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医療経済

● 解説「医療経済」

1.外来手術患者の早期の麻酔前評価は手術室のキャンセルを減らせるか?

2.ラリンゴマイクロサージェリーでの筋弛緩薬残存による待ち時間の費用

3.術後回復時間に対する筋弛緩薬の選択の効果

4.揮発性麻酔薬のフレッシュガス減少と好みの麻酔薬の変化

5.新しい麻酔薬を使用するための経済面からの検討

6.全身麻酔中に強制温風式加温装置を使用したときの周術期の医療費分析

7.婦人科外来手術における予防的制吐剤投与の効果とコスト

8.PCAと筋注オピオイドの効果とコストを比較する

9.外来手術におけるラリンジアルマスクのコストの評価

10.周術期の人工関節置換術のクリニカルパスは医療コストを削減する

11.根治的前立腺切除術後の1泊入院:2つのクリニカルパスの比較

12.予定手術の入院過程の変化:経済分析

13.3種類の手術での術前合併症の重症度と医療コスト

14.周術期ケアのコストはどこにかかっているのか?手術入院の医療費分析

15.術中に使用する薬と消耗品のコストを麻酔科医にフィードバックする効果




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広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科 讃岐美智義


 1998年11月より、急性期入院医療に対して、米国の退院後の定額払い制度(DRG/PPS)に似た診療報酬制の試行が、国立8病院と社会保険の2病院の計10病院でスタートした。この制度の全国的な導入は2003年頃と言われている。
 また、我が国の医療保険は健康保険と介護保険の2本立てになり、ここにきて保険制度が大きく変わっていく兆しがみられる。麻酔科学関連の領域も、保険制度と無縁ではない。医療行為を行う限り、保険から治療方法や期間などに大きな影響を受ける。しかし、保険審査に通らないからといって、治療を行わなかったり薬の投与を怠たると、重篤な状態に陥ったり死亡したりすることも考えられる。IVH施行患者の総合ビタミン剤を保険審査で無条件に査定したら、ビタミンB1欠乏症で死亡した症例が出たため、IVH患者に総合ビタミン剤が無条件で通るようになった事例を思い出した。病名は同じでも患者の病態は一律ではなく、個人々々に対する対応は異なるはずだが、ある程度のクライテリアを設けて、それに合致する症例は同額の保険料を支払うという試みは、医療費削減の点からみると一つの有効な方法と考えられる。
最近、麻酔科学領域の米国の2大JournalにEconomicsというsectionが設けられている。Anesthesiology誌ではEconomics、Anesthesia and Analgesia誌ではEconomics and health care researchというコーナーである。ここでは、医療経済に関する観点から書かれた論文が取り上げられて、医療行為の最終結果と経済効果を併せて検討する方法が麻酔科領域でも常識になった感がある。ちなみに、Anesthesia and Analgesia誌ではEconomics and health care researchのsection editorは、筋弛緩薬を中心の研究者でもあり大きな教科書の編集もしているあのRD Miller 氏である。

上記のような理由から今回は、医療経済に関する論文を集めてみた。以下の15編である。

(1)外来手術患者の早期の麻酔前評価は手術室のキャンセルを減らせるか?
(2)ラリンゴマイクロサージェリーでの筋弛緩薬残存による待ち時間の費用
(3)術後回復時間に対する筋弛緩薬の選択の効果
(4)揮発性麻酔薬のフレッシュガス減少と好みの麻酔薬の変化
(5)新しい麻酔薬を使用するための経済面からの検討
(6)全身麻酔中に強制温風式加温装置を使用したときの周術期の医療費分析
(7)婦人科外来手術における予防的制吐剤投与の効果とコスト
(8)PCAと筋注オピオイドの効果とコストを比較する
(9)外来手術におけるラリンジアルマスクのコストの評価
(10)周術期の人工関節置換術のクリニカルパスは医療コストを削減する
(11)根治的前立腺切除術後の1泊入院:2つのクリニカルパスの比較
(12)予定手術の入院過程の変化:経済分析
(13)3種類の手術での術前合併症の重症度と医療コスト
(14)周術期ケアのコストはどこにかかっているのか?手術入院の医療費分析
(15)術中に使用する薬と消耗品のコストを麻酔科医にフィードバックする効果
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)





