MONITOR WORLD 2002目次へ

気道確保後の咽頭・喉頭痛

●気道確保後の咽頭・喉頭痛によせて

1.外来手術後の咽頭喉頭痛

2.カフ内圧と気管合併症(笑気麻酔中に生理食塩水をカフに充填する)

3.咽後膿瘍(気管内挿管のまれな合併症)

4.挿管用ラリンジアルマスクの常用は上気道合併症を増加させる

5.ProSealラリンジアルマスク300症例の質問調査

6.ラリンジアルマスクと気管挿管後の咽頭-喉頭合併症

7.自発呼吸下の麻酔でのCOPAとラリンジアルマスクの比較研究

8.ライトつきスタイレトと喉頭鏡による気管挿管の比較

9.コンビチューブのカフ容量と解剖学的位置関係が食道、咽頭、気管粘膜圧に与える影響

10.気管チューブのカフにアルカリ化リドカインを注入するとチューブに起因する麻酔覚醒時の合併症を抑制する

11.リドカイン投与法の違いで術後の咳と咽頭喉頭痛は変わるか?

12.経皮吸収ケトプロフェンは術後の咽頭喉頭痛を和らげる

13.広範囲局所ステロイド投与は気管挿管後の咽頭喉頭痛、嗄声、咳を軽減する

14.気管チューブカフ内の10%リドカイン:血中濃度、血行動態と臨床的効果

15.術後の咽頭喉頭痛(原因、予防、治療):総説


気道確保後の咽頭・喉頭痛によせて

広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科 讃岐美智義


術後の創部痛に対しては多くの研究があり、克服されつつあるが、全身麻酔後の特に、気道確保後の咽頭喉頭痛に関しては、あまり多くはない。MEDLINE検索で見つけられる文献も少なく、30年前から研究の内容もそれほど進歩していない。それでも、ここ数年は増加傾向にあり、少しずつ患者さんの訴えが研究に発展しつつあるようだ。

今回解説した、気道確保後の咽頭・喉頭痛に関する文献は、大別して3つのカテゴリーに分けられる。
(1)合併症の調査、観察
(2)気道確保器具の種類の違いによる合併症の違い
(3)治療、対策である。

(1)合併症の調査、観察
1.外来手術後の咽頭喉頭痛
2.カフ内圧と気管合併症(笑気麻酔中に生理食塩水をカフに充填する)
3.咽後膿瘍(気管内挿管のまれな合併症)

(2)気道確保器具の種類の違いによる合併症の違い
4.挿管用ラリンジアルマスクの常用は上気道合併症を増加させる
5.ProSealラリンジアルマスク300症例の質問調査
6.ラリンジアルマスクと気管挿管後の咽頭-喉頭合併症
7.自発呼吸下の麻酔でのCOPAとラリンジアルマスクの比較研究
8.ライトつきスタイレトと喉頭鏡による気管挿管の比較
9.コンビチューブのカフ容量と解剖学的位置関係が食道、咽頭、気管粘膜圧に与える影

(3)治療、対策
10.気管チューブのカフにアルカリ化リドカインを注入するとチューブに起因する麻酔覚醒時の合併症を抑制する
11.リドカイン投与法の違いで術後の咳と咽頭喉頭痛は変わるか?
12.経皮吸収ケトプロフェンは術後の咽頭喉頭痛を和らげる
13.広範囲局所ステロイド投与は気管挿管後の咽頭喉頭痛、嗄声、咳を軽減する
14.気管チューブカフ内の10%リドカイン:血中濃度、血行動態と臨床的効果
15.術後の咽頭喉頭痛(原因、予防、治療):総説

麻酔の安全性が向上した現在、求められるのは快適な術後である。日帰り手術では麻酔の質が特に問題で、満足度とも言うべき指標である。そのために、術後鎮痛の次に克服すべき問題であることには間違いはない。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)




1.日本語タイトル:外来手術後の咽頭喉頭痛

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Postoperative sore throat after ambulatory surgery.
Higgins PP, Chung F, Mezei G.
Br J Anaesth 88(4):582-4, 2002
施設: Department of Anesthesia, Toronto Western Hospital, University of Toronto, Ontario, Canada.
[目的]外来手術患者で、麻酔後の咽頭喉頭痛を引き起こす因子を調べる。
[背景]麻酔後によく見られる合併症である咽頭喉頭痛は術後の患者の満足度に影響する。手術後の咽頭喉頭痛の研究で入院患者をと外来手術患者を分けて研究したものはない。
[研究の場]病院の外来手術室、自宅
[方法]1)プロスペクティブ観察研究。
2)約17000名の外来手術患者、ASAのPS1-3、12歳以上を対象。
3)年齢、性別、身長、体重、ASAのクラス分類、手術種類、手術時間、気道確保の方法(気管挿管、ラリンジアルマスク、フェイスマスク)、気管チューブサイズ、手術体位、投与薬剤、術後回復室の滞在時間、外来手術室の滞在時間を記録。
4)外来手術室の看護師が24時間後に電話で咽頭喉頭痛と嗄声について問診。
[結果]1)約5300名から回答が得られ、回答者の12%が咽頭喉頭痛を訴えた。
2)気管挿管では45%、ラリンジアルマスクでは18%、フェイスマスクでは3%が咽頭喉頭痛を訴えた。
3)女性では13.4%、男性では9%であった。
4)気道確保の方法が最も咽頭喉頭痛に関与していた。
5)女性、若年者、サクシニルコリンの使用、婦人科手術と関連性があった。。
[結論]気道確保の方法、女性、若年者、婦人科手術、サクシニルコリンが術後の咽頭喉頭痛の予測因子である。患者の背景因子や手術因子を知ることで、予測因子の複数の重なりをさけて患者の満足度を上げることができるかもしれない。
[解説者註]外来手術での咽頭喉頭痛を起こす因子を調べている大規模研究である。1997年のJoshiら(Anesth Analg 85:573-7)の報告では、381名で外来患者の術後咽頭喉頭痛を調べているが、気管挿管で22%、ラリンジアルマスクで9%である。本研究の半分の頻度である。これに対して、著者らは気道の加湿をしなかったこと、気管吸引を標準化していないこと、レジデントからスタッフまでの技術にばらつきがあったこと、気管チューブやラリンジアルマスクのカフ圧をモニターしていないことを理由に挙げている。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) <MW>




