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麻酔手技のトレーニング
「麻酔手技のトレーニング」によせて
讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)
平成16年度から臨床研修義務化に伴い臨床研修プログラムが変更になる。
救急(救急部門/集中治療部門)もしくは麻酔科の研修が必修となることにもなった。そこで、今回は、麻酔手技のトレーニングや教育について考えるべく、文献解説を試みた。手技の難しいもののトレーニングに関する論文が目立ったが、最近では、シミュレーターを使ったトレーニングも頻繁に行われている。また、トレーニングシステムや資格についても、手技のトレーニングとして捉えて、広い範囲から解説した。
今回解説した文献は、以下の15編である。
1.硬膜外麻酔手技の教育と評価でのビデオ撮影の有用性
2.局所麻酔のレジデントトレーニングのための新しい教育プログラム
3.臨床技能学習センターでの気管挿管の習得
4.輪状軟骨圧迫:推奨されている方法の教育
5.麻酔下自発呼吸でファイバー挿管を教える
6.局麻下の気道管理とファイバー挿管のトレーニング:麻酔科医を被検者にする
7.2タイプの麻酔シミュレータのトレーニング能力の比較(コンピュータスクリーンベースとマネキンベースシミュレータ)
8.新米麻酔科医の技術をテストするためシミュレーターを使う
9.麻酔科医は麻酔シミュレーターにおいて悪性高熱をどのように治療するか?
10.麻酔シミュレータに使用された評価手段:過去の研究の再評価
11.麻酔シミュレーションの経験:シミュレーション能力を評価する研究についての教員と学生の意見
12.麻酔シミュレーターで大学生の能力を評価したときの妥当性と信頼性
13.麻酔専門医資格と患者の転帰
14.麻酔業務におけるストレスと燃え尽き兆候
15.英国の教育病院での手術室トレーニング活動の詳細な分析
来年度から始まる、臨床研修義務化により、麻酔科で救急の手技を教えることになりそうであるが、それだけでは寂しい。きちんとトレーニングを行うことを通して、麻酔科の魅力も伝授する必要がある。そうすることにより、麻酔科のマンパワーを増やす絶好の機会にもなる。多くの麻酔科医としての人材をgetできることを願っている。
1.日本語タイトル:硬膜外麻酔手技の教育と評価でのビデオ撮影の有用性
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
The effectiveness of video technology as an adjunct to teach and evaluate epidural anesthesia performance skills.
Birnbach DJ , Santos AC , Bourlier RA , Meadows WE , Datta S , Stein DJ , Kuroda MM , Thys DM
Anesthesiology 96(1): 5-9, 2002
施設:Department of Anesthesiology, College of Physicians and Surgeons of Columbia University, New York, NY, USA.
[目的]レジデントに硬膜外麻酔を教えるためにビデオ撮影を行い、それを見て反省することが有用かどうかを検証する。
[背景]ビデオ撮影をして実技を批評するという教育はすでに行われているが、麻酔科のレジデントの教育に使用したという報告はない。
[研究の場]病院
[対象]2年目麻酔科レジデント22名
[方法]1)無作為前向き研究
2)初めて産科麻酔を研修する麻酔科レジデントにビデオで硬膜外の手技を撮影し、いっしょに検討する群(ビデオ群)とまったくビデオ撮影も検討もしない群(非ビデオ群)に分ける。
3)ビデオ群ではレジデントの硬膜外の手技を毎日撮影し、週に2回検討する。非ビデオ群では撮影も検討もしない。
4)4人のスタッフ麻酔科医が1日、15日目と30日目にそれぞれ独立して、13の判定項目(解説者註)について判定し、総合評価を10段階のスコアで判定。4人の合計で40点満点とした。
[結果]
1)ビデオ群は非ビデオ群より常によい評価であった。
2)1日目は21vs12(中央値)で差はなかったが、15日目では32 vs 24、30日目は36 vs 24と明らかな差があった。
3)ビデオ群は30日目までスコアが上昇し続けたが、非ビデオ群は15日と30日目は変わらなかった。
[結論]ビデオを使用して硬膜外の手技を検討すると非常に高い上達が得られた。さらに、不適切な手技をレジデントに認識させるのに役立った。
[解説者註]
(1)患者の体位と術者の姿勢(2)無菌操作(3)ポピドンヨードをこぼさない(4)ポピドンヨードの正しい消毒(5)覆布の正しい使い方(6)穿刺針の取り扱い(7)正しい椎間穿刺と正中穿刺(8)頭側向き穿刺(9)多すぎる空気の注入(10)カテーテル挿入(11)穿刺針の抜去(12)カテーテルの止めかた(13)紳士的なふるまいをチェックポイントとしている。解説者は空気を使用しないので9をのぞいてはおなじことを研修医に教えている。どこの国でも手技の上達に関するポイントは同じである。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)
2.日本語タイトル:局所麻酔のレジデントトレーニングのための新しい教育プログラム
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
A new teaching model for resident training in regional anesthesia.
