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術前不安

●「術前不安」によせて

1.ミダゾラムで術前のストレス反応を減弱する(術後outcomeに及ぼす影響)

2.術前不安は患者教育で解消できるか?

3.術前不安と術中の麻酔薬必要量

4.小児の術後行動outcome(鎮静前投薬の効果)

5.小児の術前不安とPONVの関係

6.麻酔導入中の不穏と術後行動outcome

7.術前不安は覚醒時の興奮に関連している

8.患者教育のための術前ビデオと小児外来手術前の親の不安

9.不安や低CO2血症は麻酔導入後の無呼吸をおこすか?

10.テープに録音された催眠術は第3大臼歯抜術前の前投薬になるか

11.VASによる不安の評価は術前不安と麻酔への関心度測定に役立つ

12.親同伴の麻酔導入と鎮静前投薬のどちらが効果的か?

13.親の同伴と鎮静前投薬:両方するというのはどうか?

14.小児の術前準備プログラム:比較試験

15.ベンゾジアゼピン前投薬は乳房生検のoutcomeを改善するか?



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広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科 讃岐美智義

日常の麻酔科業務のなかで術前診察に占める時間の割合は増加している。麻酔管理料の保険点数が認められたことにより、麻酔科業務に術前診察と術後のfollow upが重要視されるようになったことによるところが大きい。術前診察をいままでまじめにしていなかったわけではないが、業務としてシステム化するにはいろいろな工夫が必要であることがわかった。

術前に病棟に麻酔科医が出向いて回診を行うより、麻酔科外来などに患者さんを呼んで診察、説明、承諾書の記入いう流れにした方が効率がよい。病棟に麻酔科医が一人で赴くのに対して、外来の静かな環境で術前診察をする方が情報をうまく引き出せるのではないかと思う。人前ではいえない話も、診察室ならいえる。また、患者の予備力の評価をするのに、麻酔科外来まで歩いてきたか車椅子で来たかなどを見たり、明るいので患者の表情や顔色(これは大切な観察項目である)もよく見える。そのような理由から、外来での麻酔科術前診察は、患者を把握するのにも都合がよい。(人手が少なくてとか、あるいは外来が無くてという施設の先生ごめんなさい)。

外来で術前診察をして気づくことは、術前日の患者の不安が見えるようになったことである。不安一杯で術前診察にきた患者が、病棟にかえって看護婦に安心しましたなどと報告したときには、説明がうまく伝わったと、こちらが安心する。手術を受ける患者が、知識不足で不安になっている場合には、納得のいく説明がよい前投薬である。不安がなければ、鎮静剤の前投薬を行わなくてもよいのではないかと思ったりもする。

最近、麻酔科の術前診察で鎮静剤を投与するほどでもないと考えられる場合には前投薬を行わず、徒歩で手術室に入室して自分で手術台にあがってもらうことにした。局麻で行う外来手術の場合には、患者は手術室に歩いて入室し、歩いて帰る。全身麻酔の場合には、元気な患者でもストレッチャーでやってくる。これには、どのような違いがあるのか?手術後にはストレッチャーで病棟に帰室するとしても、元気な患者であれば歩いて手術室に入室できるはずである。ストレッチャーで入室するのは前投薬で鎮静剤を使用しているか、医学的な理由で歩けない(歩かせてはいけない)場合である。ストレッチャーに自分で乗って移動してみるとよくわかる。医療スタッフに見下ろされ、患者の目線は天井を見ている。同じ場所を通って手術室に向かうとしても、入院して数日間に見なれた同じ場所が全く異ってみえ、見知らぬ光景が次々と展開される。これは不安をあおる原因である。徒歩での場合は、いつもの光景と変わらない。医療スタッフとは同じ目線で病院の風景も自然である。前投薬をしていないので、温かい言葉によるコミュニケーションも可能である。歩行入室を採用してから手,,術室の看護婦も麻酔導入までの間、患者とコミュニケーションを重視するようになった。

前投薬なしの歩行入室を始めて、いろいろなことが変わったという。前投薬ももちろんだが、胃管の挿入や浣腸の時期、患者の術衣や手術室の点滴台、あるいは患者入室前の手術台の高さ、手術台に上る階段などである。一番大きく変わったのは手術室看護婦の意識かもしれない。昔あった日産自動車のコマーシャルのように「変わらなきゃも変わらなきゃ」である。変わらなきゃと思っているだけでなく本当に変わらなきゃという意味だと解釈している。

そんな理由から今回は、術前不安に関する論文を集めてみた。

1.ミダゾラムで術前のストレス反応を減弱する(術後outcomeに及ぼす影響)
2.術前不安は患者教育で解消できるか?
3.術前不安と術中の麻酔薬必要量
4.小児の術後行動outcome(鎮静前投薬の効果)
5.小児の術前不安とPONVの関係
6.麻酔導入中の不穏と術後行動outcome
7.術前不安は覚醒時の興奮に関連している
8.患者教育のための術前ビデオと小児外来手術前の親の不安
9.不安や低CO2血症は麻酔導入後の無呼吸をおこすか?
10.テープに録音された催眠術は第3大臼歯抜術前の前投薬になるか
11.VASによる不安の評価は術前不安と麻酔への関心度測定に役立つ
12.親同伴の麻酔導入と鎮静前投薬のどちらが効果的か?
13.親の同伴と鎮静前投薬:両方するというのはどうか?
14.小児の術前準備プログラム:比較試験
15.ベンゾジアゼピン前投薬は乳房生検のoutcomeを改善するか?

