● 「周術期の虚血(1)」によせて 広島大学医学部麻酔・蘇生学 讃岐美智義
5.イソフルレンは術中の心筋虚血を増強させない(人工心肺を使用しない場合)
8.側副路も閉塞した冠動脈疾患患者と麻酔薬に関連した心筋虚血
9.術前の無症候性心筋虚血:一般外科手術症例における頻度と因子予測
11.
PR間隔の延長は脊椎麻酔時の徐脈を誘発する危険因子である
広島大学医学部麻酔・蘇生学 讃岐美智義
手術に関連したイベントの中で,昔からよく取り上げられているものの一つに虚血がある.虚血は全身に起こる.そこで,心臓や脳に限らず幅広く全身から虚血をテーマに選ぼうと文献探しを試みた.しかし,ヒットするものは心臓の虚血と脳虚血に関するものが大半を占めていた.心臓や脳の虚血が研究しやすいテーマなのであろうか.重要な臓器なので研究テーマとしてはインパクトがあるのだろうか.腸管の虚血,肝や腎の虚血,眼の虚血など考えれば,虚血に陥ると困る重要な臓器は多い.しかし,文献の数は麻酔科医の興味の順に決まってくるのではないかと想像される.そこで,一番文献の数が多かった心臓の虚血を,”周術期の虚血”の第一弾としてテーマに選んだ.
タイトル
1. 股関節手術を脊椎麻酔で行ったときの周術期の心筋虚血
2. 下肢血管手術の周術期合併症〜硬膜外麻酔と全身麻酔〜
3. 術中の不慮の低体温は術後心筋虚血につながる
4. CABGでのイソフルレンとエンフルレンの比較
5. イソフルレンは術中の心筋虚血を増強させない(人工心肺を使用しない場合)
6. セボフルレン麻酔中の虚血心筋の潅流
7. 術中の血行動態の変化は心筋虚血の指標にはならない
8. 側副路も閉塞した冠動脈疾患患者と麻酔薬に関連した心筋虚血
9. 術前の無症候性心筋虚血:一般外科手術症例における頻度と因子予測
10. 周術期の心拍数が関与する無症候性心筋虚血と術後死亡
11. PR間隔の延長は脊椎麻酔時の徐脈を誘発する危険因子である
12. 帝王切開患者の心臓由来の酵素
13. 局所麻酔下の帝王切開術中の心電図変化
1,2は全身麻酔と硬膜外または脊椎麻酔時の虚血.
3は虚血の起こる何らかの状況で,心筋虚血とその状況を関連づけている文献
4,5,6は麻酔法別の虚血の検討に関するもの(これらは,主としてイソフルレンの盗血現象について検討している).
7,8,9は何らかの因子が心筋虚血を予測できるかどうかを検討したもの
9,10は無症候性心筋虚血に関するもの.
11,12は心電図のSTの変化が起きていても心筋虚血,心筋ダメージを反映しない例として,帝王切開術のST変化を示したもの.<MW>
日本語タイトル:股関節手術を脊椎麻酔で行ったときの周術期の心筋虚血
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Perioperative myocardial ischemia in patients undergoing elective hip
arthroplasty during lumbar regional anesthesia.
Marsch, S. C. ; Schaefer, H. G. ; Skarvan, K. ; Castelli, I. ;
Scheidegger, D.
Anesthesiology 76(4): 518-27 1992
施設:Department of Anaesthesia, University of Basle/Kantonsspital,
Switzerland.
[目的]股関節手術を脊椎麻酔で行う場合,周術期の心筋虚血がどのくらいの頻度で発生するかを調査する.
[背景]周術期の心筋虚血は予後不良の転帰であり心臓合併症や冠動脈疾患を合併した患者の約40%に起こるといわれている.
[研究の場]大学病院の手術室と病棟
[対象]変型性股関節症で予定手術を受ける50歳以上の約50名の患者
[方法]3チャンネルのホルター心電図を術前15-20時間前から術後6日目(第5病日)の午後まで装着する.CM5変法,CM3,aVF誘導を記録.ST変位の測定点はJ点から60ms後とし,2mm以上の上昇と,1mm以上の水平型あるいは下降型の低下を虚血と判定する.
[結果]99エピソードが16人の患者で発生した(31%)が,そのうち6人は術前に冠動脈疾患の可能性が低いと評価を受けていた患者であった.虚血のエピソードの44%は心拍数100pbm以上が先だって起こり,56%は90bpm以上が先だって起った.心筋虚血の96%は無症候性であった82%は患者管理に関連のないものであった.術前に13エピソード,術中に1,術後に85エピソードがおこった.術後の心筋虚血発作は日周期性をともなっていた:6時-12時までが44%,12時-18時まで33%,18時から24時までが17%,24時から6時までが6%であった.
