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PONV(術後の悪心嘔吐)


●「PONV」(「術後の悪心嘔吐」)によせて

1.指圧による帝王切開術中、術後の悪心・嘔吐抑制

2.術中輸液は日帰りD&C手術のPONVを抑制する

3.プロポフォールvsイソフルラン−笑気のPONVと経済分析

4.揮発性吸入麻酔薬の違いによる日帰り乳癌手術後のPONVの比較

5.PONV抑制のためのドロペリドールの用量反応と副作用

6.PONV予防のメトクロプラミド

7.PONV予防のデキサメサゾン

8.PCA中に使用した制吐剤の効果と副作用

9.筋弛緩のリバース(PONVに対する影響と作用残存のリスク)

10.日帰り小児扁桃摘出術でのPONVと病院滞在に及ぼす抗コリン薬の影響

11.PONVに対する予防的制吐剤投与の費用対効果

12.3種類のPONV予測スコアの比較

13.PONV予測スコアの単純化

14.術後嘔吐後の広範囲皮下気腫と気道トラブル

15.PONVの経費対効果(予防と治療のための指針)


「PONV」(「術後の悪心嘔吐」)によせてmenu NEXT

広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科 讃岐美智義

かつては、PONVといきなり略号を書くとお叱りを受けることがあった。数年前、麻酔メーリングリストで、誰かがPONVについて書いていた。それに対して、PONVとは何かと結構、偉い先生が質問をしたことがある。PONVと書いたのは誰か、質問をしたのは誰かは覚えていない。まだ当時は、日本ではPONVという略号は市民権を得ていなかった。現在ではPONVと言ってわからない麻酔科医は少ないと思う。ちなみにPONVとはpost operative nausea and vomitting の略で術後の悪心・嘔吐のことである。
制吐剤といえば、5HT3拮抗薬が開発され日本では抗癌剤の副作用だけに保険適応があるが、米国では術後にも使えるようである。米国ではすでに5HT3の反省期に入ったようであり、純粋な効果-副作用を見るものから経費対効果に関するものに移っている。5HT3拮抗薬だけでなく、これまでのものも含めて制吐作用のあるものを集めて(文献1-2、5-8、10-11)抄訳してみた。また、麻酔薬など術中に使用する薬でPONVを誘発するものに関する論文(文献3-4、9)も抄訳した。
経費対効果を考えるとき、PONVを起こしやすいのはどんな症例かが予測できれば、指針がたてやすい。PONV予測スコアがいくらか発表されているので、比較の意味で数編あげてみた(文献12-13)。文献13は、非常に実用的なスコアなので覚えておくといいかもしれない。
PONVによって引き起こされた重篤な副作用の症例報告をあげた(文献14)。
最後に、予防と治療のための指針となるような記述があったので抄訳した(文献15)。

1.指圧による帝王切開術中、術後の悪心・嘔吐抑制
2.術中輸液は日帰りD&C手術のPONVを抑制する
3.プロポフォールvsイソフルラン−笑気のPONVと経済分析
4.揮発性吸入麻酔薬の違いによる日帰り乳癌手術後のPONVの比較
5.PONV抑制のためのドロペリドールの用量反応と副作用
6.PONV予防のメトクロプラミド
7.PONV予防のデキサメサゾン
8.PCA中に使用した制吐剤の効果と副作用
9.筋弛緩のリバース(PONVに対する影響と作用残存のリスク)
10.日帰り小児扁桃摘出術でのPONVと病院滞在に及ぼす抗コリン薬の影響
11.PONVに対する予防的制吐剤投与の費用対効果
12.3種類のPONV予測スコアの比較
13.PONV予測スコアの単純化
14.術後嘔吐後の広範囲皮下気腫と気道トラブル
15.PONVの経費対効果(予防と治療のための指針)

麻酔の安全性が向上した現在、求められるのは快適な術後である。そのために、術後鎮痛と並んでPONVへの認識は高まってきている。日帰り手術では特に問題になっており、MEDLINEで調べると年間100近くの論文が掲載されている。

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)

