MONITOR WORLD 1998 目次へ

PCA

● 「PCA」によせて

1.脊椎手術後のPCAモルヒネの補助としてのケトロラク

2.硬膜外フェンタニルは脊髄作用により分娩時の鎮痛作用をあらわす

3.膝関節鏡術後のネオスチグミン動注による鎮痛

4.ケトロラクは術後のPCAにモルヒネの作用を増強する

5.PCAモルヒネに低濃度ナロキソンを併用するとオピオイドの副作用を軽減する

6.子宮摘出術後には硬膜外モルヒネの方がPCA静注モルヒネより鎮痛効果がよい

7.PCAでモルヒネと同時投与したプロポフォルが術後の悪心嘔吐に効果があるか?

8.術後痛と術後鎮痛薬必要量に対する術中のモルヒネ投与量とタイミング

9.硬膜外PCAにケタミンを加えると術後痛と術後の鎮痛剤使用が減少する

10.ベラパミル硬膜外投与で下腹部手術後の鎮痛薬使用量を減少する

11.心臓手術後のモルヒネの皮下注は静注モルヒネPCAと同等の効果がある

12.術後のモルヒネ必要量のもっともよい予測因子は年齢である

13.モルヒネまたはフェンタニルによる硬膜外PCA中の気分を調べる

14.骨髄移植後のPCAとスタッフコントロール鎮痛法との比較

15.腹部創傷部にモルヒネを浸潤させたときの疼痛軽減効果と内分泌/免疫反応




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広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科 讃岐美智義

 今回、選んだテーマは、PCA(patient controlled analgesia)である。PCAを施行するとき、患者の理解が不十分だとコントロールが悪い。うまく使用すれば、痛みのコントロールもよいし、患者自身も楽である。今回の、抄録集はPCAを使用した臨床研究を集めてみた(メインテーマがPCAではない場合もある)。これらの文献を集めて読んでみるとPCAは、疼痛コントロールの補助手段として用いられているのがわかる。プラセボコントロール研究をするのに、プラセボ群に対するレスキューの鎮痛としてPCAが用いられているケースがほとんどである。また、欧米では癌の痛みにPCAが用いられるケースが多いようだが、ここに集めた文献は、ほとんどが術後痛に関するものである。麻酔科関連の文献だからというわけではないが、癌の痛みに対するPCAの報告は皆無に等しい。
日本語の文献も調べてみたが、最近は(日本語文献に関する限り最近もというべきか)PCAに関するものは少ない。しかし、今後、流行りそうな気配がある。今回の広島で開催された日本ペインクリニック学会学術集会をみても、PCAの演題が増えている印象があるし、機械展示もPCAには力を入れていた。我々、麻酔科医の側からみてもそろそろ、術後硬膜外鎮痛のみではいけないという思いもある。たとえば、出血傾向のある患者に硬膜外麻酔ができないから、術後は痛いのをがまんしてねとはいえない。できることなら、何らかの満足できる鎮痛サービスを提供したいと思っているのではないだろうか。
 最近、整形外科の先生から、患者が痛がるんだけどもっといい鎮痛薬はありませんか?できれば、長時間作用する麻酔薬を使用してほしいと要望され、困っていた。長時間作用する薬剤を麻酔に使用すれば、麻酔の覚醒に影響を及ぼす。ただでさえ、すぐ醒ましてほしいと思っている外科医が多いのに。そこで、当院でもacute pain serviceの一環として術後鎮痛のためにPCAをやることにした。
 PCAをすると、これまで以上に保険点数があがるし、術直後から強力な鎮痛もできるので患者の在院日数も少なくなる、と事務をだまして今年度の予算でPCAポンプを買ってもらった。来年は、台数が足りないからまだ目に見えた効果がないとでも言ってPCAポンプを増やしてもらうように、今、平成11年度の予算申請書をでっち上げたところである。
 冗談(予算申請の理由は事実である)はさておき、本当に在院日数が少なくなるかどうか、患者にとって満足できるレベルのものが提供できるかどうかが、問題である。鎮痛ももちろんだが、鎮痛薬を使用することにより引き起こされる合併症の抑制も大きなテーマである。プロポフォルが出てから「麻酔の質」という言葉がさかんに使われるようになったが、安全に安楽に術後を過ごすことができるように「術後鎮痛の質」をあげるための道具としてPCAを活用していきたい。

文献のタイトル
(1)脊椎手術後のPCAモルヒネの補助としてのケトロラク
(2)硬膜外フェンタニルは脊髄作用により分娩時の鎮痛作用をあらわす
(3)膝関節鏡術後のネオスチグミン動注による鎮痛
(4)ケトロラクは術後のPCAにモルヒネの作用を増強する
(5)PCAモルヒネに低濃度ナロキソンを併用するとオピオイドの副作用を軽減する
(6)子宮摘出術後には硬膜外モルヒネの方がPCA静注モルヒネより鎮痛効果がよい
(7)PCAでモルヒネと同時投与したプロポフォルが術後の悪心嘔吐に効果があるか?
(8)術後痛と術後鎮痛薬必要量に対する術中のモルヒネ投与量とタイミング
(9)硬膜外PCAにケタミンを加えると術後痛と術後の鎮痛剤使用が減少する
(10)ベラパミル硬膜外投与で下腹部手術後の鎮痛薬使用量を減少する
(11)心臓手術後のモルヒネの皮下注は静注モルヒネPCAと同等の効果がある
(12)術後のモルヒネ必要量のもっともよい予測因子は年齢である
(13)モルヒネまたはフェンタニルによる硬膜外PCA中の気分を調べる
(14)骨髄移植後のPCAとスタッフコントロール鎮痛法との比較
(15)腹部創傷部にモルヒネを浸潤させたときの疼痛軽減効果と内分泌/免疫反応