Martin G , Lineberger CK , MacLeod DB , El-Moalem HE , Breslin DS , Hardman D , D'Ercole F
Anesth Analg 95(5): 1423-7, 2002
施設:Department of Anesthesia, Duke University Health System, Duke North Hospital Room 3438, Box 3094, Durham, NC 27710, USA.
[目的]麻酔レジデントプログラムがなかった1992-1995年とプログラムが適用された後(1998-2001年)のデータを比較し、新しい教育プログラムがうまくいっているかどうか評価する。
[背景]局所麻酔においてレジデントの教育が適切かどうかは国家の関心事である。当大学では1996年に局所麻酔チームが、局所麻酔のトレーニングのための新しい教育プログラムを作成してはじめた
[研究の場]米国の大学病院の手術室
[対象]大学病院の麻酔科医レジデント約20名
[方法]麻酔レジデントプログラムがなかった1992-1995年とプログラムが適用された後(1998-2001年)の麻酔件数(脊椎麻酔、硬膜外麻酔、末梢神経ブロック)のデータを比較した。
[結果]
1)新しい局所麻酔教育プログラムは3年間の末梢神経ブロック数を80から350(中央値)に激増させた
2)脊椎麻酔は66から107に増加、硬膜外麻酔も138から233に増加した
[結論]麻酔レジデントに対する新しい教育プログラムは、末梢神経ブロックに対する臨床の機会を増加させる。
[解説者註]3年目のレジデントを、複数の指導医のもとで術前に末梢神経ブロックを積極的におこなわせたことと、3年目のレジデントに手術室内で1−2年目のレジデントのブロックを補助させた。3年目のレジデントに指導医の監督下に末梢神経ブロックを行わせ、手術室では下級生の面倒を見させる、いわゆる「屋根瓦方式」である。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)
3. 日本語タイトル:臨床技能学習センターでの気管挿管の習得
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Learning endotracheal intubation in a clinical skills learning center: a quantitative study.
Plummer JL , Owen H
Anesth Analg 93(3): 656-62, 2001
施設:Department of Anaesthesia, Flinders University of South Australia and Flinders Medical Centre, Bedford Park, Australia.
[目的]気管挿管を習得するための説明モデルを開発することが目的である。
[背景]医学生や麻酔科研修医を含む医療者が気管挿管を習うことは必須である。初期研修は臨床技能学習センターで行われる。
[研究の場]臨床技能学習センター
[対象]挿管可能なマネキンで気管挿管のトレーニングを受ける受講者100人
[方法]はじめに訓練を受ける人(受講者)に気管挿管のビデオをみてもらう。インストラクターはその技術を説明する。それから監督下に17回試行する。それぞれ成功か失敗か記録する。この記録は初期のアウトカムとして分析される。
[結果]
1)ランダム化し、均一化したロジットモデル(習得過程でその試行が成功か失敗かを測る目的のモデル)は、そのデータにフィットした。
2)ロジットモデルはインストラクターによる格差と今までの挿管経験による成功率の差のエビデンスを与えた。
3)受講者は複数回の施行後にそのインストラクターに慣れてくる。新しいインストラクターになると成功率は50%減少する。
4)学習モデルによって、受講者が1度の成功よりも12の失敗から多くのものを学ぶことを示唆した。
[結論]気管挿管の学習に関する統計モデルの実行可能性と学習過程の見通しを与えた。
[解説者註]17回のうちだいた8-9回で成功率は60-70%となり、ほぼ頭打ちになっている。失敗の可能性P=α^s × β^f(αのs乗×βのf乗)。s=success回数、f=failure回数。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)
4.日本語タイトル:輪状軟骨圧迫:推奨されている方法の教育
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Cricoid pressure: teaching the recommended level.
