2006年4月21日

麻酔器

「麻酔器」は麻酔科医が使う道具であり,機器である.昔のものは,機器と呼べるものではなかったが,最近では電子部品を多く使って,人工呼吸器の性能や気化器の性能を向上させてきた.そもそも,麻酔器と人工呼吸器の違いは何だろうか?

答えは簡単.麻酔器は,基本的に半閉鎖回路である.半閉鎖回路とは,呼気から出された麻酔薬を含んだ混合ガスを再度利用するためのもの.そのために,CO2を吸収するためのパーツ(キャニスターとソーダライム)や排ガス装置なるものが必要である.人工呼吸器にはない部分が、麻酔ガスを有効に利用するための回路というわけである.
 ガス麻酔ではなく全静脈麻酔(TIVA)であれば,麻酔器でなく人工呼吸器でよい.通常の人工呼吸器は,酸素と空気をブレンドして酸素濃度を調節し,規定の換気量や気道内圧で換気ができる.一度吸った酸素と空気の混合気は,再度利用するという仕組みにはなっていない.
麻酔器の機能が上がると言うことは,人工呼吸器部分の性能もさることながら,麻酔ガスをきちんと供給できるように内部でガス濃度のモニタリングをしながら調節するような機構が必要になる.電子機器で測定しフィードバックをかけることによって調節しているわけである.その様な麻酔器は道具の域をこえ,電子機器として動作している.
 けっこう,この電子機器が嫌いな麻酔科医がいる.昔ながらの麻酔科医は特に嫌いらしい.麻酔器の内部構造むき出しの麻酔器でなければ気が済まない.そのような麻酔器は最近少なくなってきたが,病院によっては大事に使われているところもある.こういった古い麻酔器の中には純笑気になるものがある.純笑気とは100%笑気が投与できてしまうもので,このタイプの麻酔器は非常に危ない.現在の通常の麻酔器は,純笑気にならない機構が組み込まれていて笑気が流れると必ず酸素も流れるようになっていたり,酸素の供給が途絶えると笑気が流れないような機構が組み込まれている.電子部品を使用していなくても,この機構があるのが当然である.麻酔器の仕業点検にもそのようなチェック項目がある.

もう一つ,電子機器を使用した麻酔器は停電すると使用できなくなる.それで麻酔が続けられなくなるので嫌いと言う先生もいる.しかし,停電して無影燈もない状況では手術も続けられない.麻酔は全静脈麻酔を手動でおこないつつ,バッグバルブマスクか何かの方法で人工呼吸を手動でするしかない.通常は30分程度のバックアップ電池が載っており,その間に対策をとることができるので問題はない.また,停電だけでは酸素は遮断されないので,酸素を流すことは可能で場合によっては回路を手動に切り替えて換気も可能である.数年前の電子部品を使った麻酔器は,ここら辺のことがうまくできていなくて,電源が切れると酸素も流れなくなっていた.しかし,いまのものは違う.電子化麻酔器が嫌いな麻酔科医は,これを盾にとって,攻めてくるらしい.