今の麻酔は情報戦(1)
昔話にトラックバックします.昔は,モニターと言えば心電図と血圧計(手動ではかる)ぐらいで,残りは五感を利用して麻酔をかけていた.今は,痛みと侵襲のモニターをのぞいては,数値で表現される一応の指標があるため,だれでも,ちょっとしたことでもその気になって見ていれば気づくのは可能.しかし,情報を統合して判断する能力が昔に比べると要求されるようになった.バラバラの情報を統合して,はじめて意味をなす.モニターだけでは,はっきりとはわからないこともある.たとえば,ビデオ画像や内視鏡などを使った術野の情報である.その事実を見るだけで,何が起こっているかわかることがある.まあこれも,情報の一つ.要するに,昔に比べて判断材料が増えているのだ.五感を利用していただけの時代に比べて,情報が多い分,何らかの異常を捉えることはできるようになったが,判断スピードも要求されるようになった.判断に時間がかかっていたのでは,後手に回ってしまう.
戦争を例に出すと,批判されるかもしれないが,昔の戦争と今の戦争の違いと同じだ.如何に早く,情報を捉え次の手を打つかにかかっている.昔は,遅れて行動していたことが,今ではそんなに時間を待たなくても,情報が統合できれば先手に出られる.しかし,モニターの解析能力が上がれば,情報を統合する必要はなくなるかもしれないが,最終判断すべきは人である.また,どんな行動を起こすかを考え実行するのも人であるうちは,情報を統合してどこにどの程度の重みを置いて判断し,行動する能力を磨くことは無駄ではないであろう.
50年後に麻酔科医がいなくなるどころか,進化した麻酔科医とそうでない麻酔科医の差は歴然とするのではなかろうか.麻酔科医間の格差ができればできるほど,他科の医師では判断しかねる状態も増えるのではなかろうか.50年後にこの記事を読んでいる人は,笑うだろうか.感心するだろうか.