Herman NL, Carter B, Van Decar TK
Anesth Analg 83(4):859-63,1996
施設:Department of Anesthesiology, University of Texas Health Science Center, San Antonio, USA.
[目的]この研究では教育や実習の場で麻酔科医や麻酔アシスタントが、推奨されている輪状軟骨圧迫法の教育と実習後、その手技を行い維持できているかみる。
[背景]セリック手技、いわゆる輪状軟骨圧迫は、胃内容を受動的に誤嚥してしまうのを防ぐ効果的な方法である。最近の研究において、意識下では20ニュートンの力で、眠ってからは30-40ニュートンの力で圧迫することを推奨している。
[研究の場]手術室
[対象]参加者は53人。これを6グループに分けた。医師、レジデントを1年目(CA-1)、2年目(CA-2)、3年目(CA-3)、麻酔ナース(CRNA)、その他とした。
[方法]輪状軟骨を押さえる力は、幼児サイズの等身大の喉頭気管モデルを使って計測した。それぞれ4つの場面(圧迫方法の説明前、説明後、練習後、3ヶ月後)で、意識下と入眠後の患者に対し、セリック手技を適応した方がいいかどうか尋ねた。
[結果]
1)説明前は意識下でも入眠後でも、参加者全員の圧迫力が不足していた。
2)全員が推奨されている力具合を学習し、この知識は3ヶ月たっても生きていた。
[結論]このモデルは簡単な学習法で最適な力具合を習得できることを意味している。
[解説者註]日常何気なく行っている手技を見直す必要性を認識させられる。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)
5.日本語タイトル:麻酔下自発呼吸でファイバー挿管を教える
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Teaching the use of fiberoptic intubation in anesthetized, spontaneously breathing patients.
Erb T , Hampl KF , Schurch M , Kern CG , Marsch SC
Anesth Analg 89(5): 1292-5, 1999
施設:Department of Anesthesia, University of Basel/Kantonsspital, Switzerland.
[目的]自発呼吸下でのファイバー挿管の可能性と安全性を検証する
[背景]気道確保困難患者の標準的な対処法として自発呼吸下のファイバー挿管があげられる。しかし、ファイバー挿管の教育プログラムの安全性と実行の可能性は筋弛緩がかかり無呼吸麻酔下のものしかない。ところが、自発呼吸で得られる患者のデータは制限があるか矛盾したものしかない。
[研究の場]大学病院の手術室
[対象]100名のASAクラス分類PS1-2の外科手術を受ける患者
[方法]5人のファイバー挿管を未経験の麻酔科レジデント
1)無作為に100名のASAクラス分類PS1-2の外科手術を受ける患者を2群に分ける。
2)セボフルランを自発呼吸下にファイバー挿管を行う(グループA)と全静脈麻酔に筋弛緩薬を加えて調節呼吸下にファイバー挿管を行う(グループB).レジデントあたり10名ずつ。
[結果]1)全体の成功率は96%(2回以内で成功したもの)でグループ間に差はない
1)挿管中のSpO2は、グループAでは95%より高かったがグループBでは95%未満になった患者が2人いた.
2)グループAではファイバースコープは気管に入ったがチューブを入れるのを失敗したのが4人でいたが、グループBではいなかった。
3)これは、気道が正常な患者では麻酔下の自発呼吸でファイバー挿管を教えることが安全であることを示している
[結論]麻酔下にファイバー挿管をまったく経験のないレジデントに教える場合、筋弛緩下だけでなく自発呼吸下での可能性と安全性が示された。
[解説者註]自発呼吸下の麻酔は、新鮮ガス流量6L/minで100%酸素とセボフレン8%で3分、その後セボフレンを5%に下げてしっかり深くしてから行っている。麻酔の深度は、臨床兆候をきちんと観察して行っている。結局、指導医の力量によるのではないか。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)
6.日本語タイトル:局麻下の気道管理とファイバー挿管のトレーニング:麻酔科医を被検者にする
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Training course in local anaesthesia of the airway and fibreoptic intubation using course delegates as subjects.