1. 日本語タイトル:脊椎手術後のPCAモルヒネの補助としてのケトロラク menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Dose-response of ketorolac as an adjunct to patient-controlled analgesia morphine in patients after spinal fusion surgery.
Reuben SS, Connelly NR, Lurie S, Klatt M, Gibson CS
Anesth Analg 87(1):98-102, 1998
施設:Department of Anesthesiology, Baystate Medical Center, Springfield, USA.
[目的]脊椎手術後の鎮痛にPCA(静注)でモルヒネを使用する。補助薬としてのケトロラクを使用量が鎮痛効果と副作用に及ぼす影響を調べる。
[背景]ケトロラクは術後痛の多剤併用鎮痛療法に使用される有用な鎮痛補助薬である。
[研究の場]病院の手術室および術後リカバリー室(PACU)
[対象]18歳以上、40kg以上、英語が話せる腰椎椎弓切除を予定された患者70名
[方法]前向き、二重盲検、無作為に検討。
麻酔はプロポフォル、フェンタニル、ベクロニウムで導入しイソフルレンと70%笑気で維持。PACUに到着したらPCAポンプ装着(内容はモルヒネ1mg/ml)。6時間ごとにケトロラクを静注投与し、1回あたりの投与量によりグループを7に分ける。Group1-7(順にケトロラク0mg,5mg,7.5mg,10mg,12.5mg,15mg,30mg)。以下の調査項目に対して開始から24時間後まで調査を行い4時間ごとに6つの期間(0-4、4-8、8-12、12-16、16-20、20-24時間)に分けて評価する。
[調査項目]痛み:ペインスコア(10段階のverbal analog pain scale),24時間のモルヒネ使用量、鎮静度(5段階)、副作用(術後の悪心嘔吐、掻痒感、呼吸抑制、尿閉)
[結果]1)モルヒネの総使用量は、Group1と2(ケトロラク0mgと5mg)では他の群(Group3-7)より有意に多い。Group3-7では差はない。
2)ペインスコアは、Group1が3期間で他の群より有意に高い。Group2は、ほとんどの期間で他の群より有意に高い。Group3-7間には有意差はない。
3) Group1の3期間で、他の群より有意に鎮静された。
4)いずれの群でも呼吸抑制(1分間に10回未満)はなく、他の副作用にも有意差はない
[結論]術後鎮痛にPCAモルヒネを使用する脊椎手術では、6時間ごとに7.5mgのケトロラクを使用するのが最小限で効果がよい方法である。
[抄者註] ケトロラクというのは、解熱および鎮痛作用をもつピロロピロール非ステロイド性抗炎症薬で、作用はイブプロフェンと類似している注射剤である。
バランス鎮痛または多剤併用療法とは、複数の薬物または手段を組み合わせて効率のよい鎮痛を得ることである。局所麻酔薬とオピオイドとNSAIDsの組み合わせにより鎮痛の相乗効果や副作用の軽減が得られるとするものである。
<抄者:>讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)





2. 日本語タイトル:硬膜外フェンタニルは脊髄作用により分娩時の鎮痛作用をあらわす menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Epidural fentanyl produces labor analgesia by a spinal mechanism.
D'Angelo R, Gerancher JC, Eisenach JC, Raphael BL.
Anesthesiology 88(6):1519-1523, 1998
Department of Anesthesiology, The Bowman Gray School of Medicine of Wake Forest 施設:University, Winston-Salem, North Carolina, USA.
[目的]無痛分娩に使用される硬膜外からのフェンタニル投与が脊髄で直接作用をあらわすか脊髄より上位で作用をあらわすかを検討する。
[背景]無痛分娩に硬膜外腔への局麻薬とオピオイドの投与がよく用いられる。局麻薬の副作用を軽減するためにオピオイドを混入する。ボランティアでの研究では硬膜外へのフェンタニルのボーラス注入で脊髄作用を示唆する結果が得られているが、分娩時の研究はない。一般に無痛分娩に硬膜外へのフェンタニルを含んだ薬剤が注入されているが、無痛分娩時のフェンタニルの作用が脊髄直接作用か脊髄上位の作用でおこるかを区別するために硬膜外投与と静注投与を比較した研究はない。
[研究の場]病院の分娩室
[対象]ASAクラス1または2の54人の妊婦
[方法]二重盲検、前向き研究。
プラセボ群:ブピバカインに加えて生食を硬膜外腔と静脈内投与する群、
硬膜外群:ブピバカインとフェンタニルを硬膜外腔に生食を静脈内投与する群、
静注群:ブピバカインと生食を硬膜外腔にフェンタニルを静脈内投与する群
の3群に分ける。硬膜外にはPCAポンプを使用し、0.125%ブピバカインをバックグラウンド注入6ml/hr、リクエスト注入4ml/回、ロックアウトタイム10分、最大注入量22ml/hrに設定した。硬膜外腔と静注用のフェンタニル濃度を1.67μg/ml(20μg/hr)とし、生食とフェンタニルをそれぞれ12ml/hrで注入した。以下の項目を調査し検討した。[調査項目]ピンプリックで知覚レベル、運動麻痺の程度(4段階)、VASによるペインスコア、副作用として低血圧、掻痒感、吐気
[結果]1)硬膜外鎮痛の持続時間、ピンプリックによる知覚レベル、VASによるペインスコアには有意差を認めなかった。
2)低血圧、掻痒感、吐気などの副作用や運動麻痺にも差はなかった。
3)硬膜外群ではブピバカインの使用量が他の2群より約28%少なかった。
[結論]無痛分娩時の低濃度のフェンタニルの硬膜外投与では、ブピバカインの総投与量を減少させ、脊髄への直接作用により鎮痛作用が増強される。
[抄者註] 児に対する評価がなされていない。本末転倒のような気がするのだが。
 
<抄者:>讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)





3. 日本語タイトル:膝関節鏡術後のネオスチグミン動注による鎮痛 menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Postoperative analgesia by intra-articular neostigmine in patients undergoing knee arthroscopy.
Yang LC, Chen LM, Wang CJ, Buerkle H.
Anesthesiology 88(2):334-339, 1998.
施設:Chang Gung Memorial Hospital, Kaohsiung Hsien, Taiwan, Republic of China.
[目的]関節鏡手術後の患者にネオスチグミンを動注して、末梢のムスカリン受容体の鎮痛作用を検討する。
[背景]最近ネオスチグミンの脊髄投与が用量依存性に鎮痛作用を現すことが示されている。しかし、脊髄や硬膜外への投与は、悪心嘔吐や掻痒感などの用量依存性の副作用や脳内への上昇のおそれのために臨床での使用が制限される。
[研究の場]術後リカバリールーム
[対象]ASAクラス1-2の全身麻酔で関節鏡手術を受ける患者60名
[方法]無作為、二重盲検、前向き研究でプラセボコントロール研究。
Group1:生食を動注、
Group2:125μgネオスチグミン動注、
Group3:250μgネオスチグミン動注、
Group4:500μgネオスチグミン動注、
Group5:2mgモルヒネ動注、
Group6:500μgネオスチグミン皮下注
の6群に分ける。
追加の鎮痛薬はPCAバックグラウンド注入なし、リクエスト注入1mg/回、ロックアウトタイム10分とした。全身麻酔下で手術終了前の関節鏡を抜く前に上記の薬物を動注または皮下注した。以下の項目を術後48時間まで調査した。
[測定項目]VAS(100mm)によるペインスコア、PCAでのモルヒネ使用量、はじめにPCAをリクエストするまでの時間、副作用(悪心、嘔吐、掻痒感、徐脈、尿閉)
[結果]1)術後1時間でのVASはGroup4が有意に低い。
2)PCAでのモルヒネ使用量は、Group4と5がコントロールに比べて有意に少ない。
3)PCAを最初にリクエストするまでの時間はGroup4が350分、Group5が196分でコントロールの51分に比べて有意に長い。
4)副作用はすべての群で見られなかった。
[結論]アセチルコリンエステラーゼ阻害剤であるネオスチグミンを動注すると、中等度ではあるが明らかな鎮痛作用がある。
[抄者註] PCAをうまく使っている。PCAを初めてリクエストするまでの時間を比較するためにバックグラウンド注入なしというのがポイントである。