2.日本語タイトル:カフ内圧と気管合併症(笑気麻酔中の生理食塩水によるカフ充填効果)

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Intracuff pressure and tracheal morbidity: influence of filling with saline during nitrous oxide anesthesia. Combes X, Schauvliege F, Peyrouset O, Motamed C, Kirov K, Dhonneur G, Duvaldestin P.
Anesthesiology 95(5):1120-4, 2001
施設: Department of Anesthesia, Hopital Henri Mondor, Creteil, france.
[目的]気管チューブのカフに空気の代わりに生理食塩水を充填してカフ内圧を低く保てば、術後の喉頭気管の不快感や気管粘膜の剥脱を減少させることができるかどうかを検討する。。
[背景]気管チューブのカフに笑気が拡散するとカフ内圧の上昇を来す。過度のカフ圧上昇は気管粘膜の潅流を障害し気管の障害と咽頭喉頭痛を起こす。気管チューブのカフに空気の代わりに生理食塩水を入れるとカフ圧の上昇を防ぐことができる。この方法は過度のバランス麻酔中に気管チューブのカフ圧が過度になることによって気管合併症が起きるかどうかを調べるための常套手段である。
[研究の場]病院の手術室
[方法]1)無作為対照研究。
2)対象はASAクラス1-2の患者50名。無作為に、カフにを20-30cmH2Oの空気(group A)と生理食塩水(group S)を入れる2群に分ける。
3)麻酔は笑気、酸素、イソフルランで維持した。
4)抜管時、気管内視鏡検査を行い、カフが接触していた部分の気管粘膜の異常を調べ、スコア化して記述した。
5)術後回復室から退室するときと、術後24時間後に症状(咽頭喉頭痛、嚥下障害、嗄声)を評価した。
[結果]1) group Sではカフ内圧は一定であったが、 group Aでは麻酔中次第に上昇した。。
2) 術後回復室での咽頭喉頭痛はgroup sよりgroup Aで多く(A:76% vs S:20%)、24時間後でもgroup sよりgroup Aで多(A:42% vs S:12%)かった。
3) 抜管時の気管部分の粘膜異常はgroup Aでは全例にみられたが、group Sでは8名(32%)であった。
[結論] 気管チューブに笑気が拡散すると過度のカフ内圧になることにより、気管粘膜の剥脱に関連した咽頭喉頭痛を引き起こす。
[解説者註]groupSもgroupAも麻酔時間、挿管時間、周術期のフェンタニル量、回復室でのモルヒネの量、などは変わらない。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) <MW>




3.日本語タイトル:咽後膿瘍(気管内挿管のまれな合併症)

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Retropharyngeal abscess: an unusual complication of tracheal intubation.
Stein S, Daud AS
Eur J Anaesthesiol 16(2):133-6, 1999
施設: Department of Anaesthesia, Bury Health Care NHS Trust, Fairfield General Hospital, UK.
[目的]気管内挿管による咽後膿瘍の症例報告。
[背景]気管内挿管時の咽頭または食道穿孔は、挿管困難の時に起きるまれな合併症である。咽頭食道穿孔では、咽後膿瘍、縦隔洞炎、呼吸不全、皮下気腫、敗血症や死にいたる。
[症例]1) 42歳男性。咽頭痛と頚部の腫れ、完全な嚥下困難で、耳鼻科を救急で受診した。
3週間前に別の施設で臍ヘルニアの手術を気管内全身麻酔で受けた。
2) 手術当日から咽頭痛が続き、その後、一通りの抗生物質を処方され症状は落ち着いていた。
3) 抗生物質を中止したとたん、症状は再燃し、完全な嚥下困難に陥った。
4) 間接喉頭鏡検査では咽頭後壁の隆起があり、頚部軟線撮影の側面像から咽頭後隙の拡大と確認された。
5) 外科的検索から、咽後膿瘍と確定診断された。
6) 原因は、手術時の気管挿管の合併症と考えられた。
[解説者註]まれな合併症であるが、咽後膿瘍も知るべきであろう。毎日行っている喉頭鏡による気管挿管も愛護的に行わないと痛い目に遭うという教訓とうけとめた。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) <MW>




