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これからの麻酔薬と種々のモニター

● これからの麻酔薬とモニター:序章   広島大学医学部麻酔・蘇生学 讃岐美智義

1.デスフルレンで交感神経系の活動が増す.イソフルレンとの比較

2.長時間手術に対するデスフルレンとイソフルレンの比較

3.ボランティアではデスフルレンで肝障害腎障害は起こらない

4.ヴェクロニウムによる筋弛緩に対するデスフルレンとイソフルレンの比較

5.デスフルレンの脳波

6.テント上脳手術に対する3種類の麻酔薬の比較:プロポフォル/フェンタニル,イソフルレン/笑気,フェンタニル/笑気

7.帝王切開にプロポフォルかサイオペンタルを使用した場合の血漿カテコールアミンと新生児の状態

8.麻酔導入時の循環動態とカテコールアミン反応:プロポフォルとサイオペンタルの比較

9.手術刺激と自律神経反射能:心拍数の変動を使用した評価

10. 重症患者の鎮静はプロポフォルかミダゾラムか:時間経過とC/Pの分析

 


「これからの麻酔薬とモニター −デスフルレンとプロポフォール−」によせて menu NEXT

広島大学医学部麻酔・蘇生学 讃岐美智義

 「これからの麻酔薬とモニターというタイトル」は,何となく奇異な感じを受けるかもしれない.麻酔科医の仕事の要点は,麻酔中の患者の全身管理にある.われわれは日常的に種々のモニターを駆使して,異常事態の早期発見に努めている.新しい麻酔薬が登場してきたとき効能書きを読むが,そこからは読みとることができない個々の症例についての情報は,実際にその麻酔薬を使用し,モニターを監視しながらその薬に対する使用感(手応え)を得る.これが,新しい麻酔薬とモニターというタイトルは奇異なタイトルではないという私なりの弁明である.
 今回は,これからの麻酔薬としてデスフルレンとプロポフォルを取り上げた.どちらの麻酔薬も調節性に富み持続的に投与しても蓄積性が少ないという特徴を持っている.(1)〜(5)は,デスフルレン,(6)〜(10)はプロポフォールに関連した内容となっている.
 デスフルレンの文献では主に,デスフルレンという薬剤自体の持つ作用・副作用を論じた文献をとりあげ,デスフルレンの性質の把握に重点をおいた.デスフルレンには循環に対する副作用があることを示しているのが文献(1)である.デスフルレンで麻酔をする場合,吸入濃度を急激に上昇させると,高血圧,頻脈が見られる.この現象は交感神経系の活動増加をともなっており興味深い.(2)の文献は長時間麻酔をかけたときのデスフルレンがもつ作用,副作用を調査している.臨床試験のような盛りだくさんの内容を含んだ論文である.また,この文献でも(1)で見られたような反応,すなわち急に麻酔深度をあげると循環のハイパーダイナミックな反応が発現することが観察されている.
 毒性に関する情報を文献(3)が提供している.この論文ではボランティアを使って,デスフルレンの毒性がほとんどないことを示している.この研究はデスフルレン麻酔のみを行い,他の薬剤を一切使用せず,手術も行っていない.純粋にヒトでデスフルレンの毒性のみを見るために行われている.しかし,われわれが臨床で使用する場合には他の薬剤を併用し,手術のために麻酔をおこない,合併症を持っている患者にも使用する可能性がある.たしかに,デスフルレンは毒性はないかもしれないが,この論文のみから臨床で使用する場合にも「肝障害腎障害は起こらない」と考えるのは危険である.
 他の薬剤との相互作用をみたのが,(4)文献である.ここでは,筋弛緩薬との相互作用を検討している.デスフルレンと類似の構造を持ったイソフルレンとの比較でベクロニウムの筋弛緩作用の増強度を調査している.同MACでは同程度の筋弛緩増強作用をあらわすことが示されている.今回は取り上げなかったが,Caldwellら(Anesthesiology 74:412-418, 1991)によると,デスフルレンを用いた場合パンクロニウムとサクシニルコリンの筋弛緩作用もイソフルレンの場合と同程度に増強されるという.
