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麻酔科領域のメタアナリシス

●「麻酔科領域のメタアナリシス」によせて

1.低濃度局麻薬による硬膜外鎮痛とオピオイド鎮痛後の帝王切開と経腟器械分娩の割合

2.選択的帝王切開術時の脊髄くも膜下麻酔による低血圧予防に対する静注エフェドリンの用量依存性

3.プロポフォール、イソフルラン、セボフルラン、デスフルランでの日帰り麻酔覚醒プロフィールの比較

4.脊麻後頭痛(PDPH)は妊婦ではよくある合併症である

5.術後倦怠感に関与する因子

6.無痛分娩での自己調節硬膜外鎮痛(PCEA)と持続硬膜外鎮痛(CEI)の比較

7.帝王切開術中の予防的なエフェドリン投与は脊髄くも膜下麻酔による低血圧を防止するが新生児のアウトカムを改善しない

8.麻酔科文献のエビデンスを検証する-産科患者の硬膜穿刺後頭痛(PDPH)の調査と評価

9.帝王切開術を脊髄くも膜下麻酔で行った時の低血圧に対するエフェドリンとフェニレフリンの比較

10.頚椎あるいは腰椎穿刺後のベット上安静は頭痛を抑制するか?

11.術後の悪心嘔吐(PONV)を予防するためのグラニセトロンのシステマティックレビューでの多くのデータを発表している単一施設の影響

12.心臓手術後の早期vs晩期抜管の比較試験

13.電気的けいれん療法でのプロポフォールとメトヘキシタール

14.帝王切開時の脊髄くも膜下麻酔前に循環血液量を増加させておく効果

15.BMIの増加は術後の悪心嘔吐(PONV)の危険因子ではない


「麻酔科領域のメタアナリシス」によせて

讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)


 1990年代後半頃より、EBMという言葉をよく耳にするようになった。EBM(Evidence−Based Medicine:根拠に基づく医療)は、治療にどの薬を使うかという極めて現実的な意思決定の必要性から始まったとされている。今日では薬物療法に限らず、手術、放射線療法など種々の治療法の評価やリハビリテーション、看護などの成果を判断する上でも使用され、診断・検査など治療とは直接関係のない分野にまでも使用されている。
 EBMが盛んになるにつれ,メタアナリシスと呼ばれる統計学的手法が注目を集めている。メタアナリシス*1)とは,系統的に集めた複数の同じテーマの研究結果のデータを統合して分析する手法で、EBMの考え方ではメタアナリシスの結果がもっとも強い証拠*2)とされている*)。
 最近ではPubMed(MEDLINE)のみならず、医学中央雑誌などの和雑誌の文献検索でも簡便にエビデンスの強さに応じた文献情報が見つけられるように「メタアナリシス」「ランダム化比較試験」「比較臨床試験」「比較研究」などのタグがつけられ、和雑誌文献においても文献の質を指定して検索を行う時代となってきた。そこで、今回は麻酔科領域のメタアナリシスによる解析を行った文献を集めて解説を試みた。メタアナリシスを行うためには同じテーマのプラセボ対照のランダム割付研究が必要なため当然のことながら、皆が興味を持つ定番の研究しか見あたらなかった。

*1 メタアナリシスの目的は
1)サンプルサイズを増やすことによって統計学的Power(検出力)を高めること
2)論文の結論が一致していない場合にその不確実性を解決すること
3)エフェクト・サイズ(有効サイズ、有効量)を改善すること
4)研究の最初には分からなかった問題に答えること
である。しかし欠点として、出版バイアスを克服できないことが指摘されている。

*2 エビデンスのレベル分類(数値が小さいほどエビデンスが高い)
Ia 複数のランダム化比較試験のメタアナリシスによる
Ib 少なくとも1つのランダム化比較試験による
IIa 少なくとも1つのよくデザインされた非ランダム化比較試験による
IIb 少なくとも1つの他のタイプのよくデザインされた準実験的研究による
III 比較研究や相関研究、症例対照研究など、よくデザインされた非実験的記述研究による
IV 専門家委員会の報告や意見、あるいは権威者の臨床経験
米国の医療政策研究局:Agency for Healthcare Research and Quality:AHRQ(1993)による

今回解説した文献は、以下の15編である。

1.低濃度局麻薬による硬膜外鎮痛とオピオイド鎮痛後の帝王切開と経腟器械分娩の割合
2.選択的帝王切開術時の脊髄くも膜下麻酔による低血圧予防に対する静注エフェドリンの用量依存性
3.プロポフォール、イソフルラン、セボフルラン、デスフルランでの日帰り麻酔覚醒プロフィールの比較
4.脊麻後頭痛(PDPH)は妊婦ではよくある合併症である
5.術後倦怠感に関与する因子
6.無痛分娩での自己調節硬膜外鎮痛(PCEA)と持続硬膜外鎮痛(CEI)の比較V 7.帝王切開術中の予防的なエフェドリン投与は脊髄くも膜下麻酔による低血圧を防止するが新生児のアウトカムを改善しない
8.麻酔科文献のエビデンスを検証する-産科患者の硬膜穿刺後頭痛(PDPH)の調査と評価
9.帝王切開術を脊髄くも膜下麻酔で行った時の低血圧に対するエフェドリンとフェニレフリンの比較
10.頚椎あるいは腰椎穿刺後のベット上安静は頭痛を抑制するか?
11.術後の悪心嘔吐(PONV)を予防するためのグラニセトロンのシステマティックレビューでの多くのデータを発表している単一施設の影響
12.心臓手術後の早期vs晩期抜管の比較試験
13.電気的けいれん療法でのプロポフォールとメトヘキシタール
14.帝王切開時の脊髄くも膜下麻酔前に循環血液量を増加させておく効果
15.BMIの増加は術後の悪心嘔吐(PONV)の危険因子ではない

序文の最後に、本テーマを選ばせてくれたきっかけとなったインターネット上のページ(EBMにおけるエビデンスの吟味:東京大学大学院薬学系研究科 津谷喜一郎)を紹介して締めくくりたい。
http://www.lifescience.jp/ebm/opinion/200308/