4.日本語タイトル:挿管用ラリンジアルマスクの常用は上気道合併症を増加させる

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Routine use of the intubating laryngeal mask airway results in increased upper airway morbidity.
Kihara S, Yaguchi Y, Brimacombe J, Watanabe S, Taguchi N
Can J Anaesth 48(6):604-8, 2001
施設: Department of Anaesthesia, Mito Saiseikai General Hospital, Ibaraki, Japan.
[目的]従来のラリンジアルマスク(LMA)と挿管用ラリンジアルマスク(ILM)で咽頭の合併症を比較する。
[背景]従来のラリンジアルマスクのシャフトは柔らかいシリコンチューブでできているが、挿管用ラリンジアルマスクは硬く、金属をシリコンコートしたチューブでできている。
[研究の場]病院の手術室と病棟
[方法]1) 無作為対照研究。
2) 65名(18-80歳)の婦人科の腹腔鏡下の予定手術を受ける女性患者(ASAクラス1-2)を無作為に、気道確保にLMAを使用する群とILMを使用する群に分ける。
3) カフ圧は60cmH2Oに保ち、術後の咽頭の合併症(咽頭痛、嚥下困難、口腔内痛、頚部/あごの痛み、嗄声)を、どちらの群か知らない者が2時間、24時間、48時間後に評価する。
[結果]1)挿入を試みた回数と、麻酔時間には両群間で差はなかった。
2)咽頭痛はILM群で最も多く認められた合併症で、2時間後(44% vs 15%),24時間後(59% vs 21%)、48時間後(34% vs 3%)でLMA群との間に有意差があった。
3)口腔内の痛みもILM群でよく見られ2時間後(16% vs 0%),24時間後(12% vs 0%)、48時間後でLMA群との間に有意差があった。48時間後には差がなかった。
4)嚥下困難もILM群でよく見られ2時間後(25% vs 0%)でLMA群との間に有意差があった。24時間後(31% vs 3%)、48時間後(12% vs 9%)には差がなかった。
5)頚部/あごの痛み(ILM;3-12% vs LMA;0-3%)、嗄声(ILM;12-31% vs LMA;16-18%)には差がなかった。
6)咽頭の合併症と麻酔時間には相関関係を認めなかった。
[結論] 1-2時間の麻酔では、咽頭合併症はLMAよりILMに多くみられる。。
[解説者註]共著者のBrimacombe Jは、Anesthesiology 90:1001-1006,1999で、マイクロチップ圧力センサーを使用して接触する咽頭粘膜の圧を測定し、ILMはLMAよりリーク圧が高くチューブの接触する口腔咽頭部分での160mmHgを超える圧がかかることを報告している。ILMを挿管時の一時的な気道確保にとどめ長期留置を戒めている。なおILMは、商品名Fastrachとして発売されているものである。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) <MW>




5.日本語タイトル:ProSealラリンジアルマスク300症例の質問調査

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Proseal laryngeal mask: results of a descriptive trial with experience of 300 cases.
Evans NR, Gardner SV, James MF, King JA, Roux P, Bennett P, Nattrass R, Llewellyn R, Visu D
Br J Anaesth 88(4):534-9, 2002
施設: Department of Anaesthesia, University of Cape Town, Groote Schuur Hospital, Observatory, South Africa.
[目的]ProSealラリンジアルマスク(PLMA)の使い勝手を調節呼吸と自発呼吸で評価する
[背景]PLMAはカフの形状を変更して胃内容のドレナージチューブを通すチャンネル加えた新しいラリンジアルマスクである。胃管を通すことができることと、声門周囲への密着度があがったことより陽圧呼吸時の安全性が高まり、適応範囲が広がった。これまでに、調節呼吸下で従来のラリンジアルマスク(LMA)と比較した研究が2つあり、シール圧は、従来のLMAより8-11cmH2O程度高いと記述されている。
[研究の場]病院の手術室と回復室
[方法]
1)予定手術で従来LMAを使用していた300名のASAクラス1-3の患者が対象
2)筋弛緩薬を使用した調節呼吸あるいは筋弛緩薬を使用しない自発呼吸でPLMAを評価した。
3)PLMAの挿入前に、フェンタニル1μg/kgとプロポフォール2-3mg/kg(睫毛反射が消失するまで)使用した。筋弛緩薬を使用する場合は、投与後2-3分でPLMAを挿入した。
4)評価項目は、挿入のしやすさ、気道のシール圧、挿入時の循環動態、胃管挿入のしやすさと術後の咽頭喉頭痛(咽頭喉頭痛は術後回復室と24時間後に問診した)。
[結果]1)294名(98%)に挿入可能であり、274名(91%)で挿入は容易という評価であった。
2)挿入補助器具を使っても指で挿入しても、筋弛緩薬を使用してもしなくても挿入のしやすさ、成功率は変わらなかった。
3)平均気道シール圧は29cmH2Oで、約60名(20%)では40cmH2Oを超えた。
4)胃の膨満は認めず、290名/294名(約99%)で胃管の挿入ができた。
5)挿入時の大きな循環変動は起こらず、挿入5分後に心拍数がやや減少した。また、挿入後1分と5分で、平均血圧は低下した。
6)術後の咽頭喉頭痛は23%に認め、24時間後に16%に残っていたが、90%で軽度の痛みであった。
[結論]PLMAは、筋弛緩薬を使用してもしなくても有効な気道確保ができた。胃管の挿入も容易で、挿入時の循環動態の変動は小さく、術後の咽頭喉頭痛も許容できる程度であった。
[解説者註]従来のLMAの気道のシール圧は17-19cmH2Oで、29cmH2Oというのは、それより10-12cmH2O高い値になっている。また、従来のLMAの術後咽頭喉頭痛の頻度は5.8-34%という報告があり、ほぼ同程度と評価している。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) <MW>