1.日本語タイトル:指圧による帝王切開術中、術後の悪心・嘔吐抑制 menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Acupressure and prevention of nausea and vomiting during and after spinal anaesthesia for caesarean section.
Harmon D, Ryan M, Kelly A, Bowen M
Br J Anaesth 84(4):463-7, 2000
施設: Department of Anaesthesia, Rotunda Hospital, Dublin, Ireland.
[目的]脊椎麻酔で行われる帝王切開術中、術後の悪心・嘔吐に指圧が効果があるかどうかを調べる。
[背景]たいていの帝王切開は脊椎麻酔で行われる。脊椎麻酔下の帝王切開術中、術後の悪心嘔吐は重大な副作用である。帝王切開術を受ける患者にルーチンに制吐剤を投与することは副作用などの点から推奨されていない。指圧は、非侵襲的な鍼治療のバリエーションである。薬物によらない方法として指圧が注目されている。
[研究の場]病院の手術室と病棟
[方法]
1)無作為二重盲検、プラセボ対照研究。
2)予定帝王切開を受ける94名の母親(PONV歴、24時間以内に悪心・嘔吐、BMI35以上、糖尿病、過去に鍼や指圧を受けたことがある者は除外した)。
3)麻酔手技と術後鎮痛は標準化したもので行った。
4)術中に悪心・嘔吐を認めた場合にはオンダンセトロンを、術後にはシクリジンを投与した。術後鎮痛はジクロフェナック坐剤を手術終了前に投与し、標準化した方法でモルヒネも4時間後と12時間まで投与した。
5)指圧群もコントロール群も、脊椎麻酔開始5分前に右前腕部に直接麻酔管理を行わない、麻酔科医によって指圧バンドを巻いた。
6)PONVの発生、術中術後の鎮痛薬使用量と制吐剤使用量を24時間まで観察した。
[結果]
1)術中は指圧群が23%、コントロール群が53%に悪心・嘔吐が発生、術後は指圧群が36%、コントロール群が66%に発生した。指圧群とコントロール群に差を認めた。
2)術中も術後も制吐剤の使用はコントロール群に多く、差を認めた。
3)その他のものに差を認めなかった。
4)指圧バンドの副作用としてP6部の違和感を訴える者がいた。
[結論]P6部の指圧は、大きな副作用もなく脊椎麻酔下で行う帝王切開術の悪心・嘔吐予防には経済的で有用な方法である。
[抄者註]PONVを予防するための薬物によらない方法として、指圧がある。P6(Pericardium 6:内関)というツボに刺激を加えることにより効果がある。内関は長掌筋腱と橈骨側の手根屈筋腱の間で、手首のしわから5cm中枢側に存在する。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)

2.日本語タイトル:術中輸液は日帰りD&C手術のPONVを抑制する menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Intravenous fluid and postoperative nausea and vomiting after day-case termination of pregnancy.
Elhakim M, el-Sebiae S, Kaschef N, Essawi GH
Acta Anaesthesiol Scand 42(2):216-9, 1998
施設: Department of Anaesthesia, Faculty of Medicine, Ain-Shams University, Cairo, Egypt
[目的]術中の輸液負荷がPONVに及ぼす影響を日帰りD&C手術後72時間まで調査する。
[背景]小手術前の経口水分摂取制限は術後のめまい、頭痛、嘔気を引き起こすと言われている。
[研究の場]病院の手術室と自宅(追跡調査)
[方法]
1)無作為研究。
2)100名の日帰りD&C手術を受ける患者(耳科疾患、肝疾患、高脂血症、制吐剤を内服している者を除外)が対象3)2群(group1:術中術後に1000mlの乳酸ナトリウム製剤を輸液、group2:術中輸液なし)に分ける。
4)propofolとalfentanylで導入、67%笑気-33%酸素で自発呼吸で麻酔維持した。
5)VAS(visual analog score)で悪心、疼痛を記録し、嘔吐の時間と頻度、鎮痛剤と制吐剤の使用を術後72時間まで記録した。
[結果]
1)group1ではgroup2に比して術後1,2,4時間と24-72時間での悪心が有意に少なかった。
2)group1ではgroup2に比して退院後の嘔吐が少なく、経口摂取開始までの時間が短かった。
3)ペインスコアと鎮痛薬の使用は両群で変わりなかった。
4)group2の10%(5名)が制吐剤を使用した(group1では制吐剤使用なし)
[結論]術中輸液は日帰り手術でのPONVを減少させる可能性がある。
[抄者註]帰宅後のPONVに脱水が関与していると推論しているのみで、具体的な輸液負荷がPONVを減少させる機序が記載されていないが、この研究結果が事実とすればかなり興味深い。静脈路確保時に少し多めの輸液をしておけばよいのだから。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)