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)




1.日本語タイトル:ミダゾラムで術前のストレス反応を減弱する(術後outcomeに及ぼす影響) menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Attenuation of the preoperative stress response with midazolam: effects on postoperative outcomes.
Kain ZN, Sevarino F, Pincus S, Alexander GM, Wang SM, Ayoub C, Kosarussavadi B
Anesthesiology 93(1):141-7, 2000
施設: Departments of Anesthesiology, Pediatrics, and Child and Adolescent Psychiatry, Yale University School of Medicine, New Haven, CT 06510, USA.

[目的]術前に投与した鎮静薬が術後の精神的あるいは身体的回復に及ぼす影響を調べる。

[背景]米国では75%以上の患者が術前に鎮静薬を投与されていると言われている。かつての研究では、前投薬の効果判定として術前状態ばかり調べている。本研究では、術前に投与した前投薬が術後にどう影響を及ぼすかを調べる。

[研究の場]病院の手術室

[方法]
1)無作為二重盲検、プラセボ対照研究。
2)前投薬として30分前にミダゾラムを5mg筋注する群とプラセボを筋注する群の2群に分ける。
3)麻酔導入はプロポフォル1-2mg/kg、ベクロニウム0.1mg/kgまたはサクシニルコリン2mg/kgでおこない。麻酔維持は笑気/酸素/イソフルレンで行った。筋弛緩は至適なレベルになるように追加投与し、フェンタニルは導入時に4μg/kgまでの使用とした。
4)術後の不安、痛み、鎮痛薬の消費量、臨床的回復のパラメータ、包括的な健康状態の指標(SF-36)を術後1ヶ月まで比較した。

[結果]
1)手術時間には差はなかった。
2)弟1週目までの比較で、ミダゾラム群はプラセボ群より鎮痛薬の使用が少なかった。
3)1週の時点でミダゾラム群はプラセボ群よりイブプロフェンの使用が少なかった。
4)観察期間を通してすべての時期でミダゾラム群はプラセボ群より不安が少なかった。
しかしSF-36による包括的な健康状態の指標は変わりない。

[結論]ミダゾラム投与群では術後の痛みや心理的な回復はよい。SF-36に違いがでなかったことから臨床的意義は明らかではない。

[抄者註]本当だろうかと思ってしまう。著者らは前投薬のタイミングが大切だといっている。

SF-36:包括的な健康の指標である。8つの項目(体の調子、体の痛み、エネルギーとバイタリティー、感情の調子、一般的な健康感、体の機能、社会的な機能、心の健康)に対して0-100の数値で答える。

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)



2.日本語タイトル:術前不安は患者教育で解消できるか? menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
The effect of anesthetic patient education on preoperative patient anxiety.
Bondy LR, Sims N, Schroeder DR, Offord KP, Narr BJ
Reg Anesth Pain Med 24(2):158-64, 1999
施設: Department of Anesthesiology, Mayo Clinic Rochester, Minnesota 55905,USA.

[目的]麻酔に関する術前の直接的な患者教育が、術前の不安を減少させるかどうかを評価する。

[背景]近年外来手術や日帰り手術が激増している。患者に接する機会が少なくなっているため、術前の不安を減少させる手だてがない。これまでに術前の患者教育で不安の軽減した報告や、不安と痛みを解放したため鎮静薬の必要量が減少したなどの報告がでてきている。

[研究の場]周術期の自宅と病院

[対象]人工股関節全置換術と人工膝関節全置換術を予定された患者

[方法]
1)無作為抽出、前向き研究。
2)電話でビデオが再生できるか聴覚障害、視覚障害があるかを確認した後、パンフレットとビデオテープを使用する群とふつう通り(使用しない)の群に分ける。
3)不安の尺度を測定するためにSTAI(State Trait Anxiety Inventory)の質問項目を96時間前までに一度施行し、手術のために来院したときにもう一度施行する。

[結果]
1)236名がエントリーされたが何らかの理由で、最終的に134名が対象となった。
2)術前と比較してSTAIの変化が少なかったのはビデオ使用群であった。ビデオ使用しない群の約半数が追加説明を希望した。

[結論]パンフレットとビデオによる説明を行うことで、術前の不安の増加を抑えることが出来た。手術前にビデオを見せたり、パンフレットを読ませたりすることは患者にとって有用な情報を提供する。

[抄者註]きちんと説明をしていないと、不安も大きい。しかし、ふつう通りの群の方は施設や医師によって異なると思うが、比較ができないところがくやしい。意地悪に解釈すれば、普段、如何にきちんと説明をしていないかの証明になってしまう。

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)



3.日本語タイトル:術前不安と術中の麻酔薬必要量 menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Preoperative anxiety and intraoperative anesthetic requirements.
Maranets I, Kain ZN
Anesth Analg 89(6):1346-51,1999
施設: Department of Anesthesiology, Yale University School of Medicine and Yale-New Haven Hospital, Connecticut 06510, USA.

[目的]不安がある患者ほど麻酔薬が多く必要かどうかを調べる

[背景]現在、術前の不安や恐れを反映するデータとして心拍数や血圧、内分泌ホルモンの変化が用いられている。しかし、術前不安が術中のoutcomeに与える影響に関してはほとんど知られていない。これまでに、術前不安の増大が術中の麻酔薬必要量を増加させるという総説はいくらかあるが、科学的に妥当性のない早期の研究を引用しており、信頼性には疑問が残る。