6.日本語タイトル:ラリンジアルマスクと気管挿管後の咽頭-喉頭合併症

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Laryngo-pharyngeal complaints following laryngeal mask airway and endotracheal intubation.
Rieger A, Brunne B, Hass I, Brummer G, Spies C, Striebel HW, Eyrich K
J Clin Anesth 9(1):42-7, 1997
施設: Department of Anesthesiology and Operative Intensive Care Medicine, Benjamin Franklin Medical Center, Free University of Berlin, Germany.
[目的]ラリンジアルマスク(LMA)と気管挿管(ETT)で麻酔後の咽頭ー喉頭合併症の頻度と重症度を比較する。
[背景]報告者と時期によりラリンジアルマスクによる術後の咽頭喉頭合併症の頻度は様々である。気管挿管後の咽頭喉頭合併症についても長い間いろいろな報告がなされているが、LMAとETTの比較に使用できるデータは少ない。
[研究の場]大学のメディカルセンター
[方法]
1)無作為患者抽出の前向き研究。
2)約200名のASAクラス1-3の予定手術を受ける成人患者が対象。
3)麻酔導入後にLMAを使用して気道確保を行う約100名は、体重によって#3、#4、#5のいずれかの標準タイプのLMAを使用する。ETTを使用して気道確保を行う約100名は、男性8.0mmID、女性7.5mmIDの塩ビの気管挿管チューブを使用する。LMAでは陽圧呼吸で20cmH2Oで、気管挿管では35cmH2Oで換気しても耐えられるようにカフ圧を設定する。カフ圧は両群とも持続的にモニターする。
4)患者は101点の数字スケール(0-100)を使用して、自分の咽頭-喉頭の合併症(咽頭喉頭痛、発声困難、嚥下時の不快、咽頭の乾燥)を手術当日、第1病日、第2病日に評価する。
[結果]
1)咽頭喉頭痛には両群で差はなかった。。
2)発声困難はETTに多く、術当日(46.8% vs 25.3%),第1病日(28.1% vs 11.6%)で差を認めた。発声困難は、麻酔時間が長くなるとLMA群では増加したが、ETT群では不変であった。
3)嚥下困難はLMA群で多く、手術当日(23.8% vs 12.5%)、第1病日(22.3% vs 10.4%)で差を認めた。
4)咽頭ー喉頭の合併症の個々の重症度は両群で違いはなかった。
5)気道確保の違いは患者の満足度に影響を及ぼさなかった。
[結論]麻酔後の咽頭喉頭の合併症から見ると、LMAがETTに勝っているとは必ずしも言いがたい。
[解説者註]LMAとETTを咽頭喉頭のマイナー合併症から比較している。LMAがよいという結果とは異なる点がおもしろい。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) <MW>




7.日本語タイトル:自発呼吸下の麻酔でのCOPAとラリンジアルマスクの比較研究

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
A randomized controlled trial comparing the cuffed oropharyngeal airway and the laryngeal mask airway in spontaneously breathing anesthetized adults.
Greenberg RS, Brimacombe J, Berry A, Gouze V, Piantadosi S, Dake EM
Anesthesiology 88(4):970-7, 1998
施設: Department of Anesthesiology/Critical Care Medicine, The Johns Hopkins Medical Institutions, Baltimore, Maryland, USA.
[目的]ゲデルエアウエイを改良したカフ付き口咽頭エアウェイ(COPA)をラリンジアルマスク(LMA)とを自発呼吸下して、使いやすさ、生理的耐性や臨床的問題点を比較する。
[背景]COPAは、1992年に自発呼吸下の患者に使用する潜在性のあるエアウエイとして紹介された。ゲデルエアウエイの遠位端にカフをつけ、近位端に15mmの呼吸回路の接続口がつけられている気道確保器具である。
[研究の場]病院の手術室と病棟
[方法]
1)無作為対照研究。
2)プロポフォール、笑気、酸素での麻酔の気道管理を行う成人症例を無作為にCOPAを使用する群とLMAを使用する群に2:1に割り付ける。COPAは約300名、LMAは約150名。
3)LMAとCOPAの使いやすさ、生理的耐性や臨床的問題点を比較する。
[結果]
1)挿入のしやすさは変わらないが、1回で挿入できたのはLMAが高かった(LMA 89% vs COPA 81%)。
2)挿入後もちょっとした操作(頭部後屈、頤挙上、下顎挙上)を必要とした平均回数は、COPAで高かった(COPA 1.1回 vs LMA 0.1回)。
3)持続的に気道の保持を必要とした症例はCOPAが多かった(COPA 30% vs LMA 0%)。
4)誤嚥、逆流、喉頭痙攣、喘鳴、サクシニルコリンの投与、SPO2<92%、使用不能、その他軽微な術中トラブルは同程度であった。
5)気道確保器具を除去したときの血液の付着はCOPAが少なかった(COPA 5.8% vs LMA 15.3%)。
6)術直後あるいは翌日の咽頭痛はLMAが多かった(術直後:LMA 21.9% vs COPA 4.7%、翌日:LMA 16.1% vs COPA 8.4%)。
[結論]LMAは1回で挿入できる確率が高く、挿入に操作を必要としないので、使用が容易である。COPAは器具に血液が付着せず、咽頭痛も少ないので、咽頭の外傷が少ない。どちらの器具も、自発呼吸下で麻酔を維持する成人の気道確保器具としては安全で効果的である。
[解説者註]割付が2:1に理由を、著者らはCOPAは新しい器具なので、臨床的特徴をつかむためと説明している。バイアスが入っていると思うのだが。COPAのカフ容量は34ml、LMAでは25mlで、カフ圧はCOPAで93cmH2O、LMAで129cmH2Oでリーク圧は、COPAで17cmH2O、LMAで20cmH2Oだったと記載されている。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) <MW>