1.日本語タイトル:低濃度局麻薬による硬膜外鎮痛とオピオイド鎮痛後の帝王切開と経腟器械分娩の割合

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Rates of caesarean section and instrumental vaginal delivery in nulliparous women after low concentration epidural infusions or opioid analgesia: systematic review.
Liu EH , Sia AT
BMJ 328(7453): 1410 Epub 2004 May 28, 2004
施設:Department of Anaesthesia, National University Hospital, Singapore.
[目的]無痛分娩のために行う低濃度の硬膜外ブピバカイン鎮痛と(筋注あるいは静注による)オピオイド鎮痛では、帝王切開率と器械分娩率に差があるかを検討する。
[背景]米国では約半数の妊婦が英国では約1/5の妊婦が分娩時の硬膜外鎮痛を受けている。鎮痛に関してはよいのだが、硬膜外鎮痛が分娩を遅らせ、帝王切開率を増加させるのではないかという議論がある。一方、低濃度の局所麻酔薬での硬膜外鎮痛は帝王切開率も低いとされ注目されている。
[研究の場]病棟と手術室/それらの研究を集めた論文の解析
[対象]2003年6月までのMEDLINE、EMBASE、Cochrane Controlled Trials Register からのコンピュータ検索とInternational Jpurnal of Obstetric Anesthesiaの手検索から得られた低濃度局所麻酔薬による硬膜外鎮痛と(筋注あるいは静注による)オピオイド鎮痛を比較した7つのランダム化対照試験(RCT)(約3000名の妊婦が対照)
[方法]epidural analgesia、labour、forceps、vacuum assisted delivery、caesarean section、 instrumental deliveryというMeSH(キーワード)を用いてオンラインで文献検索、あるいは手検索を行い、得られた文献に掲載されたデータを解析した。
[結果]硬膜外鎮痛は帝王切開率を増加させない(オッズ比 1.03:95%信頼区間 0.71-1.48)が器械分娩を増加させるかも(オッズ比 2.11:95%信頼区間 0.95-4.65)しれない。硬膜外鎮痛はオピオイドに比較して分娩の第二期を遅らせる(平均で約15分)。硬膜外鎮痛はオピオイドよりよい鎮痛が得られている(他の鎮痛処置の比較:オッズ比0.1:95%信頼区間 0.05-0.22)。
[結論]低濃度ブピバカインでの硬膜外鎮痛は帝王切開のリスクを増加させないが経腟器械分娩のリスクを増加させる。硬膜外鎮痛を受けている女性は分娩の第二期が長いが、鎮痛はうまくできている。
[解説者註]●オッズ比:危険(risk)に曝露した群と、曝露しなかった群との疾病発生あるいは死亡の危険度の比。症例-対照研究においては、症例が曝露した割合と対照が曝露した割合との比。
        症例(患者)の曝露割合
オッズ比 = ───────────────
        対照(患者でない人)の曝露割合
●95%信頼区間:サンプリングの取り方による誤差の範囲を評価する指標対危険(オッズ比)がこの範囲にあることを示す。
要するに、オッズ比が1より大きいと治療が有害、1より小さいと治療が有効であることを示し、信頼区間に1が含まれていると統計学的に有意ではなく1を含まないと統計学的に有意であることを示している。
[解説者]讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)




2.日本語タイトル:選択的帝王切開術時の脊髄くも膜下麻酔による低血圧予防に対する静注エフェドリンの用量依存性

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
A dose-response meta-analysis of prophylactic intravenous ephedrine for the prevention of hypotension during spinal anesthesia for elective cesarean delivery.
Lee A , Ngan Kee WD , Gin T
Anesth Analg 98(2): 483-90, 2004
施設:Department of Anaesthesia and Intensive Care, The Chinese University of Hong Kong, Prince of Wales Hospital, China.

[目的]帝王切開術での脊髄くも膜下麻酔(脊麻)による低血圧予防に使用したエフェドリンの用量依存性をについてシステマティックレビューを行うこと
[背景]これまでのメタアナリシスの論文ではエフェドリンは母体の低血圧予防に効果があると報告された。レビューでは様々な投与経路、タイミング、容量の違いがあり、至適投与についての疑問が解決していない。
[研究の場]手術室/それらの研究を集めた論文の解析
[対象]2002年10月までのMEDLINE、EMBASE、Cochrane Controlled Trials Register からのコンピュータ検索から得られた、帝王切開術に脊麻を行ない1種類以上の異なった用量で予防的エフェドリン投与を行ったランダム化対照試験(RCT)あるいはコホート研究の14論文(約640名の妊産婦が対象)
[方法]hypotension、caesarean section、spinal anesthesia、dose-response relationship、dose、dosageのキーワードでオンライン文献検索を行い、得られた文献のデータを集めてメタアナリシスをおこなった。
[結果]1)4つのRCTと1つのコホート研究が見つかった(対照症例は390例)
2)RCTには低血圧(傾き -0.0128:95%信頼区間 -0.0213 〜 -0.0044),高血圧(傾き 0.0563:95%信頼区間 0.0235 〜 0.0892)と臍帯動脈血pH(傾き -0.03:95%信頼区間 -0.05〜0.00)に対して明らかな用量反応関係が認められた
3)14mgのエフェドリンを投与したときのNNTは7.6(95%信頼区間 4.8-21.1)であったが、NNHも全くおなじ7.6(95%信頼区間 3.7-23.4)であった
[結論]高用量(14mg以上)では低血圧の予防というよりむしろ、高血圧を引きおこし、臍帯動脈血pHも少し低下する
[解説者註]コホート研究とは、関心ある事項へ曝露した集団(コホート)と曝露していない集団の2つの患者集団を同定し、これらのコホートが関心ある転帰を示すまで追跡する研究様式。 例えば10年間の死亡数で、曝露された人々の死亡率を曝露されていない人々のそれと 比較する。コホート研究は解析を前向きに行うのが普通であるが、時には過去の記録を利用することもある。 ある危険因子にさらされた者とそうでない者が将来どのような病気に罹患するか、 あるいはどのような病態になるのか、とくにその危険率を研究するのに一番良い方法とされてる。
NNT(number needed to treat:治療必要数)とは、ある医学的な介入を患者に行った場合、一人に効果が現れるまでに何人に介入する必要があるのかを表す。
NNH(Number Needed to Harm:害必要数)とは、何人治療することで1人に害(副作用)が生じるかという指標。
[解説者]讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)




