帝王切開時の抗生剤投与のタイミング
帝王切開の時の抗生剤の初回投与のタイミングは、臍帯がクランプされた後に投与するとCDCのSSI予防のガイドラインで述べられている。管理人の施設ではどこでもそのようにしていたと思うのだが、未だに問題になるらしい。知らないのか、誰かが変なことを教えるのかわからないが、混乱が生じているようである。といってもCDCのガイドラインは未だに生きているので、通常はこどもが生まれてから投与するのが筋である。日本麻酔科学会中国四国地方会でも、どうするか質問している人がいた。管理人にとって、いまさら、どうしてそんなことを聞くのかが疑問であった。あえて、ここに書いてみた。
■http://www.cdc.gov/ncidod/dhqp/pdf/guidelines/SSI.pdf
現状でのガイドラインはそうであるのだが...
さらに、別の方面からの意見が出てきているのも確かである。六日町病院の市川先生が全訳されたWHOの手術安全ガイドラインのp.57ページ(PDF)にそれが出ている。
『帝王切開のための予防:帝王切開(最も一般に施行される手術の一つ)は、術後感染症の重大なリスクがあります。感染性合併症は、このような患者の7~20%と見積もられています(258)。Griffiths らは、症例対象研究で全体の手術部位感染頻度は9.9%を報告しています(259)。コクランレビューが、予定と予定でない帝王切開の両方での予防的抗菌薬の推奨が、創感染で2/3に、子宮内膜炎で3/4に減少したことで正当化されたと結論付けました。第一世代セファロスポリンが最も一般的に使用された薬剤です。予防的抗菌薬投与の適切なタイミングについての議論は続いています。新生児が抗菌薬にさらされることと新生児敗血症における影響についての懸念が、臍帯がクランプされるまで抗菌薬投与を遅らせるとしてきました―WHOの妊娠と分娩における合併症の管理ガイドラインは、臍帯がクランプされ切断された後に予防的抗菌薬を一回投与することを推奨しました(261)。Thigpen らは、最近の無作為化臨床試験で、抗菌薬が皮膚切開か臍帯クランプの前に投与されるかに関わらず、新生児敗血症と集中治療室への入室も含め、母体感染性合併症に違いはなかったことを見いだしています(262)。Sullivan らは、皮膚切開前の抗菌薬投与は、臍帯クランプ時の投与と比較した時、感染性合併症が低かったと報告しています(258)。最後に、皮膚切開前の予防的抗菌薬投与における方針の変更は、帝王切開後感染症の重要な低下に繋がっています(263)。研究されたあらゆる他の手術での皮膚切開前の投与で、予防は最も効果的であり、最近のメタ分析は、出生時の抗菌薬へのこの短時間の小児への接触が有害であるという明らかなエビデンスを示していません(264)。皮膚切開前一時間以内の予防的抗菌薬投与は、臍帯がクランプされるまで待つより、効果的である可能性があります。米国産科婦人科学会が予防のために抗菌薬投与を勧め、王立産科婦人科学会は予防的に抗菌薬を提案することを推奨していますが、どちらもタイミングに関しての決定的な推奨はしていません(269)。明らかに、この問題には論争があり、どちらの実施もプラセボよりは帝王切開後感染の予防に受け入れ可能で、効果的があります(267)。』
何も知らなくて、帝王切開の手術開始時に抗生剤を投与している場合には問題であるが、これらの意見に反応してすでに、臍帯クランプ前の投与から術前の投与に変更しているのなら、それはそれでよいと思う。
△さらに、これまでにタイミングに関して何も示していなかった、米国の産婦人科学会が今年8月に術前の抗生剤投与を推奨するという意見をJournal of Obstetrics & Gynecologyに発表した。
帝王切開が始まる60分以内に抗生剤の予防的投与を行うということである。
しかし、この意見はまだ、日本では一般的ではない。
今後どのようになるかについて、麻酔科医も注目しておくべき必要がある。一度、この件に関して各施設で産婦人科と協議しておくことが必要であろう。
■帝王切開前の抗生物質投与を推奨-米国産科婦人科学会 (2010/9/9 美容健康EXPニュース)
■All Women Need Antibiotics One Hour Before Cesarean Delivery (ACOG)