8.日本語タイトル: ライトつきスタイレトと喉頭鏡による気管挿管の外来手術患者での比較

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
A comparison of light wand and suspension laryngoscopic intubation techniques in outpatients.
Friedman PG, Rosenberg MK, Lebenbom-Mansour M
Anesth Analg 85(3):578-82, 1997
施設: Department of Anesthesiology, Sinai Hospital, Farmington Hills, Michigan 48334, USA.
[目的]ライト付きスタイレットによる気管挿管と喉頭鏡による気管挿管を、高血圧、頻脈、術後の咽頭喉頭痛、嗄声、嚥下障害の発生頻度と重症度で比較する。
[背景]、気管挿管は、挿管時の心血管系変化や、術後の咽頭喉頭痛や嗄声を引き起こす。外来手術患者では、手術後すみやかに日常生活に戻す必要があり、術後の咽頭喉頭痛はこれを阻害し、患者の満足度を低下させる。
[研究の場]病院の手術室と自宅
[方法]
1)無作為対照研究。前向き研究。
2)40名の下肢の関節鏡手術を受ける患者を無作為に、喉頭鏡で気管挿管する群(Group A)とライト付きスタイレットで気管挿管する群(Group B)に分ける。
3)麻酔導入はフェンタニル1.5μg/kg、リドカイン40mg、プロポフォル1.5-2.5mg/kgにミヴァクリウム0.2mg/kgで筋弛緩を得て気管挿管した。女性は内径7.0mm、男性は内径8.0mmの気管チューブを挿管した。
4)脈拍、血圧は麻酔導入前、導入後挿管前と挿管後1分間隔で5分間測定した。
5)16-24時間後の咽頭喉頭痛、嗄声、嚥下障害は電話でおのおの4段階のスコアを用いて問診を行った。
[結果]
1)2群には循環動態の臨床的な差は認めなかった。
2)ライト付きスタイレットでは咽頭喉頭痛、嗄声、嚥下障害の頻度と程度が小さく、外来手術患者の満足度は高かった。
[結論]喉頭鏡よりライト付きスタイレットを使用した方が、咽頭喉頭痛、嗄声、嚥下障害の頻度と程度が小さく、外来手術患者の満足度は高い。
[解説者註]ライトつきスタイレットは、日本では商品名トラキライトとして発売されている。この研究で使用した、4段階スコアは、咽頭喉頭痛(0:なし、1:風邪より軽い、2:風邪の時ぐらい 3:風邪よりひどい)、嗄声(0:なし、1:患者が自覚、2:観察者が気づく 3:無声)、嚥下障害(0:なし、1:食べ物によって痛い、2:飲食で痛む 3:唾液も飲み込めない)。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) <MW>




9.日本語タイトル:コンビチューブのカフ容量と解剖学的位置関係が食道、咽頭、気管粘膜圧に与える影響

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
The influence of cuff volume and anatomic location on pharyngeal, esophageal and tracheal mucosal pressures with esohageal tracheal combitube.
Keller C, Brimacombe J, Boehler M, Loekinger A, Puehringer F
Anesthesiology 96(5):1074-1077, 2002
施設: Department of Anesthesia and Intensive Care, Caims Base Hospital, Australia.
[目的]咽頭、食道および気管粘膜面の圧の及ぼすコンビチューブのカフ容量と解剖学的位置関係を明らかにする。
[背景]病院外での気道確保法として、コンビチューブが用いられることがある。コンビチューブでは食道や咽頭の穿孔や出血、喉の痛み、嚥下障害が報告されている。これらの合併症の原因としては、挿入時の直接的外傷と過剰なカフ圧が原因と考えられる。
[対象]死体とボランティア
[方法]
1)20体の新鮮な死体で37Frのコンビチューブの近位および遠位カフの数カ所に圧センサーを貼り付け、各粘膜面の圧を測定した。
2)食道内と気管内に入れたときのおのおのについて、近位カフでは0-100mlの範囲で10mlづつ変化させ、遠位カフでは0-20mlの範囲で2mlづつ変化させて粘膜面の圧を測定した。
3)咽頭、口腔の漏れを防ぐことができる30cmH2Oのカフ圧となる近位カフ容量を決定した。
4)4名のボランティアで局所麻酔下にコンビチューブを挿入し近位カフ容量と粘膜面の圧を同様に測定した。
[結果]
1)カフ容量を増加させると気管、食道、咽頭粘膜面の圧がすべてのカフで上昇した。
2)咽頭と食道の粘膜面の圧は後面が高かった(咽頭後面の圧は50mlでは平均で100cmH2O、100mlでは260cmH2Oで、食道後面の圧は10mlでは平均で110cmH2O、20mlでは270cmH2Oであった)。
3)気管粘膜面の圧は前面が高く(10mlでは平均で100cmH2O、20mlでは240cmH2O)、次に側面で、後面が一番低かった。
4)近位カフ圧が30cmH2Oとなるには47±12ml必要であった。
5)近位カフの接触する粘膜面の圧は死体と生体では差がなかった。
[結論]推奨されているコンビチューブのカフ容量では、カフ外圧は粘膜面の潅流圧をはるかに超えてしまう。
[解説者註]コンビチューブは近位カフが咽頭に、遠位カフが食道あるは気管内に位置するように挿入し近位カフ容量は85ml、遠位カフ容量は10-15mlが推奨されている。気管内に遠位カフが位置するとき、10-15mlのカフ容量にすると、本研究の結果では平均で100-160cmH2O、近位カフに85mlを注入すると平均で200cmH2O以上になるため粘膜面の圧が収縮期圧より高くなる可能性がある。咽頭と食道では後面に固い錐体があるため粘膜後面の圧が高く、気管では後面が膜様部であるため、後方に向かうほど粘膜面の圧が低くなったと考えられる。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) <MW>