1.日本語タイトル:外来手術患者の早期の麻酔前評価は手術室のキャンセルを減らせるか? menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Early outpatient preoperative anesthesia assessment: does it help to reduce operating room cancellations? John BP, Leslie O. Anesth Analg 89(3): 502-505,1999.
施設:VAPAHCS, Anesthesiology service 112A, Palo Alto, USA.
[目的]術前24時間以内に術前評価をするより術前2-30日前に術前評価をした方が手術室のキャンセルを減らすことができるかどうかを調査する。
[背景]手術室キャンセルの90%が日帰り手術であると言われている。手術室の時間あたりの単価は$8で、交代時間あたり平均97分の損失があるという報告もある。
[研究の場]病院の手術室
[対象]日帰り手術を受ける約530名の患者
[方法]2つのグループに分ける。標準グループ:術前24時間以内に術前評価を行う
早期グループ:術前2-30日前に術前評価を行う。
[結果]手術のキャンセルは、術前評価を早期に行った場合と直前に行った場合のどちらのグループも13%で差はなかった。内訳は、不十分な手術時間(21%)、患者の急病(19%)、外科医の都合(16%)、患者の意志(14%)、医学的評価の不足(13%)、その他(17%)であった。
[結論]どちらのグループでも差はないので、都合のよいときに術前評価を行えばよい。
[抄者註]この研究では、キャンセルした後に症例を差し替えていないが、前もって術前評価を行っておけば、待ち患者がいるので、キャンセルが出たときに差し替えることができるのではないか?
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)





2.日本語タイトル:ラリンゴマイクロサージェリーでの筋弛緩薬残存による待ち時間の費用 menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
The cost of intense neuromuscular block for anesthesia during endlaryngeal procedures due to waiting time.Puura AIE, Rorarius MGF, Manninen P, Hopput S, Bear GAAnesth Analg 88:1335-1339, 1999
施設:Department of anesthesia, Tampere University hospital, Tampere, Finland.
[目的]ジェットベンチレーションで行うラリンゴマイクロサージェリーでの強い筋弛緩をかけた後の待ち時間を比較する。
[背景]ラリンゴマイクロサージェリーでのジェットベンチレーション下に行う手術では筋弛緩をしっかりかけておくことが安全である。手術の終わりまでしっかり筋弛緩を利かせておくと筋弛緩の回復にも影響を及ぼし、余分なコストも発生する。
[研究の場]病院の手術室
[対象]50名のラリンゴマイクロサージェリーを行う予定の患者
[方法]無作為、二重盲検の前向き研究。アトラクリウム(ATR)、ミバクリウム(MIV)、ロクロニウム(ROC)、ベクロニウム(VEC)、サクシニルコリン(SUCC)の5群に分ける。PTC(post tetanic count)が2以下になるように、手術の最後まで筋弛緩薬を追加するか(SUCCの場合は)注入速度を調節する。待ち時間、挿管から抜管、効果発現時間、回復時間とコストを比較した。麻酔はアルフェンタニル20μg/kg、プロポフォル1-2mg/kgで導入しプロポフォルで維持した。血圧が)150mmHg、脈拍が)100bpmになれば、5μg/kgのアルフェンタニルを追加した。
[結果]MIVとSUCCが、たの筋弛緩薬より回復時間が短くコストも安く付いた。当施設の手術室の1分あたりの単価は$8(1977年)なので、MIVとSUCCがATR、ROC、VECよりも21.8分短かったことから1患者あたり約$160のコストの違いが出た。
[結論]MIVとSUCCが最も経済的な筋弛緩薬である。中間作用型の筋弛緩薬を使用すると回復時間が余計にかかり余分なコストが発生する。
[抄者註]PTCは、手首の尺骨神経で50Hzのテタヌス刺激を5秒間与え、その3秒後から1Hzの単刺激を与えた場合の反応回数
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)