[研究の場]病院

[方法] 1)前投薬なしで、手術前にSTAI(State-Trait Anxiety Inventry)を評価し、STAIのスコアで低不安群((25%)、中不安群(25-75%)、高不安群()75%)の3群に分ける。
2)術中はASAの標準モニターに加えてBISもモニターをする。
3)導入にはプロポフォール1mg/kgに続いて30μg/kgのアルフェンタニルを投与。臨床的な反応を観察した後に少量(10-20mg)のプロポフォールを追加投与し、BIS値が40-60になるように調節する。
4)麻酔維持には50%笑気/酸素と0.5μg/kg/minのアルフェンタニルを持続投与し、プロポフォールの持続投与もBIS値が40-60になるように投与する。
5)BISモニターで鎮静度を一定にしたときの導入と維持に必要なプロポフォール量とSTAIスコアを比較した。

[結果]STAIのTrait(特性不安)では導入量、維持量とも群間に差があった(不安が強うほど使用量が多い)が、State(状態不安)では導入量、維持量とも違いがなかった。

[結論]特性不安(Trait)が大きい患者では多くのプロポフォールを必要とする。
麻酔導入に必要な麻酔薬量は患者の不安に基づいて変える必要があるのではないか。

[抄者註]BISモニターは1-100の間の単一の値を表示し、BIS値が高いほど覚醒状態にあることを示す。BIS値が40-60で意識と記憶の消失があるとされている。STAIは測定時点での不安の強さを示す状態不安尺度(A-State)と性格特性としての不安になりやすさを示す特性不安尺度(A-Trait)の2つの尺度がある。それぞれ「落ち着いている」「緊張している」など20項目の質問にたいし、「全く違う」から「その通りだ」までの4段階評定を行う形式となっており、高得点ほど不安傾向が強いことを示す。これまでの研究では麻酔のレベルが一定かどうかという要素を含めて検討がなされておらず異なるレベルで比較していた可能性があるが、本研究ではBISモニターで鎮静レベルをそろえることができたので、よりきちんとした、麻酔薬療の比較ができたと主張している。

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)



4.日本語タイトル:小児の術後行動outcome(鎮静前投薬の効果) menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Postoperative behavioral outcomes in children: effects of sedative premedication
Kain ZN, Mayes LC, Wang SM, Hofstadter MB
Anesthesiology 90(3):758-65, 1999
施設: Department of Anesthesiology and Pediatrics, Children's Clinical Research Center, Yale University School of Medicine, New Haven, Connecticut 06510, USA.

[目的]術前の鎮静前投薬を投与が、術後の退行行動を減少させることができるかどうかを調査する。

[背景]小児の術前不安について、多くの鎮静前投薬の効果をみた報告はあるが、それによって術後の行動がどうなるかをみたものはない。最近、われわれは全身麻酔で手術を受けた小児の50%以上に術後2週間の時点で退行行動を示すという報告を行った。また、小児と親の術前不安の増大が、術後の退行行動を反映するともされている。

[研究の場]病院の手術室と自宅

[方法]
1)無作為二重盲検、プラセボ対照研究。
2)前投薬としてミダゾラム0.5mg/kg+アセトアミノフェン15mg/kg経口投与する群(ミダゾラム群)とアセトアミノフェン15mg/kg経口投与する群(プラセボ群)の2群に分ける。5歳位の約100名が対象。
3)酸素/笑気/ハロセンで導入し、その間の小児の行動はmYPAS(modified Yale Preoperative Anxiety Scale)で評価する。
4)術後1,2,3,7,14日目にPHBQ(Post Hospitalization Queationaire)で患児の行動回復状態を比較した。
[結果]1)ミダゾラム群が手術室で親から離されたときも、麻酔の導入中にも不安が少なかった。
2)重回帰分析の結果、群分けと術後日数が大きな変化をもたらす要因であることが判明した。
3)多重比較をでは術後1-7日では差が出たが、14日では差は認めなかった。

[結論]術前にミダゾラムを前投薬しておいた方が術後1週間までの退行行動現象が少なくなる。

[抄者註]mYPAS(modified Yale Preoperative Anxiety Scale):年少者に対する不安の観察スケールで、5つのカテゴリー(活発度、感情表現、覚醒状態、発生、親の介入)中に27のチェック項目がある。
PHBQ(Post Hospitalization Queationaire):親が自己報告するタイプの質問紙法。6つの不安カテゴリー中に27のチェック項目がある。以前に獲得できていた行動の退行を記述(たとえば、トイレを失敗する、以前に言えていた言葉を忘れる、赤ちゃん言葉を使うなど)。

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)



5.日本語タイトル:小児の術前不安とPONVの関係 menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Preoperative anxiety and postoperative nausea and vomiting in children: is there an association?
Wang SM, Kain ZN
Anesth Analg 90(3):571-5, 2000
施設: Departments of Anesthesiology, Pediatrics, and Child Psychiatry, Yale
University School of Medicine and Yale-New Haven Hospital, New Haven,
Connecticut 06521, USA.

[目的]全身麻酔で手術を受ける小児の術前不安のレベルとPONVの頻度を調査する。

[背景]全身麻酔での手術後悪心嘔吐(PONV)は一般的な問題になっている。麻酔法が変わってもPONVは30年間変化していないとさえ言われている。術前の不安はPONVのリスクファクターであるとする総説が数編あるが、これまでに術前の不安とPONVの関係を科学的に証明したものはない。

[研究の場]手術室とPACUなど

[対象]日帰り手術を受ける5-16歳のASAクラス1-2の約50名の患児。前投薬はうけていない。

[方法]
1)STAIを使用して不安を自己申告してもらいmYPASで不安の客観的な測定を行う。VASで吐き気と痛みの程度を評価する。
2)麻酔はマスクを用いてO2/N2O=3L/7L、セボフルランは1%から導入開始し6%まで3呼吸ごとにあげた。0.1mg/kgのベクロニウムと2-4μg/kgのフェンタニル投与後に気管内挿管。挿管後に胃管を挿入し、皮膚縫合時に抜去。術中は酸素/笑気は1:2で維持し効果をみてイソフルランを調節した。手術の最後に0.25%ブピバカインを局所浸潤させておいた。50μg/kgのネオスチグミンと10μg/kgのグリコピロレートで全例、筋弛緩はリバースした。手術室で抜管後PACUに搬送した。
3)PACUと24時間後までのPONVの頻度を記述する。
4)多変量解析を用いて年齢、性別、周術期の麻薬の消費量でPONVの説明が付くかどうかを検討する。