10.日本語タイトル:気管チューブのカフにアルカリ化リドカインを注入するとチューブに起因する麻酔覚醒時の合併症を抑制する

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Alkalinization of intracuff lidocaine improves endotracheal tube-induced emergence phenomena.
Estebe JP, Dollo G, Le Corre P, Le Naoures A, Chevanne F, Le Verge R, Ecoffey C. Anesth Analg 94(1):227-30, 2002
施設: Service d'Anesthesie Reanimation Chirurgicale 2 , Universite de Rennes, Rennes, France.
[目的]アルカリ化した少量のリドカインを気管チューブのカフに注入すると、麻酔覚醒時の挿管チューブに起因する合併症を抑制するかどうかを調べる
[背景]挿管チューブのカフに大量のリドカイン(200-500mg)を注入すると、術後の咽頭痛が減少することが知られているが、カフが破れたときの危険性がある。また、リドカインに炭酸水素ナトリウムを加えアルカリ化するとカフを浸透するリドカインの量が増加することも知られている。
[研究の場]病院の手術室と病棟
[方法]
1)無作為対照研究。
2)75名の腰椎の予定手術患者が対象。無作為に25名ずつリドカイン(L群)、アルカリ化したリドカイン(LB群)、空気(C群)の3群に分けた。
3)挿管チューブにはRusch amored tracheal tubeを用いた。挿管後、リークが聞こえなくなるまで、カフを空気でふくらました後、L群とLB群には2%リドカインを、C群には空気を2ml追加した。さらにL群には滅菌水を、LB群には8.4%の炭酸水素ナトリウムを加えた。
4)腹臥位で、30%の酸素、70%の笑気、イソフルラン、スフェンタニル、ロクロニウムで麻酔を維持し、抜管は麻酔担当医の判断で行った。
5)抜管後、咽頭喉頭痛と満足度について15分、1、2、3時間、24時間に記録した。咽頭喉頭痛については100mmスケールのvisual analog scaleを用い、満足度については0(非常に不満)〜5(不満はない)の6段階で評価した。
6)抜管時に自発呼吸時間、抜管までの時間、咳、不穏、PONV、発声障害、嗄声、血圧、心拍数を調査した。
7)また、術中リドカインの血中濃度測定のために採血した。
[結果]
1)カフに注入した量(平均6ml程度)に差はなかった。
2)挿入時に比べ、抜管時のカフの容量はL、LB群では減少し、C群は増加していた。
3)咽頭喉頭痛についてL群はC群に比較して術後2時間のみ減少し、LB群は24時間継続して減少していた。
4)C群、L群、LB群の順に自発呼吸、挿管時間の延長が認められた。
5)咳、不穏、発声障害、嗄声についてLB群、L群、C群の順によい結果であった。
6)C群はL群、LB群と比較して、血圧、心拍数が増加した。
7)リドカインの最大血中濃度はLB群が著しく高かった。最大血中濃度に達する時間は差がなかった。
8)カフが破れたり、声帯麻痺を伴ったりする症例はなかった。
[結論]挿管による抜管後の合併症を減少させるために、少量のアルカリ化したリドカインをカフに注入することは容易かつ安全である。
[解説者註]少量のアルカリ化したリドカインを用いることで術後の咽頭痛が減少し、抜管時の循環動態や不穏、発声障害、声のかすれについても良好であった。これは、リドカインをアルカリ化することでカフを浸透するリドカインが増加したことによる。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) <MW>




11.日本語タイトル:リドカイン投与法の違いで術後の咳と咽頭喉頭痛は変わるか?

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
The effect of different lidocaine application methods on postoperative cough and sore throat.
Soltani HA, Aghadavoudi O
J Clin Anesth 14(1):15-8, 2002
施設: Department of Anesthesiology, Isfahan Medical School, Isfahan University of Medical Sciences, and Health Services, Isfahan, Iran.
[目的]術後の咳と咽頭喉頭痛の軽減目的で使用したリドカインの投与経路のちがいによる効果を評価する
[背景]麻酔覚醒時あるいは術後回復室でおきる咳は15%-94%にみられる重要な問題で、高血圧、不整脈、心筋虚血、気管支痙攣や眼内圧上昇、頭蓋内圧の上昇を引き起こす。咳によって眼内圧は30-40mmHgにまで上昇し、水晶体摘出手術では硝子体脱出などの合併症を起こす。術後の咳は、気管チューブによる気管粘膜の刺激によって起きていると考えられ、気管チューブと接触している粘膜に局所麻酔薬を使用することで気管チューブに対する耐性をあげることができると考えられる。
[研究の場]大学の関連病院
[方法]
1)無作為(リドカイン投与法)研究、二重盲検研究。
2)ASAクラス1-2の全身麻酔で白内障手術を予定された約200名の患者。
3)リドカインの投与法の違う6つの群に無作為に割り付ける。
4)G1:気管挿管前に10%リドカインスプレーをチューブ遠位端に3puff吹き付ける、G2:気管挿管前に10%リドカインスプレーを咽頭喉頭部に吹き付ける、
G3:気管挿管前に2%リドカインゼリーをチューブ遠位端に2.5gぬる、
G4:手術終了時にリドカインを1.5mg/kg静脈内投与する、
G5:気管内チューブのカフに2%リドカインゼリー7-8mlを詰める、
G6:気管挿管前に生理食塩水をチューブ遠位端にぬる
5)手術終了時と抜管後の咳の回数を記録し、抜管後1時間と24時間での咽頭喉頭痛の頻度を評価した。
[結果] 1)術後回復室で65%の患者が咳をしていた。咳の回数はG3、G6、G2で多く、G4、G5が少なかった。
2)咽頭喉頭痛はG3,G6,G2で多く、G4,G5との間に差があった。
[結論]気管内チューブのカフにリドカインゼリーを詰めた群と手術終了後にリドカインを静注した群で、術後の咳と咽頭喉頭痛が少なかった。
[解説者註]G2、G3,G6では1時間後の咽頭喉頭痛の頻度は75%以上であったのに対して、G4,G5では25%以下であった。また24時間後ではG4,G5は10%以下になっていた。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) <MW>