<抄者:>讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)





4. 日本語タイトル:ケトロラクは術後のPCAにモルヒネの作用を増強する menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Ketorolac potentiates morphine in postoperative patient-controlled analgesia.
Picard P, Bazin JE, Conio N, Ruiz F, Schoeffler P.
Pain 73(3):401-406, 1997.
施設:Departement d'Anesthesie-Reanimation, Hopital G. Montpied, Clermont-Ferrand, France.
[目的]モルヒネとケトロラクの混合投与が、モルヒネ単独やケトロラク単独と同等乃至それ以上の鎮痛効果を示すかを検討する。副作用が混合投与した群で少ないかを検討する。
[背景]PCA(静注)にモルヒネを使用することは広く行われるようになった。しかし、呼吸抑制、掻痒感、悪心嘔吐などの副作用が少なからずある。1994年NSAIDsとオピオイドを併用すると痛みに対する効果がよく、副作用も軽減するとの報告があるが、未だにはっきりとは証明されていない。
[研究の場]手術室と術後リカバリールーム
[対象]脊柱管狭窄症手術を全身麻酔で行う予定のASAクラス1-2の患者48名
[方法]ランダム割付、プロスペクティブスタディー
全身麻酔での手術終了後、リカバリールームに入室。VASが30mm以上になったらPCAを開始する。
Group1:モルヒネ単独PCA(モルヒネ濃度 1mg/ml)、
Group2:ケトロラク単独PCA(ケトロラク濃度 3mg/ml)、
Group3:モルヒネ半量+ケトロラク半量のPCA(ケトロラク濃度 1.5mg/ml+モルヒネ濃度 0.5mg/ml)
の3群に16名ずつランダムに分ける。0.07ml/kgローディングした後PCAを開始。PCAの設定は、リクエスト注入 1ml/回、ロックアウトタイム10分、バックグラウンド注入なし。以下の項目を調査した。
[測定項目]痛みの程度。PCAからのデータ(薬剤の総使用量、demand/delivery ratio:リクエスト回数と有効注入回数の比)を記録。副作用として呼吸抑制(1分間に10回以下)と必要としたナロキソンの量、鎮静度(5段階)悪心嘔吐と必要としたドロペリドールの量、尿閉、皮膚掻痒感、上腹部不快感、動脈血液ガス分析
[痛みの評価]100mmのVASを用いて安静時と体動時の痛みを48時間まで4時間ごとに調査。PID(pain intensity difference):VASの初期値(リカバリールームに入室時に測定)から現在のVASを引いたものを用いて痛みを評価する。
[結果]1) Group3では他の群より、全経過を通じて安静時痛が少ない。
2) Group3では最初の24時間までの体動時痛が他の群より少ない。
3) Group3では他の群よりdemand/delivery ratio が小さい。
4)モルヒネ単独では尿閉が多いが、他の副作用に違いはない。
[結論]モルヒネとケトロラクの組み合わせ投与は鎮痛薬使用量も少なく、副作用も減少させる。
[抄者註] PID(pain intensity difference)は正の値ならば痛みの減少、負の値ならば痛みの増強を示す。
demand/delivery ratio:リクエスト回数と有効注入回数の比、これが大きければ「空打ち」が多い。
<抄者:>讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)





5. 日本語タイトル:PCAモルヒネに低濃度ナロキソンを併用するとオピオイドの副作用を軽減する menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Opioid-sparing effects of a low-dose infusion of naloxone in patient-administered morphine sulfate.
Gan TJ, Ginsberg B, Glass PS, Fortney J, Jhaveri R, Perno R.
Anesthesiology 87(5):1075-1081, 1997.
施設:Department of Anesthesiology, Duke University Medical Center, Durham,North Carolina, USA.
[目的]PCA(静注)にモルヒネを使用したときの副作用の軽減にナロキソンの持続静注の効果をみる。
[背景]術後鎮痛に対して、PCAや硬膜外あるいはクモ膜下にモルヒネを使用することは広く行われているが、悪心嘔吐、掻痒感、呼吸抑制などの副作用も存在する。ナロキソンは純粋なμ受容体拮抗薬でありオピオイドの副作用を減弱する事が知られている。硬膜外やクモ膜下投与に対するナロキソン持続静注の効果は報告されているが、PCAに対する報告はない。
[研究の場]病院
[対象]60名のASAIからIIIの腹式子宮全摘を予定された患者
[方法]無作為割付、プロスペクティブ研究
全身麻酔後、リカバリールームでPCAポンプを装着(内容はモルヒネ1mg/ml)。PCAの設定はバックグラウンド注入20μg/kg、リクエスト注入40μg/kg/回、ロックアウトタイム8分、最大投与量の制限はなし。PCAの注入に加え、生食(プラセボ群)、ナロキソン0.25μg/kg/hr(低濃度群)、ナロキソン1μg/kg/hr(高濃度群)持続静注の3群に分ける。これらは、PCA開始と同時に1ml/hrで開始する。以下の項目を、患者には直接関与しない看護婦が調査する。
[測定項目]安静時と体動時のペインスコア(Verbal rating scale:10段階)、鎮静度(Ramsay sedation score:6段階)、副作用(悪心、嘔吐、掻痒感、呼吸抑制)、制吐剤とモルヒネ(PCA)の要求回数
[結果]1)悪心の出現頻度はプラセボ群、低濃度群、高濃度群の順に80%、45%、35%でプラセボ群と他の2群間で有意差がある。
2)嘔吐の頻度は上記1)の順に55%、20%、20%でプラセボ群と他の2群間で有意差がある。
3)掻痒感は上記1)の順に55%、25%、20%でプラセボ群と他の2群間で有意差がある。
4)制吐剤の要求回数は上記1)の順に65%、40%、30%だが差はない。
5)体動時と安静時のペインスコアに差はない。
6)24時間に使用したモルヒネの量は上記1)の順に平均で42mg、59mg、65mgで有意差がある.
7)呼吸抑制、鎮静度、血圧、心拍数、酸素飽和度には差はなかった。
[結論]ナロキソンはPCAモルヒネの副作用軽減に効果がある。ナロキソン0.25μg/kg/hrで投与するのが副作用の軽減もあり、モルヒネの総量も少なくてすむのでよい。
[抄者註] 臨床医は薬のさじ加減を、個人個人の感覚に頼っているが、このさじ加減をプラセボ研究で証明したところがおもしろい。さじ加減を間違うとモルヒネの鎮痛作用も消去してしまうのはよく経験するところである。
<抄者:>讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)