[結果]
1)PACUにおいて悪心と嘔吐の頻度は術前不安によって変化しない。
2)術後24時間までの嘔吐の有無と年齢、性別、周術期の麻薬の消費量では説明ができず、術前不安ではPONVを予測できない。

[結論]術前不安とPONVには関係は見いだせない。これまでの医学の知見とは異なる。

[抄者註]PONV:postoperative nousea and vomitting mYPAS(modified Yale Preoperative Anxiety Scale):年少者に対する不安の観察スケールで、5つのカテゴリー(活発度、感情表現、覚醒状態、発生、親の介入)中に27のチェック項目がある。
STAIは測定時点での不安の強さを示す状態不安尺度(A-State)と性格特性としての不安になりやすさを示す特性不安尺度(A-Trait)の2つの尺度がある。それぞれ「落ち着いている」「緊張している」など20項目の質問にたいし、「全く違う」から「その通りだ」までの4段階評定を行う形式となっており、高得点ほど不安傾向が強いことを示す。
VAS(Visual Analog Scale):100mmの線の上で最大の悪心または痛みを100mmとし、それぞれが全くない時を0mmとしたときの強さを表現する。

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)



6.日本語タイトル:麻酔導入中の不穏と術後行動outcome menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Distress during the induction of anesthesia and postoperative behavioral outcomes.
Kain ZN, Wang SM, Mayes LC, Caramico LA, Hofstadter MB
Anesth Analg 88(5):1042-7, 1999
施設: Department of Anesthesiology, Yale School of Medicine, New Haven,Connecticut, USA.

[目的]麻酔導入前におとなしいか泣いているかの違いで、術後の退行行動が増加するかどうかを調べる。

[背景]小児の周術期の経験の中で、麻酔導入時はもっともストレスの多い場面であると言われている。これに対して、麻酔前投薬を使用したり、導入中に親を同伴させたり、術前の準備プログラムなどで周術期の小児の不安を減少させることが可能である。しかし、多くの麻酔科医はルーチンにこれらの方法を用いているわけではないことが示されている。一方、全身麻酔下で手術を受ける子供の60%程度が悪夢や分離不安といったことから術後の退行行動を引き起こしている。

[研究の場]手術室と術後観察室(PACU)

[対象]全身麻酔で日帰り手術をうける約90名の1-7歳の患児

[方法]
1)術前の児の不安はmYPAS(modified Yale Preoperative Anxiety Scale)で評価し、親の不安はSTAIで評価する。
2)酸素/笑気/ハロセンで導入し、その間の小児の行動はmYPAS(modified YalePreoperative Anxiety Scale)で評価する。
3)PACUに搬送し3点法で術後の興奮状態をスコアで評価する。
4)術後1,2,3,7,14日目にPHBQ(Post Hospitalization Queationaire)で患児の行動回復状態を評価する。
5)術前の不安やその他の要素が、術後の退行行動現象に関与しているかどうかを検討する。

[結果]
1)小児の不安と、手術からの時間経過、手術の種類は術後の非適応行動を引き起こす予測因子であることが判明した。
2)術後の退行行動現象の頻度は、手術後の時間経過とともに減少し、麻酔導入時に不安が強いほど多かった。
3)麻酔導入時の不安とPACUでの興奮スコアの間には強い相関関係があった。

[結論]麻酔導入中に不安を示した患児は、術後に退行行動を起こす。導入時に不安が強い場合には術後の退行現象が起きることを両親に言っておくべきである。

[抄者註]mYPAS(modified Yale Preoperative Anxiety Scale):年少者に対する不安の観察スケールで、5つのカテゴリー(活発度、感情表現、覚醒状態、発生、親の介入)中に27のチェック項目がある。
PHBQ(Post Hospitalization Queationaire):親が自己報告するタイプの質問紙法。
6つの不安カテゴリー中に27のチェック項目がある。以前に獲得できていた行動の退行を記述(たとえば、トイレを失敗する、以前に言えていた言葉を忘れる、赤ちゃん言葉を使うなど)。
STAIは,測定時点での不安の強さを示す状態不安尺度(A-State)と性格特性としての不安になりやすさを示す特性不安尺度(A-Trait)の2つの尺度がある。それぞれ「落ち着いている」「緊張している」など20項目の質問にたいし、「全く違う」から「その通りだ」までの4段階評定を行う形式となっており、高得点ほど不安傾向が強いことを示す。
非常におもしろい。術直後の興奮だけでなく、2週間までの間に退行行動現象が起きることをも予測できるとは。

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)



7.日本語タイトル:術前不安は覚醒時の興奮に関連している menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Preoperative anxiety is associated with a high incidence of problematic behavior on emergence after halothane anesthesia in boys.
Aono J, Mamiya K, Manabe M
Acta Anaesthesiol Scand 43(5):542-4, 1999
施設: Department of Anesthesiology, Kochi Medical School, Japan.