3.日本語タイトル:術後回復時間に対する筋弛緩薬の選択の効果 menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:The Impact of Choice of Muscle Relaxant on Postoperative Recovery Time: A Retrospective Study. Ballantyne JC, Chang Y. Anesth Analg 85:476-482,1997.
施設:Department of Anesthesia, Massachusetts General Hospital, Boston, USA
[目的]長時間作用性の筋弛緩薬の使用は、短時間作用性の筋弛緩薬に比べて術後回復を遷延させるかどうかを調査する。
[背景]安価な薬や器具を使用することは本当にコストを削減できるかどうかは疑問である。安価なものを使用したために思わぬ結果を招くことがあるからだ。一般に、昔からある長時間作用性の筋弛緩薬より短時間作用性の筋弛緩薬の方が効果である。しかし、薬価のみで医療コストを比較することは疑問である。
[研究の場]病院の手術室と術後回復室
[対象]270名の全身麻酔下に筋弛緩薬を使用した患者。
[方法]後ろ向き研究。(1)短時間あるいは中時間作用性筋弛緩薬(ミバクリウム、アトラクリウム、ヴェクロニウム)と(2)長時間作用性筋弛緩薬(d-ツボクラリン、パンクロニウム)で、回復時間を比較する。
[結果](1)と(2)では平均の回復時間の差が30分で、術後回復室のコストに換算すると(2)では約$38高くつく。長時間作用性の筋弛緩薬を使用すると、薬剤のコストは減少するが、術後回復室でのコストが増加するためにかえって不経済である。
[結論]旧来の安価な長時間作用性の筋弛緩薬は術後回復の時間を遷延させる。短時間作用性の筋弛緩薬の使用を制限すると、術後回復が遷延し、回復室でのコストが増加する。
[抄者註]「安物買いの銭失い」の典型のような論文。抄者は、はじめの数行を読んだだけで結果が予測できてしまった。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)





4.日本語タイトル:揮発性麻酔薬のフレッシュガス減少と好みの麻酔薬の変化 menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Individualized feedback of volatile agent use reduce fresh gas flow rate, but fails favorably affect agent choice.
Body SC, Fanikos J, DePerio D, Phillip JH, Segal BS
Anesthesiology 90(4):1171-1175, 1999.
施設:Department of anesthesia and pharmacy, Brigham and Women's hospittal, Harvard Medical School, Boston, USA
[目的]揮発性吸入麻酔薬の使用と薬剤選択の教育プログラム後の効果をみる。
[背景]麻酔科医は、病院が薬剤コストを削減することに努力していることを知ってはいるが、麻酔薬についての経済効果分析の情報がすくないため、それについてじっくり考える機会がすくない。
[方法]1997年3月後半に、すべての麻酔科スタッフとレジデントに対して詳細な教育期間が設けられた。各人は主任教授から文書で平均の新鮮ガス流量(FGFR)、揮発性吸入麻酔薬についてのコスト計算などの指導を受けた。イソフルレンではFGFRを1L/minにセボフルレンで2L/minにする。セボフルレンやデスフルレンは高価なので、イソフルレンに切り替えるような指導もあった。介入前の時期(1996年9-10月)、介入後(1997年4-5月)、介入後半年(1997年9-10月)の麻酔記録を再評価し、教育プログラムの効果判定を行った。麻酔症例はおのおの2000例ずつあった。
[結果]すべての症例でFGFRは介入前に比べて26%減少した(平均で2.4L/minが1.8L/minに)が、介入後半年では5%増加(平均で1.9L/min)した。しかし、より高価な麻酔薬(セボフルレンとデスフルレン)の使用は増加した。
[結論]FGFRは教育により減少したが、好みの麻酔薬は変えられなかった。
[抄者註]おもしろい研究である。FGFRは、教育により減少させることでコストの削減につながるし、FGFR自身を低下させることで患者自身に投与される麻酔薬の濃度が変化することはないので納得できる。いくら上からの指導でも、何の医学的理由もなく、ただ安い麻酔薬に変えるのは、納得できないのだろう。ちなみに、セボフルレンで1L/minでなく2L/minというのはFDAからの通達(低流量ではcompound Aの発生の可能性)があるため。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)





