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術後鎮痛

● 「術後鎮痛」によせて   広島大学医学部麻酔・蘇生学 讃岐美智義

1.術野への局所浸潤麻酔と硬膜外麻酔の組み合わせが術後疼痛を軽減するか?

2.鼠径ヘルニア修復術前あるいは術後に神経ブロックした場合の術後疼痛は違うか?

3.ロピバカインの術野への局所浸潤麻酔は胆摘後の痛みを軽減するか?

4.術後痛と(Wound Hyperalgesia)痛覚過敏に対するフェンタニルとケタミンの先手効果

5.Preemptive analgesia:術後疼痛に関与する神経の可塑性の臨床的証拠

6.総説: Preemptive Analgesia

7.胆嚢摘出術後の硬膜外スフェンタニルを胸部と腰部に投与した場合の違い

8.上胸部硬膜外からのスフェンタニルとブピバカインの持続注入−高容量と低容量の違い−

9.低濃度ブピバカインは術後硬膜外フェンタニルの作用を増強するか?

10. モルヒネ静注と硬膜外ブピバカインでの副作用の比較

11. 硬膜外ブピバカインが術後の麻痺性イレウスを防止する

12. 術後痛に対する硬膜外モルヒネ/ブピバカインとフェンタニル/ブピバカインの比較

13. 開腹術後の硬膜外フェンタニルとブピバカインの併用の利点


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広島大学医学部麻酔・蘇生学 讃岐美智義

 手術を受けた患者にとって,術後の痛みは大変辛いものである.
いまでも,病棟で術後の痛みに,もがき苦しんでいる患者に向かって,医者や看護婦が「痛み止めはこれ以上使えないから,がまんしてください.」と言っている場面を目撃したりする.
 痛みに対する考え方が古いと言ってしまえばそれまでだが,「がまんする」の裏には一言では片づけられない背景因子が存在する.ひとつは,手術をしたのだから痛いのは当たり前だという考え方で十分な鎮痛剤を与えない場合.もう一つは,痛み止めは使っているのだが,術直後の患者の直面している痛みに対して有効ではない場合である.前者の場合は論外だが,後者の場合は痛みの評価ができていない場合や鎮痛薬の副作用のために増量できないと考えている場合である.
 硬膜外カテーテルを術前に挿入し,術中は麻酔科医自身がカテーテルを有効に使用したとしても,術後には全く使用されず,1日何回までという制限付きのペンタジン筋注の指示が外科医側から出されていることがある.一律の指示を出すならば患者がもっと快適な術後をおくることが出来るような鎮痛を施さなければならない.一律の指示で十分な鎮痛を与えられないのならば個々の患者に個別の指示を出すべきであると思う.今日は鎮痛できればよいという時代ではなく,鎮痛の質を問われる時代であるからだ.
 そこで今回は,術後鎮痛の評価,副作用の評価,よりよい術後鎮痛を行うための方法に関する話題を最近の文献から選んだ.なかでも麻酔科医が得意とする硬膜外鎮痛法を中心に抄訳してみた.
 
(1)術野への局所浸潤麻酔と硬膜外麻酔の組み合わせが術後疼痛を軽減するか?

(2)鼠径ヘルニア修復術前あるいは術後に神経ブロックした場合の術後疼痛は
違うか?
(3)ロピバカインの術野への局所浸潤麻酔は胆摘後の痛みを軽減するか?
(4)術後痛と(Wound Hyperalgesia)痛覚過敏に対するフェンタニルとケタミ
ンの先手効果
(5)Preemptive analgesia:術後疼痛に関与する神経の可塑性の臨床的証拠
(6)総説: Preemptive Analgesia
(7)胆嚢摘出術後の硬膜外スフェンタニルを胸部と腰部に投与した場合の違い
(8)上胸部硬膜外からのスフェンタニルとブピバカインの持続注入−高容量と
低容量の違い−
(9)低濃度ブピバカインは術後硬膜外フェンタニルの作用を増強するか?
(10)モルヒネ静注と硬膜外ブピバカインでの副作用の比較
(11)硬膜外ブピバカインが術後の麻痺性イレウスを防止する
(12)術後痛に対する硬膜外モルヒネ/ブピバカインとフェンタニル/ブピバ
カインの比較
(13)開腹術後の硬膜外フェンタニルとブピバカインの併用の利点
<MW>