 デスフルレンと類似構造を持ったエンフルレンでは,過換気で痙攣波が観察されることから,デスフルレンでの脳波の観察も重要な仕事である.文献(5)ではデスフルレン吸入時の脳波(EEG)を観察している.デスフルレンは等力価のイソフルレンと同様の脳波を示し,用量依存性に皮質の抑制をしめす.また,過換気においても痙攣波はみられないとしている.
 文献(6)〜(10)はプロポフォルに関する話題である.プロポフォルは,吸入麻酔薬と同レベルの麻酔深度調節性を有しているといって過言ではない.完全静脈麻酔の主麻酔薬としても,ICUでの鎮静にも期待されている.プロポフォルに関する論文としては,各論的な内容のものを中心にとりあげた.文献(6)が脳神経外科麻酔,文献(7)が帝王切開の麻酔,文献(8)が麻酔導入時に関する検討である.文献(9)では,心電図のR−R間隔の解析を使用した検討を取り上げた.最後の文献(10)は,プロポフォルを使用したICUでの鎮静にかかる費用についての検討である.
 文献(6)では,テント上脳手術に対する3種類の麻酔薬−プロポフォル/フェンタニル,イソフルレン/笑気,フェンタニル/笑気を比較し,テント上の予定手術に対する麻酔としては,どの麻酔法でもかまわないという結論を導いている.プロポフォルにはバルビツレート同様に,脳血流量,脳圧を下げる作用があるとされるが,この研究では他の麻酔法との差はでなかった.
 文献(7)では,帝王切開術の麻酔導入にプロポフォールとサイオペンタルを用いたときの母体のカテコラミンと新生児の娩出時の状態を検討している.プロポフォルは挿管操作により生じる高血圧やカテコラミンの反応を減弱するが,新生児の娩出時の状態ではサイオペンタールとの違いはないとしている.
 麻酔導入時の循環に対する影響を心電図のQT間隔と血漿カテコラミン値でモニターしたのが,文献(8)である.これまでの報告としては,サイオペンタルを用いた場合には心電図のQT間隔の変化が血漿ノルエピネフリン値と相関があるという著者らのものがある(Br J Anaesth 62: 385-392, 1989).文献(8)ではプロポフォルとサイオペンタルの違いを検討している.プロポフォルでは麻酔導入中にはQT間隔は変化せず,気管内挿管後にはQT間隔は延長し血漿ノルエピネフリンも増加したとしているが,相関関係については,はっきり述べられていない.ここでは取り上げなかったがMcConachieら(Br J Anaesthesia 63: 558-560,1989)もプロポフォルよりサイオペンタルの方がQT間隔が延長するという現象を観察している.
 文献(9)は,手術刺激と自律神経反射能という観点から,プロポフォル麻酔とチオペンタール−笑気−イソフルレン麻酔を比較している.手術刺激はR−R間隔で表現されるような自律神経反射能に影響をあたえる.麻酔法により,その影響の程度は異なることが示されている.
 文献(10)では,トータルコスト(薬剤費+鎮静後の費用)という考え方をつかって費用の評価をしている.ミダゾラムとプロポフォルをICUでの鎮静に使用した場合,プロポフォルの方が薬価が高いが早く覚醒するために鎮静後のコストが安くなる.トータルコストを考えるとプロポフォルの方が経済的だという結論を出している.また,文献(6)でもコストのことにふれている.文献(6)では入院費用に違いはなかったと述べられているが,麻酔薬の違いによる薬剤のコストには違いがあった.ちなみに,麻酔薬のコストは全入院費用の0.33%であったという.
 以上,各論文の結論のみを簡単にレビューした.最後に,モニターの意味についてあらためて問い直してみる.入院費用がモニターかと言われれば,わたしはYESと答える.モニターとは,人間の五感ではわからないものあるいはわかりにくいものを,何らかの方法で五感にわからせるようにするものであると考えている.