[結論]心筋虚血は術直前や術後48時間が最も起こりやすいが,最も起こりにくいのは術中である.
[抄訳者註]虚血の起きる頻度と時期(時間)を調べている.虚血が最も起こりにくいのは術中であるのは,麻酔科医がうまくコントロールしているからではないのだろうか?
<抄訳者>讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:下肢血管手術の周術期合併症〜硬膜外麻酔と全身麻酔〜
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Perioperative morbidity in patients randomized to epidural or general
anesthesia for lower extremity vascular surgery. Perioperative
Ischemia Randomized Anesthesia Trial Study Group
Christopherson, R. ; Beattie, C. ; Frank, S. M. ; Norris, E. J. ;
Meinert, C. L. ; Gottlieb, S. O. ; Yates, H. ; Rock, P. ; Parker, S.
D. ; Perler, B. A. ; et, al.
Anesthesiology 79(3): 422-34 1993
施設:Johns Hopkins Medical Institutions, Baltimore, Maryland.
[目的]硬膜外麻酔(EA)と全身麻酔(GA)で同程度のストレスが加わる手術での周術期の合併症を比較する.
[背景]ハイリスク患者の周術期合併症は麻酔法の選択(局麻を選ぶか全麻を選ぶか)によって変わる可能性がある.
[研究の場]病院の手術室と病棟
[対象]100人の下肢の血行再建を受ける予定手術患者
[方法]術直後の麻酔管理は標準的なもの.術前日よりの心電図モニター,術後3日目まで継続.
心臓由来酵素の測定.心筋虚血,心筋梗塞,不安定狭心症,と心臓死亡は心臓専門医により判定.また,他の主な合併症は退院時と術後1ヶ月と6ヶ月で判定.
[結果]入院中に再血行再建術または血栓除去を受けた患者は全身麻酔で11例,硬膜外麻酔で2例であった.
心臓合併症は両群で変わりなかった.周術期死亡(EAで1例,GAで1例),6ヶ月以内死亡(EAで4例,GAで3例),7日以内の重篤でない心筋梗塞(EAで2例,GAで2例),不安定狭心症(EAは0,GAで2例)であった.無作為に追跡した心筋虚血は(EAで17例,GAで23例).感染(EAで1例,GAで2例),腎不全(EAで3例,GAで3例),肺合併症は(EAで3例,GAで7例)でいずれも有意差はなかった.
[結論]下肢の血行再建術におけるEAとGAの周術期の心臓合併症あるいは,他の重篤な合併症のおこる頻度の差はなかった.EAはGAに比較して,血流不全による再手術が少なかった.下肢の血行再建に対する手術の麻酔法としてはEAはGAよりこの点では有利であるかもしれない.
[抄訳者註]同様な症例を100例集めて検討しているが,有意差はなかった.しかしどの数字を見ても合併症はGAの方が多い.10000例ぐらい集まれば有意差がでるのかもしれない.また,EAの方が再手術が少ないと言うことは麻酔科医にとってもうれしいことである.
<抄訳者>讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:術中の不慮の低体温は術後心筋虚血につながる
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Unintentional hypothermia is associated with postoperative myocardial
ischemia. The Perioperative Ischemia Randomized Anesthesia Trial
Study Group.
Frank, S. M. ; Beattie, C. ; Christopherson, R. ; Norris, E. J. ;
Perler, B. A. ; Williams, G. M. ; Gottlieb, S. O.
Anesthesiology 78(3): 468-76 1993
施設: Johns Hopkins Medical Institutions, Baltimore, Maryland.
[目的]術後の低体温と心筋虚血の関係を調査する.
[背景]術中低体温になってしまうことがよくある.術後の再加温時,代謝要求の増大につながる.心合併症は麻酔や手術後によく問題となるが,周術期の心筋虚血と低体温の関係を調べたものはない.
[対象]100名の下肢血管再建術を受ける患者
[方法]術直後から24時間ホルター心電図を装着し,詳細を知らせていない心臓専門医によって心筋虚血を判定.心筋虚血の判定はJ点から60ms後で,2mm以上の上昇か1mm以上の水平型あるいは下降型の低下を虚血と判定.体温はICU到着時,舌下で測定し,低体温群(35℃未満:n=33)と正常体温群(35℃以上:n=67)の2つのグループに分ける.低体温と心筋虚血の関係を,単変量あるいは多変量解析で評価する.