日本語タイトル:術野への局所浸潤麻酔と硬膜外麻酔の組み合わせが術後疼痛を軽減するか? menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名・巻・初めと終わりのページ,年:
Preoperative infiltration of the surgical area enhances postoperative analgesia of a combined low-dose epidural bupivacaine and morphine regimen after upper abdominal surgery.
Bartholdy J, Sperling K, Ibsen M, Eliasen K, Mogensen T.
Acta Anaesthesiol Scand 38(3): 262-5;1994.
施設:Department of Anaesthesiology, Herlev Hospital, University of Copenhagen, Denmark.
[目的]術野への局所浸潤麻酔と硬膜外麻酔の組み合わせが術後鎮痛に影響を与えるかどうかを検討する.
[背景]術後の疼痛を軽減する新しい目標の一つは痛みを治療するよりもむしろ予防することである.手術により組織を損傷した場合,神経系には2つの変化が生じているという病態生理学的な実験研究がある.末梢神経系の機能的変化:知覚過敏と中枢神経系の機能的変化:異常興奮性を引き起こす.これらの変化が痛み知覚の増強を引き起こすとされている.知覚過敏と中枢神経系の異常興奮性を抑える一つの方法は術野からの求心性の入力を減少させることである.あるグループはブピバカインを使用した硬膜外麻酔で中枢神経系への求心性入力が抑えられなかったことを示している.一方,術野への局所浸潤麻酔が術後痛を軽減したという報告も存在する.これらの硬膜外麻酔と術野への局所浸潤麻酔を組み合わせた場合について検討してみる余地がある.
[研究の場]手術室−術後の病棟
[対象]40名の上腹部手術を受ける患者
[方法]無作為に2群にわける.
(1)グループ1:術野に0.25%ブピバカイン40mlを局所浸潤(19名)
(2)グループ2:何も処置しないもの(21名)
両群とも術中は胸部硬膜外麻酔(0.5%ブピバカイン9mlと2mgモルヒネを初回投与,1時間毎に0.5%ブピバカイン3ml追加)と全身麻酔(0.5-1.5%エンフルレンと笑気:酸素=2:1,ベクロニウム)で術中は維持する.
[術後鎮痛処方]0.25%ブピバカイン4ml/hourとモルヒネ2mg/hourで72時間注入ポンプで持続硬膜外注入.それ以外に患者の要求があった場合には0.15mg/kgにモルヒネ筋注
[痛みの評価]手術開始6,8,24,32,48,56,72時間で評価.安静時,体動時,咳嗽時のVASとverbal rate スコア(0=痛みなし,1=軽度の痛み,2=中等度の痛み,3=激しい痛み,4=耐えがたい痛み)を記録.知覚レベルはピンプリックで確認.
[結果]安静時と咳嗽時には両群の差はなかったが体動時には(1)が痛みは低く抑えられた.
モルヒネの1日あたりの必要量は全経過を通じて(1)が少なかった.
[結論]術野への局所浸潤麻酔と硬膜外麻酔の組み合わせは術後疼痛を軽減する.
そのメカニズムとしては神経系の過敏性を抑制するか局所麻酔薬の抗炎症作用による可能性が考えられる.
[抄者註]対照群で生理食塩水をプラシーボとして使用しなかったのは,生理食塩水を組織に浸潤させると術後の偽陽性の痛みを引き起こす恐れがあったためであるとしている.

抄録者:讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>


日本語タイトル:鼠径ヘルニア修復術前あるいは術後に神経ブロックした場合の術後疼痛は違うか? menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名・巻・初めと終わりのページ,年:
Effect of pre- vs postoperative inguinal field block on postoperative pain after herniorrhaphy.
Dierking GW, Dahl JB, Kanstrup J, Dahl A, Kehlet H.
Br J Anaesth 68: 344-348;1992.
施設:Department of Anaesthesia, Hvidovre University Hospital, Copenhagen, Denmark.
[目的]鼠径ヘルニア修復術後の術前あるいは術後に神経ブロックした場合,術後疼痛が違うかどうかを検討する.
[背景]動物実験では,手術などで組織の損傷を引き起こしたときに生じる中枢神経系の感作は,侵害刺激の求心性入力を局所麻酔薬などでブロックすることにより防ぐことができる可能性があるとされている.臨床でもpreemptive analgesiaを確認する.
[研究の場]手術室−一般病棟
[対象]32名の健康な鼠径ヘルニア手術を受ける患者
[方法]二重盲検.乱数割り付け.
(1)手術15分前に1%リグノカインで鼠径部のブロック
(2)術直後に1%リグノカインで鼠径部のブロック
に無作為にわけVASを以下のように測定
もし,一般病棟に帰室後,痛みがあれば0.125mg/kgのモルヒネを投与.他の鎮痛薬はいっさい投与しない.
[測定]術後1,2,4,6,8時間と7日目にVAS(安静時,仰臥位から坐位への体位変換時,咳嗽時)を測定.モルヒネの必要量
[結果]いずれの時期にもVAS,モルヒネの必要量とも2群間で差は見られなかった
[結論]術直後から術後1週間までのいずれの時期にも,ブロックした時期の違いが術後鎮痛に対して影響を及ぼさなかった.
[抄者註]比較的軽い侵襲の手術でのPreemptive analgesiaの失敗例.
著者らは,preemptive analgesiaを成功させるためには様々な鎮痛薬を組み合わせて行う”balanced analgesia”を推奨している.(Balanced analgesiaという言葉をはじめに用いたのはBr J Anaesth 63:189-195,1989でKehletである)