 讃岐美智義(広島大学) <MW>

(1)
Sympathetic hyperactivity during desflurane anesthesia in healthy volunteers. A
comparison with isoflurane.Ebert TJ, Muzi M
Anesthesiology 1993;79(3): 444-553,1993

(2)
A comparison of desflurane and isoflurane in prolonged surgery.
Azad SS, Bartkowski RR, Witkowski TA, Marr AT, Lessin JB, Seltzer JL
J Clin Anesth 5(2): 122-81993

(3)
Desflurane does not produce hepatic or renal injury in human volunteers.
Weiskopf RB, Eger EI 2d, Ionescu P, Yasuda N, Cahalan MK, Freire B, Peterson N,
Lockhart SH, Rampil IJ, Laster MAnesth Analg 74(4): 570-574,1992

(4)
Comparative effects of desflurane and isoflurane on vecuronium-induced neuromus
cular blockade.Ghouri AF, White PF
J Clin Anesth 4(1): 34-38,1992
The electroencephalographic effects of desflurane in humans.
Rampil IJ, Lockhart SH, Eger EI 2d, Yasuda N, Weiskopf RB, Cahalan MK
Anesthesiology 74(3): 434-439,1991

(6)
A prospective, comparative trial of three anesthetics for elective supratentori
al craniotomy. Propofol/fentanyl, isoflurane/nitrous oxide, and fentanyl/nitrou
s oxideTodd MM, Warner DS, Sokoll MD, Maktabi MA, Hindman BJ, Scamman FL, Kirschner J
Anesthesiology 78(6): 1005-1020,1993

(7)
Plasma catecholamines and neonatal condition after induction of anaesthesia wit
h propofol or thiopentone at caesarean section.Gin T, O'Meara ME, Kan AF, Leung RK, Tan P, Yau G
Br J Anaesth 70(3): 311-316,1993

(8)
Haemodynamic and catecholamine responses to induction of anaesthesia and trache
al intubation: comparison between propofol and thiopentone.Lindgren L, Yli-Hankala A, Randell T, Kirvela M, Scheinin M, Neuvonen PJ
Br J Anaesth 70(3): 306-310,1993

(9)
Effects of surgical stimulation on autonomic reflex function: assessment by cha
nges in heart rate variability.Latson TW, O'Flaof critically ill patients. A cost-benefit analysis.
Carrasco G, Molina R, Costa J, Soler JM, Cabre L
Chest 103(2): 557-564,1993

(10)
Propofol vs midazolam in short-, medium-, and long-term sedation of critically
ill patients. A cost-benefit analysis.Carrasco G, Molina R, Costa J, Soler JM, Cabre L
Chest 103(2): 557-564,1993


日本語タイトル:デスフルレンで交感神経系の活動が増す.イソフルレンとの比較 menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Sympathetic hyperactivity during desflurane anesthesia in healthy volunteers. A comparison with isoflurane. 
Ebert TJ, Muzi M 
Anesthesiology 1993;79(3): 444-453 1993 
施設:Department of Anesthesiology, Medical College of Wisconsin, Milwaukee,USA. 
[目的]microneurographyを用いてデスフルレンの心血管系への作用に交感神経系が関与しているかどうかを検討する。
[背景]デスフルレンはイソフルレンに比べて頻脈や高血圧を惹起しやすいと言う報告がある。
[対象]14名の健康成人(21-32歳)
[おもな測定項目]前腕の血流、交感神経活動(SNA)、心拍数、血圧、デスフルレンとイソフルレン濃度
[方法]デスフルレン群とイソフルレン群に分けた。チオペンタール(5mg/kg)とベクロニウム(2mg/kg)で導入2分後より、それぞれの吸入麻酔薬を0.5MACから1分間隔で0.5MACずつ1.5MACまで吸入させた。
つぎに、気管内挿管後、30分間0.5MACに維持し定常状態になったときの血行動態とSNAを記録した。同様に、1.0MACと1.5MACでも定常状態での記録を15分間おこなった。また、0.5から1.0MAC1.0から1.5MACに急に上昇させたときの記録を12分間おこなった。
[結果]デスフルレン麻酔導入後の時期には、SNAは2.5倍に増加、高血圧、頻脈、顔面紅潮、流涙が観察された。3症例では、筋弛緩薬を使用しているにもかかわらず上気道閉塞が観察された。イソフルレン麻酔ではこのような反応は観察されなかった。気管内挿管後、30分間0.5MACに維持し定常状態になったときには、両群とも血圧と前腕の血流は次第に低下し、SNAは次第に増加した。イソフルレン麻酔ではこのような反応は観察されなかった。定常状態の観察では、デスフルレンは1.5MACまで頻脈は観察されなかったが、イソフルレンでは0.5MAC以上で頻脈(>10bpm)が観察された。デスフルレンを1.0から1.5MACに急に上昇させたときには、頻脈(>30bpm)、高血圧(>30mmHg)、SNA(2倍)の増加が数分間続いた。
[結論]サイオペンタルで導入後、デスフルレンで麻酔維持をする場合、吸入濃度を1.0から1.5MACに上昇させると、交感神経系の活動増加、高血圧、頻脈が観察された。この反応を減弱させる方法が判明するまで、デスフルレンは注意して投与すべきである。
[抄者註]Yli-Hankalaら(Anesthesiology 78: 266-271, 1993)によりイソフルレンでも、吸入濃度を急激に上昇させたときの様子が観察されている。 

抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>


日本語タイトル:長時間手術に対するデスフルレンとイソフルレンの比較 menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
A comparison of desflurane and isoflurane in prolonged surgery.  
Azad SS, Bartkowski RR, Witkowski TA, Marr AT, Lessin JB, Seltzer JL 
J Clin Anesth 5(2): 122-128 1993 
施設:Department of Anesthesiology, Jefferson Medical College, Thomas Jefferson University, Philadelphia, PA 19107,USA 
[目的]適切な挿管の状態が得られるか、挿管時の血行動態が抑制できるか、安定した麻酔維持が行えるか、麻酔からの覚醒はどうか、筋弛緩薬との相互作用をデスフルレンとイソフルレンで比較検討する。
[背景]デスフルレンはイソフルレンと似た構造を持ったハロゲン化エ−テルである。デスフルレンとイソフルレンの比較を行う。
[対象]32名の予定手術を受けるASAクラス1-2の患者
[方法]
(1)サイオペンタルで導入後、デスフルレンまたはイソフルレンをマスクで投与する。麻酔薬濃度は、呼気終末でモニターし1.7MACになるまで深くする。筋弛緩薬を使わずに挿管。血圧(BP)、心拍数(HR)をモニター。導入前から気管内挿管10分後まで、非侵襲的な心拍出量(CO)をドップラーを用いてモニターし、全体血管抵抗(SVR)を算出。
(2)導入後、0.65 MAC、1.25 MACまたは0 MAC(コントロール)に維持。パンクロニウムを0.005mg/kgずつT1が90%以上抑制されるまで投与し筋弛緩薬との相互作用をモニターする。また、覚醒に要する時間もモニターする。
[結果]
(1)気管内挿管の状態、挿管時のBP,HRの変化には大きな差はない。どちらの麻酔薬も導入時にはHRの増加が認められた。両薬剤ともCOは増加しSVRは減少していた。
(2)全経過を通して、ベースラインから20%以上のBP,HRの増加の反応をみた症例は、デスフルレンの方がイソフルレンよりも多かった。パンクロニウムのED50, ED95はデスフルレンとイソフルレン存在下では同程度の相互作用を示した。覚醒までの時間も両薬剤間で差はなかった。
[結論]デスフルレンは気管内挿管、麻酔維持にたいしてはイソフルレンと同様の麻酔状態を示す。デスフルレン麻酔は心拍数増加傾向になり、急に麻酔深度をあげるとハイパーダイナミックな反応が見られる。
[抄者註]臨床試験のような盛りだくさんの内容を含んだ論文である。 

抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>


日本語タイトル:ボランティアではデスフルレンで肝障害腎障害は起こらない menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Desflurane does not produce hepatic or renal injury in human volunteers. 
Weiskopf RB, Eger EI 2d, Ionescu P, Yasuda N, Cahalan MK, Freire B, Peterson N, Lockhart SH, Rampil IJ, Laster M 
Anesth Analg 74(4): 570-574 1992 
施設:Department of Anesthesia, University of California, San Francisco 94143-0648, USA 
[目的]デスフルレンが肝臓と腎臓に与える影響をみる
[背景]麻酔薬の毒性について知ることは重要である。しかし、ヒトでの麻酔薬の毒性に関する研究は、いつも結論に達しない。ほとんどの研究は他の薬剤を使用したり、手術下でおこなわれていたり、合併症が存在したりしている。また、麻酔薬に対する曝露の時間を制限したり、麻酔薬濃度が臨床使用の限度に達していない。
[対象]13名の健康な成人男性ボランティア
[方法]デスフルレンと酸素またはデスフルレンと酸素/笑気で導入し、他の薬剤を一切使用しない。麻酔前、麻酔中、麻酔終了時、麻酔4時間後、24時間後、4日後、7日後の肝機能と腎機能の検査と血算、電解質検査をおこなう。
[結果]肝機能、腎機能に変化はなかった。そのほかの変化としては、麻酔中から終了24時間後までに白血球数、好中球数の増加。麻酔中から麻酔後まで血糖値の増加が見られた。
[結論]デスフルレンは生体内代謝率が低いために、毒性は少ないか全くないことが示唆された。
[抄者註]この研究は純粋にヒトでデスフルレンの毒性のみを見るために行われた。しかし、われわれが臨床で使用する場合には他の薬剤を併用し、手術のために麻酔をおこない、合併症を持っている患者も存在している。たしかに、デスフルレンは毒性はないかもしれないが、臨床で使用する場合にも「肝障害腎障害は起こらない」と言い切るのは危険である。 

抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>


日本語タイトル:ヴェクロニウムによる筋弛緩に対するデスフルレンとイソフルレンの比較 menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Comparative effects of desflurane and isoflurane on vecuronium-induced neuromuscular blockade. 
Ghouri AF, White PF 
J Clin Anesth 4(1): 34-38 1992 
施設:Department of Anesthesiology, Washington University School of Medicine, St. Louis, MO 63110, USA 
[目的]等力価のデスフルレンまたはイソフルレンを使用したときのベクロニウムの筋弛緩作用を評価する
[背景]これまでの揮発性吸入麻酔薬は用量依存性に非脱分極性の筋弛緩作用の程度を増強し効果時間を延長するという事実がある。
[対象]45名の予定手術を受けるASA1-2の患者
[方法]無作為にデスフルレン/笑気またはイソフルレン/笑気で麻酔を行い、ベクロニウムを投与する。神経筋刺激装置を用いて筋弛緩作用の程度をモニターする。
[結果]呼気終末濃度でイソフルレン0.6%、デスフルレン3%(どちらも0.5MAC)では、ベクロニウムは同程度の神経筋機能の抑制を示した。作用発現時間(投与からT1twitchが最大の抑制を示すまでの時間)、臨床的作用持続時間(投与からT1twitchが25%遮断まで回復するのに要する時間)、最大遮断、回復時間(コントロールの75%から25%遮断までの回復時間)とも同程度であった。
[結論]デスフルレン3%とイソフルレン0.6%存在下ではベクロニウムは同程度の神経筋遮断作用を示す。
[抄者註]
(1)Caldwellら(Anesthesiology 74:412-418, 1991)によると、デスフルレンを用いた場合パンクロニウムとサクシニルコリンの筋弛緩作用もイソフルレンの場合と同程度に増強される。
(2)いわゆる作用持続時間とは、投与からT1twitchが10%遮断まで回復するのに要する時間をいう。 

抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>


日本語タイトル:デスフルレンの脳波 menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
The electroencephalographic effects of desflurane in humans. 
Rampil IJ, Lockhart SH, Eger EI 2d, Yasuda N, Weiskopf RB, Cahalan MK 
Anesthesiology 74(3): 434-439 1991 
Department of Anesthesia, University of California, San Francisco 94143-0648, USA 
[目的]デスフルレン吸入時の脳波(EEG)を観察する
[背景]ハロゲン化エ−テルに属する薬剤はEEGと脳代謝に関してさまざまな作用を有している。臨床評価としてのデスフルレン吸入時の脳波は重要である。
[対象]12名のボランティア
[方法]6,9,12%(0.83, 1.24, 1.66MAC)のデスフルレン/酸素を吸入させた時と3,6,9%のデスフルレンと60%笑気/40%酸素を吸入させた時のEEGを記録観察する。はじめは適正換気でおこない、次に過換気にしたときの影響を観察する。
[結果]デスフルレンは等力価のイソフルレンと同様の脳波を示した。デスフルレンは用量依存性に皮質の抑制を示した。過換気においても痙攣波はみられなかった。
0.42MAC分のデスフルレンを笑気で代用して測定したEEGでも同様の結果が得られた。
[結論]デスフルレンは等力価のイソフルレンと同様の脳波を示し、用量依存性に皮質の抑制を示す。
[抄者註]0.42MAC分のデスフルレンを60%笑気で代用すると、デスフルレン/酸素の場合の6,9,12%が3,6,9%のデスフルレンと60%笑気/40%酸素の場合に相当する。

抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>


日本語タイトル:テント上脳手術に対する3種類の麻酔薬の比較:プロポフォル/フェンタニル,イソフルレン/笑気,フェンタニル/笑気 menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
A prospective, comparative trial of three anesthetics for elective supratentorial craniotomy. Propofol/fentanyl, isoflurane/nitrous oxide, and fentanyl/nitrous oxide 
Todd MM, Warner DS, Sokoll MD, Maktabi MA, Hindman BJ, Scamman FL, Kirschner J 
Anesthesiology 78(6): 1005-20 1993 
Department of Anesthesia, University of Iowa College of Medicine, Iowa City 52242, USA 
[目的]脳神経外科麻酔の臨床で麻酔薬の違いによる重要な違いがあるかどうかを検討する。
[背景]麻酔薬により脳血管に対する影響も異なっている。臨床の脳神経外科麻酔では、この違いははっきりしていない。
[対象]121名のテント上脳手術を予定されている患者
[方法]3群に無作為に分ける。 グループ1:プロポフォルで導入し、フェンタニルとプロポフォルで維持、グループ2:サイオペンタルで導入し、イソフルレン/笑気で維持、グループ3:サイオペンタルで導入し、フェンタニルと笑気/低濃度イソフルレンで維持
(1)血圧、心拍数、呼気ガス濃度、呼吸のパラメータをモニター
(2)術中に頭蓋内圧測定(ICP)をモニター
(3)麻酔覚醒に要する時間をモニター
(4)病院滞在期間と要したトータルの入院費用も算出
[結果]
(1)麻酔導入中に心拍数上昇がグループ2で見られた(グループ2では他のグループよりも平均動脈圧が10mmHg程度低かった)。その他の血行動態の違いはほとんどなかった
(2)平均ICPの違いもなかったが、グループ2では24以上になった患者が多かった(9人)。
(3)麻酔覚醒に要する時間としては、概してグループ3が速かった。覚醒時間とICPの間に相関関係は見られなかった。
(4)病院滞在期間と全入院費用に違いはなかった。
[結論]3つの麻酔法による違いはあるものの、臨床的にはテント上の予定手術に対する麻酔としてはどの麻酔法でもかまわない。
[抄者註]本論文は入院費用に違いはなかったと述べているが、麻酔薬の違いによる薬剤のコストには違いがあった(グループ1:約150ドル、グループ2:約50ドル、グループ3:約15ドル)。麻酔薬のコストは全入院費用の0.33%であったという。 

抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>


日本語タイトル:帝王切開にプロポフォルかサイオペンタルを使用した場合の血漿カテコールアミンと新生児の状態 menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Plasma catecholamines and neonatal condition after induction of anaesthesia with propofol or thiopentone at caesarean section. 
Gin T, O'Meara ME, Kan AF, Leung RK, Tan P, Yau G 
Br J Anaesth 70(3): 311-6 1993 
Department of Anaesthesia & Intensive Care, Prince of Wales Hospital, Chinese University of Hong Kong, Shatin, Hong Kong 
[目的]帝王切開術の麻酔導入にプロポフォールとサイオペンタールを用いたときの母体のカテコラミンと新生児の娩出時の状態を検討する。
[背景]母体の交感神経系の刺激は胎盤循環を悪化させ新生児への影響が懸念される。
[対象]61名の予定帝王切開手術を受ける妊婦(ASAクラス1)
[方法]4mg/kgのサイオペンタールまたは2mg/kgのプロポフォールを用いて麻酔を導入する。筋弛緩薬はサクシニルコリン。喉頭展開は1分以内、気管内挿管は2分以内に完了した。麻酔の維持はアトラクリウム、笑気、イソフルレンでおこなった。母から0,1,2,3,4分と児娩出時に静脈血採血しカテコラミンを測定。臍帯動脈と静脈からも採血しカテコラミン測定。臍帯動脈での血液ガス分析も施行。新生児の娩出時の状態は、APGARスコア(1分と5分)とNeurological Adaptive Capasity Score(NACS)で評価。
[結果]1)平均動脈圧のベースラインからの変位はプロポフォール群18mmHgにたいしてサイオペンタール群で29mmHgと高値。
2)気管内挿管後の血漿カテコラミンはどちらの薬剤を使用しても上昇。
3)母体の血漿ノルアドレナリンの最大値の平均はサイオペンタールで413pg/ml、プロポフォールでは333pg/mlであったが、血漿アドレナリンには差はなかった。4)新生児のAPGARスコア、NACS、臍帯血のカテコラミン値、血液ガス分析では差がなかった。
[結論]プロポフォールは挿管操作により生じる高血圧やカテコラミンの反応を減弱するが、新生児の娩出時の状態ではサイオペンタールとの違いはない。
[抄者註]この論文の場合、麻酔導入から新生児娩出までの時間は12-13分でどちらの群もさほど違いはないが、子宮切開から娩出までの時間にはサイオペンタル群81.4秒に対してプロポフォル群66.8秒と差を認めている。この違いが、本研究の主データに影響を与えていないとの傍証として、臍帯血のカテコラミン値、血液ガス分析では差がないことを使用している。(Obstetrics and Ginecology 58:331-335,1981. サイオペンタル麻酔で子宮切開から娩出までの時間が長くなると臍帯動脈のpHが低下するとされている。)

抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>


日本語タイトル:麻酔導入時の循環動態とカテコールアミン反応:プロポフォルとサイオペンタルの比較 menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Haemodynamic and catecholamine responses to induction of anaesthesia and tracheal intubation: comparison between propofol and thiopentone. 
Lindgren L, Yli-Hankala A, Randell T, Kirvela M, Scheinin M, Neuvonen PJ 
Br J Anaesth 70(3): 306-10 1993 
Department of Anaesthesia, University Central Hospital, Helsinki, Finland.  
[目的]プロポフォルまたはサイオペンタルで麻酔導入と気管内挿管をした場合の心電図のQT間隔と血漿カテコラミン値をモニターする。
[背景]サイオペンタルを用いた場合、心電図のQT間隔の変化が血漿ノルエピネフリン値と相関があるという著者らの報告がある(Br J Anaesth 62: 385-392, 1989)
[対象]24名の健康な予定手術を受ける患者(ASA1)
[方法]サイオペンタール5mg/kgまたはプロポフォル2.5mg/kgで麻酔導入しベクロニウムを用いて気管内挿管。HR、収縮期血圧(SAP)、拡張期血圧(DAP)、QT間隔をモニター、血漿エピネフリン、ノルエピネフリンを測定。なお、QT間隔はHRで補正しQTcを評価に用いた。
[結果]
(1)HR気管内挿管前のHRはプロポフォルよりサイオペンタルが多かった。
(2)麻酔導入中のSAPとDAPはプロポフォルよりサイオペンタルのほうが低下した。
(3)QT間隔は麻酔導入中にはサイオペンタルでのみ前値より延長したが、プロポフォルでは変わらなかった。
(4)気管内挿管に対する反応では、どちらの薬剤でもHR, SAP, DAP、QT間隔ともに増加した。SAPとQT間隔はプロポフォルよりサイオペンタルの方が変化が大きかった。
(5)気管内挿管後の血漿ノルアドレナリンは両薬剤とも増加。気管内挿管後の血漿エピネフリンはサイオペンタルでのみ増加。
[結論]プロポフォルでは麻酔導入中にはQT間隔は変化しなかったが、気管内挿管後にはQT間隔は延長し血漿ノルエピネフリンも増加した。
[抄者註] McConachieら(Br J Anaesthesia 63: 558-560,1989)らもプロポフォルよりサイオペンタルの方がQT間隔が延長するという現象を観察している。

抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>


日本語タイトル:手術刺激と自律神経反射能:心拍数の変動を使用した評価 menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Effects of surgical stimulation on autonomic reflex function: assessment by changes in heart rate variability. 
Latson TW, O'Flaherty D 
Br J Anaesth 70(3): 301-5 1993 
University of Texas Southwestern Medical Center, Department of Anesthesiology, Dallas 75235-8894, USA 
[目的]自律神経反射機能におよぼす手術刺激の影響を調べる。
[背景]心拍数の小さなゆらぎ(Heart rate variability: HRV)を解析することにより非侵襲的な自律神経機能を測定できる。
[対象]26人の腹腔鏡手術を受ける女性
[方法]チオペンタール−笑気−イソフルレン群(I群)、プロポフォール群(P群)にわけ、心拍数変動のパワースペクトラム[(1)HRVtot:全HRVと (2)%HRVlo:低周波数領域のHRVパワー率]をコントロール、皮切前、皮切後(3分、10分、皮膚縫合前)の時点で測定した。
[結果]
(1)皮切前のHRVtotは、I群、P群ともにコントロールの16%, 2.5%に減少した。
手術刺激に対するHRVtotはP群は55%、I群では4%以下であった。
(2)%HRVloはP群では49%(皮切前)から75%(皮切後)に、I群では38%(皮切前)から48%(皮切後)に増加した。
[結論]手術刺激はHRVによってモニターされるような自律神経反射に影響をあたえる。麻酔法により、その影響の程度は異なる。
[抄者註]正常人の心拍数のパワースペクトラムには0.1Hz付近の低周波数領域(LF)と0.25Hz付近の高周波数領域(HF)の2つのピークが認められる。LF成分は交感神経活動に関係するとされている。HF成分は主として呼吸性不整脈によりもたらされる成分で、心拍に対する副交感神経系のコントロールを表現すると考えられている。

抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>


日本語タイトル:重症患者の鎮静はプロポフォルかミダゾラムか:時間経過とC/Pの分析 menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Propofol vs midazolam in short-, medium-, and long-term sedation of critically ill patients. A cost-benefit analysis. 
Carrasco G, Molina R, Costa J, Soler JM, Cabre L 
Chest 103(2): 557-64 1993 
Intensive Care Service, SCIAS-Hospital de Barcelona, Spain 
[背景]ICUでの人工呼吸中の鎮静にプロポフォルを使用した場合、投与中止後から自発呼吸の発現までの時間が短縮できると言われているが、薬価が高いという欠点を持っている。
[目的]ICUでの人工呼吸中の鎮静にプロポフォルとミダゾラムを使用して、その効果と安全性、経済性を比較検討する。
[対象]人工呼吸中の患者88名
[方法]ICUで人工呼吸中の患者を無作為にプロポフォール群とミダゾラム群に分けたプロスペクティブスタディー。
0.2-0.5mg/kg/dayのモルヒネをどちらの群にも投与しておく。
プロポフォール群:初期投与速度1-3mg/kg/h、
ミダゾラム群:初期投与速度0.1-0.2mg/kg/h
で満足な鎮静が得られるようにコントロール。
投与期間に応じて短期(24時間以内)、中期(24時間から1週間)、長期(1週間以上)にわけて解析した。
[結果]
(1)平均のプロポフォールとミダゾラムの必要量はそれぞれ2.36mg/kg/hと0.17mg/kg/hであった。
(2)必要とされる鎮静レベルに維持できた時間の率はプロポフォールが93%、ミダゾラムが82%であった(p<0.05)。
(3)どちらも、安全面では問題なかった。
(4)投与中止後の回復はミダゾラムよりもプロポフォールが速い(p<0.05)。プロポフォール群では、鎮静時間と抜管までの時間の間によい相関(r=0.98, 0.88, 0.92、順に短期、中期、長期)を認めたが、ミダゾラム群では相関がみられなかった。
(5)24時間以内の鎮静では、ICUの滞在時間短縮のため約2000ペセタ(約1800円)の節約である。
[結論]重症患者では、ミダゾラムに比較するとプロポフォールによる鎮静は、同程度の安全性をもち、よりよい臨床効果で経済的でもある。
[抄者註]著者らは、トータルコスト(薬剤費+鎮静後の費用)という考え方をつかって費用の評価をしている。プロポフォールの方が薬価が高いが早く覚醒するために鎮静後のコストが安くなる。トータルコストを考えるとプロポフォールの方が経済的だという結論を出している。 

抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>