3.日本語タイトル:プロポフォール、イソフルラン、セボフルラン、デスフルランでの日帰り麻酔覚醒プロフィールの比較

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Comparison of recovery profile after ambulatory anesthesia with propofol, isoflurane, sevoflurane and desflurane: a systematic review. Gupta A , Stierer T , Zuckerman R , Sakima N , Parker SD , Fleisher LA
Anesth Analg 98(3): 632-41, 2004
施設:Department of Anesthesiology and Critical Care, Johns Hopkins Medical Institutions, USA.
[目的]麻酔維持に使用するプロポフォール、イソフルラン、セボフルラン、デスフルランについて日帰り麻酔の覚醒ぐあいと合併症を比較する
[背景]あたらしい低侵襲手術の発展により、この10年急速な外来手術の増加が認められる。外科手技の発展とともに必要とされるのは、よりあたらしい、よりよい短時間作用性の麻酔薬である。セボフルランやデスフルランは覚醒も速やかで、早期の帰宅が可能であるが、昔からの吸入麻酔薬よりコストがかかる。
[研究の場]手術室と回復室/それらの研究を集めた論文の解析
[対象]1996年から2002年6月までのMedline(PubMed)からのコンピュータ検索から得られた、ランダム化対照試験(RCT)を行った成人を扱ったの58論文
[方法]propofol、isoflurane、sevoflurane、desfluraneのキーワードでオンライン文献検索を行い、得られた文献に掲載されたデータを集めてメタアナリシスをおこなった。
[結果]1)イソフルランとプロポフォール間に覚醒時間の差はなかった
2)デスフルランとプロポフォール、セボフルランではデスフルランが速く、セボフルランとイソフルランではセボフルランが覚醒が速かった
3)帰宅できる状態になるまではイソフルランとセボフルランでは約5分セボフルランが有意に速かった
4)帰宅後のPONVはイソフルランよりプロポフォールが有意に少なかった
[結論]覚醒の速さの違いは、比較した麻酔薬間では小さいが、吸入麻酔薬が有利であった。副作用の頻度、特にPONVに関してはプロポフォールで頻度が少なかった。特殊な麻酔薬は日帰り手術後のアウトカムには大きな役割を果たさないので、麻酔維持薬の選択は個々の麻酔科医のトレーニングや経験、ルーチンや病院の設備により決めるのがよい。
[解説者註]リスク・ベネフィットとコスト・ベネフィットを扱う論文があるが、本論文は前者である。短時間でのリスク・ベネフィットの比較を行う場合、差がなければ何使ってもよいという結論になってしまう。この論文が、コストについての比較であればもっとおもしろかったかもしれない。
[解説者]讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)




4.日本語タイトル:脊麻後頭痛(PDPH)は妊婦ではよくある合併症である

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
PDPH is a common complication of neuraxial blockade in parturients: a meta-analysis of obstetrical studies.
Choi PT , Galinski SE , Takeuchi L , Lucas S , Tamayo C , Jadad AR
Can J Anaesth 50(5): 460-9, 2003
施設:Department of Anesthesia, St. Joseph's Healthcare and McMaster University, Canada.

[目的]妊婦では、脊髄くも膜下麻酔または硬膜外麻酔の誤穿刺によりどのくらいの頻度でPDPHがおきるか、産科に限定してPDPHの発症時期と持続時間をレビューする
[背景]PDPHは、硬膜穿刺後に起こる神経ブロックによる医原性の合併症である。髄液が失われることにより頭蓋内容が牽引されることによるものである。若年女性がリスクファクターとされ無痛分娩や帝王切開を受ける産科の患者では、よくみられる合併症である。
[研究の場]手術後の病棟/それらの研究を集めた論文の解析
[対象]2002年2月までのMEDLINE、CINAHL、HealthSTAR、Cochrane Library からのコンピュータ検索と抄録の手検索、主要麻酔学会のプロシーディングから得られた、産科領域の硬膜穿刺(脊髄くも膜下麻酔または硬膜誤穿刺)を扱ったランダム化対照試験(RCT)あるいは観察研究の32論文(約440名の妊産婦が対象)
[方法]PDPHの頻度、発症時期、持続についての記述が含まれた論文をオンライン文献検索で収集しメタアナリシスをおこなった。
[結果]1)妊産婦の約1.5%(95%信頼区間 1.5%-1.5%)が硬膜誤穿刺のリスクを負っていた
2)その約半数(52.1%:95%信頼区間 51.4%-52.8%)がPDPHをおこしていた
3)脊髄くも膜下針によるPDPHは細径になると減少するが、ゼロではなく、ウィッタカ針で1.7%(95%信頼区間 1.6%-1.8%)であった
4)PDPHの発症は硬膜穿刺後1日目から7日目に発症し、12時間から7日間つづいた
[結論]PDPHは妊婦ではよくある合併症である
[解説者註]硬膜外針での誤穿刺によるPDPHは全体の約0.8%(1.5%の約半数)、脊髄くも膜下麻酔針では1.5%であるので、硬膜外麻酔を行う場合にも1%程度のPDPHを覚悟していなければならない。
[解説者]讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)