[結果]心筋虚血を示すECG変化は,低体温群で36%(33例中12例),正常体温群で13%(67例中9例)と低体温群の方が有意に多かった.
周術期の心臓合併症を予測させる術前の危険因子は両群で年齢を除いて差はなかった(平均年齢は低体温群で70±2歳,正常体温群で62±1歳と差を認めた.).
術後心筋梗塞の頻度は,低体温群で18%(33例中6例),正常体温群で1.5%(67例中1例)と低体温群の方が有意に高い.
PaO2<80になる頻度は低体温群で52%(33例中17例),正常体温群で30%(67例中20例)と低体温群の方が有意に高い.
[結論]下肢血管手術中の不慮の低体温は心筋虚血,心筋梗塞,PaO2<80をひきこす.
[抄訳者註]教科書には,よく”術中の不慮の低体温は術後心筋虚血につながる”と書かれているが,それを証明したものといえる.
<抄訳者>讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:心筋虚血:CABGでのイソフルレンとエンフルレンの比較
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Myocardial ischemia: a comparison between isoflurane and enflurane in
coronary artery bypass patients
Diana, P. ; Tullock, W. C. ; Gorcsan, J 3d. ; Ferson, P. F. ; Arvan,
S.
Anesth Analg 77(2): 221-226 1993
施設: Department of Anesthesiology, University of Pittsburgh,
Montefiore University Hospital, Pennsylvania.
[目的]冠動脈疾患患者でエンフルレンよりイソフルレンの方が心筋虚血を引き起こしやすいかどうかを検討する.
[背景]イソフルレンは動物実験では冠動脈の盗血現象をひきおこし冠血管の拡張を引き起こす.冠動脈疾患を持ったヒトにイソフルレン麻酔を行った場合,心筋虚血が見られるが,低血圧,頻脈,手術刺激なども心筋虚血をひきおこし,これまでの報告のなかには盗血現象とは関係ない虚血が含まれている可能性がある.
[研究の場]手術室
[対象]38人の予定CABG患者(心機能はよい,EFは45%以上)
[方法]予定CABG患者を無作為に選んでイソフルレン麻酔またはエンフルレン麻酔を行い,虚血をモニターする.虚血を引き起こす外因はできる限り除去.血圧は基礎値の20%以内に,心拍数は80pbm以下にコントロールした.
ECG,経胸壁心エコーと冠静脈洞の乳酸値を虚血の検出に用いた.
測定は静脈確保後,気管内挿管後,吸入麻酔薬を投与し始めて20分後に行った.
[結果]覚醒時と麻酔導入時はエンフルレン群(20%)とイソフルレン群(22%)で心筋虚血の発現に差はなかったが,吸入麻酔薬を投与開始20分後には,イソフルレン群は50%,エンフルレン群は20%で,心筋虚血の発現に有意差を認めた.
[結論]循環動態を厳密にコントロールしても,イソフルレンはエンフルレンより心筋虚血を起こしやすい.
[抄訳者註]この検討では皮肉にも予測したとおりにはなっていない.しかし,抄訳者も,これまでの報告のなかには盗血現象とは関係ない虚血が含まれている可能性があると思っていた.
<抄訳者>讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:イソフルレンは術中の心筋虚血を増強させない(人工心肺を使用しない場合)
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Isoflurane does not increase the incidence of intraoperative
myocardial ischaemia compared with halothane during vascular
surgery.
Stuhmeier, K. D. ; Mainzer, B. ; Sandmann, W. ; Tarnow, J.
Br J Anaesth 69(6): 602-6 1992
施設: Abteilung fur Klinische Anaesthesiologie, Heinrich-Heine
Universitat Dusseldorf, F.R. Germany.
[目的]術中の心筋虚血(IMI),心筋梗塞(MI),心臓死亡(CD)がイソフルレン麻酔とハロセン麻酔で違いがあるかどうかを多症例で検討する
[背景]イソフルレンは心筋の酸素需給に関して利点も欠点も合わせ持っている.これまでの多症例で行った前向き研究はCABG手術でのものであり結果が混乱している.いわゆる”CABGモデル”は患者層が決まっていることや,人工心肺を使用するので心筋保護液や手術による血管の再開通といった術中の心筋虚血に与える影響を無視できない.これまでの麻酔薬の違いを検討した研究には,多人数の虚血性心疾患患者の非心臓手術で行なわれた適切なものはない.
