● 「常温体外循環」によせて 広島大学医学部麻酔・蘇生学 讃岐美智義
9.常温体外循環下の血清コリンエステラーゼ活性とミバクリウムの筋弛緩作用
10.
常温体外循環ではアトラクリウムの筋弛緩作用は増強する
広島大学医学部麻酔・蘇生学 讃岐美智義
近年、心臓外科手術、特にCABG手術時の常温体外循環が各施設で行われるようになってきている。低体温の心筋保護効果が疑問視され始めているためである。
常温体外循環では心機能の温存という点では有利であるが、術後の脳障害の発生が多いのではないかという危惧がある。この背景にはPTCAの発達によりCABG手術を受ける患者が高齢化し再手術患者の増加があると考えられる。こういった症例にとって体外循環の問題は大変重要であると考えられる。
また、常温体外循環ではこれまで常識であった低温体外循環の術中管理とは違った局面が存在すると思われる。
以上より常温体外循環をまとめてみようと今回のテーマに選んだ。
常温体外循環−常温心筋保護、常温体外循環−低温心筋保護のどちらも常温体外循環手術である。つまり、体外循環の温度に関しては体外循環中の温度と心筋保護の温度の両方を考える必要がある。常温心臓手術(warm
heart
surgery)といった場合、常温体外循環−常温心筋保護を指しているようである。
CPB=体外循環
1.常温体外循環の低温心臓手術
常温体外循環で低温心筋保護液を使用した手術成績を報告。
2.常温体外循環の低温心臓手術における神経系の合併症
脳神経系合併症が常温体外循環の低温心臓手術では特に増加しなかった。
3.常温心臓手術が全身に及ぼす影響
常温心臓手術では低血管抵抗が下がり、血管収縮薬を必要とすることが多い。また、心停止のために心筋保護液を大量に使用するので血清カリウム値にも注意が必要である。
4.常温心臓手術における循環動態と酸素消費
常温体外循環はCPB後の心機能の回復を早め、高血糖を防止する。全身の酸素の需要-供給のバランスは低温CPBと同様に常温CPBでも保たれている。
5.常温心臓手術-心臓に対する利点と神経系の危機
常温心臓手術では脳神経系合併症が増加するという結果になっている
6.高カリウム血症−常温心臓手術の合併症
常温心臓手術といった場合、常温体外循環と常温心筋保護のどちらかである。常温心筋保護の場合、電気的心停止を得るまでに大量の心筋保護液を要する事があり、高K血症の可能性を頭に置かなければならないという教訓的症例。
7.常温心臓手術の術後出血への影響
常温体外循環では、術後の出血量減少し血小板数が保たれる。
8.体外循環後のアルフェンタニルの薬効動態
CPBの温度が異なってもアルフェンタニルの排泄には影響を及ぼさない。
9.常温体外循環下の血清コリンエステラーゼ活性とミバクリウムの筋弛緩作用
常温体外循環後では、ChE活性をかなり減弱させるが、ミバクリウムの神経筋遮断作用に及ぼす影響は少ない。
10.常温体外循環ではアトラクリウムの筋弛緩作用は増強する
低体温時に回復が遅いという従来の報告通りである。
11.ニトログリセリンが低温、常温体外循環に及ぼす影響
低体温CPBではニトログリセリンの代謝が遅くNO産生が少ないため血管拡張作用が弱い。体内での代謝様式に性による違いがある。
12.新生児、小児の低温体外循環における脳圧と流量の関係
脳の自動調節能は常温CPB中は保たれ、中程度CPBでは変化する。超低体温CPBでは失われる。
13.CABG手術患者の腎機能に及ぼす体外循環の影響
腎機能は、術前に腎機能正常な患者では体外循環によって悪くなるということはない。(これは腎機能正常患者での検討)
以上が、選択したテーマであるが、多くの利点がある反面、問題点もあり今後、文献が増加することが予測される。
抄訳中に記載していない事も含めて、常温体外循環の特徴をまとめてみると以下の通りである。
(1)体外循環時間が短い(再潅流、加温に要する時間が短いため)
(2)除細動なしで自己心拍再開(刺激伝導系に与える影響が少ないとされている)
(3)末梢循環が良好に保たれるためアシドーシスが発生しにくい(人工心肺後の循環動態が安定)
(4)CK,CK-MBが上昇しにくい(心筋障害が少ない)
(5)常温心筋保護では心臓を低温にしないため電気的な心停止に大量のKを必要とする
(6)全身血管抵抗は常温体外循環では低く血管収縮薬や大量の補液を必要とすることが多い(低温体外循環では血管拡張薬が必要)
(7)寒冷凝集反応が見られる症例では常温体外循環の適応がある
(8)術後の脳神経障害に対する評価は一定していない
(9)一般的にPMIの発生率が少ない
日本語タイトル:常温体外循環の低温心臓手術 menu
NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Warm body, cold heart surgery. Clinical experience in 2817
patients.