3.日本語タイトル:プロポフォールvsイソフルラン−笑気のPONVと経済分析 menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Randomized controlled trial of total intravenous anesthesia with propofol versus inhalation anesthesia with isoflurane and nitrous oxide. postoperative nausea and vomiting and economic analysis.
Visser HK, Hassink EA, Bonsel GJ, Moen J, Kalkman CJ
Anesthesiology 95(3):616-26, 2001
施設: Department of Anesthesiology, Academic Medical Center, University of Amsterdam, The Netherlands.
[目的]プロポフォールのTIVAとイソフルラン−笑気で術後72時間までのPONVと費用を比較する
[背景]プロポフォールのTIVAは、PONVが少なく麻酔からの覚醒が速いことが多くの報告で明らかになっている。しかし、PONVの観察期間は6時間以内がほとんどでそれ以上のものはあまりない。また、揮発性吸入麻酔薬に比較するとコストが高い。これらから考えると、麻酔薬のコストはかかっても回復室の滞在時間や余分な追加薬を使用なくてよければトータルの費用は安くつく。
[研究の場]病院の手術室
[方法]
1)無作為研究。
2)約 2000名(入院患者約1450名、外来患者約560名)の予定手術患者を2群(TIVA群と吸入麻酔薬群)に分ける。あらかじめ緊急手術、心臓手術、頭蓋内手術、上腹部手術、ASAクラス3以上、18歳未満、80歳以上、妊婦、肝腎障害、120kg以上、制吐剤使用中を除外。
3)TIVA群:プロポフォール、酸素−空気。吸入麻酔群:導入チオペンタール(入院患者)、プロポフォール(外来患者)、維持は笑気60%、酸素、イソフルレン。制吐剤の使用は回復室(PACU)または日帰りユニットの看護婦がおこない、第一選択は0.15mg/kgメトクラプラミド、次の選択は15μg/kgドロペリドールの静注とした。
4)術後72時間までのPONVを麻酔内容の知らないものが情報収集する。費用データとしては麻酔薬、制吐薬、使い捨て製品などの費用や麻酔時間から計算した麻酔料、PACU滞在や病院滞在時間から計算した費用などトータルコストを計算。
[結果]
1)PONVの頻度は、入院患者ではTIVA群46%、吸入麻酔群61%で、外来患者ではTIVA群28%、吸入麻酔群46%でそれぞれ有意差を認めた。TIVA群での制吐剤使用のNNTは入院患者で6(6人に1人)、外来患者で5(5人に1人)で他の報告と同程度であった。
2)トータルコストはTIVA群が吸入麻酔群の3倍であった。
3)入院患者のPACU滞在時間は、中央値でTIVA群115分、吸入麻酔群135分で有意差を認めた。
4)外来患者の病院滞在時間は、中央値でTIVA群150分、吸入麻酔群160分で有意差を認めた。
[結論]TIVA群の方がPONVが少ないが、トータルコストは3倍かかる。PACU滞在時間の減少はコスト削減にはつながらない。
[抄者註]NNT:number needed to treat(何人に1人が治療できたか)
ありがちな結果である。PONV減少という目的を達成するのに薬代が高くてトータルコストはかえって高くなってしまった。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)

4.日本語タイトル:揮発性吸入麻酔薬の違いによる日帰り乳癌手術後のPONVの比較 menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Anaesthesia, recovery and postoperative nausea and vomiting after breast surgery. A comparison between desflurane, sevoflurane and isoflurane anaesthesia.
Karlsen KL, Persson E, Wennberg E, Stenqvist O
Acta Anaesthesiol Scand 44(4):489-93, 2000
施設: Department of Anaesthesia and Intensive Care, Sahlgrenska University Hospital, Goteborg, Sweden.
[目的]デスフルラン、セボフルラン、イソフルランをPONVを含め、回復という観点から比較する。
[背景]最近、デスフルランとセボフルランが発売された(スウェーデン)。これらは血液溶解度が低く、イソフルランに比較すると麻酔の導入・覚醒に優れているとされている。これらの麻酔の質と回復をPONVの観点から比較したものはない。
[研究の場]病院の手術室と回復室、一般病棟
[方法]
1)無作為(麻酔薬選択)研究、二重盲検対照(回復室)研究。
2)ASAクラス1-2の乳腺手術を予定された約70名の女性を無作為に3群(デスフルラン群、セボフルラン群、イソフルラン群)に分ける。
3)導入はプロポフォール、ラリンゲルマスクを使用して自発呼吸で維持。笑気:酸素=2:1に揮発性吸入麻酔薬のどれかを使用する。
4)手術終了20-30分前にケトベミドンを静注する
5)麻酔導入時間、や麻酔覚醒時の呼吸回数、鎮静スコア、疼痛レベルと24時間までのPONVを比較する。
[結果]
1)PONV以外のパラメータには差がなかった。
2)24時間までのPONVは、全体で42%でデスフルラン群では67%、セボフルラン群では36%でイソフルラン群は22%に認められた。イソフルラン群とデスフルラン群に有意差がある。
3)PACU(同じ日に外科病棟に転棟す)のみのPONVの比較では、デスフルラン群では28%、セボフルラン群では28%でイソフルラン群は4%であった。イソフルラン群とデスフルラン群、イソフルラン群とセボフルラン群に有意差がある。
[結論]麻酔の質(開眼までの時間や呼吸への影響)はどれも変わらないが、PONVに差があり、乳癌手術ではイソフルランをデスフルランやセボフルランに変えるメリットはない。
[抄者註]イソフルランが最もPONVを起こしにくい揮発性麻酔薬という結果になった。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)


