SAVE RAVONAL !! のラボナールとはどんな薬でしょうか?
(M.Sanuki) (SAVE RAVONAL)
 ラボナールの保険適応上の使用法を調べてみました。
 96年版日本医薬品集(薬事時報社)によれば、全身麻酔剤(チオペンタールナトリウム thiopental sodium):「製品」ラボナール ravonal 注射用300・500mg・5g(田辺)「適応」全身麻酔、全身麻酔の導入、局所麻酔剤・吸入麻酔薬との併用、精神神経科における電撃療法の際の麻酔、局所麻酔薬中毒・破傷風・子癇等に伴うけいれん、精神神経科における診断(麻酔インタビュー)とあります。

 ラボナールは私自身としては、全身麻酔の導入にほぼ毎日使用(平成9年8月現在)している薬で、非常に使いやすい薬であると思っています。平成7年(1995年)よりプロポフォール(商品名 ディプリバン)が使用できるようになりましたが、全てをプロポフォールで置き換えることはできないという考えを持っています。理由は、血管痛があること、血圧低下がラボナールよりも強いこと、入眠にラボナールより時間がかかること、呼吸が止まりやすいこと(これは導入時には場合によってメリットにもなる)などです。何よりも、ディプリバンをどんな症例にでも使用する勇気がまだありません。経験症例がラボナールに比べるとはるかに少なく、コツというものをまだ十分に会得していないためです。ディプリバンもほぼ毎日使用していますが、極意を会得するには少し時間がかかります。われわれ麻酔指導医(麻酔専門医)が、そうなのですから麻酔研修中の医師や麻酔を専門にしていない医師はなおさらでしょう。ディプリバンは研修医や他科の医師に、簡単に使える薬ではないように思います。

 全身麻酔の導入と維持の両方に使用できる(完全静脈麻酔薬としての)ディプリバンは嫌いな薬ではありませんが、全身麻酔の導入に使用するだけなら、ラボナールの方がはるかに使用しやすいという感触があります(平成9年8月現在)。麻酔を専門にしている医師が使用するだけなら、ラボナールなしでも何とかやっていける可能性はありますが、ラボナールは麻酔専門医以外でも多くの場面で使用しているという現実があります。

 ラボナールは全身麻酔の導入以外にも、産婦人科の人工妊娠中絶や整形外科の脱臼整復などに単独で用いられています。また、脳外科での鎮静、頭蓋内圧亢進(脳浮腫)の治療、痙攣の治療や精神科での電撃療法などの場面で使われています。このように保険適応の広さや50年近く使われてきたという安全性からも、麻酔の基本となる薬であると思います。

 ちなみに、サリン事件で有名になった某教団が自白剤として用いていたのがこのラボナールです。ラボナールの適応には精神神経科における診断(麻酔インタビュー)の記載がありますが、イソゾール、チトゾール(一般名 チアミラール)にはありません。その教団には精神科出身の医師がいたようで、ラボナールを自白剤に使用できることを知っていたと思われます。私の記憶が確かならば、チアミラールはチオペンタールの力価の1.7倍、作用時間は1.3倍です。もし、自白剤としてチアミラールを使用していたならば、もうすこし事故の頻度が多かったのではないかと想像します。なによりも、自白する前に呼吸が止まったり、自白が何をいっているか理解できなかったりしたのではないか(これは私の想像ですが)? もう一歩考えを進めて、ディプリバンを自白剤に使用していたならばと考えると……(ご想像におまかせします)。うーん、蘇生器具、昇圧剤などを準備し、血圧計やパルスオキシメーターでモニターを行っていれば、きっと安全に自白させることができたにちがいありません(笑い)。

[参考]96年版日本医薬品集(薬事時報社)

 全身麻酔剤(チアミラールナトリウム thiamylal sodium):「製品」イソゾールIsozol注射用0.5g(吉富)、チトゾールCitozol注射用0.3・0.5g(杏林)「適応」全身麻酔、全身麻酔の導入、局所麻酔剤・吸入麻酔薬との併用、精神神経科における電撃療法の際の麻酔、局所麻酔薬中毒・破傷風・子癇等に伴うけいれん

[ラボナールの性質を扱ったリンク集]

http://yuhpb.id.yamagata-u.ac.jp/chusha/tan/tan20.html

http://city.hokkai.or.jp/~medics/news2/news0313.html

http://www.ask.or.jp/~kitakyuh/masuika/masui.html

http://www.asahi-net.or.jp/~YQ4Y-MRMT/masuikiso.html#kusuri

http://www.yomiuri.co.jp/ohm/9604253.html

以下は、私の麻酔メモより

ラボナール Ravonal(500mg/20cc) サイオペンタール thiopental

溶解すると25mg/cc

★超短時間作用性(バルビタールの中では作用時間が最も短い)

☆入眠量 3mg/kg

 導入量 5mg/kg(低蛋白血症では減量)

 他の, 麻酔薬併用時は適宜, 減量して用いる

※皮下, 筋注, 動注 ⇒ 壊死[必ず静注]

 濃度は2.5%以下で用いる

【特】呼吸抑制

[少量でも急速静注で, 呼吸停止(延髄の呼吸中枢抑制)換気量の減少は回数よりも1回換気量減少による]

 循環抑制[心筋収縮力↓ + 末梢静脈拡張 ⇒ 血圧↓,頻脈(末梢血管拡張が関与)]

 副交感神経刺激 交感神経抑制

[しゃっくり, 喉頭痙攀, 気管支痙攀おきやすい]

#対策# 前投薬にアトロピン使用

 疼痛閾値の低下(痛みを感じ安くなる)

 筋弛緩作用(−)

 脳保護作用(脳酸素消費量↓, 脳血流量↓, 脳圧↓)

 抗痙攀作用

【禁】ショック, 呼吸困難を伴う心不全, ポルフィリア, 筋強直型ジストロフィー, 重症筋無力症, 収縮性心膜炎

(相対的禁忌)気管支喘息(迷走神経優位となり発作誘発の可能性)

【注】老人, 低蛋白血症, 貧血, 肝障害, 粘液水腫, 尿毒症,アシドーシス

【増】低蛋白血症(血漿アルブミンと結合していないものが作用する)

アシドーシス(pH11なので酸性の方がイオン化しやすい)、貧血、脱水、肝障害(肝で分解)

血液脳関門を通過し中枢作用を表すのは非イオン型, 非蛋白結合型のバルビツレートのみ

【DATA】

  早期分布半減期 2〜4 分

  後期分布半減期 1 時間

  排泄半減期 6〜12 時間

pK 7.6  蛋白結合率 70%

「脳保護」

初回量 10 - 30 mg/kg 持続 3 -10 mg/lg/h



1997.8.20更新
(M.Sanuki) (SAVE RAVONAL)