Singh AK, Feng WC, Bert AA, Rotenberg FA
Eur J Cardiothorac Surg 7(5): 225-29 1993
施設:Rhode Island Hospital, Providence 02903.USA.
[目的]常温体外循環で低温心筋保護液を使用した手術成績を報告する.
[背景]1950年に心臓手術に全身低体温を用いて以来,それが最も重要な心筋保護の要素であると考えられてきた.低体温は組織の代謝と酸素消費を減少させるという証拠に基づいてそれが用いられてきた.我々は1987年以来,常温体外循環に低温の心筋保護液を使用することにより術中,術後の循環動態の安定を得られた高齢ハイリスク患者を2817例経験している.
[研究の場]病院
[対象]1987年から1991年までに常温体外循環-低温心筋保護で手術した2817名の体外循環手術患者
[方法]体外循環温37℃,人工心肺潅流量2.5L/m2,で大動脈遮断後,大動脈基部に冷却心筋保護液(4-8℃)1000ml注入し心停止.心停止後15分ごとに血液心筋保護液400ml(8-12℃)を注入.CPB中イソフルレン,ニトログリセリン,SNPかつ/またはフェニレフリンで平均動脈圧を60-80mmHgに保つ.
[結果]16-84歳(平均66歳).男女比3:1.ポンプ時間24-183分(平均91分).大動脈遮断時間15-148分(平均68分).手術の種類:CABG2214例,弁手術489例,その他(動脈瘤,腫瘍,不整脈,先天性心疾患など)114例.うち,1069例は緊急CABG.EF(駆出率)は843例(30%)が0.40以下.術後30日以内の死亡1.7%(48/2817):CABG1%(23/2214),弁3%(15/489),その他9%(10/114).術後合併症:周術期心筋梗塞(34例)1.2%,術後出血(37例)1.3%,脳梗塞(27例)1%,縦隔洞炎(21例)0.7%.体外循環中の血管抵抗は低く高心拍出量が得られ人工心肺からの離脱も容易.IABPは人工心肺離脱のために必要なかった.肺合併症と凝固障害は非常に希であった.
[結論]常温体外循環-低温心筋保護の組み合わせは心臓と全身の保護がうまくでき,とくにハイリスク患者に適している.
[抄者註]約1/3が緊急CABG手術でこの成績はすばらしい.
<抄者:>讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>
日本語タイトル:常温体外循環の低温心臓手術における神経系の合併症
menu
NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Neurological complications during myocardial revascularization using
warm-body, cold-heart surgery.
Singh AK, Bert AA, Feng WC
Eur J Cardiothorac Surg 8(5): 259-64 1994
施設:Rhode Island Hospital, Providence.
[目的]常温体外循環の神経系の合併症を明らかにすることと(常温と低温の)体外循環の神経合併症の危険因子をさぐる
[背景]常温体外循環では血管抵抗が低くなり二次的に低血圧になるため,重症な脳血管障害を合併した高齢者の手術では神経系合併症が増加するのではないかと危惧される.
[研究の場]病院
[対象]1980-1992年に当院でCABG手術を受けた患者3988名.H群:中等度低体温CPB(25-30℃)1605名(1980-1986年)とN群:常温CPB(37℃)2383名(1987-1992年)
[方法]N群は前向き研究だがH群は後ろ向き研究.
N群は37℃CPBと低温心筋保護液を使用し,H群は従来の中等度低体温CPB(25-30℃)と低温心筋保護液を使用する方法.
CPB中にはヘマトクリット20-30%,潅流量2.5L/min/m2(H群1.8-2.5L/min/m2),潅流圧50-70mmHgに調節.H群では5%が血管収縮薬を要したのに対してN群では65%が血管収縮薬が必要だった.
[測定項目]N群とH群で,種々の術後合併症を比較する.周術期の心筋梗塞,腎機能障害,LOS,脳梗塞,手術死亡(術後30日以内).また,CPBの神経系合併症の危険因子をさぐる.
[解析]カイ二乗,対応のないT検定,単変量解析,多変量解析
[結果]1)術前背景因子:N群が有意に以下の背景因子を持つ患者が多かった.(70歳以上,糖尿病,脳血管障害,不安定狭心症,心筋梗塞の既往,EF<40)
2)合併症の比較:N群ではPMI,IABPの術中使用,LOS,手術死亡がH群に比して少なかった.N群の手術死亡23例(1%),脳神経系合併症24例(1%).
3)脳神経系合併症を3つにわけるとI群:重症脳障害(意識が全く出ないもの)6名,II群:局所の脳梗塞(退院時に障害を残したもの)14名,III群:軽度の脳障害(退院時にもどったもの)4名であった.これらはH群と有意差はなかった.