5.日本語タイトル:PONV抑制のためのドロペリドールの用量反応と副作用 menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Efficacy, dose-response, and adverse effects of droperidol for prevention of postoperative nausea and vomiting
Henzi I, Sonderegger J, Tramer MR
Can J Anaesth 47(6):537-51, 2000
施設: Departement APSIC, Hopitaux Universitaires de Geneve, Switzerland.
[目的]ドロペリドールのPONVに対する有効性と副作用を検討する
[背景]ドロペリドールはブチロフェノン系薬剤で、中枢神経抑制作用を持っている。また制吐作用があり制吐剤としても幅広く使用されている。その効果と副作用をメタアナリシスで検討する必要がある。
[研究の場]過去に発表されたドロペリドールのPONVに関する文献
[方法]
1)無作為二重盲検研究を行った文献を 1999年5月までのMEDLINEなどから系統検索し比較検討した。
2)74研究で、約13350名が対象
3)研究のエンドポイントを早期PONV(術後6時間以内)と遅発性PONV(術後24時間以内)の予防と副作用を明らかにすることとした。
[結果]
1)対象となった74の研究で、約5350名に24の異なる投与方法でドロペリドールを使用し、約3370名がプラセボか何も投与されていなかった。また、約4630名は他の制吐剤を使用されていた。
2)早期PONVはドロペリドール投与で34%、プラセボ(または投与なし)で51%であった。ドロペリドールの効果に用量−反応関係は見られなかった。
3)成人では、早期の悪心では0.25mg-0.30mgの静注が最も多く、NNTは5であった。(5名あたり1名でドロペリドールによりPONVが抑制できた)。早期と遅発性の嘔吐では用量反応関係があり、最もよかったのは1.5mg-2.5mgでNNTは7であった。
4)小児では、早期と遅発性嘔吐に用量反応関係があり、最もよかったのは75μg/kgで、NNTは4であった。
5)2人のドロペリドールを投与した小児で錐体外路症状を認めた(小児91人に1人、全体では408人に1人)。鎮静と傾眠傾向には用量反応関係を認めた。2.5mgでNNTは7.8。またドロペリドールは術後の頭痛予防になった(NNTは-25)。
[結論]ドロペリドールを手術患者に制吐薬として使用した。嘔吐より早期の悪心の方が効果があった。鎮静と傾眠傾向は用量依存性に出現した。錐体外路症状はまれで頭痛の予防になる。
[抄者註]NNT:number needed to treat(何人に1人が治療できたか)。たとえば、NNTが5であれば、5人に投与して1人が治療できたことになる。頭痛には抜群に効くらしい(PONVより発生頻度が低いので信頼性は?だが)

(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)

6.日本語タイトル:PONV予防のメトクロプラミド menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Metoclopramide in the prevention of postoperative nausea and vomiting: a quantitative systematic review of randomized, placebo-controlled studies.
Henzi I, Walder B, Tramer MR
Br J Anaesth 83(5):761-71, 1999
施設: Department APSIC, Geneva University Hospitals, Switzerland.
[目的]メトクラプラミドのPONVに対する有効性と副作用を再検討する
[背景]メトクラプラミドは約40年間、PONV予防に使われてきた。PONVに対する有効性と安全性を再確認する必要がある。
[研究の場]過去に発表されたメトクラプラミドのPONVに関する文献
[方法]
1)無作為二重盲検研究を行った文献を 1998年6月までのMEDLINEなどから系統検索し比較検討した。
2)66研究で、約6260名が対象
3)研究のエンドポイントを早期PONV(術後6時間以内)と遅発性PONV(術後48時間以内)の予防と副作用を明らかにすることとした。
[結果]
1)対象となった66の研究で、3260名に18の異なる投与方法でメトクラプラミドを使用し、約3000名がプラセボか何も投与されていなかった。
2)経口投与、筋注投与、経鼻投与、静注投与のいずれにおいても用量反応関係は認めなかった。
3)成人では10mgの静注が最も多く行われており、この量では予防的効果を認めなかった。(9-10名あたり1名でメトクラプラミドによりPONVが抑制できただけであった)
4)小児では0.25mg/kgの静注が最も多く行われており、6名あたり1名でメトクラプラミドにより早期のPONVが抑制できた。遅発性PONVには効果が認められなかった。
5)鎮静やめまい、傾眠傾向は見られなかった。1人だけ成人で錐体外路症状を認めた。
[結論]メトクラプラミド10mgは臨床使用には少なすぎる。抗癌剤による悪心嘔吐にはもっと多い量が使用されており、メトクロプラミドの使用量を増やしてPONVに至適な用量を見つける研究が必要なのではないか。
[抄者註]プリンペラン(商品名)の使用に問題を投げかける結果となっている。メトクロプラミド10mgはプリンペラン1Aである。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)

7.日本語タイトル:PONV予防のデキサメサゾンmenu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Dexamethasone for the prevention of postoperative nausea and vomiting: a quantitative systematic review.
Henzi I, Walder B, Tramer MR
Anesth Analg 90(1):186-94, 2000
施設: Division of Anaesthesiology, Geneva University Hospitals, Switzerland.
[目的]PONVの予防にデキサメサゾンが有効かどうかを調べる。
[背景]デキサメサゾンのPONV予防に対する役割は未だ不明である。
[研究の場]過去に発表されたデキサメサゾンのPONVに関する文献
[方法]
1)無作為二重盲検のプラセボ対照試験を行った文献を1999年4月までのMEDLINEなどから検索し比較検討した。
2)17研究を分析し、全例で約 2000人が対象
3)研究のend pointとしては早期PONV(術後0-6時間)と遅発性PONV(術後0-24時間)の抑制と副作用を明らかにすること。
[結果]
1)デキサメサゾンの投与量は成人では8-10mgが多く小児では1-1.5mg/kgが多かった。
2)約600人がデキサメサゾン、約580人がオンダンセトロン、グラニセトロン、ドロペリドール、メトクラプラミド、パーフェナジン、約420人がプラセボ、約340人がデキサメサゾンとオンダンセトロンあるいはグラニセトロンの組み合わせであった。
3)デキサメサゾン単独でもプラセボと比較するとPONVを予防する効果がある。
特に遅発性PONVに対する有効性が高い。
4)デキサメサゾンに関する副作用はなかった。
5)デキサメサゾンと5-HT3の組み合わせがもっとも効果が高い。
[結論]もっとも有用なPONV予防としてデキサメサゾンと5-HT3の組み合わせを至適用量使うのがよいのではないか
[抄者註]デキサメサゾンの生物学的半減期は36-72時間なので、遅発性PONVとして24時間までの観察を行うと有利。抗癌剤の悪心嘔吐では24時間を超えた効果が確認されている。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)

