初期研修医向け

時代が違う

Laryngoscopeさんのところに「時代が違う」という記事が掲載されている.以前は並列麻酔も,麻酔中にICUでの急変も対応していた先輩の話である.たしかに若い頃(かつての時代)はそれでも良かった.いまは,まともにやっていても失敗すれば刑事事件にされる時代である.並列麻酔やICUの患者が急変したときなど,自分の診ている患者が落ち着いていれば対応できるときもあるだろう.しかし,わざわざそのような状況を好きこのんで自ら作って,かりに自分が見ていた(放置した)患者が不幸なことになった場合,どう見ても救いようがない.並列麻酔を行って自分は医療事故など起こさないという強者もいまだにいるのは確かである.外科医が要求するから,病院が無理を言うから並列麻酔を行うという人々もいる.麻酔は誰のためにするか,何のためにするのかを忘れているのではないだろうか.もちろん生産性や効率もある程度は追求すべきだとは思うが,安全が担保できない場合には認めることはできない.そういう時代である.
かなり以前に「患者はこうして殺される(浅山健)」が出版されている(医者にメス掲載の目次).実際にあった話に忠実にかかれいると聞く.


管理人も夜中3時頃に不意に並列麻酔になってしまったことがある.脊麻でやっていた緊急帝王切開がほぼ終了した頃に,院内発症の肝硬変患者の急性頭蓋内出血がなだれ込んできた.ぼぼ閉腹が終わったので患者に気分をたづね問題ないので,終了する旨を伝え看護師に頼んで,なだれ込んできた頭蓋内出血の全麻のために別の部屋に移動した.麻酔導入が終わった頃,帝王切開は終了したが出血が止まらず再開腹するという.戻ってみると,患者は顔面蒼白,ショック状態で意識レベルが低下している.弛緩出血である.挿管全麻に切り替え輸血ルートを確保し輸血を大量にオーダーした.その処置が済むかすまないうちに,頭蓋内出血の方はショック状態で出血が止まらないという.この時点で,不意に並列麻酔になってしまっていた.いずれししろ,院外からもう一人の麻酔科医を呼んでいる暇はない.このままでは2人とも死ぬ.福島の産婦人科医の逮捕事件の直後だったので,刑事事件で逮捕というフレーズが何度も頭をよぎる.一人ではどうにもならない.だれでもいい,院内の当直医を呼ぶしかない.助けを求めて電話すると,偶然にも他科に異動した麻酔科専門医を持った医師が当直であった.不幸中の幸いだった.手術室では2列の手術が同時進行しており手術をしている医師も止血に一生懸命だ.術者も人が足らなくて院外からさらに上級医を呼ぶ状況であった.結局,2人とも救命でき管理人は医療事故を起こさずに済んだ.2症例とも出血/輸血の量は尋常ではない.急速輸血のためにポンプを必要とした.患者の状態の判断,ポンプや輸血の扱い,セットアップ,麻酔のことすべてを「おねがい,こっちの症例なんとかしといて」で頼むことができたのは麻酔専門医だったからである.患者も助かった,私も助かった.思い出しただけでも恐ろしい.

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