12.日本語タイトル:経皮吸収ケトプロフェンは術後の咽頭喉頭痛を和らげる

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Transdermal ketoprofen mitigates the severity of postoperative sore throat.
Ozaki M, Minami K, Sata T, Shigematsu A
Can J Anaesth 48(11):1080-3, 2001
施設: Department of Anesthesiology, University of Occupational and Environmental Health, School of Medicine, Fukuoka, Japan.
[目的]1)全身麻酔下に経口気管内挿管をおこなう患者の術後咽頭喉頭痛の頻度と程度をプロスペクティブに評価すること
2)術中に前頚部に貼付した経皮吸収のケトプロフェン(NSAIDs)が術後の咽頭喉頭痛を変化させるかを調べること
[背景]術後の咽頭喉頭痛は気管内挿管後のよく見られる合併症で数%から90%まで報告者によってばらつきがある。硬膜外鎮痛などによって手術部位の痛みがコントロールできるようになった現在、咽頭喉頭痛が術後の主訴になっているが、決定的なコントロール法はまだない。NSAIDsの1つであるケトプロフェンは術後鎮痛に使われており、最近、経皮吸収のものが至的投与経路であることが示されている。経皮吸収ケトプロフェンを術後創部痛に使用した研究はあるが、術後の咽頭喉頭痛に使用した研究はまだない。
[研究の場]手術室および病棟
[方法]
1)無作為対照研究。
2)約60名を各々30名ずつケトプロフェン群とプラセボ群に無作為に割り付ける。ケトプロフェン群にはケトプロフェンを20mg含んだ経皮吸収テープを、プラセボ群にはプラセボテープを麻酔導入後に前頚部に貼付する。術後創部痛に対しては硬膜外鎮痛を行い、術中、術後ともに麻薬は投与しない。
3)5段階スコア(0:なし、1:わずか、2:軽度、3:中等度、4:重度)で、術後12-20時間後に咽頭喉頭痛について問診を行う。
[結果]
1)咽頭喉頭痛があった患者は、対照群では50%、ケトプロフェン群では33%であったが、有意差はなかった。
2)咽頭喉頭痛の重症度は、ケトプロフェン群が低かった。
[結論]経皮吸収のケトプロフェンを術中に貼付していると、気管挿管による痛みを軽減できる。
[解説者註]日本での研究。経皮吸収の20mgケトプロフェンは、商品名モーラステープ(R)として発売されている。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) <MW>




13.日本語タイトル:広範囲局所ステロイド投与は気管挿管後の咽頭喉頭痛、嗄声、咳を軽減する

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Widespread application of topical steroids to decrease sore throat, hoarseness, and cough after tracheal intubation.
Ayoub CM, Ghobashy A, Koch ME, McGrimley L, Pascale V, Qadir S, Ferneini EM, Silverman DG
Anesth Analg 87(3):714-6, 1998
施設: Department of Anesthesiology, Yale University School of Medicine, New Haven, Connecticut 06520-8051, USA.
[目的]気管チューブに広範囲にぬったステロイドが、気管挿管後の咽頭喉頭痛、咳、嗄声に有効かどうかを検討する。
[背景]全身麻酔時の気管挿管によって、気道粘膜を損傷し咽頭喉頭痛、咳、嗄声を生じる頻度は21-65%との報告がある。気管チューブのカフの近くに1%ハイドロコルチゾンを局所投与を行っても効果的でないという報告がある。一方、50μgのベクロメサゾンの吸入は咽頭喉頭痛を55%から10%に軽減したという報告がある。また、いずれの報告もステロイドの咳や嗄声に対する効果は否定的である。
[研究の場]大学病院の手術室および病棟
[方法]
1)無作為二重盲検のプラセボ対照試験。
2)約90名のASAクラス1-3の予定手術のために気管内全身麻酔を受ける患者が対象
3)ステロイド群:気管内チューブにカフから15cmのところまで0.05%ベタメサゾン(3mgのプレドニゾロンと等価)とクロルヘキシジンを含んだゲルを3ml塗る。対照群:クロルヘキシジンのゲルのみ。
4)咽頭喉頭痛(0:なし、1:軽度、2:中等度、3:重度)、咳(0:なし、1:軽度、2:中等度、3:重度)、嗄声(0:なし、1:問診時にはないがその前にあった、2:本人のみが自覚する、3:他覚的にもわかる)の各々4段階のスコアで抜管後1時間と24時間に問診を行った。
[結果]
1)咽頭喉頭痛と嗄声は有意にステロイド群が少なかった。
2)咳は、ステロイド群にはスコア3のものは存在しないが、群間に有意差はなかった。
[結論]気管チューブにステロイドを広範囲に塗ると、気管挿管後の咽頭喉頭痛と嗄声を軽減する。
[解説者註]ステロイドは浮腫や炎症を抑えるが、局所の刺激を完全に抑制できないので、咳は軽減しなかったのではないだろうか。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) <MW>