5.日本語タイトル:新しい麻酔薬を使用するための経済面からの検討 menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Economic Considerations of the Use of New Anesthetics: A Comparison of Propofol, Sevoflurane, Desflurane, and Isoflurane.
Boldt J, Jaun N, KumleB, et al.
Anesth Analg 86(3):504- 509,1998.
施設:Department of Anesthesiology and Intensive Care Medicine, Germany.
[目的]従来使用されている麻酔薬と新しい麻酔薬を経済面で比較する。
[背景]麻酔の領域においてもコストを削減する必要性が叫ばれている。新しい麻酔薬が市場に投入されたが、麻酔の投与方法に比べて経済的な違いについては明らかにされていない。
[研究の場]病院の手術室
[対象]80名の甲状腺切除かラパコレをうける予定手術患者。
[方法]無作為に20名ずつ4群に分ける。
Group1:プロポフォル/スフェンタニル
Group2:デスフルラン/スフェンタニル
Group3:セボフルラン/スフェンタニル
Group4:イソフルラン/スフェンタニル(現在の標準的麻酔法)
麻酔導入はスフェンタニル20μg/kgとアトラクリウム0.5mg/kgとプロポフォル2mg/kg(揮発性吸入麻酔薬で維持する場合はチオペンタル6mg/kg)で行い、新鮮ガス流量を1.5-2L/minで60%笑気(Group1ではプロポフォル3.5mg/kg/h)で麻酔を維持.適宜アトラクリウムを追加する。
[結果]背景因子、手術時間、麻酔時間は同程度であった。抜管までの時間、PACUでの滞在時間はイソフルランで有意に長かった。スフェンタニルとアトラクリウムの量は違いはなかった。プロポフォルはPACUでの追加薬剤(制吐剤など)投与が少なく、PACUのコストはもっとも少なかった。術中とPACUの両方をあわせたコストはプロポフォルが有意に高かった(1分当たり$0.24)。他の揮発性吸入麻酔薬では違いはなく、おおよそ$0.15(患者当たり)であった。
[結論]プロポフォルを主体にした麻酔はコスト高で、他の揮発性吸入麻酔薬は、イソフルランと同程度であった。
[抄者註]プロポフォルが割高で経済的には不利である。イソフルレンは覚醒が遅いが薬価が少し低いため、全体としてはあまり変わらない結果になっている。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)





6.日本語タイトル:全身麻酔中に強制温風式加温装置を使用したときの周術期の医療費分析 menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Perioperative Cost-finding Analysis of the Routine Use of Intraoperative Forced-air Warming during General Anesthesia Fleisher LA, Metzger SE, Lam J, Harris A
Anesthesiology 88:1357-1364, 1998
施設:Department of Anesthesia and Critical Care Medicine, The Johns Hopkins University School of Medicine, Maryland, USA
[目的]全身麻酔中の通常の加温(RTC:routine thermal care)と強制温風式加温装置(FAW:forced-air warming)を使用したときの医療費を前向き研究で調べる。
[背景]温風式強制加温装置が正常体温に維持する能力についてはよく記述されているが、医療費を増加させるのか減少させるのかについては明らかでない。
[研究の場]手術室と術後観察室(PACU)
[対象]ASAクラス1~3の手術時間が2時間以上の予定手術患者100名
[方法]患者を無作為にRTC群とFAW群の2群に分ける.麻酔科医には核心温とFAWを行ったかどうかは知らせていない。
[結果](1)術野の覆い布をとってから抜管までの時間がFAW群の方が短くなった(10分vs14分)。
(2)PACUにおいては、綿ブランケットの使用が少なくなったが、滞在時間に差はなかった。
(3)FAW用のブランケットは$15増加、加温装置の使用コストに$0.82増加、綿のブランケットは$0.95.Medicareは$1.14/分、手術室の使用コストは$9.20/分である。
(4)FAWは$15.82かかるので、時間により変化するコスト(手術室の使用コストなど)がこれを上回ればコスト削減になる。概算では$29のコスト削減が得られる。
[結論]抜管までの時間とPACUでの綿ブランケットの使用が少なくなった。FAWでコストが削減できるかどうかは、患者と手術の性格と時間当たりの施設の経費によって決まると考えられる。
[抄者註]当たり前の話だが、FAWにかかる費用と同じ分以上に、手術室の占有時間を減少(手術室のコストは滞在時間によりきまるため)させればコストが安くなる。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)