抄録者:讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>


日本語タイトル:ロピバカインの術野への局所浸潤麻酔は胆摘後の痛みを軽減するか? menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名・巻・初めと終わりのページ,年:
Preoperative local infiltration with ropivacaine for post operative pain relief after cholecystectomy.
Johansson B, Glice H, Hallerb劃k B, Dalman P, Kristoffersson A
Anesth Analg 78: 210-214;1994.
施設:Department of Surgery, NL, Sweden
[目的](1)術前の局所浸潤麻酔が術後1週間までの術後痛を軽減するかどうかを検討する(2)ロピバカインの0.25%と0.125%の浸潤麻酔力を比較
[背景]術前に局所浸潤麻酔を行っておくと術後の疼痛を軽減するという多くの報告がある.機序としては,中枢神経系に入る侵害刺激を局所麻酔による神経ブロックが抑制し,術後痛を持続させると考えられる中枢神経の過興奮性の持続を抑制するという仮説に基づいている.
また,ロピバカインは新しい長時間作用型のアミド型の局所麻酔薬で,プピバカインに構造が類似し麻酔作用はブピバカインと等しいが心筋毒性や中枢神経系に対する作用はブピバカインよりも少ないという利点がある.
[研究の場]手術室
[対象]開腹の胆のう摘出術をうける患者69名
[方法]乱数割り付け,二重盲検法,プラセーボに対照をおいたもの.腹壁の切開線に沿って局所浸潤麻酔を行った.(1)0.25%ロピバカイン70ml,(2)0.125%ロピバカイン70ml,(3)生理食塩水70mlの3群で検討.
[測定項目]安静時の創部痛,体動時の創部痛,を6,26,50,74時間後と7日後に測定.術後の鎮痛剤の使用量を測定.血中のコルチゾールや血糖を測定.
[結果]6時間後の体動時の創部痛は用量依存性に減少.耐えることができる最大の痛みをおこす圧力は増加.それ以後の痛みに関する違いはない.術後はじめて鎮痛剤を要求するまでの時間は(3)では(1)に比べて早かった.血中のコルチゾールや血糖にも差はない.
[考察]この研究のような開腹術では牽引こうで牽引を行うので,局所浸潤により麻酔される範囲以外にも組織損傷が生じている.今回の局所浸潤麻酔で侵襲が及ぶすべての範囲をカバーしていなかったと考えられる.
[結論]この結果は,ロピバカインの効果が残存していたと考えられ,術前の局所麻酔薬の投与が炎症反応や引き続き起こってくる知覚過敏を抑制するという仮説を指示するものではない.
[抄者註]この報告はpreemptive analgesiaの仮説を実証しようとして失敗した例である.この論文には失敗する要因が多く含まれており,同じ失敗をしないようにするためにこういった論文を読むことは参考になる.

抄録者:讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>


日本語タイトル:術後痛と(Wound Hyperalgesia)痛覚過敏に対するフェンタニルとケタミンの先手効果 menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名・巻・初めと終わりのページ,年:
Preemptive effect of fentanyl and ketamine on postoperative pain and wound hyperalgesia.
Tverskoy M ; Oz Y ; Isakson A ; Finger J ; Bradley E L Jr ; Kissin I
Anesthesia and Analgesia 78(2): 205-209. 1994.
施設:Dep. Anesthesia, Brigham and Women's Hosp., Harvard Med. Sch., MA, USA.
[目的]フェンタニルあるいはケタミンを使用した麻酔が術後疼痛と痛覚過敏を減少させるという仮説を検証する.
[背景]Preemptive analgesiaという概念が基礎研究から派生し,科学的にも臨床的にも術後疼痛管理を向上させるものとして脚光を浴びている.侵害刺激にたいする選択的効果を持つ薬物として局所麻酔薬,オピオイド,NMDA受容体作動薬が注目されている.ケタミンは非競合性NMDA受容体作動薬で鎮痛作用を備えている.オピオイドとは対照的にケタミンはナロキソンによって拮抗されない.このことは,ケタミンは,臨床的にはオピオイド受容体に関与していないと考えられる.こういった別々の作用機序の薬剤を使用してpreemptiva analgesiaを検証する.
[研究の場]手術室−病棟
[対象]経腹的子宮摘出術をうける患者27名
[方法]二重盲検,無作為抽出で3群にわけた.(1)フェンタニル群:フェンタニル5mg/kgとチオペンタール3mg/kgで導入しイソフルレンと0.02mg/kg/min フェンタニルで維持(2)ケタミン群:ケタミン2mg/kgとチオペンタール3mg/kgで導入しイソフルレンとケタミン2mg/kg/minで維持(3)対照群:チオペンタール5mg/kgで導入しイソフルレンだけで維持.すべての患者は術後適切な疼痛管理をうけた.
[測定項目]自発痛や体動に関連した痛みをVASで評価.圧痛計による痛みの閾値の測定
[結果](1)と(2)は(3)に比較して痛みの閾値の上昇を認めた.
自発痛と体動時痛には群間に差を認めなかった.
[結論]フェンタニルとケタミンは手術患者において,術後の痛覚過敏状態にたいして先制抑制効果を示す.
[抄者註]
脊髄の侵害受容過程において詳細なNMDA受容体の役割はいまだはっきりしないが,多シナプス侵害受容伝達を変調することに関与しているらしい.