6. 日本語タイトル:子宮摘出術後には硬膜外モルヒネの方がPCA静注モルヒネより鎮痛効果がよい menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Extradural morphine gives better pain relief than patient-controlled i.v.morphine after hysterectomy.
Eriksson-Mjoberg M, Svensson JO, Almkvist O, Olund A, Gustafsson LL.
Br J Anaesth 78(1):10-16, 1997.
施設:Department of Anaesthesiology and Intensive Care, Huddinge University Hospital, Karolinska Institute, Sweden.
[目的]子宮摘出後の鎮痛として、硬膜外モルヒネ注入後にPCAをする場合とモルヒネ静注後PCAをする場合の効果が同等かどうかを調べる。副作用についても調査する。
[背景]静脈内モルヒネPCAと硬膜外モルヒネ繰り返し注入のどちらの鎮痛効果がよいかという研究は多いが、報告者により結果はまちまちである。これまでの研究ではPCA のモルヒネは1-2mgでロックアウトタイムは6分である。低容量の投与がPCAの真価を発揮できない原因であるかもしれない。
[研究の場]手術室とリカバリールーム
[対象]腹式予定子宮摘出術を受ける患者40名
[方法]無作為、二重盲検、前向き研究
前投薬後、L3-4またはL2-3から硬膜外カテーテルを挿入。エピネフリン入りのメピバカインでテストドーズを行う。引き続き10ml程度のメピバカインを注入し、ピンプリックテストでT10-T12まで麻酔域が上昇したのを確認して全身麻酔(サイオペンタール、フェンタニル、パンクロニウムで導入、0.5%イソフルレン、酸素/笑気で維持)を行う。硬膜外には初回投与から1時間後エピネフリン加メピバカインを最高8ml注入。無作為に2群に分ける。硬膜外群:腹膜が閉じる前に硬膜外腔に0.06mg/kgのモルヒネを0.15ml/kgに希釈して投与(平均4mg)。リカバリールームで20分かけてモルヒネ群と等量の生食を静注。
6時間後に硬膜外に0.06mg/kgのモルヒネを0.15ml/kgに希釈して投与静注群:腹膜が閉じる前に硬膜外腔に硬膜外群と等量の生食を投与。リカバリールームで20分かけて0.2ml/kgのモルヒネを静注(平均12.4mg)。
両群ともリクエスト注入0.04mg/kgに設定(2-3.5mg)、ロックアウトタイム10分で、時間あたりの制限はなしとした。術後18時間まで以下の項目を調査測定した。
[調査項目]VASを用いたペインスコア、PCAでのモルヒネ使用量、モルヒネの血中濃
度(採血)、副作用
[結果]1)PCAでの1時間あたりのモルヒネ使用量は、硬膜外群で1mg/hr、静注群で2.4mg/hrであった。
2)PCAでの制限はしなかったが静注群が硬膜外群よりVASが高かった。
3)硬膜外群が血中のモルヒネ濃度は低かった。
4)副作用は硬膜外群では疲労感と認識能力の低下だけであったが、静注群では疲労感、認識能力の低下にくわえて掻痒感、目のかすみ、めまいがあった。
5)両群とも術直後のVASは40mm以上であった。静注群は以後も18時間後までずっと40mm以上、硬膜外群は4時間後から18時間後までVASが10mm以下であった.
[結論]子宮摘出後の鎮痛には硬膜外モルヒネが優れている。
[抄者註]著者らも指摘しているが、これまでの報告でも術直後のVASが40mm以下のものは見あたらない。硬膜外にモルヒネを投与する場合、手術終了に十分先立って投与しておく必要がある。硬膜外群のみ6時間後に再投与しており、プロトコール自体が硬膜外群に有利。
<抄者:>讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)





7. 日本語タイトル:PCAでモルヒネと同時投与したプロポフォルが術後の悪心嘔吐に効果があるか? menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Combining propofol with morphine in patient-controlled analgesia to prevent postoperative nausea and vomiting.
Bree SE, West MJ, Taylor PA, Kestin IG.
Br J Anaesth 80(2):152-154, 1998.
施設:Department of Anaesthesia, Derriford Hospital, Plymouth.UK.
[目的]静注PCAのモルヒネにプロポフォルを混注したときの制吐作用を調べる。
[背景]術後の合併症としての悪心、嘔吐(PONV)は、大きな問題である。プロポフォルはPONVを抑制するという報告が多く出されている。化学療法後や術後に、入眠作用がでない程度のプロポフォル投与で癌の悪心嘔吐が抑制されたという報告もある。
[研究の場]手術室、回復室、病棟
[対象]ASAクラス1-2の予定子宮摘出術を受ける患者50名
[方法]無作為、二重盲検、コントロール臨床試験。
前投薬にテマゼパム、麻酔導入にはチオペンタル、アトラクリウム、モルヒネ0.2mg/kgを使用し0.5-2%エンフルレンと60%笑気/酸素で維持した。抜管後、回復室に移動しPCAを装着。1%プロポフォル50mlまたは10%脂肪製剤(10%大豆油、2.5%グリセロール)50ml中にモルヒネ100mgを入れる。リクエスト注入:モルヒネ1mg+プロポフォル5mgまたはモルヒネ1mg+脂肪製剤0.5ml、ロックアウトタイム:5分、最大量制限:プロポフォル60mg/hr(12回/時)に設定。悪心または嘔吐を訴えたところで1ml注入、5分後にさらに症状あれば1ml注入し、さらに5分後に症状あれば、6時間おきにプロクロルペラジン12.5mgを筋注する。以下の項目を調査する。
[調査項目]PONVの程度(4段階のスコア)、鎮静の程度(4段階のスコア)、10cmVASによる痛みスコア、モルヒネの使用量、プロポフォルの使用量、プロクロルペラジンの使用量
[結果]すべての調査項目について差はない。
[結論]モルヒネとプロポフォルをPCAポンプで混注してもPONVには効果がない。
[抄者註]予備調査でプロポフォルを病棟で注入できるボーラス投与の安全量を5mgと求めたが、PCAのリクエスト回数が少なすぎて失敗した。プロポフォル10mgを投与しても、これまでの報告にある制吐作用をあらわす量にも到達しないと述べている。
<抄者:>讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)