4)脳障害を増加させる危険因子:70歳以上,大動脈のびまん性硬化,頚動脈閉塞疾患,CPB中の重症低血圧
[結論]常温CPBにしても術後合併症は増加しなかった.
[抄者註]体外循環=CPB,周術期心筋梗塞=PMI.同じ術者でも何年もやっていると手術が上達する.同じ時期の低温CPBと常温CPBを比較して欲しいが,低温CPBは必ず後ろ向き研究になっている.
<抄者:>讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>
日本語タイトル:常温心臓手術が全身に及ぼす影響
menu
NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
A randomized study of the systemic effects of warm heart surgery.
Christakis GT, Koch JP, Deemar KA, Fremes SE, Sinclair L, Chen E,
Salerno TA, Goldman BS, Lichtenstein SV
Ann Thorac Surg 54(3): 449-57 1992
施設:Department of Anesthesia, Sunnybrook Health Science Centre,
University of Toronto, Ontario, Canada.
[目的]常温心臓手術の作用を特に心臓と血管,腎機能の面から検討する.
[背景]常温心臓手術は持続常温心筋保護液の注入と常温体外循環を用いた手技であると定義される.伝統的な心筋保護の全身に及ぼす影響はよく知られているが,常温心臓手術が全身に及ぼす影響は知られていない.
[研究の場]手術室
[対象]204名のCABGを受ける患者.
[方法]N群(常温心臓手術)とH群(従来の低温心臓手術:低温体外循環と間欠的低温心筋保護液注入による)で,CABGを受ける患者を無作為にわける.麻酔は,フェンタニル,ジアゼパム,パンクロニウムとハロセン(かイソフルレン)で導入維持.CPB中はヘマトクリット20-25%,温度の維持(低温では28-30℃,常温では35℃以上),体外循環の流量は2.2L/min,潅流圧は50mmHg以上になるようにSNP,吸入麻酔薬,フェニレフリンで調節.
[測定項目]常温体外循環で注意が必要になる項目(結果参照)
[解析]カイ二乗検定,ANOVA
[結果]1)術前の患者の背景因子に差はなかった.年齢,平均ポンプ流量,大動脈遮断時間,体外循環時間,手術室在室時間,気管内挿管している時間,ICU在室時間に差はなかった.
2)大動脈遮断後,自己心拍再開する症例はN群がH群より多かった.
3)N群では大動脈遮断時に電気的活動が起きるため,心筋保護液の注入速度を増加させる必要があり,心筋保護液の総量もN群がH群より多かった.
4)両群で尿量は同程度であったが,血清カリウム値はN群で高かった.体血管抵抗が低くなるため晶質液の輸液量とフェニレフリンの投与量もN群で多かった.
[結論]常温心臓手術では体血管抵抗が下がり,血管収縮薬を必要とすることが多い.また,心筋保護液を大量に使用するので血清カリウム値にも注意が必要である.
[抄者註]常温体外循環の特徴を勉強するのによい文献.
<抄者:>讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>
日本語タイトル:常温心臓手術における循環動態と酸素消費
menu
NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Hemodynamics and oxygen consumption during warm heart surgery.
Igarasgi T, Sonehara D, Iwahashi K, Asahara H, Konishi A, Suwa K
J Anesth 10(1):16-21, 1996
施設:Department of Anesthesia, Mitsui Memorial Hospital, Tokyo,
Japan
[目的]常温体外循環,常温血液心筋保護液が循環動態と全身の酸素バランスに及ぼす影響を調べる
[背景]常温血液心筋保護液の出現で常温体外循環が心臓手術に用いられるようになった.常温の血液が心筋に酸素を供給するために用いられている,止まっている心臓の酸素消費は動いている心臓の20-30%である.低体温は心筋酸素消費に対してほんの少ししか利点は持っていない反面,浮腫などのような副作用を引き起こしたり血小板や白血球を変化させたり膜の安定化を減弱させるといった不利益なことも多い.
[研究の場]手術室
[対象]62名のCABG手術を受ける患者
[方法]W群:常温体外循環(35-37℃),常温血液心筋保護液使用(36名),C群:低温体外循環(28-32℃)低温心筋保護液使用(26名)にわける.
麻酔はフェンタニル,ジアゼパム,リドカイン,パンクロニウムで導入.イソフルレンとフェンタニルで維持.0.5-1μg/kg/minのニトログリセリンと1-3μg/kg/minのジルチアゼムを持続投与.
CPB中の流量は2.4L/min,潅流圧は70-100mmHgになるようにフェニレフリンとニカルジピンで調節.心筋保護液は間欠的に順行性に注入.