抄録者:讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>


日本語タイトル:Preemptive analgesia:術後疼痛に関与する神経の可塑性の臨床的証拠 menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名・巻・初めと終わりのページ,年:
Preemptive analgesia: Clinical evidence of neuroplasticity contributing to postoperative pain.
Katz J ; Kavanagh B P ; Sandler A N ; Nierenberg H ; Boylan J F ; Friedlander M ; Shaw B F
ANESTHESIOLOGY 77(3): 439-446;1992.
施設:Psychol. Dep., Toronto Hosp., Toronto General Div., Toronto, Can.
[目的]開胸術後痛に対する、侵襲を加える前に硬膜外腔に投与されたオピオイドの鎮痛効果と術切開や肋骨牽引の関与を評価する.
[背景]外科的切開や他の侵襲的な周術期のイベントが、後になって術後疼痛に関与するような遷延する中枢性の変化を引き起こすことがあると言われている.
[対象]後側方切開による開胸術を予定された患者 30名.
[方法]二重盲検試験.全例、硬膜外カテーテルは術前にL2/3またはL3/4から挿入.
(1)グループ1:術切開前30分以上、4mg/kgフェンタニール(20ml生食中)を投与し,続いて切開後15分から生食20mlを投与.
(2)グループ2:術切開前30分以上、生食20mlを投与し引き続いて切開後15分から4mg/kgフェンタニール(20ml生食中)を投与.
全身麻酔は酸素/笑気とハロセンまたはイソフルレンで維持.
リカバリールームでPCAポンプを装着し看護婦が2mgのモルヒネをbolusで静脈内投与.リカバリールームにいる間は、10分毎に痛みに対する処置が必要かどうかを聞き、必要と答えた場合には1.5mgのモルヒネをbolusで静脈内投与.
この手順は患者が自分でPCAポンプを操作できるようになるまで繰返した.PCAポンプは1回当たり1.5-2.0mgがbolusで静脈内投与されるよう(不応時間は7-10分)に設定.PCAによる投与は48時間続け,この間に他の鎮痛薬は投与しなかった.
[測定項目]術後、2,4,6時間に,血漿フェンタニール濃度測定.VASを用いて術後2、4、6、8、12、24、48時間に痛みの強さを評価.
[結果]
年齢を除いて2つのグループ間に有意差はない.これは、(2)の2人の患者が全症例の平均より2SD以上はなれているために起こったもので,この2人を除外したばあい、年齢、VASスコア、モルヒネの必要量に2グループ間での有意差ない.
(1)のフェンタニール投与開始は、平均で切開85分前に開始したことになる。
術後6時間でのみ(1)と(2)のVASに有意差があるが,血漿フェンタニールの濃度(<0.15ng/ml)からは説明がつかない.
このときまでに使用したPCAモルヒネの使用量は(1)19.5ア2.2mg,(2)16.8ア2.1mg.しかし,術後12-24時間のPCAモルヒネの使用量は(1)11.7ア2.2mg,(2)26.1ア5.2mgと有意差があるが,VASスコアは有意差がない.副作用は観察されなかった.
[結論]preemptive alalgesiaは侵害刺激が中枢神経系に入るのを抑制することで外科的切開や肋骨牽引といった侵襲が中枢へ伝わるのを抑制するのかも知れない.
[抄者註]2群間の痛みの差は手術終了後6時間まで現れなかった.この時点までに差が現れなかったことは,手術侵襲の中枢への影響が十分に形成されるのに要する時間の因子や術後早期において中枢神経系の成分をマスクするような損傷部位からの末梢の入力の関与を反映しているのかも知れない.

抄録者:讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>


日本語タイトル:総説: Preemptive Analgesia menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名・巻・初めと終わりのページ,年:
The valuable of pre-emptive analgesia in the treatment of postoperative pain.
Dahl JB, Kehlet H.
Br J Anaesth 70:434-439;1993.
[目的]総説.最近の臨床研究の論文からpre-emptive analgesiaを分析する
[背景]pre-emptive analgesiaは基礎研究から発生した概念である.近年,臨床にこの考え方が取り入れられ,pre-emptive analgesiaに関する多くの臨床研究がなされている.
[pre-emptive analgesiaとは]臨床においては術後痛の予防に関連した概念である.手術により神経や組織の損傷が引き起こされた場合,中枢神経系の感作による知覚過敏状態が術後痛に関与しているとされている.近年の動物実験で,神経や組織の損傷が引き起こされる前に神経遮断あるいは鎮痛剤の投与を行うことで中枢神経系の感作を予防できるという説が提唱された.
[臨床研究の要約]
(1)術前と術後の局所麻酔薬による神経遮断が術後痛に対する違い
(2)術前の局所麻酔薬による神経遮断をした場合としなかった場合の違い
(3)オピオイドによるpre-emptive analgesia
(4)NSAIDによるpre-emptive analgesia
(5)その他:組み合わせによるpre-emptive analgesia
臨床研究を5つに分類し評価している.
[考察と結論]すべての手術において,pre-emptive analgesiaが証明できたわけではなく,むしろ臨床研究ではその有効性に疑問を投げかける論文も少なくない.臨床でのpre-emptive analgesiaを証明するには,もっとうまいデザインの臨床研究が必要である.
[抄者註]pre-emptive analgesiaは無理矢理に日本語にするなら「先制鎮痛」あるいは「先手鎮痛」というのだろうか.なにかピンとこないのでそのままpre-emptive analgesiaという語を使用した.
Woolf CJ, Chong M-SらのAnesth Analg 77:362-379,1993.とともに読むとpre-emptive analgesiaを理解する上で非常に参考になる.