[目的]麻酔導入前におとなしいか泣いているかの違いで、麻酔覚醒時の様子が異なるかどうかを調査する。

[背景]臨床経験上、麻酔前に協力的な患児はおとなしく覚醒し、麻酔前に泣き叫んでいる患児は麻酔覚醒時に興奮し暴れることが多いような印象がある。

[研究の場]病院の手術室

[対象]3-6歳のASAクラス1の男児。約100名。

[方法] 1)前向き研究。
2)前投薬として0.2mg/kgのジアゼパムを導入1時間前に内服。
3)麻酔導入前の状態を3段階で評価する(1:穏やか、眠っている、協力的、笑っている、マスクを受け入れる、2:かすかに怖がる、不安、3:口で怖い不安を表現、泣いている、叫んでいる)。1を平静群、2と3を不安群とする。
4)麻酔は酸素/笑気/ハロセンで導入し維持はハロセン濃度1%とし、鎮痛は全員に0.25%プピバカイン0.5ml/kgで仙骨ブロックと1%リドカインの局所注入を行なう。
5)両群の覚醒時の精神錯乱の状態を4段階で評価する(1:穏やか、2:穏やかではないが容易に穏やかになる、3:容易に穏やかにならず、中等度の不穏、4:興奮または見当識喪失)。1と2を問題なし、3と4を問題行動ありとした。

[結果]不安群では27名中20名が、覚醒時に問題行動ありであったのに対して、平穏群では79名中5名が問題行動をおこした。

[結論]術前に不安を示した患児は、術前に不安を示さなかった患児に比べて、覚醒時には高率に興奮し暴れる。

[抄者註]全く同感である。導入時によい子は、覚醒時もいい子である。

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)



8.日本語タイトル:患者教育のための術前ビデオと小児外来手術前の親の不安 menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Use of a preanesthetic video for facilitation of parental education and anxiolysis before pediatric ambulatory surgery
Cassady JFJ, Wysocki TT, Miller KM, Cancel DD, Izenberg N
Anesth Analg 88(2):246-50,1999
施設: Department of Anesthesiology, Nemours Children's Clinic, Jacksonville, Florida 32207, USA.

[目的]小児麻酔に関するビデオテープを術前に見せて、親に麻酔の知識を与えておけば、親の不安が軽減するかどうかを、無作為コントロール試験で検証する。

[背景]術前の不安については30年以上も前から取り扱われてきた主題である。小児の手術において親の不安が、子供の術前不安と術後の非適応行動のリスクファクターであると言う報告がある。

[研究の場]病院

[対象]約80名の日帰り手術を受けるASAクラス1の患児の親

[方法]
1)前向き研究、無作為試験。
2)小児麻酔に関するビデオテーブ見せる群(ビデオ群)と医学的内容でないビデオを見せる群(コントロール群)に分ける。ビデオの内容は22分のプロのナレーションで麻酔の知識を詳細に紹介する。術前訪問、麻酔導入、PACUの様子などをきちんと見せる。コントロールのビデオは自然シリーズ:ペンギンの25分のビデオで医学的な内容ではない。
3)ビデオを見せる前と見せた後に、STAIの状態不安尺度のみとAPAIS(Amsterdam Preoperative Anxiety and Information Scale)とSALT(Standard Anesthesia Learning Test)を行う。

[結果]
1)ビデオ群では麻酔の知識を増加させた
2)状態不安と麻酔特有の不安を減少させた
3)麻酔に関する情報の必要性を減少させた

[結論]ビデオで教育しておいた方が、術前準備は簡便で、術前の不安は軽減できる。

[抄者註]STAIは測定時点での不安の強さを示す状態不安尺度(A-State)と性格特性としての不安になりやすさを示す特性不安尺度(A-Trait)の2つの尺度がある。それぞれ「落ち着いている」「緊張している」など20項目の質問にたいし、「全く違う」から「その通りだ」までの4段階評定を行う形式となっており、高得点ほど不安傾向が強いことを示す。
APAIS(Amsterdam Preoperative Anxiety and Information Scale):6項目からなる術前不安のと麻酔に関する情報の必要性を自己報告形式で測定するもの。各々の質問は5点法で記述する。全く違うが1点、全くその通りが5点。SALT(Standard Anesthesia Learning Test):短時間で麻酔の知識を評価できる質問紙法。SALT IとALT II に分かれており各々15問の選択式のテスト。ビデオを子供ではなく親にみせて、その親の不安を軽減させようと言うのはおもしろい。インフォームドコンセントを兼ねて非常に良い方法だと思うのだが……

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)



9.日本語タイトル:不安や低CO2血症は麻酔導入後の無呼吸をおこすか? menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Do anxiety or hypocapnia predispose to apnoea after induction of anaesthesia?
Drummond GB, el-Farhan NM
Br J Anaesth 78(2):153-6, 1997
施設: Department of Anaesthetics, Royal Infirmary, Edinburgh.

[目的]手術前の不安や低CO2血症が、麻酔導入後の無呼吸をおこすかどうかを調べる。

[背景]麻酔導入後の無呼吸は静脈麻酔薬、とくにプロポフォールでしばしば起こる。プロポフォールは低酸素に対する反応を抑制する。しかし、別の状況、たとえば笑気吸入中の自発呼吸による過換気などによっても無呼吸は生じる。プレオキシゲネション中に呼吸を促したり不安によって過換気になることによっても低CO2は生じる。

[研究の場]手術室

[対象]予定手術を受ける婦人科の患者。約50名。

[方法]
1)麻酔開始30分前までに12項目からなる質問紙法で不安を評価する。2)35%酸素をマスクで吸入させつつ呼気CO2を測定する。
3)プロポフォール群とエトミデート群にわけ、lean body massからAvramらの予測式によって導入量を投与する。0.4ml/secで投与。
4)無呼吸時間と呼気中CO2、術前の不安に関係があるかどうかを、2群で比較する。