5.日本語タイトル:術後倦怠感に関与する因子

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Systematic review and meta-analysis of interventions for postoperative fatigue.
Rubin GJ , Hotopf M
Br J Surg 89(8): 971-84, 2002
施設:Section of General Hospital Psychiatry, Division of Psychological Medicine, Guy's, King's and St Thomas's School of Medicine and the Institute of Psychiatry, King's College London, UK.
[目的]メタアナリシスで術後倦怠感に関与する因子と治療法を評価すること
[背景]術後の倦怠感は、合併症を起こさない手術でもよく見られる。病因論に関しては様々な説があり、様々な因子(手術ストレスによる異化の影響、術後の栄養摂取異常、骨格筋量の減少、心肺系の異常など)や様々な治療(ヒト成長ホルモンの投与、糖質コルチコイド投与、低侵襲手術による手術ストレスの減少、脊髄くも膜下麻酔など)の可能性が挙げられている。
[研究の場]手術後の病棟/それらの研究を集めた論文の解析
[対象]2001年7月までのMEDLINE、EMBASE、Cochrane Library などからのコンピュータ検索から得られた、ランダム化対照試験の66論文
[方法]surgeryとfatigueに関連したMeSH(キーワード)と自由語によるキーワードでオンラインで文献検索を行い、得られた文献に掲載されたデータを集めてメタアナリシスをおこなった。
[結果]1)術直後の倦怠感軽減には鎮痛が有効(オッズ比 0.79:95%信頼区間 0.63-0.96)であった。
2)腹部手術後の8-30日でのヒト成長ホルモン投与による効果は有効であった。
3)腹部手術後の1週間以内の糖質コルチコイド投与と手術手技による効果は少ない。
4)心理学的な治療、栄養学的な治療に関してはエビデンスが得られなかった。
[結論]術後鎮痛を増強すると術後倦怠感には効果が認められたが、腹部手術の術後のヒト成長ホルモンや糖質コルチコイド投与についてさらなる研究が必要である。レビューできなかった研究は認知行動的なもの、睡眠の関与、活動性の関与であった。
[解説者註]システマティックレビューとは、あるテーマに関して一定の基準を満たした質の高い臨床研究を集め、そのデータを統合して総合評価の結果をまとめた文献。システマティックレビューとメタアナリシスは似ているが、結果のまとめ方が定量的なものをメタアナリシス、まとめ方は問わないものをシステマティックレビューといい区別することがある。
[解説者]讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)




6.日本語タイトル:無痛分娩での自己調節硬膜外鎮痛(PCEA)と持続硬膜外鎮痛(CEI)の比較

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Patient-controlled epidural analgesia versus continuous infusion for labour analgesia: a meta-analysis.
van der Vyver M , Halpern S , Joseph G
Br J Anaesth 89(3): 459-65, 2002
施設:Department of Anaesthesia, University of Stellenbosch, Tygerberg Academic Hospital, South Africa.
Anesth Analg 80(5):925-32,1995
[目的]PCEAとCEIの効果と安全性を比較するためにシステマティックレビューを行う
[背景]無痛分娩ではPCEAは比較的あたらしい手法である。PCEAとCEIの効果の比較については多くの論文がある。
[研究の場]病院の分娩室および病棟/それらの研究を集めた論文の解析
[対象]2001年9月までのMEDLINE、EMBASE、Science Citation Index、Cochrane Library からのコンピュータ検索から得られた、バックグランド注入を行わないPCEAとCEIを比較した無痛分娩を扱ったランダム化対照試験の12論文(約640名の妊産婦が対象)
[方法]Patient-controlled、labour analgesia、anaesthesia(anaesthesia for Caesarean Sectionをのぞく)とPregnancyのキーワードでオンラインで文献検索を行い、得られた文献に掲載されたデータを集めてメタアナリシスをおこなった。
第一のアウトカムは追加の鎮痛を受けた患者数とし、第二のアウトカムは局麻薬の量、運動神経麻痺、鎮痛の質、産科的な問題、安全性を含むものとした。
[結果]1)12論文のうち9論文が方法にあげた項目を含んでいた(641名のうち545名はブピバカイン96名はロピバカインを使用)
2)PCEAの方が追加鎮痛を必要とする頻度が少なかった(リスク差 27%:95%信頼区間 18-36%)
3)PCEAの方が局麻薬の量が少なく(荷重平均値の差 -3.92:95%信頼区間 -5.38〜-2.42%)、運動神経麻痺がすくなかった(リスク差 18%:95%信頼区間 6-31%)
4)どちらの方法も母児ともに安全であった
[結論]PCEAでは追加鎮痛の要求、局麻薬の量、運動神経麻痺はCEIよりすくなかった。母親の満足度や産科的なアウトカムの違いを見いだすにはさらなる検討が必要である。
[解説者註]
・システマティックレビューとは、あるテーマに関して一定の基準を満たした質の高い臨床研究を集め、そのデータを統合して総合評価の結果をまとめた文献。システマティックレビューとメタアナリシスは似ているが、結果のまとめ方が定量的なものをメタアナリシス、まとめ方は問わないものをシステマティックレビューといい区別することがある。
・有効率の差について、点推定と区間推定を求める。この比率の差を,リスク差(risk difference)と呼ぶ。この場合、95%信頼区間が0をまたがなければ、P<0.05で有意差があることと同じ意味になる.
・荷重平均値の差(Weighted Mean Difference:WMD)
[解説者]讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科