抄録者:讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>


日本語タイトル:胆嚢摘出術後の硬膜外スフェンタニルを胸部と腰部に投与した場合の違い menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名・巻・初めと終わりのページ,年:
Postoperative pain treatment after cholecystectomy with epidural sufentanil at lumbar or thoracic level.
Verborgh C, Claeys M, Vanlersberghe C, Camu F.
Acta Anaesthesiol Scand 38(3): 218-22;1994.
施設:Department of Anaesthesiology, Flemish Free University of Brussels, Belgium.
[目的]胆嚢摘出後の鎮痛のために硬膜外腔にスフェンタニルを胸部から投与した場合と腰部から投与した場合の違いを調べる.
[背景]スフェンタニル,オ受容体にたいする選択性が非常に高い高脂溶性のオピオイド,を術後疼痛処置として硬膜外に投与することはよく行われている.高脂溶性の薬物を硬膜外に投与した場合,すばやく脊髄に吸収されるので,的確な分節鎮痛ができるとされている.したがって,胆摘術後の疼痛処置としては腰部(L3-4)
より下胸部(D6-7)に入れる方が優れているはずである.このことを検証する.
[研究の場]手術室−回復室
[対象]50名の胆のう摘出術をうける患者
[方法](1)グループ1:L3-4より硬膜外カテーテル挿入(2)グループ2:胸部(D6-7)より硬膜外カテーテル挿入.
50mgスフェンタニルを生食10mlに希釈して投与し,以下の測定項目について(1)と(2)の違いを観察.これとは別に,それぞれの群に75mgスフェンタニルを投与して血漿中のスフェンタニル濃度を観察.
[測定項目]痛みの評価(VAS),心拍数,平均動脈圧,呼吸回数,最大呼気流速(PEF),FVC,FEV,PaCO2
[結果]4時間後まで満足できる鎮痛がえられた.投与後10分後では両群ともペインスコアは3以下,20分後から2時間後までの平均のペインスコアは1以下であった.PEFとFVCは1,2,4時間後では注入前にくらべると改善.
呼吸数は(1)では6時間後まで(2)では2時間後まで減少が見られた.
PaCO2は両群とも最初の1時間のみ上昇.
血漿スフェンタニルの濃度の最高値は注入5分後で(1)は0.3ng/ml(2)は0.38ng/mlであった.
[考察]希釈容量10mlとしたのは腰部と胸部の差をとらえるには多すぎたのではないか.
[結論]疼痛の軽減と呼吸の変化からみると腰部と胸部の差はない.
[抄者註]最初の仮定どうりの結果が得られなかった理由は,考察にも述べられているとおり,研究デザインがまずかった.しかし,術後6時間までの測定ポイント(時刻)が多いため経時的な変化はよく観察されている.

抄録者:讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>


日本語タイトル:上胸部硬膜外からのスフェンタニルとブピバカインの持続注入−高容量と低容量の違い menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名・巻・初めと終わりのページ,年:
High thoracic epidural sufentanil with bupivacaine: continuous infusion of high volume versus low volume.
Snijdelaar DG, Hasenbos MA, van Egmond J, Wolff AP, Liem TH
Anesth Analg 78(3):490-494;1994.
施設:Department of Anesthesiology, St. Radboud Hospital, University of Nijmegen, Nijimegen, The Netherlands
[目的]上胸部硬膜外からのスフェンタニルとブピバカインを持続注入し高容量と低容量で効果が異なるかどうかを検討する.
[背景]開胸術後の疼痛は腹部や四肢の手術ごの疼痛より長く持続する.硬膜外からスフェンタニルとブピバカインを投与すると呼吸機能の障害も少なく,十分な術後鎮痛が得られるという報告が散見される.Bromageは局所麻酔薬を投与した場合の硬膜外腔での拡がりや質を決定するのは総容量ではなく総投与量であると報告している.スフェンタニルの硬膜外投与を行った研究では高容量に希釈した方が効果がよいとしている.しかし,これらの研究は一回投与のもので持続投与のものはない.
[研究の場]手術室−術後観察室
[対象]60名の胸部手術を受ける患者
[方法]TH3-4から頭側向きに3-4cm硬膜外カテーテルを挿入.
(1)高容量群:0.7mg/mlのスフェンタニルを含んだ0.125%ブピバカインを6-8ml/hで持続硬膜外注入(総量は7.5-10mg/hのブピバカインと4.2-5.6mg/hのスフェンタニル)
(2)低容量群:4mg/mlのスフェンタニルを含んだ0.125%ブピバカインを1-1.3ml/hで持続硬膜外注入(総量は7.5-9.75mg/hのブピバカインと4-5.2mg/hのスフェンタニル)
上記の注入でもVASが3以上の場合には,(1)では6-8ml(2)では1.0-1.3mlの硬膜外1回注入がおこなわれ,(1)では1.2ml/hずつ(2)では0.2ml/hずつ投与速度を増加させた.
術後3日間観察する.
[測定項目]安静時と体動時のVAS,副作用[悪心嘔吐,掻痒感,低血圧,呼吸抑制(呼吸回数10回以下,PaCO2 52.5mmHg以上)]
[結果]術後1日目は(2)では安静痛があったために1回以上の別の硬膜外注入が必要であったが2−3日目は差はなかった.体動時痛や副作用発生の頻度に違いはない.術前のPaCO2に比べて術後1日目のPaCO2は両群とも高値.
[結論]術後1日目の安静時痛に対してのみスフェンタニル/ブピバカインの高容量投与が低容量投与に勝っていたが,体動時痛に関しては両群に違いはない.
[抄者註]他の同様の報告(Reg Anesth 18:39-43,1993/Acta Anaesth Scand 36-70-74,1992/Reg Anesth 16:65-71,1991)に比較してスフェンタニルの投与量が少ない.本研究では4-5.6mg/hであるのに対して他の報告は6-8mg/h.この違いが体動時痛を抑えられなかった原因であると考察している.また,PaCO2は他の報告よりも低く抑えられている.