7.日本語タイトル:婦人科外来手術における予防的制吐剤投与の効果とコスト menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
A Comparison of Costs and Efficacy of Ondansetron and Droperidol as Prophylactic Antiemetic Therapy for Elective Outpatient Gynecologic Procedures Tang J, WatchaMF, White PF
Anesth Analg 83:304-313, 1996
施設:Department of Anesthesiology and Pain Management, University of Texas Southwestern Medical Center, Dallas, USA
[目的]オンダンセトロンとドロペリドールの術後の悪心嘔吐(PONV)に対する効果と安全性とコストを比較する。
[背景]オンダンセトロンとドロペリドールは婦人科外来手術において予防的制吐剤として効果があるとされている。しかし、ドロペリドールでは眠気が増強したり、帰宅が遅れたり、帰宅後の不穏状態が出たりするし、オンダンセトロンは高価である。
[研究の場]病院
[対象]約160名の婦人科の外来手術を受ける患者。
[方法]無作為、二重盲検、プラセボコントロールの前向き研究.4群に分ける。生食(プラセボ)、0.625mgドロペリドール、1.25mgドロペリドール、4mgオンダンセトロンを麻酔導入5分前に静注する。麻酔の導入はチオペンタル3-5mg/kg、フェンタニル1-2μg/kg、サクシニルコリン1mg/kgまたはロクロニウム0.6mg/kgを使用して気管内挿管する。麻酔維持は、フェンタニル0.5-1μg/kgと、67%笑気、3-6%デスフルランで行い、手術終了前に術後鎮痛のためにケトロラク30mg静注、30mg筋注した。
[結果]病院と帰宅後のPONVの発生率とPONVが起きた後の制吐剤の使用、回復と退院までの時間はオンダンセトロン4mgと両方のドロペリドールで違いはなかったが、プラセボとは明らな差があった。コスト面では両方のドロペリドールがプラセボとオンダンセトロンより勝っていた。
[結論]ドロペリドール0.625mgがオンダンセトロン4mgと同程度の作用(副作用少なく)で、コストがもっとも安い。プラセボを使うと逆に在院時間が増え、コストは増加する。
[抄者註]PONV:postoperative nousea and vomittingちなみに日本ではオンダンセトロンの注射剤は4mgで8800円の薬価(1999年現在)がついている。適応症は、抗ガン剤の悪心嘔吐のみ。ちなみにドロペリドールは2.5mg(1cc)で167円。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)





8.日本語タイトル:PCAと筋注オピオイドの効果とコストを比較する menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Efficacy and Costs of Patient-controlled Analgesia versus Regularly Administered Intramuscular Opioid Therapy.
Choinie M, Rittenhouse BE, Perreault S, et al.
Anesthesiology 89:1377-1388, 1998.
施設:Centre Hospitalier de l'Universit;de Montreal, Canada
[目的]子宮摘出術でのPatient-controlled Analgesia (PCA)と筋注オピオイドを比較検討する。
[背景]PCAの有効性に関する多くの研究がある.しかし、基本的な麻酔に加えて、本当にPCAが臨床的あるいは経済的な利点があるかどうかは明らかでない。
[研究の場]病院
[対象]約120名の腹式子宮全摘術をうける患者。
[方法]ランダム割りつけの前向き研究.腹式子宮全摘術後の鎮痛にPCAで静注する群と決められた時間ごとにモルヒネを筋注する群の2群に分け48時間鎮痛を行う。PCAでは、一回1mg静注でロックアウトタイム6分とした。10cm-VASが4以上になれば1回注入量を0.5mgずつ増量した。筋注群では、4時間ごとに0.15mg/kgを筋注し間でVASが4以上になれば初回量の50%を筋注、次回からは50%増量したモルヒネを筋注する。これを満足できるまで繰り返す。
[結果]両群間で副作用の頻度と患者の満足に差はない。PCAより筋注群の方がより頻繁に投与量を調節した。PCAは筋注群より回復時間が早いということはなかった。看護のコストの安い分はPCAの薬や材料費で相殺されてしまう。
[結論]子宮全摘術後においては、PCAは定期的な筋注と効果に差はなく、コストがかかり臨床的な利点は少ない。
[抄者註]筋注群の方が頻繁に手間をかけて、投与量を調節するプロトコルになっており、PCAの方は手間があまりかかっていないだけ不利である。結局、慣れた方法の方が患者の満足がえられ、コスト的にもやすいということ。皮肉な言い方をすればPCAのプロトコルより筋注のプロトコルの方がよくできていると言うことである。(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)