[研究の場]大学病院の手術室
[対象]500例の予定非心臓手術症例(血管手術)
[方法]手術は3つのタイプ(1)腹部大動脈瘤のYグラフト手術(2)大動脈より上の椎骨動脈や鎖骨下動脈のグラフト手術(3)下肢の動脈同士の伏在静脈を使用するグラフト手術.患者は無作為にイソフルレン麻酔(226例)またはハロセン麻酔(274例)を受ける.術中はIIとV5誘導でリアルタイムにST部分を変化(J点から80ms後)をモニター.虚血の判定はJ点から80ms後のST部分が少なくとも1分以上,水平型あるいは下降型に0.1mV以上低下が持続した場合,0.2mV以上上昇が持続した場合とした.
[結果]IMIはハロセンで39%,イソフルレンで38%,MIはハロセンで1.3%,イソフルレンで1.5%,CDはハロセンで0.4%,イソフルレンで0.7%であり両群に差はなかった.23%のIMIをおこした症例は,頻拍,高血圧,低血圧といった循環動態での変化をともなっていたが,(1)が39%,(2)が41%,(3)が33%と手術の種類には無関係であった.
[結論]本検討のような人工心肺を使用しない血管手術症例の場合,麻酔薬の選択は術後の心臓合併症や心臓死亡に影響を与えない.
[抄訳者註]やはりこのような非心臓手術の検討で,イソフルレンを評価する必要がある.しかし,CABG症例での検討も条件は付帯するが,意味のないことではない.
<抄訳者>讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:セボフルレン麻酔中の虚血心筋の潅流
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Perfusion of ischemic myocardium during anesthesia with
sevoflurane.
Kersten, J. R. ; Brayer, A. P. ; Pagel, P. S. ; Tessmer, J. P. ;
Warltier, D. C.
Anesthesiology 81(4): 995-1004 1994
施設:Department of Anesthesiology, Medical College of Wisconsin,
Milwaukee 53226.
[目的]側副路も冠動脈も狭窄させた犬でセボフルレンが局所心筋の血流分布に与える影響を観察する
[背景]セボフルレンはin vitroでは直接的に冠血管拡張ひきおこし,in
vivoでは冠血管抵抗を下げるとされている.この薬理学的性質はいわゆる盗血現象を起こす可能性を持っている.
[研究の場]実験室
[対象]犬12頭を使用した動物実験
[方法]大動脈圧,左室圧,拡張期の冠動脈血流速度と心内膜部位の長さの測定できる犬を作成.繰り返し左前下降枝(LAD)を少しずつ血管閉塞器を使用して閉塞させ側副路を発達させた.左回旋枝(LCCA)の狭窄も作成.LCCAの狭窄を増強させた後LADは完全に閉塞させ多枝冠動脈疾患モデル犬を作成した.全身の血行動態と局所収縮機能,心筋の潅流具合を放射性のマイクロスフェアを使って評価し,意識下で評価.同様に,1.0MACと1.5MACのセボフルレン麻酔下で,血圧と心拍数をを意識のある状態に戻した場合と戻さない場合で評価した.
[結果]意識下では,左回旋枝の狭窄をあわせた全LADの閉塞で心拍数,平均動脈圧,左室収縮期圧,左室拡張末期圧,拡張末期セグメント長は増加した.セボフルレン濃度を上昇させたとき濃度依存性に血圧,左室収縮期圧,ダブルプロダクトは減少した.セボフルレンは正常心筋の潅流を変化させなかった.それに対して,狭窄させたLCCAに養われている心筋血流は,セボフルレン濃度依存性に減少したが,心拍数と血圧を正常値に回復させるとコントロールレベルまで復帰した.1.0MACまたは1.5MACで閉塞部位の側副路の血流現象は見られなかった.セボフルレン麻酔中,閉塞させたLADから正常または狭窄部位への血流の再分布は見られなかった.
1.5MACのセボフルレン麻酔下で,血圧と心拍数を意識のある状態と同じに戻した場合,閉塞部位と正常部位の心内膜下,あるいは閉塞部位と狭窄部位の心内膜下の血流比の増加が観察された.
[結論]セボフルレンは,多枝冠血管を閉塞させた犬において,心筋血流を減少させない,あるいは冠動脈側副血管からの異常な再分布を起こさない.
[抄訳者註]1983年にReizらがイソフルレンの盗血現象を報告して以来,麻酔薬と心筋虚血の関係が注目される様になった.動物実験であるが,盗血現象を見ないという報告が先行していることは,セボフルレンにとって先が明るい.しかし,ヒトでも同じであるかどうかは疑わしい.