8.日本語タイトル:PCA中に使用した制吐剤の効果と副作用menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Efficacy and adverse effects of prophylactic antiemetics during patient-controlled analgesia therapy: a quantitative systematic review.
Tramer MR, Walder B.
Anesth Analg 88(6):1354-61, 1999
施設: Department APSIC, Geneva University Hospital, Switzerland.
[目的]オピオイドを用いたPCA(静脈内)施行中に予防的に制吐剤を投与したときの有効性と副作用を検討する。
[背景]PCAにオピオイドを使用すると副作用として、高頻度に悪心嘔吐が発生する。PCAに関連した悪心嘔吐に対して最もよい制吐剤は未だわかっていない。
[研究の場]過去に発表されたPCA中に使用した制吐剤の影響を検討した文献
1)無作為二重盲検対照研究を行った文献を 1998年5月までのMEDLINEなどから系統検索し比較検討した。
2)文献内に明らかにされていない場合には、著者に手紙で連絡をとり情報を得た。
3)PCAにオピオイドを使用して、それに対して予防的制吐剤を使用している4研究で約1120名が対象のメタアナリシスを行った。
[結果]
1)14研究で約1120人に異なるメニューで、制吐薬としてドロペリドール、オンダンセトロン、ヒオシンTTS、トロピセトロン、メトクラプラミド、プロポフォール、プロメサジンなどが使用されていた。
2)PCAのオピオイドは1研究がトラマドール、他はすべてモルヒネであった。
3)何も制吐薬を予防的に使用しない場合には24時間で50%にPONVが発生するが、モルヒネ1mgあたり0.017-0.17mgのドロペリドール(0.5〜11mg/日)をPCAに加えると約20%に押さえることができた。
4)効果には用量−反応関係は見られなかった。
5)鎮静、ねむけなどの副作用はドロペリドールを4mg/日以上にすると増加した。
6)ドロペリドール以外の制吐剤の有効性は認められなかった。
[結論]効果には用量−反応関係は見られなかいが、モルヒネ1mgあたり0.1mg未満のドロペリドールが副作用も少なく効果もある用量である。
[抄者註]PCA:patient-controlled analgesia。文献を集めて内容を検討するだけで、モルヒネのPCAに対する制吐剤ドロペリドールの至適量を決定している。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)

9.日本語タイトル:筋弛緩のリバース(PONVに対する影響と作用残存のリスク)menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Omitting antagonism of neuromuscular block: effect on postoperative nausea and vomiting and risk of residual paralysis. A systematic review.
Tramer MR, Fuchs-Buder T
Br J Anaesth 82(3):379-86, 1999
施設: Department of APSIC, Geneva University Hospital, Switzerland.
[目的]手術終了時の筋弛緩薬の拮抗がPONVの及ぼす影響とリバースを省略したときの害を評価する。
[背景]一般的に、手術終了時に残存する筋弛緩薬のリバースによってPONV増加のリスクがあると言われている。
これまでの報告では筋弛緩薬のリバースでPONVが増加するという文献としないという文献が存在する。
[研究の場]過去に発表された筋弛緩薬拮抗がPONVに及ぼす影響を検討した文献
[方法]
1)無作為二重盲検対照研究を行った文献を 1998年3月までのMEDLINEなどから系統検索し比較検討した。
2)ネオスチグミンまたはエドロホニウムによる筋弛緩薬(パンクロニウム、ベクロニウム、ミバクリウム、ツボクラリン)のリバースと筋弛緩からの自然回復による比較を行った8研究で約1130名が対照のメタアナリシスを行った。
[結果]
1)筋弛緩薬のリバースを行わないことで制吐効果は出なかった。
2)ネオスチグミン1.5mgの投与に比較してネオスチグミン2.5mgではPONVの頻度が多い。
3)ネオスチグミン1.5mgではPONV治療を要することはほとんどないが、ネオスチグミン2.5mgでは3-6人に1人治療を要する。
4)エドロホニウムでは証拠がなかった。
5)2つの研究で筋弛緩から自然回復した3名が、後に筋力低下のためリバースを必要とした(30人あたりに1人)
[結論]大量にネオスチグミンを用いたときにPONVの頻度が増加するが、リバースをしなかったときにも筋弛緩が残存して短時間作用性非脱分極性筋弛緩薬といえども無視できない。
[抄者註]筋弛緩のリバースのPONVへの影響があるものとして文献を読むときには注意をしなければならない。特に比較しようとする2群間で筋弛緩のリバースの頻度が異なる場合には要注意である。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)