Patil V , Barker GL , Harwood RJ , Woodall NM
Br J Anaesth 89(4): 586-93, 2002
施設:Department of Anaesthetics, Norfolk and Norwich University Hospital NHS Trust, Colney Lane, Norwich NR4 7UZ, UK.
[目的]トレーニングに被検者の意見を取り入れてみよう。
[背景]麻酔科医がawakeファイバー挿管をトレーニングする方法がある。
[研究の場]手術室
[対象]被検者は25-50歳の男性11人、女性4人
[方法]15人の被検者に心血管モニター下でファイバー挿管を行い、その後アンケートに答えてもらう。
[結果]
1)この教育方法はグループ内のそれぞれに受け入れられていることは、アンケートから明らかであった。
2)Gagging(吐き気を催すこと)はファイバー挿管のもっとも一般的な副作用の1つであったが、不快と評価したのは1人であった。
3)被検者の54%は軽い疼痛を訴え、46%は全く痛みを訴えなかった。
4)総合的に85%がこの手技を許容可能とし、15%は楽しいと評価した。苦痛を伴う手技であるという評価はなかった。
5)心血管モニターにより心拍数や動脈圧の変化が25%以内であった
6)知覚以上が1人、鼻出血が2人、いずれも臨床的にファイバー挿管に支障をきたすほどのものではなかった。
[結論]トレーニングに麻酔科医を被検者とすることは麻酔科医に受け入れられた。また不快感や合併症は十分低いレベルであった。
[解説者註]自分で試してみることが、本当の様子がよくわかる。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)
7.日本語タイトル:2タイプの麻酔シミュレータのトレーニング能力の比較(コンピュータスクリーンベースとマネキンベースシミュレータ)
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
A comparison of the training value of two types of anesthesia simulators: computer screen-based and mannequin-based simulators.
Nyssen AS , Larbuisson R , Janssens M , Pendeville P , Mayne A
Anesth Analg 94(6): 1560-5, 2002
施設:Department of Work Psychology, Bat. B-32 FAPSE, University of Liege, 4000 LIEGE Sart-Tilman, Belgium.
[目的]麻酔レジデントの教育にコンピュータスクリーンベースのシミュレーターとマネキンベースのシミュレーターのどちらが有用かを比較する。
[背景]マネキンベースのシミュレータは高価である。これまでに、コンピュータスクリーンベースとマネキンベースのシミュレーターを、実際の臨床の場面で比較したものはない。
[研究の場]ベルギーの大学病院
[対象]40名の麻酔科研修医
[方法]各シミュレーターに20名ずつを割り当てる
2タイプのシミュレーターにアナフィラキシーショックのプログラムをあらかじめ行っておき、各シミュレーターに割り当てられた研修医を、治療スコアと診断時間によって評価する。
1)各シミュレーターで1ヶ月あけて2回おこなう
2)GroupAでは、アナフィラキシーショック(1回目)−アナフィラキシーショック(2回目)と同じシナリオ、GroupBでは、悪性高熱症(1回目)−アナフィラキシーショック(2回目)と違ったシナリオとする
3)GroupAでは1回目と2回目を比較する
[結果]
1)GroupAでは、いずれのシミュレーターでも1回目より2回目の方が成績がよかったが、各シミュレータ間には差はなかった
2)GroupBの2回目でも各シミュレーター間に差はなかった
3)2回目同士を比較すると、マネキンベースでは差がなかったが、コンピュータベースではGroupAのの方がGroupBよりも治療スコア、診断時間とも成績がよかった
[結論]危機管理の手法を習得するためには、スクリーンベースのもので十分である
[解説者註]アナフィラキシーショックのシナリオで以下のものをチェックする。
100%酸素で換気、気化器をoff、トレンデレンブルグ体位とする、輸液を補充する、アドレナリンの投与、不整脈の治療、気管支痙攣のチェック、抗ヒスタミン薬の投与、低酸素家血症の治療、アシドーシスの治療、高カリウム血症の治療、採血、コルチコステロイドの投与について評価した。実際に治療行為や実技を行わず診断や治療の考え方だけを実習するだけなら、コンピュータスクリーンだけのものでも十分であるのは、当たり前であろう。ただ、同じシナリオをコンピューターベースで行うと、覚えてしまう可能性はある。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)
8. 日本語タイトル:新米麻酔科医の技術をテストするためシミュレーターを使う動
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Use of a high-fidelity simulator to develop testing of the technical performance of novice anaesthetists.