[結果]
1)不安と低CO2血症の間に相関はなかった。
2)プロポフォール群では中央値157mgを70秒で注入し、17名が無呼吸になった。エトミデート群では中央値16.2mgを27秒で注入し8名が無呼吸になった(これは予測値よりずいぶん少ない)。プロポフォールの方が無呼吸になりやすかった。
3)無呼吸と呼気中のCO2濃度の間にも相関はなかった。

[結論]プロポフォールで麻酔導入後の無呼吸は長いが、術前不安あるいは低CO2血症との間には関係は見いだせなかった。

[抄者註]Avramらの予測式:dose(mg)=282+1.6lean mass(kg) -17.8age(yr)
プロポフォールは0.625倍、エトミデートは0.038倍したものを投与する。
この予測式が、麻酔導入(入眠)に対してと同様に呼吸抑制に対しても同じ意味を持つのかどうかが疑問である。

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)



10.日本語タイトル:テープに録音された催眠術は第3大臼歯抜術の前投薬になるか menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Tape-recorded hypnosis instructions as adjuvant in the care of patients scheduled for third molar surgery.
Ghoneim MM, Block RI, Sarasin DS, Davis CS, Marchman JN
Anesth Analg 90(1):64-8, 2000
施設: Department of Anesthesia, The University of Iowa, Iowa City 52242,USA.

[目的]第3大臼歯(おやしらず)の抜歯術前に、催眠療法を行うと不安や痛み浮腫や炎症、治癒と回復に関連した他のoutcomeが異なるかどうかを調べる。

[背景]自己催眠やリラクゼーション、瞑想などの心身医学が注目されている。しかし、医師はそういった療法には懐疑的である。忙しい病院環境においては催眠療法は実際的ではない。そのため音楽テープを使って術前に自己催眠を導入した。

[研究の場]病院と自宅

[対象]60名の第3大臼歯の抜歯術をうける患者

[方法]
1)無作為割りつけの前向き研究。
2)催眠術群(H群)とコントロール群(C群)に分ける。
3)全員に同じ外科医が局麻をし決められた鎮静プロトコルで手術を施行。
4)催眠術群は手術の前週に毎日、催眠導入でガイドを行い、周術期の健康を増進させるようなアドバイスを音楽テープで聴かせる。コントロール群はなにもしない。
5)STAIとVAS(痛みと吐き気)を測定する。鎮痛薬の頻度と嘔吐とその他の合併症を測定する。

[結果]
1)S群では、STAIが5.7の増加に対してC群では11.7と大きく増加した。
2)S群では嘔吐の頻度は平均1.3に対してC群では0.3であった。
3)鎮痛薬の頻度と痛みには違いはない。

[結論]不安は減少したが嘔吐は増加した。簡便で経済的な方法だが、こうしたアプローチは未だ発展途上である。

[抄者註]暗示にかけて不安を解消する??どうして、嘔吐が多かったのか?これも術後の不快感のはずだが。

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)



11.日本語タイトル:VASによる不安の評価は術前不安と麻酔への関心度測定に役立つ menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
The visual analog scale allows effective measurement of preoperative anxiety and detection of patients' anesthetic concerns.
Kindler CH, Harms C, Amsler F, Ihde-Scholl T, Scheidegger D
Anesth Analg 90(3):706-12, 2000
施設: Department of Anesthesia, University of Basel, Kantonsspital, Basel, Switzerland.

[目的]VASを用いた不安を自己評価する方法がSTAIの評価とうまく相関するかどうかと、どんな種類の不安が強いかを調べる。

[背景]予定手術を待っているほとんどの患者が、術前不安を感じている。術前不安は不快な感情で、手術をキャンセルする気にさせたり麻酔導入や、患者の回復にも影響を及ぼす。術前不安を評価するのに異なった2つの方法で患者の不安をみた報告は少ない。これまでにも(不安の)VASとSTAIの相関を検討したものはあったが、サンプル数(約50)が少ないことや、女性だけの限られた手術のみでのデータしかない。

[研究の場]病院

[対象]約700名の予定手術患者

[方法]VASで不安を表記してもらうと同時にSTAIも行う。VASは12項目に対するものをそれぞれ行う。(麻酔に対する不安、手術に対する不安)の2項目と具体的な内容(手術を待つ、医療スタッフのなすがままになること、手術の結果、術後痛、手術後に目が醒めるまでの時間、PONV、なにが起こるかわからないこと、術後の精神的あるいは肉体的障害、麻酔から覚めないこと、術中覚醒)の10項目。

[結果]
1)平均のSTAIスコアは39、麻酔に対する不安のVASは29、手術に対する不安のVASは33であった。麻酔よりも手術に対する不安が強い。
2)麻酔に対する不安のVASとSTAIの相関は(r=0.55)で臨床的な相関を認めた。
3)手術を待つ不安でVASがもっとも高く、術中覚醒の不安がもっともVASが小さかった。
4)若年者、女性、麻酔の経験のないもの、以前の麻酔で嫌な経験があるものが不安スコアが高かった。
5)様々な不安の要因を分析すると、(1)知らないことに対する不安、(2)病気を感じる不安、(3)生命に対する不安があり、これらの中で知らないことに対する不安がもっともSTAIとVASが高い。

[結論]単純なVASによる評価は術前の不安を把握するのに簡便で有効な方法である。[抄者註]VASといえば痛みと思ってしまいがちなのだが、不安度をVASで表現してもうまくいく。VASとは100mmの横に引いた直線のどの位置に現在の程度(何の程度でもよい)が当てはまるかを指し示すものである。
STAIは測定時点での不安の強さを示す状態不安尺度(A-State)と性格特性としての不安になりやすさを示す特性不安尺度(A-Trait)の2つの尺度がある。それぞれ「落ち着いている」「緊張している」など20項目の質問にたいし、「全く違う」から「その通りだ」までの4段階評定を行う形式となっており、高得点ほど不安傾向が強いことを示す。

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)



12.日本語タイトル:親同伴の麻酔導入と鎮静前投薬のどちらが効果的か? menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Parental presence during induction of anesthesia versus sedative premedication: which intervention is more effective?
Kain ZN, Mayes LC, Wang SM, Caramico LA, Hofstadter MB
Anesthesiology 89(5):1147-56, 1998
施設: Department of Anesthesiology, and Child Study Center and the Children's Clinical Research Center, Yale University School of Medicine, New Haven,Connecticut 06510, USA.