8. 日本語タイトル:術後痛と術後鎮痛薬必要量に対する術中のモルヒネ投与量とタイミング menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Influence of dose and timing of administration of morphine on postoperative
pain and analgesic requirements [see comments].
Mansfield MD, James KS, Kinsella J.
Br J Anaesth 76(3):358-361, 1996.
施設:Glasgow Royal Infirmary University NHS Trust, University Department of Anaesthesia.
[目的]麻酔導入時あるいは閉腹時に投与したモルヒネが先行鎮痛作用(pre-emptive effect)をあらわすかどうか検討する。加えて、麻酔導入時に投与する2種類のモルヒネの濃度を設定し、効果の違いもみる。
[背景]先行鎮痛に対する薬物としてオピオイド、局所麻酔薬、NMDA受容体拮抗薬、などが使用されている。先行鎮痛を支持するような研究もあるが、臨床的には先行鎮痛を証明できないことが多い。
[研究の場]手術室、術後リカバリー室、病棟
[対象]予定腹式子宮摘出術をうけるASA1-2の患者60名
[方法]無作為、二重盲検、前向き研究
あらかじめ、「導入」、「閉腹」と書いた10ml入りアンプル(内容は3mg/mlのモルヒネ、1.5mg/mlのモルヒネ、プラセボで)を院内薬局で作っておき番号をふっておく。
Post群:導入アンプルにプラセボ、閉腹アンプルにモルヒネ1.5mg/ml を静注
pre-low群:導入アンプルにモルヒネ1.5mg/ml、閉腹アンプルにプラセボを静注
pre-high群:導入アンプルにモルヒネ3mg/ml、閉腹アンプルにプラセボを静注
に割り付ける。
前投薬はテマゼパム20mg、麻酔導入はプロポフォル2ml/kgと「導入」アンプル0.1ml/kg、ベクロニウム0.1mg/kgで行い、維持はイソフルレンと66%笑気/酸素で行う。腹膜を閉めるところで、「閉腹」アンプル0.1ml/kgを静注する。手術終了後、回復室で楽になるまでモルヒネを静注後、PCAポンプを装着(リクエスト注入1mg/回、ロックアウトタイム5分、バックグラウンド注入なし)。
以下の項目を術後24時間まで調査した。
[調査項目]安静時と体動時の100mmVASと安静時のVRS(verbal rating score)によるペインスコア、PCAのモルヒネの使用量と24時間の静注モルヒネの総量、副作用(皮膚掻痒感、悪心、嘔吐)と制吐剤の使用回数[結果]1)ペインスコアは3群に差はない。
2)PCAでのモルヒネ使用量はPost群68mg 、pre-low群56mg 、pre-high群43mgでpre-high群が有意に少ない。
3)24時間のモルヒネ使用総量はPost群77mg 、pre-low群65mg 、pre-high群63mgでPost群とpre群の2つに差はあるがpre-low群とpre-high群に差はない。
4)副作用は悪心、嘔吐が目立ち、Post群67% 、pre-low群59% 、pre-high群85%であったが差はない。制吐薬の使用頻度はPost群44% 、pre-low群41% 、pre-high群60%で差はない。
[結論]導入時に0.3mg/kgのモルヒネを静注すると、術後のPCAでのモルヒネ使用量が少ない。
[抄者註]あまりにも悪心、嘔吐の頻度が多い。85%というのは私がみた文献の中で最大である。
VRS(verbal rating score):痛みの程度を口頭で数字で表現するもの
<抄者:>讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)





9. 日本語タイトル:硬膜外PCAにケタミンを加えると術後痛と術後の鎮痛剤使用が減少する menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Adding ketamine in a multimodal patient-controlled epidural regimen reduces postoperative pain and analgesic consumption.
Chia YY, Liu K, Liu YC, Chang HC, Wong CS.
Anesth Analg 86(6):1245-1249, 1998.
施設:Department of Anesthesia, Veterans General Hospital-Kaohsiung, Taiwan,Republic of China.
[目的]術後鎮痛のために、多剤併用の硬膜外PCAにケタミンを加えたときの効果を調べる。
[背景]オピオイド受容体は脊髄にも存在することが知られている。また低濃度のブピバカインをモルヒネに混ぜて硬膜外投与すると、モルヒネ投与量を減少でき副作用も少ないとの報告がある。硬膜外にフェンタニルを投与するときエピネフリンを加えるとフェンタニルの投与量を減少させるとの報告もある。これらの薬物は、脊髄での作用機序が異なるため、これらの薬剤を組み合わせて投与することは、術後鎮痛の効果もよく副作用を減じることができると信じられている。このようなアプローチを多剤併用療法あるいはバランス鎮痛と呼ぶ。ケタミンはNMDA受容体拮抗薬であり、末梢の求心性の侵害刺激を抑制するだけでなく侵害受容器の中枢性の感作も抑制する。ケタミンはモルヒネとともに硬膜外投与するとモルヒネの鎮痛作用を増強したとの報告もある。
[研究の場]手術室、病棟
[対象]91名のASAクラス1-3の胸腔内手術あるいは上腹部手術を受ける患者
[方法]二重盲検、前向き研究
全身麻酔下(フェンタニル3μg/kg、チオペンタル5mg/kg、ドロペリドール2.5mg、リドカイン1.5mg/kg、サクシニルコリン2mg/kgで導入しアトラクリウム0.5mg/kg/hrと1.5%イソフルレンで維持)に、手術を行い、手術終了時、胸部手術はT5-T9の椎間に、腹部手術はT9-L1の椎間に硬膜外カテーテルを挿入する。テスト量を使用した後、術後鎮痛のために手術範囲をカバーできるよう0.25%ブピバカインを10ml注入する。無作為に以下の2群に分ける。
コントロール群:0.02mg/mlモルヒネ+0.08%ブピバカイン(0.8mg/ml)+エピネフリン4μg/ml、
ケタミン群:コントロール+ケタミン0.4mg/ml
硬膜外PCA(PCEA)はリクエスト注入2.5ml/回、バックグラウンド注入2.5ml/hr、ロックアウトタイム10分、最大注入量40ml/4hrに設定する。安静時痛がVASで3cm以下の時に満足できる鎮痛と定義。疼痛が満足できないときにはバックグラウンドとリクエストの注入量を0.5mlずつ増加させ、満足できる場合にはそれぞれ0.5mlずつ一日単位で減少させた。以下の項目を3日間調査した。
[調査項目]体動時と安静時のVASによるペインスコア、鎮静度(4段階)、鎮痛薬の使用量、副作用(悪心、嘔吐、掻痒感、呼吸抑制や運動麻痺)、患者の満足感。
[結果]1)体動時のVASは3日間ともケタミン群が低い。
2)安静時のVASは最初の2日間でケタミン群が低い。
3)鎮痛薬の使用量は、最初の2日間でケタミン群が少ない。
4)鎮静度と副作用は群間に差はない。
[結論]ケタミン0.4mg/mlを多剤併用硬膜外鎮痛に併用すると鎮痛効果が優れ、使用する鎮痛薬を減らすことができる
[抄者註] multimodal:多剤併用療法、balanced analgesia:バランス鎮痛と訳した。
<抄者:>讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)