9.日本語タイトル:外来手術におけるラリンジアルマスクのコストの評価 menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
A Cost Analysis of the Laryngeal Mask Airway for Elective Surgery in Adult Outpatients.
Macario O, Chang PC, Stempel DB.
Anesthesiology 83:250-257, 1995
施設:Department of Anesthesia, Stanford University Medical Center, Stanford, California, USA
[目的]ラリンジアルマスクと他の3つの気道確保の方法でコストを比較する。
[背景]1992年にラリンジアルマスクはUSAに紹介されて以来、臨床麻酔で広く使用されている。
[研究の場]病院
[対象]ASAクラス1の外来手術患者
[方法]イソフルレン/笑気/酸素で麻酔を維持する.4群を比較する。
(1)ラリンジアルマスクを使用した自発呼吸
(2)フェイスマスクとゲデルエアウエイを使用した自発呼吸
(3)サクシニルコリンを使用して気管内挿管したのち自発呼吸
(4)非脱分極性筋弛緩薬を使用した気管内挿管の調節呼吸
スタンフォード大学医療センターでの医療費のデータを用いてそれぞれの場合の、一般的なコストの計算式を作成した。
[結果]ラリンジアルマスクを使用した気道管理と対比して基準となる値を算出した。
フェースマスクは$0.12/分、筋弛緩薬を使った気管内挿管は$0.043/分、筋弛緩薬を使用しない気管内挿管は$0.06/分、筋弛緩薬の薬のコストは$0.21/分の追加になる。フェイスマスクがもっともコストパフォーマンスが良いのは100分以上使用したときである。ラリンジアルマスクの使用を10-25回にした場合には70分以上で最小のコストになる。
[結論]ラリンジアルマスクを40回再使用し、40分以上の麻酔を行えばもっともコストパフォーマンスのよい方法である。
[抄者註]基本的には、極力、薬を使用しない自発呼吸の気道確保がコストパフォーマンスがよい。ラリンジアルマスクのコストは繰り返し使用することで減価償却している。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)





10.日本語タイトル:周術期の人工関節置換術のクリニカルパスは医療コストを削減する menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
The effect of a perioperative clinical pathway for knee replacement surgery on hospital costs.
Anesth Analg 86:978-984,1998
Macario A, Horne M, Goodman S, Vitez T, et al.
施設:Department of Anesthesia (H 3580), Stanford University Medical Center, Stanford, USA
[目的]人工関節置換術の周術期のクリニカルパスが入院コストを減少させるかどうか調査する。
[背景]クリニカルパスは医療コストを削減したり不必要なケアのバリエーションをコントロールするために導入され始めている。
[研究の場]病院
[対象]約750名の入院患者。
[方法]人工膝関節置換の患者約180名(パス導入前120名、後60名)。前立腺の根治術患者、約330名(パス導入前165名、後165名)。大腿骨頭全置換術、約250名(パス導入前125名、後125名)の3つの手術で、術前検査、術前ケア、術中や術後ケアについて一定の手順や方法を決めたクリニカルパスを作成し、導入前と後で入院費用を比較した。
[結果]人工膝関節置換では平均で約$21700が$17600に減少したが、他の2つの手術ではほとんど前後で差がなかった。膝の手術では手術室でのコストが大きく減少しているが、他の手術ではほとんど変化がなかった(これによるところが大きい)。
[結論]膝の人工関節の手術においてクリニカルパス(ケアパスウエイとかクリティカルパスとも言う)を使うと医療費が削減できる。
[抄者註]クリニカルパスとは、一つの疾患に対して治療の道筋を示す方法。クリニカルパスという言葉とクリティカルパスという言葉があり両方とも同様な使い方をしている。もともと、クリティカルパスというのはNASAから始まった「作業の流れを把握し、効率的かつ効果的な労力配分を導き出す問題解決技法」のこと。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)





11.日本語タイトル:根治的前立腺切除術後の1泊入院:2つのクリニカルパスの比較 menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Overnight hospitalization after radical prostatectomy: the impact of two clinical pathways on patient satisfaction, length of hospitalization, and morbidity.
Worwag E, Chodak GW
Anesth Analg 87:62,1998
施設:Weiss Memorial Hospital, Chicago, USA
[目的]術後鎮痛の2つの異なったクリニカルパスを作成しこれらの安全性と効果を調査する。
[背景]前立腺切除後の入院は、これまでは4-8日がふつうであった。健康保険制度が変化し医療の質を維持しつつ入院期間を短くする努力が求められている。入院期間は、出血や尿漏れ、深部静脈血栓などの合併症の観察や術後鎮痛のための(経口以外)麻薬の使用により左右される。近年、クリニカルパスを導入し1.5日までに短縮し、入院コストを削減できたたという報告がある。
[研究の場]病院
[対象]根治的恥骨後式前立腺摘除術をうける患者100名。
[方法]硬膜外麻酔で行い術後鎮痛に硬膜外モルヒネを使う群と、脊椎麻酔で行い術後は筋注メサドンを使用する群の2つのクリニカルパスを作成する。どちらの群も4時間後には経口のアセトアミノフェンとイブプロフェン内服させた。入院期間、満足度、術後合併症、再入院について記録した。退院後5-8病日に来院、30病日に来院してもらい心血管系、血栓症、中枢神経系や肺合併症などをチェックした。満足度は退院してから約3週間後に手紙で調査した。
[結果]平均入院期間は硬膜外モルヒネ群で1.34日、筋注メサドン群で1.28日であった.95%以上の患者が鎮痛に関して満足していた。
[結論]どちらのクリニカルパスも患者の不満や合併症を増加させず、ほぼ8割の患者が一泊で退院可能であった。
[抄者註]手術の早期合併症などについてはあまりかかれていない。再入院したかどうかで判断している。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)