抄録者:讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>


日本語タイトル:低濃度ブピバカインは術後硬膜外フェンタニルの作用を増強するか? menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名・巻・初めと終わりのページ,年:
Bupivacaine 0.125% improves continuous postoperative epidural fentanyl analgesia after abdominal or thoracic surgery.
Badner NH, Bhandari R, Komar WE
Can J Anaesth 41(5 Pt 1): 387-92;1994.
施設:Department of Anaesthesia, University Hospital, University of Western Ontario, London, Canada
[目的]0.125%ブピバカインを硬膜外フェンタニルに加えた場合,フェンタニル単独の副作用を抑え,その鎮痛作用を増強するあるいはフェンタニルの必要量を減少させる作用があるかどうか検討する.
[背景]近年,多くの研究者が術後鎮痛のための硬膜外腔投与で麻薬と局所麻酔薬の併用投与を推奨している.理論的には麻薬と局所麻酔薬は作用機序が異なり,併用した場合の効果は相加的でお互いの必要量を減少させ,副作用も補いあうはずである.硬膜外局所麻酔薬投与は交感神経ブロックによる低血圧と知覚神経や運動神経のブロックが歩行の妨げになる.麻薬は呼吸抑制,掻痒感,悪心・嘔吐や尿閉が問題となる.しかし,副作用を最小限に抑えるような効果的な麻薬と局所麻酔薬の組み合わせは,これまで検討されていない.
[研究の場]手術室−PACU−一般病棟
[対象]腹部あるいは胸部の予定手術患者39名
[方法]二重盲検試験.以下の3群にわけられる.
(1)10mg/mlのフェンタニルのみ(2)フェンタニルと0.125%ブピバカイン(3)フェンタニルと0.25%ブピバカイン
手術創を閉めはじめたときに硬膜外にbolusで0.1ml/kgの上記の薬剤を投与,以後6.0ml/hで持続投与されVASが40未満になるように投与速度をコントロール.
[測定項目]VAS(0-100)で鎮痛効果測定,呼吸機能(pH,PaCO2),腸管運動(放屁と飲水開始),副作用(鎮静,悪心嘔吐,掻痒感,知覚低下,運動神経遮断,血圧低下)
[結果](2)は(1)に比較して全経過を通じてVASが低く抑えられた.
平均の硬膜外注入速度,術後呼吸機能,腸管運動機能に差はない.
副作用のうち鎮静,悪心嘔吐,掻痒感に差はない.
(3)より(2)の方が知覚低下と運動神経遮断が少ない.
[結論]胸部または腹部手術後の鎮痛において,硬膜外腔に0.125%ブピバカインを加えると硬膜外フェンタニルの作用を増強し,知覚−運動神経遮断も少ない.
[抄者註]驚くべき結果である.なんと(3)よりも(2)の方がVASが低く抑えられている.これに関して,本論文ではtitration protocol(VASが40未満になるように投与速度をコントロール)が使われたからだと説明してあるが…

