術中覚醒が麻酔ディスカッションリストで話題になっています。事の発端は、The New England Journal of Medicineが術中覚醒とBISに関する論文(Anesthesia Awareness and the Bispectral Index. N Engl J Med 2008; 358 : 1097 - 108 )を取り上げられた事によります。しかし、この論文は結論の導き出し方に、かなり無理があります。読んでいただければわかります。2000例を対象に2群に分け各群の術中覚醒の頻度は2名ずつです。発生率が少ないので、とても2000例から導き出すには統計学的にも無理があります。
術中覚醒の問題点は、術中覚醒を体験した患者がPTSD(Post-traumatic stress disorder)になる可能性があるということです。すべての患者が、PTSDになるわけではありません。たとえば、わざと術中に覚醒させて機能をみる手術(awake craniotomy)などでは、PTSDになる患者はいません。術中に覚醒したことが、PTSDになる状況でない場合には、術中覚醒してもPTSDにはなりません。術中に覚醒させることをあらかじめ話しておいて、覚醒していた状況が本人にとって苦痛でなければ問題ではありません。術中覚醒してPTSDになる状況は、覚醒した時に苦痛であると感じている必要があります。通常は、麻酔科医が術中覚醒が起きていることに気づかなくて、不意に覚醒している状況でおこります。麻酔薬や鎮痛薬がうまく投与されておらず、覚醒状態になってしまって動けない、痛い、つらいといったような状態です。麻酔科医が覚醒していないと信じていて、種々の麻酔処置や手術操作が加わっている状況です。また、手術の真っ最中でなくて、麻酔のかけ始めだったり、麻酔からの覚醒間際にも、覚醒していて患者さんがPTSDになりうる状態があるのではないかと想像されます。
管理人は、麻酔のかけ始め麻酔からの覚醒間際で明らかに覚醒していないであろうと思っても、必ず、患者さんに「大丈夫ですからね」、「○○しますよ」と声をかけている。術中覚醒は、術中のすべての時点で覚醒しているわけではありません。麻酔が浅い状態になったとき、麻酔のかかりはじめや麻酔のさめぎわに、覚醒している可能性があるからです。
全米で昨年末に公開されたawakeという映画が、2008年には日本でも公開される予定です。それによると、700人に1人は術中覚醒を体験しているとされますが、通常、術中覚醒にきをつけて麻酔管理をおこなっている管理人にとっては大変、頻度が高い数字であるという印象です。

術中覚醒が明らかに起きる状況は、麻酔薬の投与を制限せざるを得ない状況、つまり麻酔を浅く維持しなければならない状況でしょう。心臓手術や心臓が悪い患者さんなどに全身麻酔をする必要がある時でしょう。そのときには、必ず声かけを行うこと。術前から、患者さんとの信頼関係を得ておくことなど麻酔技術以外の"うまさ"が要求される。術中に不意に覚醒している状況になっても苦痛を与えない麻酔を目指すべきであろう。少なくとも、そのような努力は必要です。それを含めて麻酔管理とすべきでしょう。薬剤を投与したから必ず麻酔がかかって、意識がない状態であるとしか考えていない場合、麻酔を行う側に"おごり"がある場合には、術中覚醒に関して注意する意識を持たないでしょう。
もう一つ、BISが低い値を示しているというだけでは安心はできません。BIS値は測定値ではなく推定値であるからです。信じるも信じないも麻酔科医次第です。

術中覚醒(AP通信)
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