7.日本語タイトル:帝王切開術中の予防的なエフェドリン投与は脊髄くも膜下麻酔による低血圧を防止するが新生児のアウトカムを改善しない

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Prophylactic ephedrine prevents hypotension during spinal anesthesia for Cesarean delivery but does not improve neonatal outcome: a quantitative systematic review.
Lee A , Ngan Kee WD , Gin T
Can J Anaesth 49(6): 588-99, 2002
施設:Department of Anaesthesia, Intensive Care, The Chinese University of Hong Kong, Prince of Wales Hospital, China.
[目的]帝王切開術中の脊髄くも膜下麻酔(脊麻)中に低血圧を防止するために予防的に投与したエフェドリンの効果と安全性をレビューする
[背景]帝王切開術での脊麻は速く強い質の高い鎮痛と運動ブロックをもたらす。最も多い合併症は低血圧で80%異常と報告されている。母体の低血圧は子宮血流に悪影響を及ぼし胎児の健康を脅かす。子宮の側方圧排と術前の輸液により低血圧予防を行うが限界があり血管収縮薬をしばしば必要とする。
[研究の場]手術室/それらの研究を集めた論文の解析
2000年5月までのMEDLINE、EMBASE、Cochrane Controlled Trials Register からのコンピュータ検索から得られた、帝王切開術に脊麻を行ない予防的エフェドリン投与とコントロール薬を投与したランダム化対照試験の14論文(約640名の妊産婦が対象)
[方法]spinal anesthesia、hypotension、Caesarean section、pregnancy complications、pregnancy outcome、fetal outcome、neonatal outcome、umbilical blood cord gases、vasopressorとehedrineのキーワードでオンラインで文献検索を行い、得られた文献に掲載されたデータを集めてメタアナリシスをおこなった。
[結果]1)エフェドリンは低血圧予防にはコントロールよりも効果があった(相対危険度 0.73:95%信頼区間 0.63-0.86)
2)胎児のアシドーシス(臍帯動脈血のpH<7.2)(相対危険度 1.36:95%信頼区間 0.55-3.35)あるいは1分後のApgarスコア<7(相対危険度 0.77:95%信頼区間 0.29-2.06)と5分後のApgarスコア<7(相対危険度 0.72:95%信頼区間 0.24-2.19)は差を認めなかった
[結論]予防的投与のエフェドリンは低血圧の防止に対してはコントロール薬より有効であるが、新生児に関しては臨床的に明らかに有益な効果を認めなかった。
[解説者註]Relative Risk 相対危険度はコホート研究から導き出される指標であり、Odds Ratio オッズ比はケースコントロール研究から導き出される指標である。Relative Riskは危険因子を持っている人の中である結果が起きた人の割合つまりリスクを、危険因子を持っていない人の中でその結果が起きた人の割合つまりリスクで割った値である。
従って、Relative Riskが1以上になるとその危険因子によりその結果が起きやすいことを意味し、1未満であれば逆にその危険因子があるとその結果が起きにくい事を意味する。なお、Odds ratioのことを"estimated relative risks"あるいは単に"relative risks"と呼ぶ研究者もいるらしい。 また、Relative RiskはRisk Ratio リスク比とも呼ばれている。
 胎児の結果が悪いものは出版される可能性が少ないと考えられるため、この研究では、出版バイアスを考えておく必要がある。出版バイアスとは未出版の研究により左右されるバイアスのことで、未出版の研究があると真実の結果からかけ離れたものになってしまう危険性がある。
[解説者]讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科




8.日本語タイトル:麻酔科文献のエビデンスを検証する-産科患者の硬膜穿刺後頭痛(PDPH)の調査と評価

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Examining the evidence in anesthesia literature: a survey and evaluation of obstetrical postdural puncture headache reports.
Choi PT , Galinski SE , Lucas S , Takeuchi L , Jadad AR
Can J Anaesth 49(1): 49-56, 2002
施設:Department of Anesthesia, St. Joseph's Healthcare, Hamilton, Ontario, Canada.
[目的]産科患者でのPDPHに関する文献の書誌データベースを作成し、PDPHに関する症例対照研究、コホート研究、臨床試験の質を評価する
[背景]麻酔特有の書誌データベースは比較的まれである。たとえば、PDPHに関する文献は100年以上にわたり存在する。Tourtellotteらは体系的に1960年代までに文献を蓄積したが、それ以来、包括的な編集物は出されていない。
[研究の場]病棟/それらの研究を集めた論文の解析
[対象]1999年2月までのMEDLINE、CINAHL、HealthSTAR、Cochrane Library からのコンピュータ検索を行なって得られた196論文(1949年から)
[方法]妊産婦のPDPHの発生、臨床経過、予防、治療に関する文献をheadache、cephalalgia、spinal puncture、dural、epidural、postdural、lunmer puncture、rupture、punctures、obstetrics、labour、delivery、postpartumなどのキーワードで検索し、得られた文献内容をReferense Managerというソフトウエア記録した。各研究取り扱う研究デザイン、主題について評価した。症例対照研究とコホート研究ではDownsらのQuality indexを用いて、臨床試験ではJadad(ハダッド)スケールを用いて評価した。
[結果]1)1949年から1999年までの196文献があった。
2)PDPHに関する研究は急速に増加し1990年代に発表されたものが大多数を占めていた。
3)半数以上文献が発症と予防に焦点を当てたものであった
4)適切な研究デザインはまれであった
5)観察研究でのQuality indexは10/29で、臨床試験でのハダッドスケールは2/5であり、方法論的な質としては貧弱と判定された
[結論]産科領域のPDPHに関する研究数は増加しているが適切な研究デザインと方法論の進歩が必要である。
[解説者註]Quality index(Downsら)とは、Reporting(記述:11段階)、External validity(外的妥当性:3段階)、Bias(バイアス:7段階)、Confounding(交絡:4段階)、Power(5段階)について計30段階(0-29点)で文献の質を評価するもの。Jadad(ハダッド)のスケールとは,ランダム化,二重盲検,フォローアップは適切にされたかが報告されているか,という3項目について5段階で評価するもの。観察研究の主要なものはCase-control studyケースコントロール研究とCohort studyコホート研究である。
PDPHの文献を用いて文献の質を評価しているが、結果はかなり厳しい。あとで、使用できるような共通のデータを導き出せるような、きちんとした研究デザインが求められている。
[解説者]讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)




9.日本語タイトル:帝王切開術を脊髄くも膜下麻酔で行った時の低血圧に対するエフェドリンとフェニレフリンの比較

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
A quantitative, systematic review of randomized controlled trials of ephedrine versus phenylephrine for the management of hypotension during spinal anesthesia for cesarean delivery.
Lee A , Ngan Kee WD , Gin T
Anesth Analg 94(4): 920-6, table of contents, 2002
施設:Department of Anaesthesia and Intensive Care, The Chinese University of Hong Kong, Prince of Wales Hospital, China.
[目的]帝王切開術をクモ膜下脊髄麻酔(脊麻)で行ったときの低血圧に対してエフェドリンとフェニレフリンを使ったランダム化対照試験(RCT)をシステマティックレビューする
[背景]帝王切開術に脊麻を行ったときの低血圧は母児ともに有害な影響を与える。
[研究の場]手術室/それらの研究を集めた論文の解析
[対象]2001年6月までのMEDLINE、EMBASE、Cochrane Controlled Trials Register からのコンピュータ検索から得られた、帝王切開術に脊麻を行ない予防的エフェドリン投与とコントロール薬を投与したRCTの7論文(約290名の妊産婦が対象)
[方法]spinal anesthesia、hypotension、Caesarean section、pregnancy complications、pregnancy outcome、fetal outcome、neonatal outcome、umbilical blood cord gases、vasopressors、phenylephrineとehedrineのキーワードでオンラインで文献検索を行い得られたRCT文献に掲載されたデータ(わからない場合は著者に問い合わせた)を集めて、メタアナリシスをおこなった。アウトカムとして母体の低血圧、高血圧、徐脈、新生児の臍帯血pH、APGARスコアを評価した。