<抄訳者>讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:術中の血行動態の変化は心筋虚血の指標にはならない
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Intraoperative hemodynamic changes are not good indicators of
myocardial ischemia.
Urban, M. K. ; Gordon, M. A. ; Harris, S. N. ; O'Connor, T. ; Barash,
P. G.
Anesth Analg 76(5): 942-9 1993
施設:Department of Anesthesiology, Yale University School of
Medicine, Yale-New Haven Hospital, Connecticut.
[目的]術中の心筋虚血と周術期心筋梗塞(PMI)の血行動態の指標として臨床的に感度のよいパラメータを見いだすこと.
[背景]CABGを受ける患者の74%が周術期の心筋虚血を起こしたという報告がある.術中の心筋虚血は冠動脈バイパスグラフト術(CABG)を受ける患者のPMIの危険性を増大させる.もし,術中に利用できる心筋虚血を予測する因子があれば,術後心合併症に対して早期に対処できる.
[研究の場]大学病院手術室
[対象]予定CABGを受ける患者100例
[方法]心筋虚血の術中の指標として以下の血行動態のパラメータを評価した.
心拍数>80bpm,収縮期血圧160mmHg以上80mmHg以下,平均血圧60mmHg以下,拡張期の肺動脈圧>18mmHg,拡張期の肺動脈圧5mmHgの増加,RPP(心拍数×収縮期血圧)>12000,PRQ(平均血圧/心拍数)<1.0
患者側の因子としては,心筋梗塞の既往,最近の心筋梗塞(術前1週間),冠動脈病変部位のタイプと数,術前のβブロッカーの使用歴とCa拮抗剤の使用歴をあげた.
ECGはIIとV5をモニター.心筋虚血は麻酔導入前のECGに比較して少なくとも2分間,ST部分が1mm以上変位したものとした.ECGと循環動態の記録は2分間隔で取り込まれ次々にコンピュータ解析.
[結果]16人が人工心肺前に心筋虚血を起こし,9人がPMIを起こした.人工心肺前に心筋虚血を起こした患者16人のうち4人がPMIを起こした.
循環動態のパラメータと人工心肺前の心筋虚血の間には強い相関関係は見いだせなかった.循環動態のパラメータあるいは患者側の因子とPMIとの間にも相関を見いだせなかった.
[結論]術中の心筋虚血やPMIの循環動態の指標として臨床的に感度のよいパラメータを見いだすことはできなかった.
[抄訳者註]CABG患者でなく,虚血性心疾患をもつ非心臓手術でこの検討を行えば,もうすこしすっきりすると思うのだが.
RPP=rate-pressure product, PRQ=pressure rate quotient
<抄訳者>讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:側副路も閉塞した冠動脈疾患患者と麻酔薬に関連した心筋虚血
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Steal-prone coronary anatomy and myocardial ischemia associated with
four primary anesthetics agents in humans.
Slogoff, S. ; Keats, A. S. ; Dear, W. E. ; Abadia, A. ; Lawyer, J. T.
; Moulds, J. P. ; Williams, T. M.
Anesth Analg 72(1): 22-27 1991
施設:Division of Cardiovascular Anesthesiology and Department of
CArdiology, Texas Heart Institute, Houston, Texas.
[目的]側副路も閉塞した完全閉塞した冠動脈を持つ患者の心筋虚血とイソフルレン麻酔との関連性を調べるために4つの基本的な麻酔薬を使用して行った冠動脈バイパスグラフト(CABG)の麻酔を受けた約1000人の冠動脈造影を再調査した.
[背景]1983年にReizらが冠動脈疾患を有する患者でイソフルレン麻酔を行うと虚血を引き起こし,それが盗血現象(coronary
steal)によるものであると報告して以来,多くの報告がある.
[研究の場]ヒトの麻酔症例の冠動脈造影写真による後ろ向き研究
[対象]約1000人のCABGを行われた患者
[方法]麻酔は無作為にエンフルレン,ハロセン,イソフルレン,スフェンタニルで行われた.ECGでSTが水平型あるいは下降型に0.1mV以上低下しているものを虚血と診断した.
[結果](1)冠動脈閉塞を3つにわけられた.(冠動脈が完全閉塞
かつ/または側副路のないもの.冠動脈が完全閉塞しているが側副路は閉塞していないもの.冠動脈も完全閉塞しており側副路も閉塞しているもの=steal-prone
coronary anatomy)
(2)エンフルレンは31.8%,ハロセンは40.0%, イソフルレンは40.0%,
スフェンタニルは31.8%が steal-prone coronary anatomyであった.