10. 日本語タイトル:ベラパミル硬膜外投与で下腹部手術後の鎮痛薬使用量を減少する menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Epidural verapamil reduces analgesic consumption after lower abdominal surgery.
Choe H, Kim JS, Ko SH, Kim DC, Han YJ, Song HS.
Anesth Analg 86(4):786-790, 1998.
施設:Department of Anesthesiology, Chonbuk National University Medical School, Chonju, Republic of Korea.
[目的]硬膜外ブピバカインに、Ca拮抗薬であるベラパミルを加えて投与すると、鎮痛の質が向上し術後の鎮痛薬の使用量を減少させることができるかどうかを検討する。[背景]興奮性アミノ酸と神経ペプチドが脊髄後角での侵害受容器の伝達を司っている。興奮性アミノ酸の作用はNMDA受容体と非NMDA受容体により伝達される。脊髄でNMDA受容体が活性化されると細胞内へのCa流入が起こり、ワインドアップ現象(wind-up)やlong-term potentiationといった一連の中枢脱感作(central desensitization)が引き起こされる。中枢感作の抑制作用はNMDA受容体拮抗薬だけでなく、Caの細胞への流入を抑制するCaチャンネルブロッカーにもある。
[研究の場]手術室、回復室
[対象]ASAクラス1-2の腹式子宮全摘を予定された患者100名
[方法]二重盲検、前向き研究。
手術室入室後、L3-4またはL4-5から硬膜外カテーテルを挿入する。麻酔導入はチオペンタル、リドカイン、パンクロニウムとサクシニルコリンで行い、維持はエンフルレン、50%笑気/酸素で行う。術中はオピオイドは使用しない。無作為に以下の4群に分ける。
1群:執刀前に0.5%ブピバカイン10mlを硬膜外注入し、執刀30分後に10mlの生食を注入2群:1群と順序は逆
3群:執刀前に0.5%ブピバカイン10ml+ベラパミル5mgをお硬膜外注入し、執刀30分後に10mlの生食を注入
4群:3群と順序は逆
術後、回復室で使用できるようにPCAポンプを装着する。内容は40mgモルヒネ+120mgケトロラク+3mgドロペリドールを生食で40ml。PCAポンプは、リクエスト注入1.5ml/回、バックグラウンド注入なし、ロックアウトタイム10分に設定する。以下の項目を術後2,6,12,24,48時間に調査する。
[調査項目]プリンスヘンリーペインスコア(5段階)による痛みの程度、鎮静度(4段階)、気分(10段階)、使用した鎮痛薬量、副作用(低血圧、徐脈、悪心、嘔吐、尿閉、掻痒感、ねむけ、呼吸抑制)
[結果]1)3群と4群では24時間後と48時間後に1群と2群より鎮痛薬の使用量が少なかった。
2)痛みの程度、気分、鎮静度、副作用の出現頻度に差はない。
[結論]ブピバカインとベラパミルを硬膜外に投与すると、ブピバカイン単独に比べて鎮痛薬の使用が少なくてすむ。
[抄者註]中枢感作(central sensitization)の抑制作用はNMDA受容体拮抗薬だけでなく、Caの細胞への流入を抑制するCaチャンネルブロッカーにもあることを臨床的に評価したものである。
<抄者:>讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)





11. 日本語タイトル:心臓手術後のモルヒネの皮下注は静注モルヒネPCAと同等の効果がある menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Nurse-administered subcutaneous morphine is a satisfactory alternative to intravenous patient-controlled analgesia morphine after cardiac surgery.
Munro AJ, Long GT, Sleigh JW.
Anesth Analg 87(1):11-15, 1998.
施設:Department of Anaesthesia, Waikato Hospital, Hamilton, New Zealand.
[目的]モルヒネを静注PCAで使用した場合と看護婦がVASやバイタルサインをみて1-2時間ごとに皮下注する場合を比較をする。
[背景]当院では心臓手術後にモルヒネの静注PCAが標準的な術後鎮痛法になっている。最近、各種の術後急性期の患者に対応するため、看護婦がモルヒネを皮下投与する治療プログラムが導入された。この治療プログラムは、必要な設備は少なくディスポザブル器具のコストも不要で、動き回るのにかさばるポンプも不要である。モルヒネの皮下注は、これまで、慢性痛の治療に用いられてきた。術後急性期の患者で、モルヒネのPCAと皮下注を比較した研究報告はない。
[研究の場]手術室、ICU
[対象]予定心臓手術を受ける患者80名
[方法]無作為、前向き研究
麻酔はフェンタニル10-40μg/kg、エトミデートまたはミダゾラムで導入し、イソフルレンまたはハロセンを加えて維持した。ICUでは、覚醒し抜管するまでにプロポフォルを持続注入した。抜管前後にモルヒネを必要なだけ静注し、その後以下の2群の方法で比較した。
PCA群:PCAポンプでモルヒネを静注、
NS-SC群:看護婦が1-2時間ごとにVASスコアとバイタルサインを評価し、それに応じてモルヒネを皮下注する
の二つの群にコンピュータで無作為に分ける。PCAの設定は、モルヒネ1mg/mlでリクエスト注入1mg/回、ロックアウトタイム6分、最大投与量10mg/hrとした。術後第1、2、4病日に以下の項目を調査する。
[調査項目]安静時と体動時のVAS、4段階の痛みスコア、悪心や掻痒感などの副作用、使用したモルヒネの量、理学療法の達成度(10段階)
[結果]すべての項目とも両群間で差はなく同程度であった。
[結論]モルヒネを静注PCAで使用した場合と看護婦がVASやバイタルサインをみて1-2時間ごとに皮下注する場合の鎮痛効果、副作用は変わりなく、どちらも満足できるものである。
[抄者註]PCAポンプの煩雑さに見直しを行い、看護婦コントロールの皮下注でうまくいくという報告。1-2時間ごとに評価し皮下注ができるのはICUだからなせる業である。
<抄者:>讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)