Forrest FC , Taylor MA , Postlethwaite K , Aspinall R
Br J Anaesth 88(3): 338-44, 2002
施設:Sir Humphry Davy Department of Anaesthesia, Bristol Royal Infirmary, UK.
[目的]新米麻酔科医の技量をシミュレーターで採点してみよう
[背景]我々はデルフォイテクニックを用いて、全身麻酔中の仕事を評価し、26人のコンサルタント麻酔科医から同意を得た。そこで急速導入の全身麻酔をする麻酔科医を評価するための技術評価採点システムを開発した
[研究の場]ブリストル医療シミュレーターセンター
[対象]6人の新米麻酔科医
[方法]最初の3ヶ月のトレーニング中 に5回の採点をする。採点は7人のフェローシップ後の麻酔科医がそれぞれ1度づつ行った
[結果]1)新米麻酔科医は12週の時点で有意に進歩した(p<0.01)
2)新米麻酔科医の最後の採点とフェローシップ後の麻酔科医の採点との間にも有意差があった(p<0.05)
[結論]これらの結果はシミュレーターで技量を観察したり計量したりできることを示している
[解説者註]
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科
9.日本語タイトル:麻酔科医は麻酔シミュレーターにおいて悪性高熱をどのように治療するか?
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
How do anaesthesiologists treat malignant hyperthermia in a full-scale anaesthesia simulator?
i Gardi T , Christensen UC , Jacobsen J , Jensen PF , Ording H
Acta Anaesthesiol Scand 45(8): 1032-5, 2001
施設:Department of Anaesthesiology, Herlev Hospital, University of Copenhagen, Herlev, Denmark.
[目的]今回の研究では麻酔科医がMHを正しく診断できるか、劇症型MHを治療できるか、シミュレーターを用いて評価した。
[背景]悪性高熱は珍しい疾患で、ふつう思いがけずに遭遇する。迅速な診断と正しい治療は劇症型MHの患者の生死を分ける。
[研究の場]デンマークの5つの病院
[対象]麻酔科医と麻酔看護師1人づつの32チーム
[方法]実際の行動をビデオに録画し、デンマークのMH記録の基本治療に沿っているか、後ろ向きに分析調査した。
[結果]
1)32チームすべて、外科医に可能な限り早く手術を終えるよう頼んだ。気化器のスイッチを切り、100%酸素にした。
2)全チームが過呼吸にしようとしたが、実際に行えたのは14チームだけだった。一番大きな問題はマニュアル換気に切り替えたことであった。
3)どのチームもダントロレンを投与した。
[結論]すべてのチームが、シミュレーターでの悪性高熱症を正確に診断した。ただできなかったことは、過換気にしようと試みたが、半分以上のチームが過換気にできなかった。これは知識不足というよりむしろ、機器の実際の使用の問題であった。
[解説者註]悪性高熱症の初期治療は8つのゴールに分けられている。
1)手術を中止し、治療を補助する人手を呼ぶ
2)100%酸素で過換気にして、代謝の要求にあうように新鮮ガス流量を増加させる
3)トリガーとなる薬物の排泄。気化器のスイッチをoffにする。麻酔器自身をとり変えるべきであるというのは推奨されていない
4)ダントロレンの使用
デンマーク悪性高熱症協会による推奨にしたがってダントロレンは初期投与量1mg/kgを投与し、最大10mg/kgまで効果が認められるまで使用すべきである。
5)過換気によるアシドーシスの治療と重炭酸塩の投与
6)グルコース/インスリンの投与による、高カリウム血症の治療
7)利尿薬湯用による腎臓の保護
8)冷却による体温のコントロール
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)
10.日本語タイトル:麻酔シミュレータに使用された評価手段:過去の研究の再評価
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Assessment instruments used during anaesthetic simulation: review of published studies.
Byrne AJ , Greaves JD
Br J Anaesth 86(3): 445-50, 2001
施設:Morriston Hospital, Swansea, UK.