(2)ST低下が0.1mV以上で,麻酔中に虚血が認められたのは290人(30.4%)
(3)麻酔法によって差はなかった.
(4)冠動脈閉塞のタイプによる違いも認められなかった.
[結論]steal-prone coronary
anatomyでも,イソフルレンによって心筋虚血が特に起こしやすいことはない.
[抄訳者註]steal-prone coronary
anatomy=側副路も閉塞した完全閉塞の冠動脈を持つ患者のこと.
この論文に使用された麻酔に関するデータはAnesthesiology 70:
179-180,1989に発表されたものである.一粒で2度おいしい.
<抄訳者>讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:術前の無症候性心筋虚血:一般外科手術症例における頻度と因子予測
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Preoperative silent myocardial ischaemia: incidence and predictors in
a general surgical population.
Muir A.D. ; Reeder M.K. ; Foex P. ; Ormerod O.J. ; Sear J.W. ;
Johnston C.
Br J Anaesth 67(4):373-377 1991
施設:
[目的]術前にホルター心電図を用いて無症候性心筋虚血(SMI)が一般外科手術症例にどの程度発生するか,SMIに陥りやすい素因は,なにかを検討する.
[背景]近年,ホルター心電図,心エコー,核医学等の進歩によりSMIの検出が注目されるようになった.
[研究の場]病棟と手術室
[対象]40歳以上の予定手術患者(血管手術と非血管手術)約150人
[方法]術前日からホルター心電図を装着しSTの変化を調べる.J点から80mm秒後の時点で水平または下降型に1mm以上STが低下しているものを虚血と判定.
腹部大動脈病変を有する患者は心筋シンチを行って心室壁の動きとEFを測定.
[結果]血管手術ではSMIは18.6%に,非血管手術では7.6%に認められた虚血性心疾患の既往またはECGで過去に心筋梗塞を疑わせるような所見を持った患者はSMIの危険性が高いと考えられた(既往のない患者9%に対して28%).逆に,SMIと診断された患者で既往歴や心電図異常のない患者は36%と多かった.心室の壁運動異常は腹部大動脈手術を予定された患者の62.5%に認めた.心筋シンチを行った患者の29%がSMIと診断され,EFは40%以下であった.SMIとEF<40%の間には有意な相関が認められた.
[結論]術前のホルター心電図で異常があれば,心エコーや心筋シンチを行ってみるべきである.
[抄訳者註]もっともな結論である.
<抄訳者>讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:周術期の心拍数が関与する無症候性心筋虚血と術後死亡
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Perioperative rate-related silent myocardial ischemia and
postoperative death.
Frank, S. M. ; Beattie, C. ; Christopherson, R. ; Rock, P. ; Parker,
S. ; Gottlieb, S. O.
J Clin Anesth 2(5): 326-31 1990
施設:Department of Anesthesiology, Johns Hopkins Hospital, Baltimore,
MD 21205.
[目的]無症候性心筋虚血から術後死亡にいたった症例報告
[背景]周術期の心臓死亡率は麻酔や手術後死亡の原因となる.手術患者の心筋梗塞は術後に発生しやすく,診断がついても処置に難渋する.
[研究の場]病院手術室とICU
[対象]末梢血管手術で無症候性心筋虚血から死亡に至った一症例
[方法]62歳男性,大腿-脛骨動脈の静脈バイパスが予定された.狭心症や心筋梗塞の既往はない.メチルドーパ500mg,サイアザイド50mgの服用とインシュリン67単位(レギュラー5単位,中間型62単位)を術前から使用していた.病棟でのECGはIIIとAVFにQ波,II,III,AVF,V5,V6でT波の逆転が見られ心拍数は75bpmであった.術前にIIとV5誘導のホルター心電図を記録した.
麻酔は全身麻酔で行われ,手術室で抜管しICUに入室した.
[経過]
術中は心拍数は60-80bpmに血圧は115/50-145/75mmHgに維持されておりST変化は認めなかった.術後ICUで心拍数が55から80に増加するとII誘導で2mmのST低下が見られた.術後はエスモロールの持続注入にもかかわらず,心拍数は80-95bpmでSTは3mmまで低下することもあった.エスモロールを中止したとき,血圧は105/45mmHgであり,心拍数は90bpmであった.5分後ST低下が3mmになり30分後に心停止をきたした.死亡後に術前のホルター心電図解析結果より,ST低下が現れる心拍数の閾値が80bpmから85bpmに増加するところにあったことが判明した.著者は古典的な頻脈の100bpm以下で心拍数依存性の心筋虚血が何度も起こっていることに気づかなかった.