[結果]1)母体の低血圧の予防または処置によりエフェドリンとフェニレフリンに差はなかった(相対危険度 1.00:95%信頼区間 0.96-1.06)
2)母体の徐脈はエフェドリンよりフェニレフリンに多かった(相対危険度 4.79:95%信頼区間 1.47-15.60)
3)フェニレフリンの方がエフェドリンより臍帯血pHが高かった(荷重平均の差 0.03:95%信頼区間 0.02-0.04)
4)2つの昇圧剤間で胎児アシドーシスの兆候(臍帯動脈pH<7.2またはAPGARスコア7点未満)はみられなかった

[結論]選択的帝王切開に脊麻を行う際には昇圧薬としてエフェドリンがもっともよいという伝統的な意見を否定した。
[解説者註]この論文に使用されているRCTは、いずれも術前輸液を1000-2000ml行っており妊産婦の安全性を確保した上でのものである。
[解説者]讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)




10.日本語タイトル:頚椎あるいは腰椎穿刺後のベット上安静は頭痛を抑制するか?

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Does bed rest after cervical or lumbar puncture prevent headache? A systematic review and meta-analysis.
ennissen J , Herkner H , Lang W , Domanovits H , Laggner AN , Mullner M
CMAJ 165(10): 1311-6, 2001
施設:Department of Emergency Medicine, University of Vienna Medical School, Austria.
[目的]ランダム化対照研究のシステムティックレビューとメタアナリシスで長時間のベット上安静が、早期の体動(短時間の安静)よりよいかどうかを評価する
[背景]頚椎あるいは腰椎穿刺に引き続いて起こる頭痛は、早期の体動が問題であるとされてきたが、これに関するエビデンスはない。
[研究の場]病棟/それらの研究を集めた論文の解析
[対象]2001年5月までのMEDLINE、EMBASE、Current Contents、Cochrane Library などからのコンピュータ検索と教科書、から得られた、ランダム化対照試験の16論文(約1130名が対象)
[方法](headache、cephalea、cephalagiaのいずれか)かつ(bed rest、bedrest、bed-rest、posture、recumbency、recumbのいずれか)かつ(lumbar、postlumbar、spinal、dural、punctire、punct、post-punctのいずれか)かつ(randomized、randomised、rendomiのいずれか)のキーワードでオンラインで文献検索と1999年11月にウイーン大学図書館にあった教科書と論文の参考文献からデータを収集しメタアナリシスをおこなった。
[結果]1)16のランダム化対照試験で1083名が短時間の安静、1128名が24時間までの安静であった。
2)麻酔による穿刺(5論文)、ミエログラフィー(6論文)、診断の理由(5論文)で穿刺が施行された
3)ミエログラフィーでは穿刺後の頭痛の相対危険度は0.93(95%信頼区間 0.81-1.08
),診断群では0.97(95%信頼区間 0.79-1.19)であった
4)麻酔群からはデータの不均一性のために結果を導けなかったが、短時間の安静がむしろ優れていた
[結論]頚椎あるいは腰椎穿刺後の長時間のベット上安静は早期体動や短時間の安静がよりも良いとはいうエビデンスはない
[解説者註]このレビューには何Gで穿刺したかと言うことにはふれられていないため、少し疑問が残る。
[解説者]讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科




11.日本語タイトル:心臓手術後の早期vs晩期抜管

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Trials comparing early vs late extubation following cardiovascular surgery.
Meade MO , Guyatt G , Butler R , Elms B , Hand L , Ingram A , Griffith L
Chest 120(6 Suppl): 445S-53S, 2001
施設:Department of Medicine, McMaster University, Canada.
[目的]ランダム化対照試験(RCT)を系統的に検索して、早期あるいは晩期の抜管の違いで心臓手術中と後の患者管理が異なるかどうかを比べる
[背景]心臓手術後にはルーチンの翌日までの機械換気が、術後の呼吸器系合併症の頻度が高かった1960年代には当たり前であった。心臓手術麻酔での高用量オピオイドが機械換気を必要としていた。最近では、このアプローチは変化し心臓手術後には安全性とコストの面から多くの患者に早期抜管が適応されるようになった。
[研究の場]ICUと一般病棟/それらの研究を集めた論文の解析
[対象]1999年9月までのMEDLINE、EMBASE、Cochrane Controlled Trials Registerなどからのコンピュータ検索を行なって得られたランダム化対照試験(RCT)の10論文(約 名が対象)
[方法]オンラインで文献検索を行い、得られた文献に掲載されたデータを集めて相対危険度(95%信頼区間)などを計算し、麻酔の関与とICUの関与について比較し、システマティックレビューを行った。
[結果]1)麻酔方法の変化にはフェンタニルとベンゾジアゼピンの投与量の減少あるいはフェンタニルとプロポフォールへの変更が関与していた(5つのRCT)
2)人工呼吸管理時間の減少(7時間)と在院日数の短縮(約1日)には麻酔薬の量の減少が関与していた(5つのRCT)
3)人工呼吸時間の減少(13時間)とICU滞在日数の短縮(半日)には早期抜管が関与していた
4)追加で検索されたつのRCTでない臨床試験も10のRCTと同様の結果を示していた
5)再挿管、合併症、死亡率はあまりに少なすぎてこれらのアウトカムについての結果を導き出せなかった。
[結論]選択的(予定)心臓手術においては麻酔、鎮静、早期抜管の戦略が機械換気時間の減少とICU滞在、在院気管の短縮に関与している。
[解説者註]早期に抜管すると機械換気の時間が短くICU滞在時間が短くなる、それが最終的には在院日数に現れるというストーリーである。よくある話だが、ある時間を過ぎると一般病棟への転棟は翌日になり、そこから一般病棟のルーチンの指示が始まることがあり、その結果として在院日数が1日長くなる。人数が多ければ多いほど、病院全体の在院日数にひびく。これを考えると、麻酔→ICU→一般病棟への流れを取りこぼさずにきちんと行うことが真の意味で、在院日数の短縮につながる。
[解説者]讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)