[目的]麻酔シミュレーターの性能を測るのに、どんな評価の手段があるか。またそれらの正当性と信頼性が確立されているかどうかを知ること。
[背景]1980年から2000年までに麻酔シミュレーターの性能評価を記述した13の論文がある。麻酔シミュレーションは医学教育での発展性がある。また、患者のリスクを負わずに麻酔科医の力量を測定できる方法として大変強調されている。
[研究の場]文献を集めた研究(机上)
[対象]1980年から2000年に発表された13の麻酔シミュレーターの性能を評価した論文
[方法]論文を読み、以下のように分類して評価する。
1)シミュレーターのタイプ、2)シミュレーションのタイプ、3)評価の効用、4)性能面の評価、5)評価手段が一連のシミュレーションに適用されているか
[結果]評価したシステムの正当性または信頼性を調査するようにデザインされていたのは、たった4つの論文だけであった。
[結論]シミュレーションの性能を評価する方法が、きちんとしていないと考えられた。 シミュレーター・ベースのテストの導入は麻酔科専門医取得あるいは更新に使用するには、まだ未熟である。
[解説者註]これまでのシミュレーターを評価した論文をレビューしたが、きちんと評価されていなかった。これでは、シミュレータはおもちゃの域をでない。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)
11.日本語タイトル:麻酔シミュレーションの経験:シミュレーション能力を評価する研究についての教員と学生の意見
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
A Canadian simulation experience: faculty and student opinions of a performance evaluation study.
Morgan PJ , Cleave-Hogg D
Br J Anaesth 85(5): 779-81, 2000
施設:University of Toronto, Department of Anaesthesia, Sunnybrook and Women's College Health Sciences Centre, Ontario, Canada.
[目的]麻酔シミュレーターが学生の評価と教育に使用できるかを確かめてみること
[背景]トロント大学では最終学年のうちの2週間、麻酔科を研修する。
[研究の場]トロント大学の麻酔研修場所
[対象]177名の最終学年の医学生
[方法]
麻酔科の2週間のローテーションの2週目に15分間のシミュレーターを使った評価を行う。このセッションをビデオテープに記録して、2人の教員がレビューし、記録されたものを見て学生の評価を行う。セッションの最後に担当教官に会い、内容についてのフィードバックがあり、学んだ事柄について詳細な解説が与えられる。
最後に、以下の9つの質問を学生に行い、5段階で評価した(1:まったくそうでない-5:非常にそうだ)。また教員にも同じ質問を行った。
1)はじめのビデオ解説は役に立ったか
2)この経験の目的は理解できたか
3)シミュレーターのセッテイングは適切であったか
4)シミュレータでの経験は実際の手術室でのシミュレーションに反映できたか
5)シナリオは学習している対象を反映していたか
6)フィードバックはあったか
7)この経験から得たものはあったか
8)シミュレーターは学生の評価の道具として使えるか
9)評価の道具として使用する前にあらかじめシミュレーターにふれておく必要があるか
[結果]完全に質問に答えたのは143人
上記の質問で学生は3と8はスコア3(中央値)で、9はスコア5、それ以外の項目はスコア4であった。教員は質問7でスコア5、質問9でスコア4であった。
[結論]この研究からえられた教員と学生の意見として、シミュレーターを評価の道具として使用する前にあらかじめ触れさせて欲しいということである。
[解説者註]麻酔シミュレーターを学生教育に使用して意見を聞いたという短報である。きちんとデザインされた研究ではないので学術的にはあまり価値はないが、発想としてはおもしろい
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)
12.日本語タイトル:麻酔シミュレーターで大学生の能力を評価したときの妥当性と信頼性
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Validity and reliability of undergraduate performance assessments in an anesthesia simulator.
Morgan PJ , Cleave-Hogg DM , Guest CB , Herold J
Can J Anaesth 48(3): 225-33, 2001
施設:Department of Anesthesia, Sunnybrook and Women's College Health Sciences Centre, University of Toronto, Ontario, Canada.