10.日本語タイトル:日帰り小児扁桃摘出術でのPONVと病院滞在に及ぼす抗コリン薬の影響menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Effects of anticholinergics on postoperative vomiting, recovery, and hospital stay in children under going tonsillectomy with or without adenoidectomy.
Chhibber AK, Lustik SJ, Thakur R, Francisco DR, Fickling KB
Anesthesiology 90(3):697-700, 1999
施設: Department of Anesthesiology and Pediatrics, University of Rochester School of Medicine and Dentistry, New York 14642, USA.
[目的]筋弛緩をネオスチグミンでリバースするときアトロピンとグリコピロレートでPONVの頻度に変化があるかどうかを検討する。
[背景]PONVは日帰り小手術においては最も頻繁に発生する問題である。これまでに婦人科手術で前投薬に使用したアトロピンよりグリコピロレートの方がPONVが発生しやすいという報告や小児斜視手術ではアトロピンもグリコピロレートもPONVを抑制できないとの報告がある。しかし、筋弛緩薬のリバースに徐脈や分泌物増加を抑制するために併用する抗コリン薬の使用ではどうかを検討したものはない。
[研究の場]病院の手術室
[方法]
1)無作為二重盲検、プラセボ対照研究。
2)対象はASAクラス1-2の扁桃摘出術を予定された3-16歳の90名。無作為に2群に分ける
3)GOFの緩徐導入の後、GOSとモルヒネ、アトラクリウムで維持を行う。
4)手術終了後、60μg/kgのネオスチグミンと15μg/kgのアトロピン(アトロピン群)または10μg/kgのグリコピロレート(グリコピロレート群)で筋弛緩をリバースする。
5)患者の回復、PONVの頻度、制吐剤の使用頻度、術後の病院滞在時間を評価する。
[結果]
1)年齢、性別、体重、PACUでの滞在時間、病院滞在時間に差はなかった。
2)術後24時間までのPONVの発生頻度は、アトロピン群は56%、グリコピロレート群は81%で差を認めた。
3)両群間で制吐剤の使用頻度、追加投与の鎮痛剤に差はなかった。
[結論]小児の扁桃痛摘出術で筋弛緩のリバースに使用するネオスチグミンと併用する抗コリン剤は、アトロピンの方がグリコピロレートよりPONVの発生頻度が少ない。
[抄者註]アトロピンの方がPONVが少なかった理由として、血液脳関門を通過できるのでコリン作動性の経路をブロックするからではないかと推測している。著者らは胃管で胃内容を吸引しなかったことと、退院前に飲水の義務を課したことがPONVの多い原因だと推測している。それにしてもPONVの頻度が高い。少なくとも胃管による胃内容の吸飲はすぐにでもできる対策なのだが。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)

11.日本語タイトル:PONVに対する予防的制吐剤投与の費用対効果menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Cost-effectiveness of prophylactic antiemetic therapy with ondansetron, droperidol, or placebo.
Hill RP, Lubarsky DA, Phillips-Bute B, Fortney JT, Creed MR, Glass PS, Gan TJ
Anesthesiology 92(4):958-67, 2000
施設: Department of Anesthesiology, Duke University Medical Center, Durham, North Carolina 27710, USA.
[目的]PONVに対する予防的制吐剤投与(オンダンセトロン4mg,ドロペリドール0.625mg,ドロペリドール1.25mgとプラセボの4群)の費用対効果を多施設共同研究で検討する。
[背景]PONVは患者にとっては身体的精神的苦痛だが、外来手術部門にとってはPONVの予防に対するコストの増大も大きな問題である。米国では費用対効果の検討は大きな研究課題である。
[研究の場]病院の手術室と回復室
[方法]
1)無作為二重盲検、プラセボ対照研究。多施設共同研究。
2)PONVの危険因子(motion sicknessまたはPONVの既往)を持った外来手術患者約2060人。
3)笑気−イソフルランまたは笑気−エンフルラン麻酔の導入20分以内にオンダンセトロン4mg,ドロペリドール0.625mg,ドロペリドール1.25mgとプラセボ(生食)のうちどれかを静脈内投与する。各群とも約500名ずつ。
4)費用はPONVの予防と治療にかかったもので算定する。
[結果]
1)オンダンセトロン4mg,ドロペリドール0.625mg,ドロペリドール1.25mgとプラセボのmean-median費用はそれぞれ$112−$16.5,$110−$0.6,$104-$0.5,$164-$50であった。
2)予防薬を投与した群はプラセボに比較して患者の満足度が高く、PONVの頻度と経費(PONVの治療費と予期せぬ入院費用)などが少なかった。
3)ドロペリドール1.25mgが効果、費用、満足度の点からオンダンセトロン4mg,ドロペリドール0.625mgよりも優れていた。
[結論]ドロペリドール1.25mgの予防投与で,経費対効果が最も大きい。
[抄者註]motion sicknessは動揺病;乗物酔い;加速度病;運動病と訳されることが多い。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)

