論]副作用(呼吸性,非呼吸性)の点からは,50μgより30μgスフェンタニール硬膜外投与の方が好ましい.
30μgの場合であっても,最低2時間は呼吸のモニタリングを行うことが望まれる.
[抄者註]硬膜外オピオイドの呼吸に対する副作用
抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:帝王切開術後の硬膜外PCA:フェンタニールかスフェンタニールか?
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Postcesarean delivery epidural patient-controlled analgesia: Fentanyl
or sufentanil?
Cohen S ; Amar D ; Pantuck C B ; Pantuck E J ; Goodman E J ; Widroff
J S ; Kanas R J ; Bracy J A
ANESTHESIOLOGY 78(3): 486-491 1993
施設:Dep. Anesthesiol. and Critical Care Med., Memorial
Sloan-Kettering Cancer Cent., 1275 York Ave., New York, NY
10021
[目的]フェンタニールまたはスフェンタニールをエピネフリン添加局所麻酔薬ととともに,PCAポンプで硬膜外に投与したときの副作用と患者の満足度を検討する
[背景]術後の硬膜外鎮痛の目的で,高脂溶性のオピオイドであるフェンタニールやスフェンタニールは,しばしばエピネフリン添加局所麻酔薬との組み合わせで用いられる.
[研究の場]術後観察室
[対象]硬膜外麻酔で帝王切開を予定されている患者250人(ASAのPS1ないし2)
[測定項目]ペインスコア(10点法のVAS)…4時間毎48時間まで
副作用(掻痒感,鎮静度,吐き気,嘔吐)とその程度(3点法:1軽度,2中程度,3重度)
疼痛処置に対する患者の満足度(10点法:0点…no satisfaction 10点…best
satisfaction)
フェンタニルとスフェンタニルの血漿中濃度(オピオイド投与終了0,2,4,6,8時間後)
[方法]二重盲検法を用いて
グループI(n=125):フェンタニール2μg/mlと0.01%ブピバカイン,0.5μg/mlエピネフリン添加
グループII(n=125):スフェンタニール0.8μg/mlと0.01%ブピバカイン,0.5μg/mlエピネフリン
添加
にわけた.
術後観察室に到着した後,硬膜外カテーテルにPCAポンプ(携帯型Pancretec
5500 ミニインフューザ)を接続した.
PCAポンプは要求に応じて15分ごとに1回当たり3mlが16ml/hで注入されるように設定.
[解析]二元配置の分散分析,Student't test,Fisher's exact
test,Wilcoxon rank-sum test
[結果]
1)ペインスコアは両群とも満足できるもので有意差はなかった
2)両群の注入期間も有意差はなかった
3)最初の24時間の投与量はグループI(83.3±86.8
ml)にくらべてグループII(59.7±67.2 ml)が少なかった.
4)PCAのボタンを押した回数はグループII(70.8±138)よりグループI(106.7±312)が多かった
5)掻痒感,鎮静,吐き気に差はなかったが,嘔吐はフェンタニールよりスフェンタニールのほうが多かった(12%
vs. 4.8%)
[結論]どちらの硬膜外PCA法でも重大な副作用は見られなかったし,患者の満足度も十分であった.スフェンタニール群ではフェンタニール群に比較して,PCAの要求回数は少なかったが,薬液注入中は嘔吐が,注入終了後はふらつきが有意に多かった.帝王切開術後の鎮痛の目的でPCAポンプで硬膜外投与した場合,スフェンタニールはフェンタニール比較して有利な点は見いだせなかった.
[抄者註]スフェンタニールの副作用が目立ってしまった例である
抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:硬膜外PCAと静注PCA:帝王切開術後の鎮痛にはどちらがよいか? menu
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Epidural patient-controlled analgesia: An alternative to intravenous
patient-controlled analgesia for pain relief after cesarean
delivery.
Parker R K ; White P F
ANESTH ANALG 75(2): 245-251 1992
施設:Dep. Anesthesiol. Pain Management, Univ. Texas Southwestern
Med. Cent., 5323 Harry Hines Blvd., Dallas, Texas 75235-9068
[目的]帝王切開術後の鎮痛に,ハイドロモルフォンを使用した場合,硬膜外PCAと静注PCAのどちらが安全で効果的であるかを検討する.
[背景]PCA(patient-controlled
analgesia)は術後疼痛の軽減には安全で効果的なテクニックである.
最近では,PCAを使用した硬膜外オピオイドの使用は,術後疼痛管理のテクニックとしてよりも早期回復や入院期間の短縮という方面に注目されている.フェンタニール,スフェンタニール,アルフェンタニールなどの速効性,脂溶性のオピオイドが硬膜外PCAに使用されている.しかしながら,スパーリング効果がないために,これらの高脂溶性のオピオイドを硬膜外に投与することの有用性には疑問がある.
[研究の場]術後観察室
[対象]予定帝切患者117人(ASAのPS1ないし2)
[測定項目]作用(ハイドロモルフォン総使用量,要求量と供給量,ペインスコアと鎮静スコア),副作用(吐き気,嘔吐,かゆみ,過度の鎮静,尿閉)とその処置を必要としたかどうか,回復時間(歩行,腸蠕動音,飲食開始,PCAからの離脱,退院)
[方法]観察室に到着してすぐにBard社の携帯型PCAポンプを装着した.静注PCA(IV-PCA)群(n=49)は,最小投与間隔を10分,1回投与量を1ml(0.15mg)で要求時に注入されるように設定した.硬膜外PCA(EPI-PCA)は,はじめに6ml(0.9mg)を投与後,最小投与間隔を30分,1回投与量を1ml(0.15mg)で要求時に注入されるように設定したPhaseII群(n=41)と硬膜外に関連した副作用を抑えるために初回投与量を0.225mg(3ml)とし,PCAの設定は,最小投与間隔を30分,1回投与量を2ml(0.15mg)で要求時に注入されるように設定したPhaseI群(n=17)に分けた.PCAポンプを装着後48時間まで,上記項目を4時間毎に観察した.
[結果]
1)総投与量は,観察期間を通してEPI-PCA(PhaseI)とEPI-PCA(PhaseII)の両群とも,IV-PCAに比較して少なかった.
2)PCAの要求回数は最初の24時間ではIV-PCAがEPI-PCA(PhaseI)またはEPI-PCA(PhaseII)より有意に多かった
3)ペインスコアと鎮静スコアは観察期間を通して有意差を認めなかった.
4)副作用:掻痒感はEPI-PCA(PhaseI)とEPI-PCA(PhaseII)の両群ともIV-PCAに比較して少なかった.
5)腸蠕動音が聞こえた時間,飲食開始,PCAからの離脱時間,退院までの時間はEPI-PCA(PhaseII)がIV-PCAに比較して有意に早かった.
[結論]ハイドロモルフォンを使用したEPI-PCAはIV-PCAに比較して安全で効果的な手法であり,少ない投与量で済み,早期の回復が期待できる.
[抄者註]脂溶性に関しては,ハイドロモルフォンはフェンタニールとモルヒネの中間ぐらいの性質
抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>