12. 日本語タイトル:術後のモルヒネ必要量のもっともよい予測因子は年齢である menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Age is the best predictor of postoperative morphine requirements.
Macintyre PE, Jarvis DA.
Pain 64(2):357-364, 1996.
施設:Department of Anaesthesia and Intensive Care, University of Adelaide, North Terrace, Australia.
[目的]acute pain serviceでは急性期鎮痛処置を行った患者の詳細な記録(年齢、体重、性、手術部位、術当日の鎮痛薬の量、ペインスコア、悪心嘔吐のスコア)が残っている。PCAモルヒネを使って術後鎮痛をする時のモルヒネ投与量の予測因子を調べる。
[背景]伝統的に術後鎮痛に対するオピオイド投与は体重の基づいて投与される。70歳以上の患者では、しばしば投与量を減少して投与しているのに、若年者では、一般に年齢に応じて投与されることはない。
[研究の場]手術室と回復室
[対象]70歳以下の1010人の患者
[方法]後ろ向き研究
当 acute pain serviceのカルテから大手術後にPCAモルヒネで鎮痛処置を行なった時の各種の記録を調査する。PCAの薬液として1mg/mlのモルヒネを使用、リクエスト注入1mg/回(鎮痛が不十分なときは2mg/回に増やす)、ロックアウトタイム5分、バックグラウンド注入なし。
[調査項目]年齢、体重、PCAモルヒネの24時間使用量、悪心嘔吐スコア(4段階)、安静時と体動時の痛みスコア(0-10の数値で表現)、手術部位、PCAの開始前に投与したローディング量。
[解析]回帰分析など
[結果]1)PCAモルヒネの使用量は個人差が大きかったが、最初の24時間に必要としたモルヒネ必要量の予測にもっとも役立つのは年齢であった。(20歳以上)最初の24時間に必要なモルヒネ量(mg)=100-年齢。
2) 年齢、体重、体動時のペインスコア、安静時のペインスコア、悪心嘔吐スコアどれも用量依存性に相関があるがもっともよいのが年齢である。
[結論]最初の24時間に必要としたモルヒネ必要量の予測にもっとも役立つのは年齢であった。
[抄者註] 1010人ものデーターを持ち出して相関関係を求めている。当たり前だが、データ数がポイント。我々も、ふだんから年齢で投与量を変えてはどうかと思ってはいるのだが、なんとなくという感じで根拠がなかった。彼らは本当に証明している。この数式は覚えやすい。もっとも、100歳以上の人は「必要量はゼロ」ということになる?
<抄者:>讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)





13. 日本語タイトル:モルヒネまたはフェンタニルによる硬膜外PCA中の気分を調べる menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Mood during epidural patient-controlled analgesia with morphine or fentanyl.
Tsueda K, Mosca PJ, Heine MF, Loyd GE, Durkis DA, Malkani AL, Hurst HE.
Anesthesiology 88(4):885-891, 1998.
施設:Department of Anesthesiology, University of Louisville, School of Medicine, Kentucky, USA.
[目的]フェンタニルまたはモルヒネをPCAで硬膜外投与したときの気分の変化を調べる。
[背景]硬膜外オピオイド投与中の患者がどんな気分であるかという研究はない。
[研究の場]手術室、
[対象]全身麻酔で下肢の関節の形成術を受けるASAクラス1-2の予定手術患者52名
[方法]無作為、二重盲検、前向き研究
硬膜外カテーテルをL2-3またはL3-4から挿入する。麻酔はサイオペンタルで導入しイ
ソフルレンと笑気/酸素で維持する。手術終了1時間前にモルヒネ2mgをボーラス投与し125μg/mlのモルヒネをPCAで投与する(モルヒネ群)。手術終了1時間前にフェンタニル100μgをボーラス投与し25μg/mlのフェンタニルをPCAで投与する(フェンタニル群)。いずれも48時間まで継続する。PCAの設定はリクエスト注入1ml/回、バックグラウンド注入2ml/hr、ロックアウトタイム15分、最大投与量30ml/4時間とした。ペインスコアがVASで30を越えていたらバックグラウンド注入を50%増加させ、VASで0だったらバックグラウンド注入を50%減らすのを3時間ごとに行った。
[調査項目]安静時痛(100mmのVAS)、鎮静度、副作用(吐き気、掻痒感)、モルヒネとフェンタニルの血中濃度、気分(手術前、24、48、72時間)
[気分の測定]6項目の対になった正反対の言葉(おちつき−不安、快−不快、元気−落胆、自信−自信なし、積極的−消極的、明快−混乱)に対して正の言葉と負の言葉にそれぞれ4段階のスコアを与える。正の言葉と負の言葉を計算し定数18を足す。この値を平均で50±10(SD)になるように標準化する。この値は、ほぼ20-80をとる。標準化した6項目を全部合計した値を、気分スコアと呼ぶ。
[結果]1)PCA中の痛みの強さと副作用に差はない
2)術前に比べて、モルヒネ群では48時間で気分が陽に、フェンタニル群では24時間と48時間で気分が陰になっている。24時間、48時間、72時間でフェンタニル群に比較してモルヒネ群で気分が陽になっている
3)気分スコアと痛みスコアに相関はないが、48時間のフェンタニル群の気分スコアと血中濃度に負の相関が認められた。
[結論]フェンタニルよりモルヒネで気分が高揚している。
[抄者註]一般的に、日常臨床でもモルヒネを使用した患者のほうが気分はハイであることは、よく経験する。本研究は気分を点数化することによりうまく証明している。
<抄者:>讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)