抄録者:讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>


日本語タイトル:モルヒネ静注と硬膜外ブピバカインでの副作用の比較 menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名・巻・初めと終わりのページ,年:
Comparison of the respiratory effects of i.v. infusions of morphine and regional analgesia by extradural block
Clyburn PA, Rosen M, Vickers MD
Br J Anaesth 64(4):446-449;1990.
施設:Department of Anaesthetics, University of Wales College of Medicine, Cardiff
[目的]上腹部手術後の鎮痛に静注でモルヒネを使用した場合と硬膜外ブピバカインを使用した場合の中枢性あるいは閉塞性の無呼吸の起こる頻度を調べる.同時にECGモニターを使用して心臓のリズムの変化を検出する.
[背景]オピオイドは中枢性の呼吸抑制,主として呼吸回数の減少と分時換気量の減少を引き起こし,血中の炭酸ガス分圧を増加させ,ひいては低酸素を引き起こす.このような患者では低酸素血症による不整脈により突然死を来す可能性がある.
[研究の場]手術室−術後観察室
[対象]上腹部手術を受ける患者10名
[方法]無作為に2群にわける.術後鎮痛には(1)硬膜外カテーテル(Th7-8)からブピバカインを注入(初回0.25%ブピバカイン10ml投与後,0.25%ブピバカイン6ml/hで持続注入)(2)静注でモルヒネ投与(2mgを5分毎に楽になるまで投与し,4mg/hまでの速度で持続静注)とする.
麻酔導入はチオペンタール4mg/kg,非脱分極性筋弛緩薬,麻酔維持は笑気/酸素,0.5-1.0 MACのハロセンまたはエンフルレン,200mgまでのフェンタニル.
[測定項目]呼吸のモニタとECGの観察
[結果]呼吸数,平均呼気終末CO2,閉塞性無呼吸の回数,中枢性無呼吸の回数,不整脈の頻度,頻脈の起きる頻度のすべてにおいて(2)が劣っていた
ブピバカインは平均で192mg,モルヒネの静注は平均73.6mg使用した
[結論]ECGモニタのみではモルヒネを静注投与する際には,十分な呼吸のモニタとはいえない.
[抄者註]あたりまえの結果である.モルヒネの静注は1日以上に渡って投与され平均73.6mgも使用している.この論文は,硬膜外鎮痛とオピオイドの比較というよりも,モルヒネを患者が満足できるまで静注すると大変なことがおこることを示す啓蒙的な論文であると解釈したい.1990年の論文で少し古いが,モルヒネを患者の満足が得られるまで静注する方法が,あまりにも恐ろしい術後鎮痛法であるのでとりあげた.

抄録者:讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>


日本語タイトル:硬膜外ブピバカインが術後の麻痺性イレウスを防止する menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名・巻・初めと終わりのページ,年:
Epidural analgesia with bupivacaine reduces postoperative paralytic ileus after hysterectomy.
Wattwil M, Thoren T, Hennerdal S, Garvill JE
Anesth Analg 68(3):353-358;1989
施設:Department of Anesthesiology and Intensive Care,rebro Medical Center Hospital, Sweden.
[目的]子宮摘出術後の患者に硬膜外ブピバカインと間歇的なオピオイドの筋注で腸管の運動性に違いがあるかどうかを調べる.
[背景]腹部手術後には腸管の運動性が低下する.この「術後イレウス」は特に結腸において持続し,遠心性神経としての交感神経が腹腔からの脊髄反射を賦活化するためと考えられている.硬膜外鎮痛法はこのような反射を抑えるために術後鎮痛法として理想的であるとされるが,腸管運動を回復させることに関してはこれまでの研究では効果は疑わしい.術後の疼痛緩和には非経口のオピオイドが使用されるが,硬膜外オピオイドも含めて,これらは腸管の運動性を減少させる.
[対象]40名の子宮摘出術を予定した患者.
[方法]術前に無作為に(1)硬膜外群と(2)対照群にわける.
(1)術中の麻酔は硬膜外持続注入と軽い全身麻酔,術後26-30時間ブピバカインの持続硬膜外注入
(2)術中は全身麻酔のみ,術後は5mgケトベミドン(モルヒネと等力価のオピオイド)の間歇的な筋注
術中は(1)はオピオイドは使用せず(2)はフェンタニルを使用
(1)の硬膜外麻酔はT12-L1で穿刺し少なくともT6レベルまでピンプリックでの知覚遮断が得られるように0.5%ブピバカインを適宜使用
[研究の場]術後の病棟
[測定項目]排便と結腸運動性,術後の疼痛軽減(VASと他の痛みの評価法),血糖値(術前,皮切1,3,6,9,20時間後)
[排便と結腸運動性の観察]放屁と排便は病棟看護婦による記録,結腸の運動性は放射線非透過のマーカーを使用(術前夜に10-20mmの放射線非透過のポリエチレンのチューブ4個を含んだマーカーをのませる.術直後から12時間ごと術後4病日までs状結腸−直腸に到達したかどうかを観察)
[結果]排便と結腸運動性−放屁と排便は(1)が早くおこった.マーカーの平均の位置も(1)の方が,術直後と術後1日目は遠位にあり,この時期には(2)ではマーカーは動かなかった.
術後の疼痛軽減−VASでも他の痛みの評価法でも(1)の方が優れていた.
血糖値−皮切後3,6,9時間で(1)が低値
[結論]術後イレウスは硬膜外ブピバカインを使用した方がオピオイドを使用するより短期間に抑えられた.
[抄者註]対照群と硬膜外群の術中の麻酔法が異なっている.これで,対照群といえるのだろうか.無理に上記の結果を引き出すために,対照群に極端に不利な麻酔と術後鎮痛法が選ばれているような気がしてならない.