[結論]症状が現れていない時期(早期)に心筋虚血だと気づくことが,治療を早く開始するためのポイントである.虚血に対する処置を早期に行えば,術後の心臓死亡を減少させることができるかもしれない.
[抄訳者註]もちろん,術中や術後早期に心筋虚血が起こっていることに気づけば早く対処を開始するが,それと気づかなければ治療を開始することはない.末梢血管手術では手術侵襲はそれほどではないが,患者側の因子が大きい.血管病変は全身病変と考えて対処すべきである.
<抄訳者>讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:PR間隔の延長は脊椎麻酔時の徐脈を誘発する危険因子である
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Prolonged PR interval is a risk factor for bradycardia during spinal
anesthesia.
Liu, S. ; Paul, G. E. ; Carpenter, R. L. ; Stephenson, C. ; Wu,
R.
Reg Anesth 20(1): 41-4 1995
施設:Department of Anesthesiology, Virginia Mason Medical Center,
Seattle, WA 98111, USA.
[目的]脊椎麻酔で徐脈になった症例の心電図異常所見と関連づける
[背景]脊椎麻酔症例の9-13%に徐脈を認め,それが心停止にいたる可能性を持っている.徐脈にいたるいくつかの危険因子については知られているが,術前の心電図で捕らえられた異常所見に徐脈を関連づけたものはない.
[研究の場]病院
[対象]約1000人の脊椎麻酔症例の後ろ向き研究.
[方法]術中の徐脈の定義:心拍数<50bpm(かつベースラインから10bpm以上の減少),心電図の異常所見としてPR間隔の延長(PR>0.2秒),房室伝導異常,心室肥大,虚血,梗塞とした.徐脈と異常所見は分割表を用いて比較した.
[結果]12%に徐脈が見られた.PR間隔の延長していた症例が徐脈になりやすい(25%)が,血圧低下は伴っていなかった.他の心電図異常には徐脈との相関関係は見られなかった.PR間隔の長さは徐脈と有為な相関をみたが,ベースラインの心拍数には相関は見られなかった.
[結論]脊椎麻酔時に徐脈になりやすい危険因子として,心拍数のベースライン60未満,ASAのクラス分類1,βブロッカー服用患者,T5以上に知覚麻痺域が拡がったとき,50歳未満があげられていた.今回,術前心電図でPR間隔の延長が徐脈の予測因子として加わった.
[抄訳者註]結論にあるような心電図を見た場合には,脊椎麻酔で徐脈になりやすいということだが,前投薬に関してはなにもかかれていない.前投薬にアトロピンを使用したときの影響はないのだろうか?なお,抄訳者は脊椎麻酔を行うときには,アトロピンとエフェドリンを注射器に用意してから始めるようにしている.
<抄訳者>讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:帝王切開患者の心臓由来の酵素
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Cardiac enzymes in patients undergoing caesarean section.Ross, R. M.
; Baker, T.
Can J Anaesth 42(1): 46-50 1995
施設:Department of Anesthesiology, Monmouth Medical Center, Long
Branch, NJ 07740.
[目的]硬膜外麻酔で行う帝王切開術中,術後のCKとそのアイソザイムCK-MBを測定する.
[背景]帝王切開術中に呼吸促迫や胸部圧迫感や胸痛を訴えることが多い.また,帝王切開術中に心筋虚血を示唆するようなECGのST変化が見られる.
[研究の場]病院手術室と病棟
[対象]21名の予定帝王切開分娩をおこなうASAクラス1〜2の患者
[方法]麻酔は持続硬膜外麻酔(L2-3またはL3-4から穿刺し,カテーテルを留置).20万倍エピネフリン入りの2%リドカインを使用し,T4の知覚神経麻痺が得られるように投与.
硬膜外注入後,鼻カニューラで3-4L/minの酸素を投与.
オキシトシン(20Unit/L)を胎盤娩出後,輸液剤に添加した.
ECGのSTが1mmの低下あるいは2mmの上昇をもって虚血とした(ECGはV5をモニター).
CKなどの酵素を測定するための血液は手術前,分娩時,分娩4時間後,12時間後,24時間後に採取.
[結果]
(1)12人が胸痛や胸部不快感,胸部圧迫感を訴え,12人にST低下を認めた.
(2)CK異常は10人に認められたが,CK-MBは全員,正常範囲内
(3)ECGの変化は心拍数依存性で,分娩をさせるために外科医が患者の上腹部や下胸部を圧迫していたときにおこった.
[結論]帝王切開術中に胸痛や胸部圧迫感を訴え,ECGでST低下を認めるが,CK-MBの変化をともなっていないことから心筋障害はないものと考えられる.