[目的]評価の道具としての麻酔シミュレーターを使って、医学生の成績評価の妥当性と信頼性を調べる。
[背景]医学適性の評価については長年にわたり多くの教育者により焦点とされてきた。麻酔の病院実習の成績は信頼性や妥当性のあまりない方法で評価されている
[研究の場]大学病院シミュレーションセンター
[対象]140名の医学生
[方法]麻酔科に10日間ローテーションする第8日目(7日間は手術室での実習を経験している)にシミュレーションセンターで麻酔シミュレーションを行い学生を評価する。10分のビデオ説明の後、15分間のシミュレーターを使った評価を行う。このセッションをビデオテープに記録して、2人の教員がレビューし、記録されたものを見て学生の評価を行う。セッションの最後に担当教官に会い、内容についてのフィードバックがあり、学んだ事柄について詳細な解説が与えられる。ビデオによる評価を行うまえには教官と学生の接触はない。6つのシナリオを、4つの表題(術前に考えること、準備、麻酔導入、術中管理)について25項目の診断基準に基づいてチェックリストを用いて評価を行う。それとシミュレーターのスコアを比較する。
[結果]1)シミュレーターのチェックリスト信頼性は、内部の平均値で0.8程度であった。
2)シミュレーターのスコアの平均とチェックリストとの相関は低く0.2程度の相関係数であった
3)項目間での相関は大きく変化し、シミュレーターの項目と従来の評価の相互関係は低かった
[結論]シミュレーターのチェックリストは受け入れられる信頼性であった。評価方法の異なるものと低い相関になったことは、異なった局面をテストであることを反映しているかもしれない。能力評価に関しては、項目間でも低い相関であったことよりさらなる研究が必要であると考えられる。
[解説者註]前出の論文と同じ方法で行っていると思われる。麻酔シミュレーターに学生の評価をさせてみようというのはおもしろいが、本来の目的ではない使用法なので、きちんと評価できない可能性が高いのが、はじめから予想される。また、学生自身の能力にもばらつきが大きいことが予測されるため、シミュレーターできちんと評価できなくても全然不思議ではない。
13.日本語タイトル:麻酔専門医資格と患者の転帰
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Anesthesiologist board certification and patient outcomes.
Silber JH , Kennedy SK , Even-Shoshan O , Chen W , Mosher RE , Showan AM , Longnecker DE
Anesthesiology 2002; 96(5): 1044-52
施設:Center for Outcomes Research, Department of Anesthesiology and Critical Care Medicine, The Children's Hospital of Philadelphia, Pennsylvania 19094, USA.
[目的]麻酔科専門医資格の有無と外科手術を受けた患者の転帰との比較検討
[背景]専門医資格は能力の指標の代用として使われることがよくある。しかし、その妥当性に関してはほとんど研究されていない。
[研究の場]ペンシルバニア州のメディケアの標準的統計ファイル
[対象]ペンシルバニアで1991年から1994年に一般外科または整形外科の手術を受けたメデイケアの患者144883人の記録
[方法]専門医資格を持っていない卒後11-25年の中堅麻酔科医担当した8894例の患者転帰とその他とを比較した。
中堅麻酔科医は専門医資格を得るための十分な時間があり、専門医資格を高率に持っているので、今回の研究でこのグループを比較対照とした。入院から30日以内の死亡率と、院内で合併症併発後の死亡率において検討した。
[結果]
1)入院から30日以内の死亡率と、院内で合併症併発後の死亡率どちらも専門医資格を持たない中堅麻酔科医において多かった。
2)患者と病院の性格で補正した、30日以内の死亡率と、院内で合併症併発後の死亡率のオッズ比は、いずれも1.13であった。
3)これは国際医療学校卒業に関して補正したデータでも変わらなかった。
[結論]麻酔科医の専門医資格は中堅の開業医として一般的であるが、持っていない医師は悪い転帰を引き起こす。しかし専門医資格を持たない医師が引き起こすお粗末な転帰は、その医師が診療いる病院の結果であり、必ずしも医師の診療マナーのせいではないかもしれない。
[解説者註]専門資格を持っていないと、よい病院に勤務できないとすれば、専門医資格のあるなしで麻酔科医の技量は測れない。しかし、テーマとしては非常に興味深い。
メディケア:米国の65歳以上の老人や障害者,腎透析患者を対象に,連邦政府が運営する医療保険。83年には,メディケアの入院医療費の抑制を目的に,DRGと呼ぶ疾病分類に基づいた予見定額支払方式(DRG‐PPS)を導入した。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)
14.日本語タイトル:麻酔業務におけるストレスと燃え尽き兆候
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Occupational stress and burnout in anaesthesia.