12.日本語タイトル:術後の悪心嘔吐(PONV)を予防するためのグラニセトロンのシステマティックレビューでの多くのデータを発表している単一施設の影響

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
The influence of a dominating centre on a quantitative systematic review of granisetron for preventing postoperative nausea and vomiting.
Kranke P , Apfel CC , Eberhart LH , Georgieff M , Roewer N
Acta Anaesthesiol Scand 45(6): 659-70, 2001
施設:Department of Anaesthesiology, University of Wuerzburg, Germany.
[目的]PONVの予防についてメタアナリシスを行い、すべての結果と用量反応性がす単一の施設のデータにより全体のデータが影響されていないかどうかを検討する
[背景]ランダム化対照試験(RCT)のメタアナリシスは広く行われ、レベルの高いエビデンスを提供する。しかし、メタアナリシスには出版バイアスなどの解決すべき問題点も存在する。PONV予防のためのグラニセトロンのランダム化対照試験の最も多く出版されている研究は単一の施設(藤井ら)からのもので、最近ではシステマティックレビューに単一の施設のものばかりを多く含むことは問題視されている。
[研究の場]病棟/それらの研究を集めた論文の解析
[対象]2000年7月までのMEDLINE、EMBASE、Cochrane Libraryからのコンピュータ検索を行なって得られたランダム化対照試験の27論文(約2900名が対象)
[方法]granisetron,nausea,vommiting,retching,anaesthesia,anesthesiaのキーワードでオンラインで文献検索を行い、得られた文献に掲載されたデータを集めてメタアナリシスをおこなった。全施設,多くのデータを発表している単一施設とその他の施設に分けてデータを蓄積し、全用量、低容量(20μg/kg以下)、高用量(20μg/kgよりおおきい)について比較を行った。
[結果]1)グラニセトロンでもPONVを起こす相対リスク(RR)は全体では全用量(0.46:95%信頼区間 0.39-0.54),低容量(0.7:95%信頼区間 0.6-0.81)、高用量(0.34:95%信頼区間 0.28-0.41)であった
2)多くのデータを発表している単一の施設(1867名対象)とそれ以外の施設(1071名)のRRは、それぞれ0.41(95%信頼区間 0.34-0.49)と0.60(95%信頼区間 0.49-0.73)であった
3)多くのデータを発表している単一の施設では低用量は効果がない(RR 0.84:95%信頼区間 0.68-1.04)が高用量では効果を認めた(RR 0.30:95%信頼区間 0.26-0.36)
4)その他の施設では低容量(RR 0.62:95%信頼区間 0.49-0.79)、高用量(RR 0.56:95%信頼区間 0.42-0.75)とも効果を認めた
[結論]全体の結果と用量反応性は多くのデータを発表している単一施設により影響を受けていた。
[解説者註]本論文の著者はFujiiと書くべきところをFujuとスペルミスを犯している。なんと27のRCTのうち21研究がFujiiらのものである。
[解説者]讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)




13.日本語タイトル:電気的けいれん療法でのプロポフォールとメトヘキシタール

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
Propofol versus methohexital for electroconvulsive therapy: a meta-analysis.
Walder B , Seeck M , Tramer MR
J Neurosurg Anesthesiol 13(2): 93-8, 2001
施設:Division of Surgical Intensive Care Unit, University Hospitals of Geneva, Switzerland.
[目的]ランダム化対照試験(RCT)を系統的に検索して、電気的けいれん療法(ECT)の麻酔でプロポフォールとメトヘキシタールがECTの効果と副作用が異なるかどうかを検証する
[背景]ECTへの関心はここ20年増大している。これには3つの要因がある。70-90%の躁病やうつ病の患者がECTで寛解あるいは改善していること。ECTの技術が向上し認知機能障害のリスクが低下したこと。筋弛緩薬と酸素投与を行うことができる全身麻酔下でのECTが広くおこなわれ、ECTによる心イベントや筋肉外傷のリスクが減少したことがあげられる。ECTにプロポフォールを使用することに反対する英国のあるグループの意見がある。ECTによるけいれんの持続と強さがアウトカムの向上に関与しているとして、プロポフォールよりたとえばメトヘキシタールなどの鎮静薬がよりよい選択であるとするものである。一方、他のグループではプロポフォールも使用できる薬剤であるという意見である。
[研究の場]ECTをプロポフォールとメトヘキシタールでランダム化比較試験を行った論文の解析
[対象]2000年12月までのMEDLINE、EMBASE、Cochrane Libraryからのコンピュータ検索を行なって得られたランダム化対照試験の15論文(約700名が対象)
[方法]propofol、methohexital、epilepsy、electroconvulsive shock、electro convulsive therapyのキーワードでオンラインで文献検索を行い、得られた文献に掲載されたデータを集めてメタアナリシスをおこなった。エンドポイントは、けいれんの持続と麻酔の持続で、ECTの最後に症状が改善しているかどうかと薬剤の副作用も比較した。
[結果]1)けいれんの持続はプロポフォールが18-39秒で、メトヘキシタールは26-48秒で、荷重平均の差は 8.4秒(95%信頼区間:6.6-10.0)であった
2)プロポフォール(相関係数の2乗=0.25)とメトヘキシタール(相関係数の2乗=0.11)で各々の投与量とけいれんの持続には相関は見られなかった
3)プロポフォールとメトヘキシタールの麻酔持続時間には差はなかった(荷重平均の差は 0.25分:95%信頼区間0.35-0.85)
4)2つの小さな臨床試験がECTの最後の精神科的なアウトカムを報告している。1つはプロポフォール7/9(9名中7名が改善:78%)が、メトヘキシタールは7/11(64%)の改善率で、もう一つではプロポフォール25/29(86%)が、メトヘキシタールは17/29(59%)の改善率であった
5)副作用についてのデータはほとんど存在しなかった
[結論]けいれんの持続はプロポフォールとメトヘキシタールのECTの研究において治療の成功を測定する有効な手段ではない。今後の検討では、効果の持続をエンドポイントとして使用すべきではない。
[解説者註]ECTの治療のエンドポイントは、症状が改善するかどうかであり、ECT中のけいれんが持続するかどうかはエンドポイントではない。もともと、英国のグループが主張しているECT中のけいれんの持続と強さの差というのは、何の根拠があるのだろうか?ここを正確に評価するRCTでも出てこない限り麻酔薬による差などメタアナリシスでは評価しようがない。
[解説者]讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)