[測定項目]血行動態:平均動脈圧(mAP),平均肺動脈圧(mPAP),心係数(CI),肺動脈楔入圧(PCWP),中心静脈圧(CVP)
血液サンプル:ヘモグロビン(Hb),動脈血酸素飽和度(SaO2),
混合静脈血酸素飽和度(SvO2),BE,PaCO2,血糖値
直腸温
計算:O2 content =(Hb×1.34×%O2saturation)/100+(PO2×0.003)
DO2=O2 delivery=Cao2×(blood flow)
VO2=O2 consumption = (Cao2×Cvo2)×
ERo2=O2 extraction ratio = (Cao2×Cvo2)/Cao2
を麻酔導入後,CPB前,CPB中,大動脈遮断解除後,CPB後,手術終了時に測定.
[解析]ANOVA,カイ二乗検定
[結果]1)W群ではC群に比して除細動なしで全例,自己心拍再開した,手術時間,大動脈遮断時間体外循環時間,再潅流時間が短かかった.
2)W群ではC群に比してCI,血圧,ドパミンの使用が有意に少なかった.
3)W群ではC群に比して,CPB中と後の血糖値は低く,BEは高く保たれた.
4)VO2は,W群では術中通して変化がなかったが,C群ではCPB中に減少し手術終了時増加した.
5)ERo2はW群ではCPB中増加したが,C群では変化しなかった.
6)SvO2は両群とも常に65%以上に保たれた.
[結論]常温体外循環はCPB後の心機能の回復を早め,高血糖を防止する.全身の酸素の需要-供給のバランスは低温CPBと同様に常温CPBでも保たれている.
[抄者註]J
Anesthにのった三井記念病院の常温体外循環,常温血液心筋保護でも,常温体外循環が有利という結果である.
<抄者:>讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>
日本語タイトル:常温心臓手術-心臓に対する利点と神経系の危機
menu
NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Prospective, rondomized trial of retrograde warm blood caldioplegia:
myocardial benefit and neurologic threat.
Martin TD, Craver JM, Gott JP, Weintranb WS, Ramsay J, Mora CT Guyton
RA
Ann Thorac Surg 57: 298-304 1994
施設:Emory University School of Medicine, Atlanta, GA.
[目的]常温心臓手術と低温心臓手術を比較する
[背景]今日では多くの心筋保護の方法が受け入れられるようになったが,いまだに大多数が低温体外循環で低温心筋保護液を使用した方法を用いている.Lichtensteinにより常温血液心筋保護液が用いられるようになってから心筋保護の最も効果的な方法であるとの評価を受けるようになった.
[研究の場]手術室
[対象]1001名の予定CABG手術を受ける患者
[方法]W群−常温心臓手術(n=493):35℃以上の体外循環と35℃以上の常温血液心筋保護液の持続注入
H群−低温心臓手術(n=508):28℃以下の体外循環と8℃以下の間欠的心筋保護液注入の2群に無作為にわける.体外循環の方法は,ポンプ流量2.2-2.5L/m2(32℃以上),1.8L/m2(32℃以下)で潅流圧は常温体外循環では50-70mmHgとなるように,低温体外循環では40-60mmHgとなるように適宜調節.ACTは300秒以上に保持.麻酔は,フェンタニル,ミダゾラム,ヴェクロニウムを用いた標準的な心臓麻酔.この2つの方法で,術前の背景因子,術中のパラメータ,術後の合併症を比較する.
[結果]1)術前の年齢,性別,以前のCABG歴,高血圧,MIの既往,駆出率,糖尿病,狭心症の程度,慢性心不全の有無には差はなかった.
2)術中のパラメータでグラフト数には差がなかったが,大動脈遮断時間がW群で長かった.
3)術後の合併症は死亡率,Q波のある心筋梗塞,遅発性脳血管合併症,脳炎発生率,IABP使用,カテコラミン使用,入院期間に差はなかったが,あらゆる脳神経系合併症と周術期の脳血管合併症でW群で有意に多かった.
[結論]常温心臓手術では脳神経系合併症が増加する.
[抄者註]悲惨な結果になっている.この報告では,W群の方がH群より大動脈遮断時間が長く正確には比較できていないが,それが常温体外循環が不利になるように働いているのではないか?.
<抄者:>讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>
日本語タイトル:高カリウム血症−常温心臓手術の合併症
menu
NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Hyperkalaemia: a complication of warm heart surgery
Kao YJ, Mian T, Kleinman S, Racz GB
Can J Anaesth 40(9): 898-900 1993
施設:Department of Anaesthesiology, Texas Tech University Health
Science Center, Lubbock, Texas, USA
[目的]常温心筋保護液による高カリウム血症の可能性を知らしめることと,その治療がうまくいった症例について報告する.
[背景]開心術時の常温心筋保護液で心停止をさせるためには大量の心筋保護液と高濃度のカリウムが必要とされるため高カリウム血症が起きることがある.