[抄訳者註]ここではCK-MBを測定しているが,今はやりのトロポニンTでも測ってみればおもしろいのではないか.Anesth
Analg 76(1):
162-7,1993でもZakowskiらがCK-MBを測定しているがCK-MBのデータは,やはり全例正常範囲内であった.
<抄訳者>讃岐美智義(広島大学) <MW>
日本語タイトル:局所麻酔下の帝王切開術中の心電図変化
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原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Electrocardiographic changes during cesarean section under regional
anesthesia.
McLintic, A. J. ; Pringle, S. D. ; Lilley, S. ; Houston, A. B. ;
Thorburn, J.
Anesth Analg 74(1): 51-56 1992
施設:Department of Anesthesia, Western Infirmary, Glasgow,
Scotland
[目的]局所麻酔下の帝王切開術中に,心電図の“虚血性変化”を記録し,心筋虚血が心エコーでとらえられるか確める.
[背景]急性の心筋虚血を示唆する心電図変化が局所麻酔の帝王切開術中に出現する.Palmerらは,37%以上にそのような変化が出現し,要因としては分娩中の心筋の酸素の需要と供給のアンバランスが示唆されると報告している.
[研究の場]病院(術後観察室)
[対象]脊椎麻酔または硬膜外麻酔で予定帝王切開術を受ける健康な妊婦25名
[測定項目]心電図(心拍数,ST変化),心エコー(心臓病専門医による)
[方法]術前夜と当日朝にラニチジン150mgを経口投与.
麻酔開始前に,心電図装着−V1とV5誘導.
1リットルの乳酸加リンゲル液を前投与.
硬膜外麻酔(0.5%ブピバカイン).
脊椎麻酔(8%ブドウ糖中に0.5%ブピバカイン2.5ml).
は坐位または側臥位で行い,最低両側T-6まできかせた.
心拍数と血圧は1分間隔で記録,持続的にSpO2モニター.低血圧に対しては(収縮期血圧90mmHg以下)輸液と6mgのエフェドリンで対処.
心仕事の比較するために,麻酔前,皮膚切開時,出産時,分娩5分後でRPP(rate
pressure product)を計算.
心エコーは,傍胸骨アプローチで詳細な短軸の記録を行った.
[解析]
1)心電図:
1. 麻酔開始前に正常伝導,ST部分の確認
2. J点のあと0.08秒の点で少なくとも0.1mV低下したものをST低下とする
3. 少なくとも1分以上続く変化
をSTの有意な変化とする.
2)心エコー:
詳細な各種の壁や内腔などの計測値,心室壁の運動
3)データの解析:
student't test,χ二乗検定,Mann-Whitney U test
[結果]
心電図:
1)25人中16人に有意なST変化がおこり,変化はV5誘導のみでみられた.
6例で0.2mVの低下,1例で0.3mVの低下.3例では上昇型の低下,7例では水平型,6例で下行型ST低下.
2)全例で,洞性の頻脈(特に娩出時)と急激なSTの偏位は,よく同時に起こった.ST変化は,娩出直後の1分が最大であった.ST低下の持続はまちまち(1-30分)で,平均7.5分.
3)平均の心拍数はST低下がある方がない方より有意に速い.
4)平均の収縮期血圧は両群に有意差なし.
5)RPPは,娩出時に最大でST変化があった方が大きかったが,有意差なし.
6)全例,児の娩出後オキシトシンを投与したが,胸痛を訴えたものはいなかった.
7)娩出時に喉の不快感(ST変化有1人,なし1人),腹膜縫合時に上腹部不快感(ST変化なし1人)を訴えたものがいたが鎮痛剤の投与で対処.
心エコー:
1)13人の患者で行った.その内8人の患者でST低下が見られた.
2)エコーを施行した全ての患者で,術前,術中とも心筋壁の動きは正常であった.
3)6人の患者では軽度の僧帽弁の逸脱がみられた.
4)7人で心のう水の貯留が見られた.
[結論]局所麻酔下の帝王切開術中におこるST低下はよく起こるが,それは,心筋虚血を反映しない.その原因となるものは同定できなかったが,ST低下と心拍数の間には何らかの関係があることが示唆された.
[抄者註]心エコーをうまく使って,心電図のSTの変化が必ずしも心筋虚血を反映しないことを証明している.2年前にMacintosh創刊前号”産科麻酔”の特集の時にも本論文を抄訳したが,前論文と関連性があるので再度抄訳した.
抄録者:讃岐美智義(広島大学) <MW>