抄録者:讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>


日本語タイトル:術後痛に対する硬膜外モルヒネ/ブピバカインとフェンタニル/ブピバカインの比較 menu NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名・巻・初めと終わりのページ,年:
Comparison of continuous epidural infusion of morphine/bupivacaine with fentanyl/bupivacaine for postoperative pain relief.
Saito Y, Uchida H, Kaneko M, Nakatani T, Kosaka Y
Acta Anaesthesiol Scand 38(4): 398-401;1994.
施設:Department of Anesthesiology, Shimane Medical University, Japan.
[目的]胸部や上腹部手術後にモルヒネやフェンタニルとブピバカインの組合せで持続硬膜外注入を行う場合の効果を比較する
[背景]術後鎮痛法として硬膜外腔にオピオイドと局所麻酔薬を併用投与することが一般的に行われている.
 高脂溶性オピオイドと局所麻酔薬の組合せは低脂溶性オピオイドと局所麻酔薬の組合せより利点があるとされている.しかし,持続硬膜外注入ではこれらの組合せの違いは検討されていない.
[研究の場]ICU
[対象]85名の胸部や上腹部手術を受ける患者
[方法]麻酔導入前に手術部位に応じてTh5-Th9の間に硬膜外カテーテルを挿入.麻酔は笑気/酸素,ハロセンまたはイソフルレンと0.2-0.5mgのフェンタニルで行った.術中は2%メピバカインを8-10ml間歇的に注入.
術後48時間,シリンジポンプで硬膜外腔にオピオイドとブピバカインを投与する.
(1)MB群:0.2mg/hモルヒネと10mg/hブピバカインを術後最初の24時間投与し,次の24時間には5mg/hブピバカインを投与(2)FB群:20mg/hフェンタニルと10mg/hブピバカインを術後最初の24時間投与し,次の24時間には5mg/hブピバカインを投与.どちらも4ml/hとなるように投与.追加投与が必要な場合には,同薬液を1ml/hずつ増量し4mlbous投与.それでも鎮痛が得られない場合には15mgのペンタジンまたは0.2mgのブプレノルフィンを静注.
[評価]VASとPrince Henry Pain Scoreで評価
[結果]どちらも満足のいく鎮痛が得られた.どちらの群も3/4の患者が追加の鎮痛を必要としなかった.鎮痛効果に差はなかった.
呼吸抑制をきたした症例はなかった.
(1)が(2)より低血圧や掻痒感が多い.
[考察]低脂溶性のモルヒネより高脂溶性のフェンタニルのほうが速く脊髄に浸透し,CSF中に存在するフェンタニルが少ないので頭側にも拡がりにくい.
[結論]モルヒネ/ブピバカインよりフェンタニル/ブピバカインの方が低血圧,掻痒感が少ない.鎮痛効果はどちらも同じ.
[抄者註]島根医科大学の斉藤先生の論文である.

抄録者:讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>


日本語タイトル:開腹術後の硬膜外フェンタニルとブピバカインの併用の利点 menu PREVIOUS
原語タイトル,著者,雑誌名・巻・初めと終わりのページ,年:
Comparison of extradural fentanyl, bupivacaine and two fentanyl-bupivacaine mixtures for pain relief after abdominal surgery.
Torda TA, Hann P, Mills G, De Leon G, Penman D
Br J Anesth 74(1):35-40;1995.
施設:Department of Anaesthesia and Intensive Care, Prince Henry and Prince of Wales Hospitals, Sydney, Australia.
[目的]硬膜外フェンタニルとブピバカインの併用投与が開腹手術後の患者にどの程度有効であるかを検討
[背景]硬膜外にオピオイドと局所麻酔薬を併用投与することが広く行われている.帝王切開や無痛分娩の硬膜外鎮痛にオピオイドと局所麻酔薬を併用投与し相乗作用を認めた文献は散見されるが,腹部大手術後では結果は報告者により異なり,一定した見解は得られていない.
[研究の場]手術室−ICU
[対象]開腹術後ICU入室予定患者24名
[方法]Th7-Th11より硬膜外チューブを留置.
(1)50mgフェンタニル(2)50mgブピバカイン(3)50mgフェンタニルと25mgブピバカイン(4)50mgフェンタニルと12.5mgブピバカインの4群に無作為に分け総容量10mlを硬膜外腔に投与する.
[測定項目]痛みの評価(VAS,Prince Henry Hospital pain score),呼吸回数,心拍数,動脈圧,中心静脈圧
[結果]各群とも投与前後で心拍数は減少.呼吸数は減少.動脈圧も減少.CVPは変化なし.疼痛も減少.
呼吸回数,心拍数,中心静脈圧に群間の差はみられなかった.
痛みの評価(VAS,Prince Henry Hospital pain score)でも群間の差はみられなかった.
動脈圧でブピバカイン単独群で他の群との差を認めた(投与前に比較して25%以上の低血圧になりやすい)
[結論]フェンタニル単独に比較してフェンタニル−ブピバカインあるいはブピバカイン単独では鎮痛効果に関しては差はない.ただブピバカイン単独に比較すると低血圧になりにくい.
[抄者註]Prince Henry Hospital pain scoreとは腹部あるいは胸部手術後の痛みの客観的な評価法で0,1,2,3の4段階で評価する.痛みがあればScore3,深呼吸をして痛みがあればScore2,大きな咳をしたときに痛みがあればScore1,上記のどれでも痛みがなければScore0とする.

抄録者:讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>