[研究の場]手術室
[症例報告]56歳,女性.ASAクラス4で体外循環下に僧帽弁と三尖弁置換術が予定された.既往歴として10歳にリウマチ熱.麻酔はスフェンタニル,ミダゾラム,ピペクロニウム.体外循環温度は33℃.潅流圧は50-80mmHgに調節.上行大動脈の遮断後37℃の心筋保護液([K]20-30mEq/L)を大動脈基部へ注入した.500ml注入後,心停止が得られたため,心筋保護液([K]6-8mEq/L)を持続注入.僧帽弁置換中に心臓の電気的活動が再開してしまったので,高濃度のKを含んだ心筋保護液に変えたが,結局([K]40-60mEq/L)の心筋保護液で心停止させた.総量で90mEqのKClを注入した.
[結果]1)手術は何事もなく終了.大動脈遮断時間は90分.
2)冠動脈の潅流は再開したが30分たっても心臓は静止したまま.
3)膀胱温は36.1℃.BGAでpH7.4,PaO2 450mmHg,PaCO2
41mmHg,[Na]136mEq/L,[K]13.6mEq/L,[Ca]1.2mEq/Lで[K]は再検しても13.1mEq/Lであった.
4)心房と心室のシーケンシャルペーシングを開始した.ECGでQRSは幅広であった.
5)高カリウム血症の治療を開始.エピネフリン0.5μg/kg/min,重炭酸ナトリウム50mEq,CaCl2
1g,フロセミド10mgをボーラス投与.
6)さらに,血液のCO2レベルを下げるために酸素流量を増加させた.
7)アムリノン5μg/kg/minも心筋収縮力を上げるために追加した.
8)30分後QRS幅は狭くなり心筋収縮力は回復.血漿Kも6.5mEq/Lとなり,人工心肺から離脱した.
9)第1病日,血清Cr1.3mg/dl,BUN33mg/dlで,他のパラメータは正常値に帰した.
[抄者註]常温心臓手術といった場合,常温体外循環と常温心筋保護のどちらかである.常温心筋保護の場合,電気的心停止を得るまでに大量の心筋保護液を要する事があり,高K血症の可能性を頭に置かなければならないという教訓的症例.
<抄者:>讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>
日本語タイトル:常温心臓手術の術後出血への影響
menu
NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
The effect of warm heart surgery on postoperative bleeding.
Yau TM, Carson S, Weisel RD, Ivanov J, Sun Z, Yu R, Glynn MF,
Teasdale SJ
J Thorac Cardiovasc Surg 103(6): 1155-62 1992
施設:Division of Cardiovascular Surgery, Toronto Hospital, Ontario,
Canada.
[目的]常温体外循環と抗線溶薬使用により術後出血が減少するかを検討する.
[背景]体外循環と低体温が心臓手術後の出血に深く関与している.体外循環は血小板を活性化させて脱顆粒,沈着,枯渇を引き起こし血小板機能低下に陥らせ,術後出血を増加させる.25-32℃の低体温は可逆的な血小板膜の機能低下を引き起こし,線溶系を活性化させ,活性化した凝固因子を抑制する.20℃以下の超低体温は血小板減少につながる.
[研究の場]病院
[対象]146人の初めてCABGを受ける患者
[方法]常温体外循環(35-37℃)群:73人,低温体外循環(25-29℃)群:73人に無作為にわけ,それぞれの群でさらに抗線溶剤であるEACA(Epsilon-aminocaproic
acid)10mgとTEA(tranexamic
acid)15mgを投与する群とコントロール群にわける.(計6群)体外循環時,ヘマトクリット18-25%,ポンプ流量2.0-2.5L/min/m2,平均動脈圧50-60mmHgに保つ.
[測定項目]術後6,12,24時間での出血量,赤血球の輸血量.4,24,48時間と術後6日目のヘモグロビン,白血球数,血小板数を測定.
[結果]1)患者の背景因子(年齢,体外循環時間,大動脈遮断時間)に差はない.
2)常温体外循環患者で出血量減少の傾向が認められたが,低温体外循環と有意差はない.
3)6,12,24時間で抗線溶薬(EACAまたはTEA)を投与した患者で,出血量減少(vs
低温コントロール群).
4)常温コントロール群では6,12時間で出血量減少(vs
低温コントロール群).
5)血小板数は,低温コントロール群に対して,低温体外循環-抗線溶薬投与と常温体外循環のすべての群で有意に温存された.ヘモグロビンと白血球数に差はなかった.
[結論]常温体外循環と抗線溶薬投与で,術後の出血量減少と血小板数が保たれる.
[抄者註]血小板機能は,この研究では測定していないため常温体外循環で機能が温存されるかどうかは定かではない.
<抄者:>讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>
日本語タイトル:体外循環後のアルフェンタニルのファーマコキネティクス
menu
NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
The pharmacokinetics of alfentanil after normothermic and hypothermic
cardiopulmonary bypass.
Petros A, Dunne N, Mehta R, Dore CJ, Van Peer-A, Gillbe C, Macrae
D
Anesth Analg 81(3): 458-464 1995
施設:Department of Anaesthesia and Intensive Care, Royal Brompton,
National Heart and Lung Hospital, London, United Kingdom.