14. 日本語タイトル:骨髄移植後のPCAとスタッフコントロール鎮痛法との比較 menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Patient-controlled versus staff-controlled analgesia with pethidine after allogeneic bone marrow transplantation.
Zucker TP, Flesche CW, Germing U, Schroter S, Willers R, Wolf HH, Heyll A.
Pain 75(2-3):305-312, 1998.
施設:Department of Clinical Anaesthesiology, Heinrich-Heine-University, Dusseldorf, Germany.
[目的]ペチジン(メペリジン)をPCAで投与する場合と、これまでの確立された治療プログラムであるスタッフが投与する方法の効果と安全性を比較すること。
[背景]同種骨髄移植を受けた患者は長引く口腔咽頭粘膜の炎症による激しい痛みに苦しんでいる。局所鎮痛療法はほとんど無効である。骨髄移植後の痛みに対してPCAを用いて鎮痛を行った報告は少ない。
[研究の場]病院
[対象]同種骨髄移植を受ける患者20名
[方法]前向き研究、ランダム割付
スタッフ群:初日に100mg、2日目に200mg、3日目に300mg、4日目以降は痛みの程度に応じて最高400mgまでペチジンの持続投与を行う。初日から、必要時に追加投与としてスタッフにより25mg/回ボーラス投与される。(昨年までの標準的な治療プログラムである)
PCA群:PCAポンプで150mg/日の持続注入とリクエスト注入25mg/回をおこなう。ロックアウトタイムは45分、投与速度は600mg/hrで最大投与量は制限なし。
オンダンセトロン(制吐剤)を全員に持続投与している。骨髄移植後4日から22日までを調査した。
[調査項目]患者に4時間ごとに150mmのVASを記録してもらう(6回/日)。一日あたりのペチジンの使用量を調査。ノルペチジン中毒の兆候としての譫妄(せんもう)、間代性筋痙攣、痙攣に注意した。
[後ろ向き調査]ホーソーン効果を除外するために、スタッフ群と同等の治療プログラムで行った4年前の患者20名を調査した(痛みに関しては調査できなかったが、鎮痛薬の量を調べた)。
[結果]1)PCA群が投与したペチジンの量が少ない。1日あたりPCA群へ平均で440mg、スタッフ群は640mgであった。
2)ペインスコアもPCA群では50%以下を保っているが、スタッフ群では70%に達することがあった。日内変動は認めない。
3) 後ろ向き調査では、平均で400mgが投与されていた(痛みは調査不能である)。
[結論]PCAの方がこれまでのスタッフによる投与プログラムより優れている。
[抄者註] ホーソーン効果:研究中であることが、その対象者に対して及ぼす(通常は、正もしくは有益な)効果。研究に対する知識は、しばしば対象者の行動に影響を与えることが知られている。あまりにも、PCA群とスタッフ群の投与量がかけ離れていることから、ホーソーン効果が疑われたが、総投与量の少ないPCA群の方がペインスコアが小さい。
<抄者:>讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)





15. 日本語タイトル:腹部創傷部にモルヒネを浸潤させたときの疼痛軽減効果と内分泌/免疫反応 menu PREVIOUS
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Infiltration of morphine into an abnormal wound; effects on pain relief and endocrine/immune response.
Eriksson-Mjoberg M, Kristiansson M, Carlstrom K, Olund A, Eklund J.
Pain 73(3):355-360, 1997.
施設:Department of Anaethesiology and Intensive Care, Huddinge UniversityHospital, Sweden.
[目的]腹部損傷部(皮膚切開部)にモルヒネを局所投与したときの痛みの減弱と内分泌/免疫反応を評価する。
[背景]皮膚切開により損傷された組織での炎症反応を惹起する。中枢感作により侵害受容器の求心性終末の反応閾値の減少が引き起こされ、末梢と中枢の感作が外傷後の創傷部痛の過敏状態に関与している。外傷はストレスホルモンとサイトカインの産生と放出を伴った内分泌、免疫反応を惹起する。しかし、コルチゾールまたはサイトカインの血中濃度が術後痛に関与しているかどうかは、明らかになっていない。また、オピオイドを損傷組織に直接注射したときの末梢での鎮痛作用は、損傷部の末梢オピオイド受容体に作用することによるとの報告がある。モルヒネを直接、腹部創傷部に浸潤させたときの痛みへの影響や免疫、内分泌反応の増強は、明らかになっていない。
[研究の場]手術室、回復室、病棟
[対象]予定子宮全摘術を受ける患者29名
[方法]無作為、二重盲検、前向き研究
術前に無作為に2群に分け、使用者がわからないように盲検化。
創傷群:手術10分前に、左腕に生食1mlを皮下注する。手術開始時にモルヒネ10mgを含んだ生食30mlを創傷部に局注する。
コントロール群:手術10分前に、左腕にモルヒネ10mgを含んだ生食1mlを皮下注する。手術開始時に生食30mlを創傷部に局注する。
麻酔はフェンタニル0.35mg、サイオペンタルで導入し、イソフルレンとパンクロニウム、0.05mg/hrのフェンタニルで維持する。術後にはPCAを使用する。PCAの設定は、リクエスト注入にモルヒネ0.04mg/kg、ロックアウトタイムは最初の1時間は3分、2-5時間は6分、6時間以降は10分とし、20時間まで継続する。20時間以降は、おきまりの術後鎮痛法に変更する。皮膚切開から20時間まで以下の項目を調査した。
[調査、測定項目]100mmのVASによる痛みスコア、PCAのモルヒネ使用量、副作用(吐き気、疲労感、めまい、口渇、視覚異常、掻痒感、呼吸困難)、1,2,3,4,6,10,20,24,48,72時間の血中コルチゾール濃度と血中IL-6濃度
[結果]1)痛みとモルヒネ使用量に差はない。
2)コルチゾールとIL-6のピークは4時間後であった。コルチゾールのAUCは0-6,0-10,0-20時間でコントロール群が創傷群より有意に低い。
3)副作用には群間に差はない。
[結論]腹部創傷部へのモルヒネの作用は証明できなかった。創傷部への10mgのモルヒネ投与は皮下注と同程度の鎮痛作用と副作用であった。手術前のモルヒネ投与はストレスに対する内分泌反応を減弱する。
[抄者註] AUC(area under the concentration curve)曲線下面積:血中濃度を区切られた時間で積分したもの。
<抄者:>讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)