12.日本語タイトル:予定手術の入院過程の変化:経済分析 menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Changing the admission process for elective surgery: an economic analysis report of investigation.
Boothe P, Finegan BA.
CAN J ANAESTH 42(5): 391-394,1995
施設:Department of Anaesthesia, University of Alberta Hospitals, Canada
[目的]胆石の手術のために前日に入院するか、当日に入院するかでコストが削減できるかどうかと外科手術の量と患者の流れ(手術のために設けられたベッドあたりの手術数)を調べる。
[背景]北米では、予定手術の麻酔と手術前の評価は、外来通院時に行うものと入院してから行うものが併存している。伝統的な方法は手術前日に入院し入院患者として術前検査と評価を行うもので、新しい方法は外来通院時に評価を行い手術当日に入院する方法である。
[研究の場]病院
[対象]64名の腹腔鏡下胆嚢摘出術を受ける患者。
[方法]1989/90年に腹腔鏡下胆嚢摘出術を受けた手術前日入院群(11名)と1992/93年に腹腔鏡下胆嚢摘出術を受けた手術当日入院群(53名)について後ろ向き研究を行った。看護費用、放射線検査、血液検査、手術室、リハビリとクリニックの費用を計算した。
[結果]当日入院群では当日入院群より1症例につき$360コストを削減できた。これは、看護費用の減少による。1989/90年と1992/93年では手術ベッド数は15.7%減少したが、手術量は5.4%の減少に過ぎなかった。全患者の流れは12.2%増加し、その内訳は予定手術で14.1%贈、緊急手術で9.5%増であった。予定手術の当日入院は、患者の流れの大幅な向上を示した。
[結論]手術日に入院するとコストを削減でき、病院の生産力をあげる。
[抄者註]前日に入院するか当日に院するかで、合併症も増えず、患者にも不都合がないのなら、コストがかからない方がよい。あとは、院内のシステムを変える努力をすればよい。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)





13.日本語タイトル:3種類の手術での術前合併症の重症度と医療コスト menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Hospital costs and severity of illness in three types of elective surgery.v Macario A, Vitez TS, Dunn B, et al.
Anesthesiology 86(1):92-100, 1997
施設:Department of Anesthesia, Stanford University Medical Center, California.
[目的]併存疾患の重症度で予定手術の麻酔のコスト、手術室のコスト、全入院期間のコストや入院期間が予測できるかどうかを調べる。
[背景]術前から重症な併存疾患があれば、手術コストが高くなるとすれば保険により支払われる医療費も調整されるべきである。
[研究の場]病院
[対象]腸切除術(30名)、膝関節の全置換術(100名)、ラパコレ(90名)を受ける約220名の入院患者。
[方法]上記の3種類の手術に対して(1)全入院費用、(2)手術室のコスト、(3)麻酔のコスト、(4)入院期間を予測するために重回帰分析を用いた。患者の年齢、性、ASAクラス分類、チャールソンの共存スコア(合併症の数と重症度で重み付けする)、保険の種類(Medicare/Medicaidかmanaged careかindemnityか)といった項目をパラメータにした。コストは、病院の会計ソフトウエアから算出した。
[結果]平均の全入院コストは、ラパコレで約$3800、腸切除で約$13600、膝関節置換術で約$18800であった。ASAクラス分類とチャールソンの共存スコアの相関係数(r)は0.34であった。入院コストと病気の重症度には一定の関係を見いだせなかった。チャールソンの共存スコアでは膝関節置換術のみの入院コストを予測できる。ASAクラス分類は、腸切除のみ手術室のコストと麻酔のコストを予測できる。
[結論]ASAクラス分類とかチャールソンの共存スコアなどで分類された併存疾患の重症度は、3つの手術で一貫した(全入院コストと入院期間の)予測はできない。
[抄者註]medicare:老人医療保険(制度)《65歳以上の老人を対象にする》
medicaid:(低額所得者・身障者のための)国民医療保障(制度)
managed care:管理医療、民間営利企業医療保険(第三者機関の支払者(保険会社、連邦政府あるいは協会など)か医師と患者の仲介をし、医療費の交渉をしたり、治療内容を監視したりするもの)。Managed Careは医療保険の一種。大きな特色として、医療費支給にとどまらず、診療の内容にまで介入することがある。indemnity:損害補償
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)