[目的]低温体外循環後と常温体外循環後のアルフェンタニルの薬力学を比較する
[背景]体外循環により多くの薬剤の性質に影響がある.低体温もまた薬剤の排泄に影響を与える.体温低下により酵素活性も減弱し,血流の変化により肝内での再分布にも影響及ぼす.心臓手術のCPB中に肝臓の温度低下を併せて調べたものはないし,肝臓代謝の関与についても調べたものはない.
[研究の場]手術室
[対象]36名の予定手術患者.N群:常温体外循環の手術12名,H群:低温体外循環(28℃)の手術12名,T群:体外循環を用いない開胸術12名.
[方法]N群とH群では,体外循環終了時点で10分間で50μg/kg/minのアルフェンタニルを投与.T群では麻酔導入直後に他の群と同量のアルフェンタニルを投与.以後,アルフェンタニルを投与しない.
麻酔はエトミデート0.3mg/kgとフェンタニル(H群とN群では30μg/kg,T群では10μg/kg)とパンクロニウム0.15mg/kgで導入.0.5-1.5%イソフルレン,空気/酸素で維持.5,10,15,30,60,120,180,240,300,360,420,480分後に採血しアルフェンタニル濃度を測定し,アルフェンタニルの薬力学のパラメータを求める.総蛋白,アルブミン,α1-acid
glycoproteinとアルフェンタニルの蛋白結合も併せて測定する.
[結果]1)定常分布容積VdssとセントラルコンパートメントVcは,CPBグループ(H群とN群)がT群に比して大きかった.
2)排泄半減期t1/2βは群間で差はなかった.
3)Vdss,Vc,クリアランスCl,t1/2βは低温CPBと常温CPBで差はなかった.
4)CPBグループではアルフェンタニルの蛋白結合が減少しており,遊離アルフェンタニルが増加していた.
[結論]過去の報告より,CPB後の変化は大きくなかった.CPBの温度が異なってもアルフェンタニルの排泄には影響を及ぼさない.
[抄者註]アルフェンタニルはフェンタニルよりも持続が短く20-30分程度.鎮痛作用は1/2-1/3程度である.この研究は,低体温や体外循環そのものの影響をみたものではなく,体外循環後に体外循環の影響を受けて薬物代謝が落ちるかを見たものである.
<抄者:>讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>
日本語タイトル:常温体外循環下の血清コリンエステラーゼ活性とミバクリウムの筋弛緩作用
menu
NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Changes in plasma cholinesterase activity and mivacurium
neuromuscular block in response to normothermic cardiopulmonary
bypass.
Diefenbach C, Abel M, Rump AF, Grond S, Korb H, Buzello W
Anesth Analg 80(6): 1088-1091 1995
施設:Department of Anesthesiology, University of Koeln, Germany.
[目的]血漿コリンエステラーゼ(ChE)活性が低下した常温体外循環時にミバクリウムの神経筋遮断作用が影響を受けるかどうかを調べる.
[背景]常温体外循環でも低温体外循環でもChE活性が60%程度に減弱するという報告がある.しかし,このChE活性の減弱がミバクリウムの筋弛緩作用に影響を及ぼすかどうかを調査した報告はない.
[研究の場]手術室
[対象]CABG手術を受ける9名の成人患者
[方法]常温体外循環下に筋弛緩モニターを用いてミバクリウムの筋弛緩効果を評価する.また,ChE活性を測定する.
麻酔はプロポフォル,フェンタニルを用いて行いミバクリウムを初回量150μg/kg,追加はtwitchがコントロールの75%に回復したときに75μg/kgを投与.
[結果]1)CPBが回り始めるとChE活性は42%に減弱し,手術の最後まで活性はこのレベルに止まった.
2)作用開始時間(投与から神経筋遮断作用が最大になるまでの時間)は,CPB中はCPB前または後の25%延長した.
3)DUR25%(投与から神経筋遮断作用がコントロールの25%に回復するまでの時間)は,CPB前が平均13分,中が平均14分,後が平均16分でCPB前に比べて有意差があった.
[結論]常温体外循環後では,ChE活性をかなり減弱させるが,ミバクリウムの神経筋遮断作用に及ぼす影響は少ない.
[抄者註]サクシニルコリンでは,ChEが50%以下に低下すると臨床的に筋弛緩作用の延長が見られるようになるとの報告がある.(Anesthesiology
53:517-520, 1980)
<抄者:>讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>
日本語タイトル:常温体外循環ではアトラクリウムの筋弛緩作用は増強する
menu
NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Greater neuromuscular blocking potency of atracurium during
hypothermic than during normothermic cardiopulmonary bypass.
Diefenbach C, Abel M, Buzello W.
Anesth Analg 75(5): 675-678 1992
施設:University of Koeln, Department of Anesthesiology, Koeln,
Germany.