[目的]小児の麻酔導入において親同伴でいるのと、ミダゾラムを前投薬に投与する場合のどちらがより子供の不安を押さえられるかを調査する。

[背景]小児の麻酔導入時の不安に対する処置として、ミダゾラムの前投薬を使用するのも、麻酔導入に親同伴で行うこともどちらも日常的に行われていることである。しかしどちらがより効果があるかは検討されていない。

[研究の場]病院

[対象]2-8歳の約90名のASAクラス1-2の日帰り全身麻酔をうける予定手術患者

[方法]
1)前向き無作為コントロール研究。
2)無作為に3群に分ける。0.5mg/kgミダゾラム経口(ミダゾラム群)、麻酔導入時に
親同伴で行う(同伴群)、どちらも行わない(コントロール群)
3)小児と親の不安を複数の行動科学的手法で測定し評価する。手術待合室(T1)、親から離れたとき(T2)、手術室の入り口(T3)、麻酔導入時にマスクを当てたとき(T4)、回復室(T5)の時点で測定する。
4)麻酔導入時にはチェックポイントを設けて、コンプライアンス(導入しやすさ)を比較する。

[結果]
1)小児の不安について、T1からT3では群間に有意差があった。
2)post hocテストで、ミダゾラム群は同伴群にもコントロール群に対しても不安が少なかった。
3)親の不安についても、T2以降で同様にミダゾラム群が同伴群とコントロール群に対して不安が少なかった。
4)麻酔導入時の小児のコンプライアンスについてもpoorの割合は、コントロール群が25%、同伴群が17%、ミダゾラム群が0%でミダゾラム群がもっともよかった。

[結論]ミダゾラム群が、同伴群やコントロール群に比較して親子の不安に対して効果的であった。

[抄者註]ミダゾラムの前投薬がもっとも親子の不安を押さえていたというのは納得できるような気がする。親子同伴入室が一見もっともよいと思うのだが、子供が不安になって泣いてしまえば親は不安になる。そんな表情を子供が見て取ることは十分に考えられる。この論文では、同伴で入室する親には、麻酔に対する説明やはどの程度したのだろうか?あまり説明をすればバイアスがかかるためほとんど説明なしではないだろうか。本当の意味で比較にはなっていないと思うのだが…… はじめから比較の対象が無理。

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)



13.日本語タイトル:親の同伴と鎮静前投薬:両方するというのはどうか? menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Parental presence and a sedative premedicant for children undergoing surgery: a hierarchical study
Kain ZN, Mayes LC, Wang SM, Caramico LA, Krivutz DM, Hofstadter MB
Anesthesiolog 92(4):939-46, 2000
施設: Department of Anesthesiology, Yale University School of Medicine, New Haven, Connecticut 06510, USA.

[目的]鎮静薬単独の場合と、鎮静薬に親同伴導入を加えた場合は、親子の不安に対してどちらがよいかを検討する。また、親の満足度も評価する。

[背景]術前の小児の不安を押さえるのに経口鎮静薬を使用したり、親同伴で入室し麻酔導入を行ったりすることは日常的である。また両方行っている場合もあるだろう。術前処置として両方おこなって子供と親の不安を測定した研究はない。

[研究の場]病院

[対象]約100組の2-8歳の外来手術を受ける子供と親(ASAクラス1-2)

[方法]
1)前向き無作為コントロール研究。
2)無作為に鎮静群(ミダゾラム0.5mg/kg経口20分前)と鎮静同伴群(ミダゾラム0.5mg/kg経口+親同伴で麻酔導入)の2群に分ける。
3)小児と親の不安を複数の行動科学的手法で測定し評価する。手術待合室(T1)、手術室の入り口(T2)、麻酔導入時にマスクを当てたとき(T3)で測定。
4)麻酔導入時にはチェックポイントを設けて、コンプライアンス(導入しやすさ)を比較する。
5)また質問紙法で親の満足度も評価する。全体をとおしてのものと、子供から離れているときのものの2通り評価できるような質問方法とした。

[結果]
1)T1,T2,T3とも小児の不安には差はなかった。
2)子供から離れた後の親の不安は、鎮静同伴群では鎮静群より少なかった。
3)満足度は、全体をとおしてのものと、子供から離れているときのもののどちらも鎮静同伴群の方が高かった。

[結論]ミダゾラム0.5mg/kg経口に親同伴で麻酔導入を行っても児の不安の減少には影響はない。手術室に付いてきた親の不安は少なくなり、満足度も高かった。

[抄者註]2年前の反省を含めて、同じグループが出した結果。これなら、納得できる。親同伴入室は、子供のためというより、親の安心のためで、子供が落ち着いているという状況が必要であるということ。

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)



14.日本語タイトル:小児の術前準備プログラム:比較試験 menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Preoperative preparation programs in children: a comparative examination.
Kain ZN, Caramico LA, Mayes LC, Genevro JL, Bornstein MH, Hofstadter MB
Anesth Analg 87(6):1249-55, 1998
施設: Department of Anesthesiology, Yale University School of Medicine, New
Haven, Connecticut 06510, USA.