14.日本語タイトル:周術期ケアのコストはどこにかかっているのか?手術入院の医療費分析 menu NEXT
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
Where are the costs in perioperative care?: analysis of hospital costs and charges for inpatient surgical care.
Anesthesiology 83:1138-1144, 1995.
施設:Department of Anesthesia, Stanford University School of Medicine, Stanford, California, USA.
[目的]周術期のコストのうち麻酔のコストの割合を明らかにする。
[背景]多くの健康保険会社は、コスト削減プログラムの必要性を強調している。医療コストの40%以上が手術に関するコストである。しかし、医療費全体のうち、どの程度、麻酔のコストが占めているかは明らかではない。
[研究の場]病院
[対象]約700名の手術(椎間板切除、前立腺摘除、虫垂切除、ラパコレ)を受けた入院患者。
[方法]後ろ向き研究。病院のコスト管理ソフトウエアを使って、麻酔のコストが全体のどの程度占めているかを調べる。入院コストは可変コストと固定コストに分ける。コストはさらに間接コストと直接コストに分ける。
[結果]全入院コストの49%が可変コストで、51%が固定コストであった。57%が直接コストで、43%が間接コストであった。全入院コストに対する手術室のコストは33%であり、病棟のコストは31%であった。周術期コストの5.6%が麻酔のコストであった。
[結論]周術期コストの5.6%が麻酔のコストである。
[抄者註]全体から見ると麻酔のコストは意外と少ない。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)





15.日本語タイトル:術中に使用する薬と消耗品のコストを麻酔科医にフィードバックする効果 menu PREVIOUS
原語タイトル、著者、雑誌名、巻、初めと終わりのページ、年:
The effect of a drug and supply cost feedback system on the use of intraoperative resources by anesthesiologists.
Berman MF, Simon AE.
Anesth Analg 86:510-515, 1998
施設:Department of Anesthesiology, Columbia University, New York, USA
[目的]クリニカルガイドラインを作成せずに、コスト削減をするために各自が使用した薬剤や消耗品のコストを見せて、医療費が減少するかどうかをみる。
[背景]健康保険の関係で、病院は全コストを綿密に調査している。病院の収入の40%以上が手術に関連したものである。最近の研究では麻酔に関するコストは周術期コストの6%以下であることが報告されているが、手術室での薬剤とサプライのコストは計算が容易でコスト削減プログラムの対象になりやすい。
[研究の場]病院
[対象]27名の麻酔科レジデント
[方法]無作為、前向き研究.6ヶ月以上の期間に、3種類の神経系の麻酔症例(頚動脈内膜剥離術、腰椎の除圧術、頚椎の除圧術)を担当する27人の麻酔科レジデントを無作為に2群に分ける。
フィードバック群:自分のかけた麻酔のコストの評価を麻酔科の平均的なコストと比較した評価書を見せる。
コントロール群:自由にさせる。
[結果]フィードバック群では指導前後で有意にコストが減少した(頚動脈内膜剥離術ではコントロール群$98に対して$80に、腰椎の除圧術ではコントロール群$76に対して$57になった)。減少内容は、プロポフォルとエトミデートの使用の減少、患者加温装置の使用の減少が主であった。フィードバック群の回復室での体温は低下傾向が目立った。3ヶ月後にフィードバック群を追跡したが、フィードバックの効果はなく、むしろリバウンドで頚動脈内膜剥離術では$109になっていた。
[結論]麻酔のシステムで初めての無作為抽出の前向きコスト管理研究である。フィードバックをかけることで、コストを削減できる。
[抄者註]この報告では、患者の満足はどうであったか記載されていないが、術中の体温低下が明らかであり、麻酔管理の質を落としている。コストをコントロールするのは医療の質を落とさず、患者の満足も変えないことが大前提だと思うのだが……
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)