[目的]常温体外循環と低温体外循環でアトラクリウムの効果の違いを調べる.
[背景]低温体外循環ではアトラクリウムの効果が延長するという報告がある.
[研究の場]手術室
[対象]15名の開心術を受ける患者
[方法]常温または低温体外循環下に筋弛緩モニターを用いてアトラクリウムの筋弛緩効果を評価する.
麻酔はミダゾラム,フェンタニルで導入,維持.呼気終末CO2を35-45mmHgになるように陽圧換気.CPBはポンプ流量2.4L/m2で回した.神経筋遮断はTwitchでモニターした.神経筋モニターが安定するまで待って,460μg/kgのアトラクリウムを初回投与.twitchがコントロールの75%になったら138μg/kg追加を繰り返す.常温体外循環の温度は34℃以上,低温体外循環の温度は32℃以下とする.
[結果]1)作用開始時間(投与から神経筋遮断作用が最大になるまでの時間)は低温CPB中は27%,常温CPBでは18%延長した.
2)DUR25%(投与から神経筋遮断作用がコントロールの25%に回復するまでの時間)はCPB前が平均24分,低温体外循環中が平均45分,常温体外循環中が平均22分,後が平均23分であった.
[結論]アトラクリウムの必要量は温度変化に平行する
[抄者註]アトラクリウムは半分はエステル分解,半分はホフマン分解され不活化される.すでに低体温時に回復が遅いという報告がある.
<抄者:>讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>
日本語タイトル:ニトログリセリンが低温,常温体外循環に及ぼす影響
menu
NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
The effects of hypothermic and normothermic cardiopulmonary bypass on
glyceryl trinitrate activity.
Booth BP, Brien JF, Marks GS, Milne B, Cervenko F, Pym J, Knight J,
Rogers K, Salerno T, Nakatsu K
Anesth Analg 78(5): 848-856 1994
施設:Department of Pharmacology, Faculty of Medicine, Queen's
University, Kingston, Ontario, Canada.
[目的]低体温によってニトログリセリン(NTG)のファーマコカイネティクスに影響があるか.低温または常温の体外循環(CPB)でニトログリセリンの代謝に性別の違いが関与するかどうかを調べる.
[背景]ニトログリセリンはCABG手術中の血圧コントロールに用いられる.しかし,CPB中の使用ではニトログリセリンの効力が低下することが報告されている.CPB中に効力が低下する機序としては血液希釈,CPB回路への薬の吸着,低体温,各種臓器潅流での変化が考えられる.また,ラットではニトログリセリンの代謝半減期が性差により異なることが報告されている.
[研究の場]大学病院手術室
[対象]予定CABG手術患者
[方法](1)低体温CPBで男性8名:低体温CPB前と中のNTGとNTGクリアランス(NTG総投与量/AUC)を測定
(2)低体温CPBで男性6名と女性6名,常温CPBで男性5名と女性3名:低体温CPBと常温CPBで性別による代謝の違いをしるために血中と尿中のNTGとGDNsを測定
麻酔はジアゼパム,フェンタニル,パンクロニウムと酸素.ニトログリセリンは非吸着のチューブを使用し,0.5μg/kg/minで投与.もし平均血圧が60mmHgを越える場合SNPを併用.血中と尿中のNTGとGDNsをgas-liquidクロマトグラフィーで測定.
[結果]1)低体温CPB前の血漿NTGは平均18.5nM,低体温CPB中の血漿NTGは27.8nMで低体温CPB中は代謝が遅れていた.
2)NTGクリアランスは低体温CPB前は平均0.316L/min/kgに対して低体温CPB後は平均0.118L/min/kgと低下.常温CPBではCPB前とCPB中のクリアランスに差を認めなかった.
3)低体温ではNTGの違いはないが1,3-GDNと1,2-GDNの両方とも男性の方が高い.常温ではNTGと1,3-GDNの違いはないが1,2-GDNが男性の方が高い.
[結論]低体温CPBではニトログリセリンの代謝が遅く,NO産生が少ないため血管拡張作用が弱い.低体温,常温CPBとも女性より男性の方がGDNsが多く検出されたことから体内変化に性による違いがある.
[抄者註]glyceryl
trinitrate(NTG)=ニトログリセリン.NTGはglycerol-1,3-dinitrate(1,3-GDN),
glycerol-1,2-dinitrate(1,2-GDN)のNOに代謝される.1,3-GDN+1,2-GDN=GDNs.AUC=血漿NTG濃度-時間曲線の各時点での濃度を時間で積分したもの.おもしろい結果だが,nが少なすぎる.著者らも述べているが更に症例を増やして検討して欲しい.(なお,讃岐先生はニトログリセリンをGTNと略しているが,慣例にしたがってTNGとした:諏訪)
<抄者:>讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>
日本語タイトル:新生児,小児の低温体外循環における脳圧と流量の関係
menu
NEXT
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Cerebral pressure-flow velocity relationship during hypothermic
cardiopulmonary bypass in neonates and infants.