12.日本語タイトル:3種類のPONV予測スコアの比較menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Evaluation of three risk scores to predict postoperative nausea and vomiting.
Eberhart LH, Hogel J, Seeling W, Staack AM, Geldner G, Georgieff M
Acta Anaesthesiol Scand 44(4):480-8, 2000
施設: Department of Anaesthesiology, University of Ulm, Germany.
[目的]これまでに発表された3種類の予測スコアがどの程度正確にPONVを予測できるかを検討する。
[背景]これまでに発表されたPV(postoperative vomiting)あるいはPONVの3種類の予測スコアがある。PVとしてはApfelら(1998年)とPONVとしてKoivurantaら(1997年)、Evans(1993年)の3つである。これらは、いずれもロジスティック回帰分析を使用しPVあるいはPONVの危険因子を重み付けしたものである。性、年齢、Body mass index(BMI)、PONV歴、motion sickness、喫煙、麻酔時間、術後のオピオイド使用などが因子としてあげられている。これらのスコアを比較した研究はこれまでにはない。
[研究の場]病院の手術室
[方法]
1)連続した18ヶ月間で18歳以上の予定手術患者、約1600名を対象
2)麻酔導入(プロポフォール、ティオペンタール、エトミデート)、筋弛緩薬(ベクロニウム、アトラクリウム、ミバクリウム)、オピオイド(フェンタニル、アルフェンタニル、レミフェンタニル)、揮発性吸入麻酔薬(デスフルラン、イソフルラン、エンフルラン)と笑気を使用。()内のいずれかを使用。
3)PONVの危険因子を術前に質問し記録。
4)全静脈麻酔は行わず、制吐剤も使用しない。
5)術後に回復室で観察、24時間以内に一般病棟に訪問しPONVの有無を記録。
6)予測式の結果とと実際に起きたPONVをROC曲線を用いて評価する。
[結果]
1)3つの予測式とも中等度の正確性を持っている。どれも同程度に予測できる。
2)Koivurantaらのものが単純で臨床使用にはよい
[結論]Koivurantaらのものが単純で臨床使用にはよい
[抄者註]motion sicknessは動揺病;乗物酔い;加速度病;運動病と訳されることが多い。receiver operating characteristic (ROC):受信者動作特性(診断の感度を偽陽性割合(1―特異度)の関数としてプロットしたもの.ROC曲線はあるテストの診断能力の本質的な性質を示しており,複数の方法の特長を相対的に比較するのに用いられる).
この研究ではApfelらの 1998年のものを使用しており結論としては、Koivurantaらのものが単純で臨床使用にはよいとなっているが、実はApfelらの1999年の単純化したものが発表されており、抄訳者は、次にあげるApfelらの1999年の単純化したものがよいと考える。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)

13.日本語タイトル:PONV予測スコアの単純化 menu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
A simplified risk score for predicting postoperative nausea and vomiting: conclusions from cross-validations between two centers.
Apfel CC, Laara E, Koivuranta M, Greim CA, Roewer N
Anesthesiology 91(3):693-700, 1999
施設: Department of Anesthesiology, University of Wuerzburg, Germany.
[目的]ApfelらのPONV予測スコアとKoivurantaらの予測スコアが施設間で共通に使用できるものかどうかと予測スコアをロジスティック回帰分析を使用せずに単純化できないかどうかを検討する。
[背景]最近2つの施設(Apfelら( 1998年)とKoivurantaら(1997年))が独自にPONVの予測スコアを発表している。これらは、ロジスティック回帰分析を使用し、計算が複雑なので臨床では使いにくい。そこで、同じような判別力を維持したまま単純化したスコアができないかと考えた。
[研究の場]ApfelらとKoivurantaらの報告した2つの文献
[方法]
1)2つのセンターで、吸入麻酔薬で種々の手術を受ける患者。Koivurantaらの報告[Oulu,Finland n=520]、Apfelらの報告[Wuerzburg,Germany 約n=2200]。
2)PONVは24時間まで観察する。
3)リスクスコアはロジスティック回帰分析により求める。
4)単純化したリスクスコアはロジスティック回帰分析により有意としたリスクファクターの数に基づいて構築する。
5)夫々のスコアの判別力をROC-曲線に基づいて評価する。
[結果]
1)一つのセンターから得られたスコアで他のセンターのPONVを予測できた。
2)単純化したスコアは判別力を落とすことなくPONVを予測できた。
3)単純化したスコアの概要は次の通り。
4)危険因子としては女性、motion sicknessまたはPONV歴、非喫煙者、術後のオピオイド使用の4項目
5)これらの危険因子がないとき、1つ、2つ、3つ、4つ持つときのPONVの頻度は、それぞれ10%、21%、39%、61%、79%である。
[結論]成人で吸入麻酔薬を使用したときのPONVの予測法として広く使える単純なものができた。危険因子の2つ以上をもつ患者にはPONVの予防的処置を行ってもよいのではないかと考える。
[抄者註]receiver operating characteristic (ROC):受信者動作特性(診断の感度を偽陽性割合(1―特異度)の関数としてプロットしたもの.ROC曲線はあるテストの診断能力の本質的な性質を示しており,複数の方法の特長を相対的に比較するのに用いられる).motion sicknessは動揺病;乗物酔い;加速度病;運動病と訳されることが多い。非常に単純で実用的ですばらしい予測法である。すなわち、女性、motion sicknessまたはPONV歴、非喫煙者、術後のオピオイド使用の4項目の危険因子がないとき、1つ、2つ、3つ、4つ持つときのPONVの頻度は、それぞれ10%、20%、40%、60%、80%で覚えておけば明日からでもすぐに使えそうである。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)