[目的]小児の術前不安を軽減するために、行動プログラムを組み合わせることにより術前の親子の不安が軽減できるかどうかを調査する。また、麻酔導入時と術後の児の行動に変化があるかどうかも検討する。

[背景]小児の術前不安を軽減するためにいろいろな、術前プログラムが考えられて
いる。一つに限定した行動プログラムだけでなく、いろいろな行動プログラムを組み合わせてより高い効果を得ようと努力してきた。

[研究の場]病院

[対象]2-12歳のASAクラス1-2の外来予定手術をうける患者、75名。

[方法]
1)前向き無作為コントロール研究。
2)無作為に3群に分ける。手術数日前に、(手術室ツアー)1群、(手術室ツアー+ビデオテープ)2群、(手術室ツアー+ビデオテープ+手術室ごっこ)3群のそれぞれのプログラムを行う。手術室ツアーはinfoemation based、ビデオテープはmodeling based、人形劇はcoping basedプログラムに分類される。手術室ツアーは10分間で簡単な説明をつけて(年齢に会わせた)手術室をみせるもの。ビデオテープは小児手術のアニメの説明ビデオで、入院から退院までの様子を説明するもの。手術室ごっこは人形を使って30分間おこなうもので、人形の心臓に耳を当てたり、心電図リードをつけたり、人形を眠るために置いたりするような、役割を理解させるようなプログラムである。
3)小児と親の不安を複数の行動科学的手法で測定し評価する。小児ではEASI、YPASを用い、親ではSTAIを用いる。親は血圧も測定し、身体的評価にする。
4)効果判定はプログラム前、プログラム直後、手術待合室、親から離れたとき、麻酔導入時、回復室、術後2週間でおこなう。

[結果]
1)3群でのみ、プログラム前に対してプログラム直後、手術待合室のみに小児の不安を軽減する効果が認められた。
2)親でも同様に3群で、手術待合室のみに不安を軽減する効果が認められた。
3)麻酔導入時、親から離れたとき、麻酔導入時、回復室、術後2週間では、プログラム前に対して不安の程度は変化しなかった。

[結論]複数の術前準備プログラムは不安を減少させた。この効果は術前のみに限られ、麻酔導入や術後の回復室では認められなかった。

[抄者註]時間をかけて説明しても麻酔導入時には効果がないとは、皮肉なことである。手術室待合室での不安を軽減するために、これらの複数のプログラムを行えばよいとはいえる。EASI:こどもの機嫌を測定する基準。STAI(State Trait AnxietyInventry):質問紙法により主に成人の不安を評価する。YPAS(Yale PreoperativeAxiety Scale):j観察により小児の不安を評価する指標。

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)



15.日本語タイトル:ベンゾジアゼピン前投薬は乳房生検のoutcomeを改善するか? menu

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Benzodiazepine premedication: can it improve outcome in patients undergoing breast biopsy procedures?van VJM、Sa RMM, White PF Anesthesiology 90(3):740-7, 1999
施設:Department of Anesthesiology and Pain Management, University of Texas Southwestern Medical Center at Dallas, 75235-9068, USA.

[目的]ミダゾラムとディアゼパム乳化剤の少量投与が、乳房生検をうける外来患者に安全に効果的に使用できるか。不快と不安の評価に加えて回復の様子や副作用も検証する。

[背景]スクリーニングの乳房撮影が広まって、触知しないレベルの初期のステージの乳ガンが検出できるようになり、外来での乳房生検が増加している。針ガイドの乳房生検を待っている女性は高いレベルの不安を経験する。前投薬を行えば、解決できる可能性があるが、外来手術のためうまくしないと退院までの時間が延長してしまう可能性がある。ベンゾジアゼピン製剤としてDizac(註)が発売されミダゾラム同様あるいはさらに短時間で回復すると言われている。

[研究の場]病院

[対象]ASAクラス1-3の乳房生検を待っている女性、約90名

[方法]
1)無作為二重盲検、プラセボ対照研究。
2)3群に分ける。2回静注を行う(はじめは、Day surgery Unitで針を留置する5分前、次は手術室入室5-10分前)。プラセボ群は生食、ミダゾラム群は1mgと2mgのミダゾラム、ディアゼパム群は2mgと5mgのジアゼパムを各投与量が2mlになるように調節して静注する。
3)不安はVASで評価(患者の申告)し、鎮静度はOAA/Sスコアを使用して評価する。
4)評価は、Day surgery Unit(baseline)、手術室入室前、手術室到着時の3点とする。
5)退院時にアンケートをとり周術期の経験を評価してもらう。

[結果]
1)プラセボに比較してミダゾラム群とジアゼパム群は、針留置時の患者の満足度が高かった。
2)針留置時の評価で、modelate-to-severeの評価はプラセボ群が70%であったのに対しミダゾラム群は20%ジアゼパム群は6%であった。
3)術前の不安のVASスコアは3群とも同じであったが、手術室での不安スコアはプラセボ群が平均46mmに対してミダゾラム群が平均22mm、ディアゼパム群は平均15mmであった。
4)3群間で、身の回りのことができるようになるまでの時間と実際の退院までの時間は変わらなかった。

[結論]ミダゾラムあるいはジアゼパムの乳化剤は、退院までの時間を長引かせることなく針生検時の快適性を向上させ、針生検前の不安を減少させる。

[抄者註]Dizacという商品名で脂肪乳剤のジアゼパムが1998年ごろ発売されたらしい。
OAA/S(observer's assesment of alertness and sedation)スコア:5段階評価で評価する客観的な評価法。

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科)