Taylor RH, Burrows FA, Bissonnette B.
Anesth Analg 74(5): 636-642 1992
施設:Department of Anaesthesia, Hospital for Sick Children, Toronto,
Ontario, Canada.
[目的]脳潅流圧(CPP)と脳血流速度(CBFV)の温度に対する影響を調べることと,脳潅流に対する低流量体外循環の影響を調べること
[背景]先天性重症心奇形の修復手術における低流量体外循環中の超低体温は,超低体温循環停止より神経障害を防止するという点において優れているとされている.しかし,最近の研究では低流量体外循環の脳保護を疑問視する動きも見られる.
[研究の場]手術室
[対象]25名の新生児または乳児(生後3-210日)
[方法]経頭蓋骨的超音波ドップラー(transcranial
doppler)を用いて,CBFVを常温(36-37℃),中等度低体温(23-25℃),超低体温(14-20℃)の体外循環(CPB)で測定した.CBFVは脳の潅流の指標として用いた.CPPは平均血圧(MAP)から大泉門の圧(AFP)を引いたものとした.同時に鼻咽頭温,PaCO2,ヘマトクリットを測定し評価の助けとした.
[結果]1)常温(36-37℃)CPBでは,自動調節能が存在し非線形回帰分析によりr2=0.68であった.
2)中等度低体温(23-25℃)と超低体温(14-20℃)ではCBFVは脳潅流圧に平行して上昇した.
3)線形回帰分析でそれぞれr2=0.33とr2=0.69.
4)9名の超低体温CPBでは,CBFVは平均9mmHgで消失し13mmHgになると再度現れた.
[結論]脳の自動調節能は常温CPB中は保たれ,中程度低体温CPBでは低下する.超低体温CPBでは失われる.超低体温低流量CPBにおける血管開存圧の臨界点は上昇は,脳虚血に関与しているかもしれない.CBFVと非常に低圧のCPPの間の相関関係が消失することが関与しているかもしれない.
[抄者註]この事実が超低体温の脳保護作用を理解する上での助けになるか?
<抄者:>讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>
日本語タイトル:CABG手術患者の腎機能に及ぼす体外循環の影響
menu
PREVIOUS
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Effects of extracorporeal circulation on renal function in coronary
surgical patients.
Lema G, Meneses G, Urzua J, Jalil R, Canessa R, Moran S, Irarrazaval
MJ, Zalaquett R, Orellana P
Anesth Analg 81(3): 446-451 1995
施設:Department of Anesthesiology, Pontificia Universidad Catolica de
Chile, Santiago.
[目的]体外循環症例における周術期の腎機能の変化を検討する.術前腎機能正常患者で糸球体濾過率,有効腎血流量,尿細管機能を評価することが目的.
[背景]腎機能障害は体外循環手術症例において重大な合併症である.死亡の危険性を持っているし,合併症を増やす危険性をもっているし,入院日数を長引かせ入院費用を増大させる.
[研究の場]手術室と病棟
[対象]14名の予定体外循環手術(CABG手術).血清クレアチニン1.5mg/L以下の40-75際の左室機能良好な最近,心筋梗塞を起こしていない患者.
[方法]糸球体濾過率(GFR)と腎血漿流量(ERPF)はイヌリンと馬尿酸クリアランスで評価(麻酔導入前,体外循環(CPB)前,(低体温または常温)体外循環中で評価).腎血管抵抗(RVR)と体血管抵抗を算出.尿中のNAGと血清中電解質,尿中電解質,自由水クリアランス,浸透圧クリアランス,クレアチニンクリアランスを術前と術後に測定.
[結果]1)低体温CPB中はERPFは有意に増加するが,常温体外循環になるとベースラインに復する.
2)GFR(糸球体濾過率)は術前,術後とも正常範囲にあり,CPB中は有意ではないが減少する.
3)GFRは術前は正常以上であったが,CPB中は減少.RVRは術前から高く,胸骨切開でさらに高値になりCPB中は減少していた.
4)尿中NAG,クレアチニン,自由水クリアランスはどの時点でも正常値を示した.浸透圧クリアランスとNaの糸球体濾過比は術後に増加した.
[結論]腎機能は,術前に腎機能正常な患者では体外循環で悪くなることはない.
[抄者註]ここでいう常温体外循環とは,純粋な体外循環ではなく体温体外循環25-28℃でデータをとった後,体温が正常値になったときの体外循環を指している.
われわれが知りたいのは,術前に心機能が正常な患者ではなく,腎機能に異常がある患者の術後の腎機能が体外循環によって影響を受けるかどうかである.
<抄者:>讃岐美智義(広島大学医学部麻酔・蘇生学) <MW>