14.日本語タイトル:気管チューブのカフ中の10%リドカイン:血中濃度、血行動態と臨床的効果

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Lidocaine 10% in the endotracheal tube cuff: blood concentrations, haemodynamic and clinical effects.
Altintas F, Bozkurt P, Kaya G, Akkan G
Eur J Anaesthesiol 17(7):436-42, 2000
施設: Department of Anaesthesiology, Cerrahpasa Medical Faculty Istanbul University, Istanbul Turkey Department of Pharmacology, Cerrahpasa Medical Faculty, Istanbul University, Istanbul, Turkey.
[目的]気管挿管時に、気管チューブのカフ内に10%リドカインを注入したときの効果(血行動態、カフ圧のピーク、抜管時のバッキング、術後の咽頭喉頭痛)を評価する。
[背景]気管挿管時には高血圧、頻脈、不整脈、心筋虚血、外科的出血、時には、喉頭痙攣を引き起こす。これらの反応を抑えるように様々なテクニックが使われてきた。生体外での研究では、気管内チューブのカフにリドカインを充填するとカフから膜を通して薬液が拡散することが知られている。
[研究の場]
1)無作為対照研究。
2)70名の形成外科手術を受ける患者が対象。
3)無作為にL群(カフに10%リドカインを注入)とS群(対照群;生理食塩水を注入)に分ける。
4)麻酔導入は2μg/kgフェンタニルと2mg/kgのプロポフォールで行い、麻酔維持は1-2%イソフルランと50%笑気で行い、筋弛緩薬は導入時以外に適宜追加する。フェンタニルは(臨床的)必要時に1μg/kgずつ追加した。男性は内径8.0mm、女性には7.0mmの気管チューブを挿管した。
5)カフには5ml以上の液体(リドカインまたは生理食塩水)を入れないようにした。
6)平均血圧、心拍数、リドカイン血中濃度、カフ圧とバッキングの頻度、1時間後と24時間後の咽頭喉頭痛の頻度と程度(10cmのVASを用いて)を記録した。
[結果]
1)L群では、抜管時の平均血圧、心拍数の変化が小さい。
2)L群ではピークのカフ圧が低い(L群:35cmH2O vs S群:48cmH2O)。液体の注入量はいずれも平均で4.9ml。
3)L群ではバッキングの頻度が少ない(L群:70% vs S群:20%)。
4)L群では、術後1時間と24時間の咽頭痛の頻度が低く(1時間後 L群:28% vs S群:68% /24時間後 L群:8% vs S群:41%)、程度が軽い(1時間後 L群:2.8 vs S群:5.4/24時間後 L群:1.3 vs S群:2.4)。
[結論]10%リドカインを気管チューブのカフに注入すると、抜管時の血行動態は安定、バッキングが少なく、術後の咽頭喉頭痛の頻度と程度を減少させる。
[解説者註]10%リドカインの気管吸収の効果をねらったものである。手術時間は両群とも2時間程度である。リドカインの血中濃度は30分、60分、90分と抜管前10分で測定しているが、90分が最も高い濃度であった。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) <MW>




15.日本語タイトル:術後の咽頭喉頭痛(原因、予防、治療)

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Postoperative sore throat: cause, prevention and treatment.
McHardy FE, Chung F
Anaesthesia 54(5):444-53, 1999
施設: Northern Schools of Anaesthesia Newcastle, Royal Victoria Infirmary, Newcastle upon Tyne, UK.
[目的]術後の咽頭喉頭痛の総説。
[研究の場]過去に発表された文献
[気管挿管後の咽頭喉頭痛]
咽頭喉頭痛は気管挿管後にしばしばみられる合併症である。気管チューブサイズやカフデザインのような要素が重要であるといわれてきた。予定手術の気管挿管でも、術後の咽頭喉頭痛としても説明される組織の変化や外傷、神経傷害をおこしている。気管粘膜への接触面積の少ない小さいサイズの気管チューブを使用すると咽頭喉頭痛を減少させることができる。短い時間の挿管でも、カフ内圧の厳密なコントロールとカフ内に麻酔ガスあるいは生理食塩水を注入することが有用である。気管チューブに局麻薬のゼリーを塗ることは有用ではない。
[咽頭喉頭痛とラリンジアルマスク]
1) ラリンジアルマスク(LMA)挿入後にみられる咽頭痛は、挿入時のテクニックの差の要因が大きいが、カフ内圧との関係に関しては未だに明らかでない。
2) しかし、高い内圧はニューロプラキシー(神経振盪症)や神経圧迫のために神経麻痺につながる。
3) 気道外傷と術後咽頭喉頭痛の予防には、愛護的な挿入が最も重要である。
[ラリンジアルマスクと気管挿管の直接的比較]
LMAと気管挿管を直接比較したものは少ない。咽頭喉頭痛、発声障害(声の変化)、咽頭の乾燥などの頻度に大きな違いはないが、パターンは異なっている。
[咽頭喉頭痛とゲデルエアウエイ]
1) 口咽頭エアウェイは咽頭痛の頻度を増加させない。おそらく、咽頭の後壁に接触しないからであろう。
2) 口腔内吸引カテーテルによる麻酔覚醒時に咽頭粘膜の損傷に注意すべきである。柔らかい吸引カテーテルを使用することがよいかもしれない。
[気管挿管に伴う障害]
1) 喉頭や気管での上皮の剥脱、声門血腫、声門浮腫、粘膜下裂傷、接触部の潰瘍と肉芽腫があげられる。
2) 喉頭や気管での上皮の剥脱などは1時間以下の短い期間挿管でも起こりうる。
3) 間接喉頭検査でみられる外傷は、左声帯の血腫がもっとも多い。
4) 過剰なカフ圧は反回神経麻痺に関連しており、さけるべきである。
[ラリンジアルマスク挿入に伴う障害]
1) 咽頭の発赤、(喉頭の反回、舌下、舌)神経麻痺、披裂部脱臼、喉頭蓋炎がみられる。
2) 挿入時の愛護的な挿入が必要である。また、過剰なカフ圧もさけるべきである。
[術後咽頭喉頭痛に対する治療]
1) 最も多いのは、自然治癒を待つことである。
咽頭痛と嚥下障害の治療として塩酸ベンジダミンを含むうがいを行うことも有効である。
2) 塩酸ベンジダミンは局所非ステロイド性消炎鎮痛剤で局所麻酔作用も持つ。アルカリ性pHで炎症部位に吸収されやすい。
3) 間接喉頭検査でみられる外傷は、左声帯の血腫がもっとも多いが、特に治療はなく自然治癒の傾向が強い。
[解説者註]結局、愛護的に行う以外に方法はなく、LMAでも気管挿管でも同じ事である。この総説を読んで、気道確保後の咽頭喉頭痛に対する論文の少ない原因は、テクニックという要素がいかようにも結果を変化させるために、はっきりしたことは言いにくいためではないかと思った。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) <MW>