Nyssen AS , Hansez I , Baele P , Lamy M , De Keyser V
Br J Anaesth 90(3): 333-7, 2003
施設:Department of Work Psychology, Bat B-32 FAPSE, University of Liege, B-4000 Liege, Belgium.
[目的]満足感のある仕事や調整やサポートの行き届いた仕事により、ストレス作用を減少させることができるか検討した
[背景]麻酔科医のストレスに関する形式的な研究は精神的生理的指標を用いて測定されてきた。このような方法ではストレス作用とストレス源を混同しないように注意しなければいけない。現在までの文献では、すべてのストレス源に対する生理作用パターンの明確なエビデンスはない。
[研究の場]ベルギー大学の関連施設
[対象]フランス語を話す麻酔科医318人
[方法]麻酔科医のストレス診断のために、生理的指標ではなく、自己申告型のアンケート調査を用いて、ストレス源や仕事の特色とともにストレス作用を計測した
[結果]
1)麻酔科医の平均的なストレスレベルは50.6で、他の一般的な仕事と大差なかった。
2)主なストレス源は3つあり、超過勤務中の管理、仕事の計画性や危険性の調整の欠如であった
3)麻酔科医は権限や責任、仕事への挑戦度や満足度が高いと報告されている。しかし、40.4%が極度の感情的疲労(燃え次ぎ現象)を経験しており、これは30歳以下でもっとも高かった。
[結論]ストレスをなくすあるいは少なくすることで労働環境を変化させることは、有効な戦略である。
[解説者註]もしかすると麻酔科医獲得の鍵がここにあるのではないか?ドロップアウトしやすい若い麻酔科医のストレスを減らし、燃え尽き現象を起こさないために、就労管理がもっとも重要であるといえる。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)
15.日本語タイトル:英国の教育病院での手術室トレーニング活動の詳細な分析
原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
A detailed analysis of theatre training activity in a UK teaching hospital.
McIndoe AK , Underwood SM
Br J Anaesth 84(5): 591-5, 2000
施設:Sir Humphry Davy Department of Anaesthesia, Bristol Royal Infirmary, UK.
[目的]適切なトレーニングのために、これまでの標準的な教育病院での麻酔研修の実態を見極めること。
[背景]明らかな研修の標準が定義されていないのは、指導者と指導をうけるものにとって、トレーニングの適切性を判断するのが難しいためである。
[研究の場]英国の教育病院
[対象]約35,000件の手術室内部システムのデータ
[方法]手術室で2年間に行われた全手術手術室内部システムから、コンサルタント麻酔科医、上級レジデント、麻酔科研修医の分類を含むデータを、手術科べつに分類して、解析する。2年にわたって当施設における麻酔科医の配置を調査した。
[結果]
1)上級レジデントの症例の35%、麻酔科研修医の32%が麻酔の指導を受けていた。
2)症例の指導を行ったのは、手術科により大きなバリエーションがあった(上級レジデントが指導を受けた症例の内訳:心臓胸部 100%、耳鼻科64%、一般外科47%、婦人科19%、産科32%、眼科58%、口腔52%、小児67%、整形外科14%、泌尿器科65%、その他37%/麻酔科研修医が指導を受けた症例の内訳:心臓胸部 86%、耳鼻科28%、一般外科23%、婦人科8%、産科11%、眼科31%、口腔27%、小児48%、整形外科4%、泌尿器科28%、その他30%)。
3)麻酔科コンサルタント単独が9632、上級レジデント単独3855、麻酔科研修医単独13557、コンサルタント+レジデント1452、コンサルタント+研修医6360、レジデント+研修医579であった。
[結論]この研究は我々のトレーニング活動を説明し、施設の変化を促進させる。
[解説者註]麻酔手技のトレーニングというよりむしろ、手術室統計とでも言うべき内容。しかし、コンサルタント単独での麻酔が、麻酔科研修医単独の麻酔に次いで多いことに驚かされる。うがった見方をすれば「難しい症例では、教えながらやるより自分一人で麻酔をした方が気が楽」ということを反映しているのだともとれる。
[解説者]讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)