14.日本語タイトル:帝王切開時の脊髄くも膜下麻酔前に循環血液量を増加させておく効果

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
The effects of an increase of central blood volume before spinal anesthesia for cesarean delivery: a qualitative systematic review.
Morgan PJ , Halpern SH , Tarshis J
Anesth Analg 92(4): 997-1005, 2001
施設:Department of Anesthesia, Sunnybrook and Women's College Health Sciences Centre, University of Toronto, Canada.
[目的]帝王切開時の脊髄くも膜下麻酔で生じる低血圧を減少させるために、前もって循環血液量を増加させておくことの役割を評価する
[背景]帝王切開術に脊麻を行ったときの低血圧は母児ともに有害な影響を与える。脊麻による低血圧は静脈容量の増加と血管抵抗の減少により引きおこされる。低血圧の結果、潅流圧減少により子宮血流は減少し、それに依存している胎児の酸素化にも影響を及ぼす。
[研究の場]手術室/それらの研究を集めた論文の解析
[対象]2000年4月までのMEDLINE、EMBASE、Cochrane Libraryからのコンピュータ検索とレビューと麻酔科主要学会などの抄録、MEDLINEに掲載の雑誌からの手動検索から得られた、帝王切開術に脊麻を施行する前に低血圧を予防するために輸液や手技で循環血液量の増加をはかったランダム化対照試験(RCT)の91論文(約1500名の妊産婦が対象)
[方法]"caesarean section,"、"hypotension,"、"anesthesia, spinal"、"Leg wrapping"、"trendelenburg"のMeSHキーワードでオンラインで文献検索を行い得られたRCT文献に掲載されたものと手検索によるデータを集めて、メタアナリシスをおこなった。第一のアウトカムとして母体の低血圧を、第二のアウトカムとしてエフェドリンの使用、APGARスコア、新生児の臍帯血pH、母体の悪心と嘔吐を評価した。
[結果]1)23論文がこの研究のクライテリアと一致した
2)晶質輸液は低血圧の予防には効果は不明であったが、膠質液では1研究をのぞいたすべての研究で有効であった
3)下枝の包帯と血栓予防ストッキングは下枝の挙上やコントロールと比較して低血圧の頻度を減少させた
4)胎児のアウトカムや母体の悪心と嘔吐はほとんど違わなかった
[結論]膠質液の全投与や下枝の包帯により循環血液量を増やしておく処置は低血圧の頻度を減少させたが、帝王切開時の脊麻による低血圧を完全に予防することはできない
[解説者註]システマティックレビューには大多数の論文で該当する研究(RCT)の要約が載せられている。
[解説者]讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)




15.日本語タイトル:BMIの増加は術後の悪心嘔吐(PONV)の危険因子ではない

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ, 年:
An increased body mass index is no risk factor for postoperative nausea and vomiting. A systematic review and results of original data.
Kranke P , Apefel CC , Papenfuss T , Rauch S , Lobmann U , Rubsam B , Greim CA , Roewer N
Acta Anaesthesiol Scand 45(2): 160-6, 2001
施設:Department of Anaesthesiology, University of Wuerzburg, Germany.
[目的]Body Mass Index(BMI)は本当にPONVの危険因子であるかどうかをメタアナリシスで検証する
[背景]ドイツの麻酔科医の調査では約80%の麻酔科医がBMIはPN,PV,PONVの危険因子として重要視しているという結果がある。また、PONVの重要な危険因子としてBMIは科学論文で常に引用されていることもそんなに不思議がられてはいない。しかし、最近出版されたより多変量解析での論文では相関関係は見いだされていない。
[研究の場]病棟/それらの研究を集めた論文の解析 [対象]2000年7月までのMEDLINE、EMBASE、Cochrane Controlled Trials Register からのコンピュータ検索とレビューの手動検索から得られたランダム化対照試験の4論文(全身麻酔科に手術を受けた成人約580名が対象)
[方法]postoperative、nausea、vomiting、obesity、BMI、Body Mass Index、body weightのキーワードでオンラインで文献検索を行い、得られた文献に掲載されたデータを集めて体重別の4グループ、低体重(BMIが20未満)、適正体重(BMI 20-25)、過体重(BMI 25-30)、肥満(BMI 30以上)に再割り付けしてメタアナリシスをおこなった。
[結果]1)もとの結果でも4論文のうち2つは正の相関、残りは明らかな関係を示していなかった
2)しかし、多くの論説的レビューは、再び論説的レビューを引用あるいは原著を誤引用して肥満とPONV間に正の相関関係を主張していた
3)ランダム化対照研究を体重別に比較すると、PONVの頻度は、低体重では45.8%(95%信頼区間:34.0-57.1)、適正体重では41.7%(95%信頼区間:36.5-46.9)、過体重では47.8%(95%信頼区間:38.4-57.1)、肥満では44.1%(95%信頼区間:31.0-57.1)で各群間にいずれも有意差はなかった
4)PNやPVの発生頻度にも体重間で有意差を認めなかった
[結論]系統的な文献検索ではBMIとPONVの正の相関関係を見いだせなかった。さらに、このレビューでは大きいBMIはPONVの危険因子ではないことが確信された。
[解説者註]肥満とPONVの関係を誤引用した過去のレビューは何だったんだろうか?この論文の価値は、過去のレビューを調べてレビューの問題点を引き出したことにある。
[解説者]讃岐美智義(県立広島病院麻酔・集中治療科)