14.日本語タイトル:術後嘔吐後の広範囲皮下気腫と気道トラブルmenu NEXT

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
Massive subcutaneous emphysema and sudden airway compromise after postoperative vomiting
Schumann R, Polaner DM
Anesth Analg 89(3):796-7, 1999
施設: Department of Anesthesia, New England Medical Center and Tufts University School of Medicine,Boston, Massachusetts 02111, USA.
[目的]PONVによる重大な合併症を紹介する。症例報告。
[背景]PONVが生命を脅かすほどの合併症につながることはまれである。しかし、PONVによって重大な合併症に発展した症例を紹介する。
[症例]43才女性。左乳房切断術後のこと。術前リスクは、緑内障と肥満(91kg、158cm)。手術に対する麻酔は急速導入で喉頭鏡で気管内挿管し、60%笑気−酸素、イソフルランで麻酔を維持。挿管後、胃管を挿入した。
フェンタニルとベクロニウムを使用。手術終了時に筋弛緩をリバースし、覚醒後、気管内チューブを抜管した。悪心を訴えたためオンダンセトロンを投与した。PACU到着15分後、悪心嘔吐が始まり、少しの胃内容を吐いた。この10分後、首からのどにかけての違和感を訴えた。前胸部の稔髪音と腫脹がおこり、数分で頭側に広がり首から顔、眉毛まで広がった。胸部レントゲン写真では、気胸はなかったが広範囲の皮下気腫を認めた。それから数分後、声がハイピッチになり発語困難になった。気道危機に陥ったため、ファイバー挿管を行い気道確保した。ファイバーでのぞくと咽頭、声門上部が腫れ上がり披裂喉頭蓋ひだはねじれていたが声帯や気管内は問題なかった。陽圧呼吸を避け5cmH2OのCPAPで管理し18時間後に抜管した。皮下気腫は数日で消え、回復した。
[抄者註]PONVもここまでくると、大変である。PONVの危険因子としては女性、記載はないが非喫煙者である可能性もある。PONV歴があったかどうかは不明である。これらを考えてみると、女性はPONVの可能性がかなり高いと考えた方がよい。筋弛緩のリバースや肥満もPONVに影響したかもしれない。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)

15.日本語タイトル:PONVの経費対効果(予防と治療のための指針)menu

原語タイトル,著者,雑誌名,巻,初めと終わりのページ,年:
The cost-effective management of postoperative nausea and vomiting.
Watcha MF.
Anesthesiology 92(4):931-3, 2000
施設: Dr. Watcha has served as a consultant to Glaxo-Wellcome (Research Triangle Park, North Carolina) and has received recent research support (Bfrom Abbott Laboratories (Abbott Park, Illinois), Gensia, Inc. (San Diego, California), and Aspect, Inc. (Natick, Massachusetts).
[目的]PONVの経費対効果の論説。論説中に予防と治療のための指針が示されているので紹介する。
[背景]日帰り手術においてPONVは「大きくて小さい問題である」とか「大きな大きな問題である」などと文献に記述されている。MEDLINEを調べてみると 1999年だけでも4つの論説を含む87文献がある。PONVに対して高価な制吐剤が使用され、有効性と利点が示されるが、経済的な問題については未だ論争中である。
[指針]Apfelらの予測危険度が低い(10%未満)場合には、予防は行わず、PONVが発生した時点でオンダンセトロン1mgまたはドラセトロン12.5mgを投与。危険度が中等度(10-30%)の場合には、ドロペリドール1.25mgを予防投与し、PONVが発生した場合にはオンダンセトロン1mgまたはドラセトロン12.5mgを投与。危険度が高い(30-60%)の場合には、ドロペリドール1.25mgとステロイド±メトクラプラミドの予防投与を行い、発生した場合にはオンダンセトロン1mgまたはドラセトロン12.5mgを投与する。危険度が非常に高い(60%以上)では、、ドロペリドール1.25mgとステロイドとオンダンセトロン8mgまたはドラセトロン12.5mgの予防投与を行い、発生した場合にはメトクラプラミド、フェノチアジンに加えて5HT3拮抗薬または他の制吐剤を使用する。
[抄者註]前に紹介したApfelら:Anesthesiology 91(3):693-700, 1999に対する論説なのだが、Apfelらの予測式に、Watcha MF(論説者)ら:postoperative and vomitting :Prohyraxis versus treatment. Anesth Analg 89:1337-1339, 1999のものを併せて具体的な予防策を示している。
(抄者:)讃岐美智義(広島市立安佐市民病院麻酔・集中治療科) (MW)